作:マサ
一方その頃、彷徨と誠大、そして三太は、とある喫茶店にいた。
「死ぬと言うから来てみれば…。」
「そんな物の買い出しに俺達付き合わせたワケ?」
視線の先には、「死ぬ」とか何とか言って呼び出したくせに、
それがウソのように満面の笑みをたたえた三太がいた。
「いやぁ、助かったよ。
つい買いすぎちゃって、お金足らなくなっちゃってさぁ。
いやぁ、参った参った。
『中古レコードが全品50円!』
なんていきなり書いてあるんだもんな!」
「ほう、そりゃすごい…。」
半ばバカにした目で彷徨が三太に相槌を打つ。
言葉を額面通りに受け取った三太は、なりふり構わず、話を続けた。
「やっぱり、レコードは良いよな…。
ちゃんとした再生装置があれば、CDにも負けてないんだぜ。
CDってさ、人間の耳に聞こえない音の周波数はカットしてあるだろ。
でもその聞こえないはずの音まで録音されてる。
レコードって奴はすばらしいよ!ホントに。
俺は好きだね…。このアナログの暖かさがね。
まぁ…、CDも便利なんだけどね。」
どこまでもオタク趣味全開な独り言を聞いてる間に、
「なあ彷徨。こいつってこんななのか?」
多少の恐怖を感じた誠大が、彷徨に話しかけた。
「ああ…。昔っからこいつはこうなんだ。」
そうしているうちに三太の話も終わったようなので、
2人はそそくさと切り上げて帰ろうとした。だが、
「まだ良いじゃないか。
今な、『懐かしの特撮&アニメ豪華3本立て』っていうのやってるんだよ!」
「お前、金無いんだろ。もう帰ればいいじゃないか。」
と、あきれた誠大が言うが、それでも三太は、
「次の休みじゃ終わっちまうんだよ!
見るなら今日しかないんだよ!」
と泣きつかれたので、根負けした2人は、
渋々ではあったがこのオタクな問題児を連れて行くことにした。
一方未夢達はその頃、洋服店を出たところだった。
「未夢ちゃんの買ったキャミソール、かわいいね。」
「え、そう?」
未夢はそこではたと足を止めた。
ネックレスや指輪の展示品があったからだ。
「ワンニャー、見つけてくれたかな…。」
と、それを見ながら考えていると、
「未夢!」
と、ななみが耳元で呼び掛けた。
「な、何?」
するとななみは、
「『何?』じゃないわよ。どうかしたの?」
と聞いてきた。慌てて未夢は、
「ううん。何でもないよ。
それよりななみちゃんは、何も買わないの?」
と、手ぶらで出てきたななみに聞き返した。
「あたし?」
と、ななみが戸惑うと、
「ななみちゃんは、古着派なのよね。」
と、綾が言ってきた。
「え?古着?何か面白そう!」
と、未夢も乗り気になってきた。
「行ってみる?古着屋さん!」
と、ななみが未夢に尋ねる。
未夢は先程の店に掛けられた時計を見て、
時刻を気にしているようだったが、
「ほら!行こう!こっちこっち!」
と、ななみは未夢の腕をぐいぐい引っ張ってきた。
未夢はなすがまま、次の店へと向かうことにした。
場面はころころと変わるが、ワンニャー達は、スーパーを訪れていた。
ワンニャーも、普通の若奥様に変身して買い物を楽しんでいる、様に見える。
じっくりと野菜コーナーの前で品定めをしているが、
ルゥはまた違った物が気になる様子だった。
ルゥの視線の先にあるのは…、メロンだ。
メロンをじっくり見ていたルゥは、その方向にふわふわと飛んでいった!
それに気付いたワンニャーは、急いでルゥを抱きかかえ直し、辺りを見回した。
もしルゥのことが周りにバレていたら、大変なことになるのを、
そろそろワンニャーも理解し始めているようだった。
ワンニャーは、再びルゥをカートの座席に座らせ、こう言い聞かせる。
「ルゥちゃま、お外で浮いては、いけませんよ!
もし浮いているところを見られてしまったら、
未夢さんや彷徨さんに迷惑がかかってしまいますからね。
だから、家に戻るまで我慢してくださいね。」
ルゥは一応理解ができたようだ。
オット星人は言語理解能力に関して、
地球の赤ちゃんの持つそれよりも、遙かにずば抜けているようだ。
ルゥが落ち着いたのを見計らって、ワンニャーは買い物を再開したが、
ワンニャーは大根を見ながら、こんなことを言った。
「しかし、地球の大根って言うものは小さいんですね。
味こそ変わりませんが、オット星の3分の1ぐらいしかありませんね…。」
オット星と地球とでは、何から何まで次元が違うようである。
「ルゥちゃま、今日は大根の煮物に大根のお吸い物で、
って…。へえええ!」
ルゥは自分が浮いてはいけないことを理解したのはいいものの、
今度は自分の持つ超能力を使って、メロンを浮かせにかかったのである。
もちろんこれも慌てて止めざるをえなかった。
ドタバタの買い物も終わり、スーパーの外に出ると、
そこでは何か実演販売をしているようだった。
よくよく見れば、それは包丁。
何とも、店員が言うには…、
「さあさあ。寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
稀代の名工が作ったこの包丁、どんな物でもスパスパッと切れるよ。
そしてご覧の通りまな板も紙の束だって切れちゃうんだ。」
と、まな板をざくざくと切り落とし、紙の束を空中でバサバサと切り落とす。
と、スーパーから出てきて、その実演販売を見つけたワンニャー。
販売員に食って掛かる。
「オホホホホ。包丁でまな板を切る家はないでしょう。
まな板を切りたかったら、のこぎりを普通使いますよね。」
とワンニャーが言うと、
「うんうん。」
と他の主婦達も食いついてきた。
「紙を切るにせよ、はさみを使いますし。」
と言うと、店員は困った様子で
「あわわ。奥さんやりますな…。
しかし!この包丁、鉛筆だって、こんなに楽に…。」
と言って実演するが、ワンニャーは即刻、
「鉛筆は鉛筆削り!」
と反発する。
ワンニャーも、地球に関することを学んでいる。
今のところ、まだまだ常識的な部分のみではあるが。
しかしまだまだ諦めない店員は、太いアルミのバトンのような物を取り出し、
「ほれ、このようなアルミの棒も、クルクルっと桂剥き。どんなもんです?」
と最後の反発を試みるが、あっさりワンニャーに
「そんな事しなくても、アルミホイルって言うのがありますよ。」
と返され、先程まで販売員に歓声を上げていた主婦達は、
完全にワンニャーに同調していたのだった。
さて、そんなやりとりを外野で聞いていたルゥはといえば、
いささか不愉快そう、と言うか不愉快そのものだった。
と、そこに現れたのは赤い三輪車だった。
乗っているのは朝に見回りをしていた少女だ。
よく見れば、彼女は、未夢のネックレスをはめている。
さっきのカラスから、「押収」した物だ。
さて、それを見つけたルゥは、早速ワンニャーに追ってもらうように呼び掛けるが、
当のワンニャーは、まだ店員と格闘している。
じれたルゥは、それなら自分で行こうと、ベビーカーから空中へと浮いた。
しかし、先程のワンニャーが言った、
「…もし浮いているところを見られてしまったら、未夢さんや彷徨さんに迷惑がかかってしまいますからね…。」
という言葉が頭をよぎり、仕方なく這って追いかけることにした。
しかし、それに気付かないワンニャーは、
店員相手に勝ち誇ったような高笑いをしているのだった。
ルゥは先程の三輪車を追って、ひたすらに這っていた。
途中その少女は、何かいきなり三輪車を右に振り出し、
何かを避けるような仕草を見せた。
それに気付かないルゥは、そのまま直進し、
「ママ!」
と、言っていた。
ネックレスの持ち主が誰だか分かっているのは、
この時点ではまだルゥだけなのだ。
しかしそれもつかの間、ルゥは、道路工事中の穴へと落ちたのである!
その瞬間の物音が聞こえた少女は、
思わず三輪車を止めて後ろを振り返った。
だがルゥはまだ穴の中にいたため、少女は気づくことは無かった。
再び、少女は三輪車を漕いで走らせ始めたのである。
その直後に、ルゥは浮くことなく上がってきた。
中で作業をしていた人の頭にまっすぐ落ちて、
落石か何かと、気になった作業員が上まで登ってきたので助かったのだ。
さて、まだまだルゥがいなくなっていることに気付かないワンニャーは、
やっと店員との「格闘」に勝利したところだった。
「包丁は料理に使う物ですからね。
余計な物が切れてもありがたくありませんよね。
ハッハッハッハ!」
ふと、そこでワンニャーは何かに気付いたように、素っ頓狂な声を挙げる。
「はっ!そうでした!こんな事をしている場合ではありません!
早く帰って未夢さんのネックレスを探さねば!」
と、ベビーカーに駆け寄ると、やっとルゥがいないことに気付いた。
「ルゥちゃまを見かけませんでした?こんな小さな赤ちゃんなんです!」
と、道行く人々に次々聞いてみるが、
誰に聞いても「どこにいるか知っている」
なんて理想的な答えは返ってこない。
ついにワンニャーはうなだれた挙げ句、
ショックのせいからか軽く変身が解けてしまっていた。
さて、ルゥは相変わらず三輪車を追ってはいたものの、
彼女が道の入り組んだ宅地に入ってしまったために、迷ってしまった。
ルゥはこの場所を知らないために、とりあえず、近くの家に入ることにした。
しかし、その家には「猛犬注意」の張り紙が…。
話し言葉こそ理解できるルゥだが、書かれた文字はまだ読めなかった。
その家に入ってまず目に付いたのは、牛乳瓶だ。
それも中身がしっかり入っている物だった。
普段飲んでいるのがミルクなこともあって色も似ており、
ルゥの興味は完全に瓶へと傾いた。
しかし、瓶を持ったり振ったりして遊んでいるうちに、
背後からガサっと物音がした。
気づいたルゥがその方向を見ると、いたのはいかにも強面の猛犬。
張り紙はウソではなかったのだ。
そしておそらく牛乳瓶は、周りに犬用の皿があったことからして、
本来はその犬が飲むべきものなのだろう。
自分の物に触るなとばかりに、犬はルゥに大口を開けてかみついてきたのだ!
しかし、とっさの判断なのか、はたまた遊びの一環なのか、
ルゥは持っていた牛乳瓶をその大きく開いた口に向かって差し出し、
がっちりとはめこんだのである。
閉じようとした口に食い込んでしまい、外そうにも外せない。
窮地を脱したルゥは、何か別の音がしたのに気付いた。
さっきの少女だ。ルゥは当初の目的をようやく思い出し、
急いでその家を出ようとした。
しかし犬はそれを必死になって追ったのだが、
結局、出口手前で力尽き、もんどり打って倒れてしまった。
さて、またしても場面は変わって、今度は映画館。
彼らの見ていた映画はといえば、ストーリーは何となく戦隊モノに似ているし、
ともかくそのボス怪獣はワンニャーに似ている。
その映画を三太は嬉々とした表情で見ていたが、
ありきたりすぎてサッパリという2人は、
場内の時計とにらめっこしながら、何やら耳打ちをしている。
時計の針は、もう12時50分を指していた。
そして誠大が、
「悪いな三太。俺達、家に帰るわ。時間が時間で、腹減ったし。」
と告げると、2人は映画館を出た。
さて、こちらは古着屋。今度は未夢達だ。
服を選ぶのもままならないという表情の未夢にななみが、
「未夢!これ似合うんじゃない!?」
と、相変わらずはじけている。
「え〜?それならこっちでしょう。」
と、綾も服を持ってきた。だが未夢は、
「ゴメン。あたし、やっぱり家のことが気になるし、帰るね。」
「あ!未夢!」
「未夢ちゃん!」
二人が呼び掛けたが、もう遅い。未夢は足早に帰ってしまった。