作:マサ
大幅な校正を施して、投稿再開です。
またまた激動の1週間が終わり、土曜日を迎えていた。
さすがに体力には自信がある誠大も、疲れて未夢と共に寝坊していた。
もちろん未夢も眠いことは眠かったのだが、
朝っぱらから近くでルゥの楽しげな声がしているので、
思わず起きざるをえなかった。
「はぁ…。ルゥくんもう起きてたの?」
未夢が目を開けると、ネックレスやら指輪やら、
いろいろな物が浮いて飛んできたのだ。
それらは全部未夢の私物の様だ。
未夢は慌てて布団を抜け出し、拾い始めた。
「ああん。もう、こんなことしちゃダメでしょう?」
と、全て取り終えたようだが、まだジャラジャラと音が聞こえる。
ルゥが未夢のネックレスを持って、軽く振っていたのだ。
「はい、ルゥくん。それも返して。」
と、ネックレスを返してもらうよう、手を差し出したが、
ルゥはそっぽを向いて、
「や!」
と言った。
「『や!』じゃなくて、良い子だから…。」
と言っても、
「や!」
と言って、首を横に振った。
「それ…、去年の誕生日に、あたしのママが買ってくれた大切な物なの…。」
と、未夢が言うと、ルゥは何かを察したのか、2〜3回まばたきした。
「ね…、お願い…。」
そう未夢が言うと、ルゥは未夢の手のひらにネックレスを手放した。
「ありがとう、ルゥくん!」
と言って未夢は、ルゥを抱きしめる。
が、次の瞬間、未夢はこなすべき仕事を思い出した。
「ああ!今日はゴミの日だ!ちょっと誠大!」
「…んあ?」
未夢はまだ寝ぼけてる誠大をたたき起こすと、
誠大の服をパスして、部屋から追い出した。
異性が相部屋にいるゆえの話で、
要するに未夢は着替えたかったのだ。
部屋から出た誠大は、
「あ…。そう言えば、今日ゴミの日か…。」
と納得して、洗面所の脱衣スペースへと向かった。
一方、早々に着替えをすませ、部屋を飛び出した未夢。
部屋には、さっきルゥから返してもらったネックレスがあったが、
それを木の上からじっと見ている、怪しい影があった…。
そして未夢は、急いでゴミを運びだし、
「はぁ。間に合った…。良かった〜♪」
と、寺に戻ろうとする。
が、そこに、一台の三輪車が現れた。
そして三輪車に乗った少女が未夢に、
「おばたん。」
と呼び掛けた。
未夢は自らが呼ばれているとは知らず、
スキップを踏んで帰ろうとしている。
それに怒った少女は、三輪車を漕いで未夢に追いつくと、
彼女のスカートを引っ張って、
「ちょっと!あなたのことよ!おばたん!」
と、はっきりわかるように未夢を呼んだ。
それを言われた未夢は、ぴくりとして動きが止まった。
「お、おば…。なんですって!」
軽くキレながら反論してみる。当然と言えば当然だ。
しかしその少女は、
「今日は燃えないゴミの日よ。」
と、あっさり言う。
未夢が出したのは、生ゴミを含む、燃えるゴミ。
「あのね!あたしはまだ…」
さっきから「おばたん」と呼ばれることがいやなのだろう。
それも当然、中2からおばさん扱いでは、彼女もさぞイヤであろう…。
だが、少女の論点はそこでは無かった。
「燃えるゴミは月曜日と木曜日、燃えないゴミの日は今日。
そして、資源ゴミは金曜日なんだから!
ちゃんと決まりは守らなくっちゃ!」
どこで覚えてきたのか、まるでどこかのお節介なおばさんのような発言だ。
「ふっ、ダメね、最近のおばたんは、環境問題のことを考え…、」
とその後ろで、燃えるゴミを置いて立ち去った人の姿に気付き、
「ちょっとおばたん!それ燃えるゴミでしょ!
今日は燃えないゴミの日よ!
規則はちゃんと守らなきゃダメなのよ!わかった!?」
と、鬼気迫る表情を、他の人にも振りまいていた。
それを見ていた未夢は、
「ダメだこりゃ…。」
と、すごすごと諦めるしかなかった。
寺に帰った未夢は、出せなかったゴミを、
境内の掃除をしていた誠大と彷徨に突き返してから、こう言った。
「ねぇ…。あたしってどう見える?」
「何だいきなり…。」
「別に、何でもない…。」
と、あからさまに沈んだ形相で、家に戻った。
「なんだ、あいつは?誠大、心当たりあるか?」
しばらく考えこむような顔をしていた誠大は、
掃いていたほうきの動きを止めて、ハッと気付いたように顔を上げると、
「ある、多分にある!あいつもあの子にやられたな…。」
「え、あの子って?」
「ああ。この近くに住む子らしくって、
ちっちゃい女の子だけど三輪車漕いで、
毎日ゴミ捨て場の見回りしてるんだ。
この前、火曜日に燃えるゴミ出したとき、
ものすごい剣幕で怒られて、おっさん扱いされちゃってさ…。」
と、誠大は自らの体験談を語った。
そして彷徨は、「何かすごいことになったな…。」
と言わんばかりの目つきで話を聞いていたのだった。
先に家に戻っていた未夢は、洗濯を始めていた。
「まったく!何がおばさんよ!
それはゴミの日を間違えたあたしだって悪いけどさ…。」
と、半ばヤケになって洗剤を入れて、スイッチを入れた。
しかし、いつもより、洗濯機は揺れが激しい。
それに気付いた未夢は、ふと目を開けた。
と、そこにワンニャーがやってきて、
変身を解いた体では、多少重いはずの量の洗濯物を抱えながら、
「未夢さん…。ついでにこれも洗っていた…、」
だけますか、とは続かなかった。
なぜなら、ワンニャーが扉を開けた瞬間、
恐ろしい勢いで水と泡が噴き出してきたからである!
泡に巻き込まれ、オタオタと動き回る二人だったが、
ちょうどそこに、彷徨と誠大が掃除を終えて帰ってきた。
「何やってるんだ?何だと思う、誠大は。」
「随分楽しそうに見えるけど。」
「だよなぁ。」
と、傍観に徹することにしていた。
その時、今度は西遠寺の電話が鳴り響いた。
彷徨は、一番近い和室の子機を取ると、
「はい、西遠寺です。」
と、答えた。すると、
「わあああ!おい!俺だ!三太だよ〜!聞こえてる?」
と、ハウリングが聞こえるほどの声で話しかけてくる。
思わず彷徨は、受話器を離して、
「聞こえてるよ。」
と、応対した。
「死にそうだ!助けてくれよ!
うおおお!早くしないと死んじまうよ!」
「おい!今、どこにいるんだ!
うん、うん。分かったすぐに行く!
誠大!財布持って行くぞ!」
「ええっ、何で〜?」
ようやく洗濯の騒動が終わった未夢が、2人に、
「あ!まだ部屋の掃除とか終わってないでしょ!」
「ゴメン、急ぎなんだ。すぐ戻る!」
と言って、彷徨は誠大を引きずっていった。
「ちょっと!」
と引き留めようとするが、後の祭り。
「逃げられましたね…。」
と、ワンニャーがあきれて言うのも分かる気がした。
さて、先程の少女は、まだゴミ捨て場の巡回を続けていた。
そのさなか、ゴミをあさるカラスを見つけると、
彼女ののまなざしは、いたく鋭い物になった。
「また来てるわね…。今日こそは!」
少女は、荷台に載せていた網を取ると、
「逃がしません!」
と言って、飛び立とうとするカラスに網をかけた!
網がかかり、もがいて脱出を図ろうとするカラスだが、
その時、ネックレスが落ちてきた。
ネックレスに気を取られてしまった少女は、
次の瞬間、カラスに逃げられたのだ。
「ああ、もう少しだったのに…。
でも、これはなんでしょ…?」
と、ネックレスを拾い上げると、それを観察していた。
一方西遠寺では、未夢が泡の付いた服を着替えて、
洗濯物を干し終わり、一息つきながら考え事をしていた。
「あ〜あ。せっかくの休日だって言うのに、何やってるんだろ…。
もう、最悪って感じ。」
と、朝からの惨事の数々にうなだれていた。
そこにワンニャーがやってきて、
「どうなさったんですか?
一人でぶつぶつと、『おばさん』みたいに…。」
先程の少女の発言がかなり強く効いている未夢にとって、
『おばさん』は最大のNGワードに匹敵していた。
未夢はがらっと表情を変えて睨みを利かせながら、
ワンニャーに無言で詰め寄った。
あまりの形相に恐れをなしたワンニャーが、
「わ、私が何か、悪いことでも?」
と言うと、未夢はがくっと落ち込んで、
和室に寝ころんでしまった。
「あたしも一休みしなきゃな…。
多分、疲れが顔に出ちゃってるんだ。」
そう言って、おばさん呼ばわりされた理由を、
自分なりに割り切って、休もうとしたのだ。
しかし、寝てから少しも経たないうちに、
再び西遠寺の電話が鳴った。
未夢は電話に向かって、
「何よ!せっかく休もうと思ったのに!」
と、やり場のない怒りをぶつけながらも、
無視するわけにもいかず、受話器へと向かった。
「はい、西遠寺です。」
と答えると、
「ああ、未夢?あたしよ。ななみよ。」
「ああ、ななみちゃん。」
「今から綾と遊ぶ予定だけど、未夢も来ない?」
「あ!行く行く!」
とは言ったが、すぐに受話器を離し、
「あ、でも、本堂の掃除とか、まだやってないんだよね…。」
と、うなだれた。
そんな雰囲気を察したのか、ななみは未夢の背中を押す。
「未夢遠慮してるの?大丈夫!ついでにこの街も案内してあげるよ。」
「うん…。行きたい気持ちは山ほどあるんだけどね…。」
と話してると、ワンニャーが未夢に向かって、大きな紙を見せてきた。
「おさそいですか?」
と書かれていた紙を見ながら未夢がうなずくと、
ワンニャーはマジックで別の紙に、
「だいじょうぶですよ!」
と書いて、未夢に見せてきた。
「お〜い。」
無言になった未夢を心配したななみが言うと、
「あ、行っても良いって!」
と、まるで誰か別の人間がいるように言ってしまった。
「え?」
その発言を疑問に思ったななみが思わず聞き返してきたが、
「ああ。行ける行ける。」
と、未夢は咄嗟に言い直した。すると、
「良かった。それじゃ11時に駅前ね。」
楽しそうなななみ声と共に、電話が切れた。
すると未夢は、身だしなみを整え始める。
髪型、服装、そしてアクセサリー。
さっきルゥが浮かせていたネックレスはお気に入りだった。
しかし、である。
「ない!ない!ない!」
あろうことか、その大事なネックレスを無くしたのだ!
その時、ルゥも早起きがたたって寝ていたがちょうど目覚めた。
と、ルゥやワンニャー達の元へ駆け込んできた未夢に、早くも飛んで抱きついてきた。
「ルゥくん!」
と言って、まず口を開けさせて、口の中を見た。
この手の物は、赤ちゃんなら飲み込みかねないのだ。
口の中にないことを知ると、次いでベッドにしていたUFOの中も見た。
だがネックレスは、見つからない。
「どうしたんですか?」
とりあえずワンニャーが聞いてみた。
「大事にしていたネックレスが、なくなっちゃったの。
って、あ〜!遅刻しちゃう!
でもネックレスが、でも早く行かなきゃ〜!」
完全に未夢はパニック状態で、ジタバタしているが、
そこにワンニャーが助け船を出した。
「それなら私が探しておいてあげますよ。」
それを聞いた未夢は、一瞬動きを止め、
「本当?」
と、聞いてきた。するとワンニャーは胸を張って、
「どうってことはありません。
ルゥちゃまもネックレスも、
この有能なシッターペットのワンニャーにお任せください。」
そう言われた未夢は、これまでの事件があったため、
特に「有能な」と言う部分に対して疑っていたのだが、
「じゃあ…、お願いね。じゃ、ちょっと行ってくるね。ルゥくん。」
今回ばかりは信頼するより他は無く、
未夢は足早に出て行ってしまった。
それを追うルゥだったが、すぐにワンニャーに捕まり、
「ダメですよ、ルゥちゃまは私とお留守番ですから。
すねないでくださいね…。
あ!それでは私とお出かけしましょう!
晩ご飯の買い物にも行かなくてはなりませんしね。」
ワンニャーは、買い物の後に掃除をしつつ、捜し物をする予定にした。
よって、未夢のネックレス探しは、ひとまず後回しとなったのである。