「もう1人の転校生」

第4話「消せない過去を持ちながら」―2

作:マサ

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前パートで誠大くんが倒れましたが、
結構、倒れる部分の描写には悩みました。
最初、誠大くん自身が、
自然と過去を自白する方向に持っていくか、
未夢が何か誠大の所持品を勝手に見たことで、
素性がバレるとか、
そう言った方向を考えていましたが、
一番、みんなにハッキリと伝える方向を考えた結果、

こんなパターンになりました。
「ワンニャー達に教えてないじゃん!」
と言うツッコミもあるかも知れませんが、
彼らには、後々誠大の口から伝えられることにしておきます。


寝かせられた時、誠大の内ポケットから、
手帳のような物が落ちたのを、水野は見逃さなかった。
拾った手帳の表紙には、緊急時用の連絡先がいくつか書かれていたのだが、
その中に書かれた名前を見つけて、彼女は目を疑った。

「この子、なんで…!?」

水野はひとまず手帳を握りしめ、
あたふたしている未夢と彷徨を見ると、

「彷徨くんは、誠大くんの手足をさすってあげて。
このままじゃ意識が戻っても手足が立たないわ。
それで、未夢ちゃんは膝枕に誠大くんの頭を乗っけて、
ポリ袋を口にあてがっておいてね。
あたしは、ちょっと職員室に電話しに行かなきゃならないから。」
「えっ、膝枕ですか?」
「そう。本人は分かって無くても、その方が早く落ち着くの。」
「は、はあ…。」

未夢が渋々理解した時には、彷徨はとにかく血行を促すべく、
土気色になって硬直した誠大の手足をさすっていた。
未夢は急いでベッドに乗ると、
誠大の頭を持ち上げて正座した膝に載せ、口にポリ袋をかぶせた。
そして袋を押さえながら、

「良い?誠大、ゆっくりだよ。ゆ〜っくり、息をして。」

と、優しく声を掛ける。
時折額や頬、胸板など体に手を触れたり、
袋の収縮をみたりしつつ、誠大の様子を見ていった。
やがて、10分ぐらいもすると誠大の呼吸は徐々に落ち着き。
肌は徐々に血色を取り戻していた。
これを見ると、未夢と彷徨は少しホッとしたようだった。
お互いに顔を見合わせて、少しだけ微笑んだ。
しかし、彷徨は立ち上がると自ら別の空きベッドへと向かい、

「俺もこの際だからちょっと休むわ。」

と言って眠り始めてしまった。

「ちょっと…、彷徨?でも、良いか。あたしも、ちょっと寝たいのよね。」

未夢も誠大の頭を枕に載せ替え、
自分は誠大の傍らで手を握ることにした。
しかし、やがて未夢にも睡魔が襲いかかってきた。

「もう、誠大のせいなんだからね…。」

そうして未夢は、誠大の手を握ったまま突っ伏してしまい、
数分後には気持ちよさそうな寝息を立てていた。



その頃、とある大学の研究室では、
スウェット姿の青年が、ノートパソコンで論文を打ち出していた。
その時、

「先生、お電話です〜。」

と、助手らしき人物が青年に告げた。
受話器を受け取ってみると、

「すみません、こちら、平尾第四中学校の水野ですが…」
「み、水野!?なんで電話してくるんや!?」

どうやらこの青年は、水野先生と知り合いだったらしい。
驚いてイスから立ち上がってしまった。
だが、助手に白い目で見られてしまったので、
咳払いをしてイスに座り直したが、まだ焦っていた。

「あら、覚えてたのね。だったら、改まる必要なかったみたい。」
「な、何の用や…。」
「あなた、鉈落誠大っていう男の子のこと、担当してなかった?
うちの生徒なんだけど。」
「まあ、担当はしとった。
せやけどなんで、お前が誠大のことを?」
「さっき、学校で倒れたの。」
「何やて!?症状を教えてくれんか?」
「今は落ち着いたけど、呼吸が浅くて早かったし、
血色もかなり悪かった。
本人は近頃激しい胃痛を訴えていたらしいわ。
ストレスが原因で過呼吸を引き起こしたって所なのかしら?」

的確に状況を把握し、それを正確に伝えてきた水野に、
青年は舌を巻いていた。

「まあ、多分正解や…。
それで、俺はどないすればええの?」
「すぐに平尾町まで来て。
あたしや、今誠大くんと一緒に住んでいる人達に、
彼がどうしてそうなったのか、説明して欲しいの。」
「おお…、今からだと、1時間あれば行けるやろ。」
「頼むね。あと、どうせバイクなんだろうけど、
絶対無茶しないでね。」

受話器を置いた青年は、ロッカーからヘルメットを取り出すと、
助手の方に向き直って、

「急用や。患者の所へ行ってくる。」
「大丈夫ですよ、午後は元から休診ですから。」
「じゃあ、後は頼むで。」
「はい、行ってらっしゃい。」

そうして青年は、研究室を飛び出した。
建物を出ると、バイク置き場に止められた、
ライムグリーンの「カワサキ・Ninja250R」に乗って、
平尾町に向かって行ったのだった。

道中、この青年は様々なことを考えていた。
もちろんその内容は誠大についてということに他ならなかったのだが、

「鉈落が転校したって話は本人から聞いとったが、
まさか転校早々に何かあったんやろか?
ただ、考えられるのは、
過去の記憶がフラッシュバックしたってことも十分あり得る。
分からんが、とにかくまずは行くしかあらへん。」

彼もどうやら、誠大の過去を知っている人間らしい。
彼はニンジャのスロットルを回してスピードを上げ、
平尾町へと向かうペースを速めていった。
電話からちょうど1時間ほど経った頃だっただろうか。
青年は学校に着くなり、職員室を訪れた。

「すみません、電話をもらった…」
「久しぶりね。」

出迎えたのは水野だった。

「お、おう…水野か。」
「何でちょっと引いてるのよ。」

だが、そこには余り構うことなく、水野は彼に切り出した。

「まあ、あなたと誠大くんの関係から聞いていきたいところだけど…。
誠大くんの担当だったことに間違いは無いわね?」

と先程の電話に続いて念を押す。

「そうや…。」

彼も彼で、間違いがないことを認めた。

「ひょっとしてお前、誠大の担任か?」
「ええ、一応やってるわ。」
「なら丁度ええで。
誠大の状態を、お前に話さなあかんな。」
「わかったわ。
じゃあ、会議室空いてるから、そこで話しましょう。」

こうして2人は、会議室で机を挟んで話し始めた。


初登場の精神科の先生。
当然、誠大の担当だったわけですが、
まだ、この時点では名前は出ていません。
というか、3パートめを作るまで、
ちゃんとした名前を決めていませんでした。

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