「もう1人の転校生」

第5話「ももかとネックレス」―3

作:マサ

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一方のルゥは、相変わらずあの少女を追っているようだった。
しかし、その行き先がまたしても問題であった。
クレーン車など、多数の重機が動き回る、工事現場だ。
少女は工事現場のルゥから見て向かい側の位置にいたのだが、
ルゥはそれに追いつきたいがために、その中の1番の近道を通ることにした。
しかし、問題はその通り道だった。
文字通り、「土管」の中である。
しかもその土管にはロープが付いている。

そして、土管はルゥ入り込むと同時に、クレーンでつり上げられていった。
そんなことは知らないルゥは、とにかく土管の中を突き進んでいった。
そして土管を出た時、ルゥの想像ではそこにはまだ地面があるはずだった。
しかし、現実は違う、空中から真っ逆さまに落ちていく。
ルゥ、ピンチ!

「あっ、いや〜!」

叫ぶ理由もよく分かるが、
無情にもルゥの体はどんどん地面へと近づいていくのだった。
しかし、奇跡は起きた。

なんと少女の三輪車の荷台に載っていた網の中に、ルゥが落ちて入ったのだ。
一気に三輪車の挙動が重くなり、少女は後ろを振り返った。

「あんた!そこで何してるの!」

助かったルゥにとっては、そんな事はどうでも良く、
ただきゃあきゃあと言いながらはしゃいでいる。

少女は困惑に困惑を重ねていた。
いきなり、空から落ちてきて、しかも名前も知らない赤ちゃんを、
これからどうしようものか。
とりあえず、聞ける事から聞いてみる事にする他は無かった。

「あなた、もしかして迷子?」

いや、そんな質問にルゥは答えない。
しかも、ネックレスに興味を持っている。

「なに?あなたもこれ気に入ったの?良いセンスしてるわね。
悪者のカラスを見つけて、奪い取ったのよ。」

ルゥは話を理解したらしく、少女に拍手を送った。
だが、そんな明るい表情もつかの間。
今まで必死に探してきたが、寂しさが一気に込み上げてきたのだろう。
大声で泣き出してしまった。
少女は優しくルゥの頭をなでながら、こう諭した。

「いい?男の子は泣いちゃダメなのよ。
もちろん、女の子も泣いちゃダメだけど…。
とにかく、あたしがいるから、大丈夫。
何とかしてあげるからね。」

それを聞いたルゥは、泣きたい気持ちをグッと抑え、笑顔に戻った。
さて、その2人が何をしに来たかというと、ハンバーガーショップ。
ドライブスルーに入ると、バニラシェイクとポテトを注文し、出て行った。
客が三輪車なので、さすがに店員も困った様子だった。


一方その頃。気が気では無くて家路を急いでいた3人は、
小さなT字路でばったり出会った。

「彷徨!それに誠大も!なんで?」
「お前こそ何やってるんだ未夢?」
「あ、あたしはななみちゃん達と買い物に…。」
「ほほう。あれだけ俺達が出て行くときにあれだけ文句言ったくせに?」
「あ、あたしだってね、たまの休日ぐらい普通の女の子みたいに、
友達と遊んだり、お買い物したりしたいわよ!
おばさん呼ばわりされるし、大切なネックレスはなくなっちゃうし、
誰かさんは出て行ったきり帰ってこないし!朝からもう散々なんだから!」

と、未夢の力説を聞いていた彷徨達だったが、その周りで忙しなく、

「ルゥちゃま!ルゥちゃま!どこですか?」

と、呼ぶワンニャーらしき声に誠大が気付いた。
しかし目にとまるのは、主婦のような人しかいなかった。
誠大はひとまず、「彼女」の肩に手をかけ、

「お前、ひょっとしてワンニャーか?」

と聞いてみた。すると「彼女」はびっくりして動きを止めた。

「い、いいえ。あの、人違いでございませんこと?」

と、その場を立ち去ろうとしたが、明らかにしっぽがある。
誠大は2人にアイコンタクトを送った。
そして2人がうなずくのを待って、そのしっぽを踏みつけた!
やはり「彼女」は、ワンニャーでしかなかった。
やがて自分がワンニャーであると言うことを「彼女」が認めると、

「すみません、未夢さん、誠大さん、彷徨さん…。」

と言って、泣きついてくる。
と、早速3人は

「ルゥくんはどこ行ったの?」
「何があったんだ?」

と、口々に質問攻めにしていた。

一方、ルゥも質問攻めに遭っていた。
少女に連れられ、公園に来ていたルゥは、早速その少女に、

「お家はどこ?」
「どうして空から落ちてきたの?」

などと、いろいろな質問をぶつけてはみている。
しかしルゥは、ボーッとして、何も聞いていないようだった。
しびれを切らした少女は、ルゥの頬をつまんで引き延ばし、

「聞いてるの?あたし、ハッキリしない男って嫌い。」

と言った。少女はかなりませているようである。しかし、

「あ〜あ。こぼしちゃダメでしょ?」

同時に世話好きなようでもある。
しかし、ネックレスが揺れて音を立てると同時に、
ルゥの中にまた寂しさが込み上げていた。
ルゥは涙を浮かべそうにになったが、
少女は、「いないいないばぁ」をして見せ、ルゥをあやしていた。
そこに矢のように飛んで来た、1つの黒い影。
先程少女が狙っていたカラスだ!

「あ!またあんたね?」

と、その少女は徹底抗戦の構えを見せた。
さてその頃、ワンニャーから事の真相を聞かされた3人は、

「ルゥくんがいなくなった?」
「それってマジか?」
「ていうか、お前は何やってたんだ!」

と、また口々に質問攻めにする。

「ええ。実は、私が実演販売に気を取られてる間に…。」

と言うと、未夢はすぐに突っ込み、

「もし、事故とか事件に巻き込まれたりしたらどうするのよ!
何度も言うけど、あんた本当に有能なシッターペットなの?」
「す、すみません!」

と、すぐに謝ったが同時に、

「有能なんですけど…。」

とも言ってしまったのだ。
これに対して、誠大が目を光らせて、怒りを込めたツッコミを入れる。
誠大はワンニャーに一撃を浴びせると、

「早く探すぞ!」

と、2人に呼び掛けた。

「誠大の言う通り、早く探しに行かないと!」

と未夢が言うと、彷徨は誠大に、

「行くぞ!」

と呼び掛けた。

「おう!」

と誠大が答えると、誠大は、彷徨と共にダッシュでルゥを探しに行った。
未夢もこれに必死に付いていく。
しかしそれ以上に必死なのが、さっき誠大にKOされたワンニャーだった。

「待って、くださいよ…。」

と、フラフラになりながら3人を追っていった。

そして、ルゥがいる公園では、少女が網を持ってカラスに立ち向かおうとしていた。

「ネックレスを取り返しに来たのね…。
返り討ちにしてくれるわ!」

と、血気にあふれていた。
その後ろでルゥが話しかけようとするが、

「心配しないで!あたしが守ってあげるから。」

と、カラスに向かっていく。
そして飛んできたカラス相手に、網を振り、捕らえようと必死に頑張る。
だが、あと数pの所で届かない。
さらにカラスは、その少女の唯一の武器とも言える網を蹴飛ばし、
その衝撃で吹っ飛んだ少女に襲いかかろうと、こちらに向かって飛んできた!

「きゃあ〜!」

少女は体を丸めるしかなかった。

その時だった。
ルゥが、緊急事態を悟り、その場で超能力を発動したのである。
超能力を受けたカラスは、ピタリと身動きがとれなくなった。
そのままルゥはカラスを操り続ける。
ルゥの指の動きと同様に、カラスもクルクルと回り始める。
そして、トドメとばかりに、指を自分の方へググッと引いてくる。
そして、林の方へ指を向けると、カラスは吹っ飛んでいった!

これを唖然とした表情で見ていた少女だったが、
我に返ると、パッと輝いたような表情になり、

「す、すごい!今のあなたがやったの?」

そう聞くとルゥは、両手を挙げてそうだと言わんばかりに喜ぶ。

「やるわね。年下なのに。」

と、少女はルゥに、すっかり惚れ込んでいる様子だ。
そして、それを証明するかのように少女は、

「あたし決めたわ。あなたを彼氏にするわ。
これ上げるわ。これはお礼であり、あたしの彼氏である証ね。はい。」

と、少女はネックレスをルゥの首にかけた。
未夢のネックレスをようやくルゥは手に入れ、全ては解決したのだった。

さて、またまた話が変わる。
こちらは夕暮れ時の西遠寺。
あれから昼飯も食べず4時間ほど探したが、
一向にルゥは見つからず、西遠寺に戻ってきたのだ。
とりあえず家の中や本堂も見ておいたが、ルゥの姿はなかった。

「帰ってないってことはだ。もうこれ以上の見当は付かない。
誰かと遊んでる訳でもないし…。」

彷徨がつぶやく。

「ホントに、どこ行っちゃったんだろう…。
今頃、お腹空かせてるだろうな…。」

未夢もぼやく。その時誠大が、

「静かに。ルゥの声が聞こえるぞ。」

その言葉に場の雰囲気は凍り付いたが、すぐに未夢が、

「ホントだ。聞こえてくる…。」

聞こえる方向に視線をやると、その方向から、三輪車の荷台に載ったルゥが現れた。
もちろん運転してるのはあの少女。

「ねぇ。あなたのお家はどこなの?」

と、ルゥに聞き回るが、ルゥが彷徨達に気付く前に、

「ルゥ!」

と一声、4人が駆け寄ってくる方が早かった。

「ルゥくん!」

と、駆け寄ってきた未夢に抱かれるとルゥは、

「ママ!」

と答える。

「ルゥちゃま、よくぞご無事で。」

どこかで聞いた台詞を言いながら、ワンニャーは喜んだ。
そして未夢が、ルゥの首に巻かれた自分のネックレスに気付くまで、
そう時間はかからなかった。

「あ!あたしのネックレスだわ。
ひょっとして…、ルゥくんが見つけてくれたの?」

そう言うと、ルゥは手を挙げて答える。
思わず未夢はルゥを抱きしめ、

「ありがとう、ルゥくん。大好き。」

そう言って、一件落着、と思われたが、そんなはずはない。
さっき「彼氏にする」と言った、少女が2人に割って入った。

「ちょっと!あたしの彼氏に何するのよ!おばたん!」
「お、おばさんですと!」

未夢は激昂しかけるが、ふと誠大が、

「お前、この前俺をおっさん呼ばわりしやがった…!」
「そこ!あたしは『お前』じゃない!
桃の木幼稚園、もも組3番、花小町ももか、3歳!
あたし達、お付き合いすることにしたのよ!」

それを聞いて、しばらく顔をしかめていた4人だったが、
笑顔でルゥとももかがふれあうところを見た誠大が、

「良いんじゃないの?これもルゥの人生勉強ってことで。
ルゥの兄貴として、そう思うぜ。
尤も、断る理由もないし。
ただ、おっさん、おばさんは、勘弁な?」

と、ちょっぴり軟化した態度を見せたが、この後一体、どうなることやら…。

「ワンニャーの育児日記、オット星暦、3408、D-18。
未だにオット星からの連絡がない。
宅配便は届いたというのに、
もしかしたら、通信が届くときと、届かないときがあるのかもしれない。
一刻も早く、通信が返ってくるのを待っているのだが…。」

それを書き終えたワンニャーは、夜空に向かって、

「どうしたもんでしょうね…。」

と、つぶやいていた。

さて、今回はここまで。次回の予告は、誰がしてくれるのかな?
「はいはい。今回は未夢で〜す。
なんとあたし、懸賞で遊園地の宿泊付きペア入場券を当てたんだよね〜、誠大。」
「っていうかなぜ俺?まあ、それは良かったじゃん。」
「ルゥくんとあたしで行こうかと思ったんだけど…、」
「けど?」
「まあ、今回は、ワンニャーに譲ってあげるって事で、諦めるよ。」
「お前、意外と諦めるの早いんだな。
しかし、ワンニャーだって毎日大変だもんな。
せめて1日ぐらい家事から解放ってか。」
「でも待って!これじゃ、ルゥくん達がいなかった頃と一緒じゃない!」
「あの時は話のネタがなかったもんな。」
「そうそう、じゃなくて!誰が3人のご飯作るの?」
「順当に行けば彷徨だけど、さすがに無理させられないしな。
俺達でどうにかするか。」
「誠大、食べたいものある?」
「何でも良いよ…。」
「あのねぇ…。と言うわけで次回のだぁ!だぁ!だぁ!は、
『未夢の料理は失敗?』
失敗とは失礼な。」
「いや、ありがちなタイトルかもな。」
「な、なんですと〜!」


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