作:マサ
今回で一旦連投はラストです!
「はい。ルゥちゃま。アメですよ。」
そう言ってワンニャーが差し出したのは、ペロペロキャンディ。
しかし当のワンニャーは、考え込んでいた。
「困りましたな…。朝、誠大さんに言われた通りの結果です…。
ミルクは底を突き、オムツ警報機は、限界5分前のサインを出しています…。
オムツの替えも無く、有能なベビーシッターが聞いてあきれます…。
居候の身でありながら、何から何まであの3人に頼っていてはいけませんね。」
少し考え込んで、ワンニャーはひらめいた。
「そうだ。良い機会です。トイレの練習をしてみましょう。
ついでにお台所で何か食べられるものを探しましょう。」
その頃2人の部屋では、もう話に花が咲いていた。
「困ったわ。3人ともいなくなっちゃうんだから。」
これに未夢は、ちょっとしたウソでごまかす。
「ごめんね。紅茶のミルクが切れちゃったから、彷徨に買いに行ってもらってたの。」
「ほら。紅茶できたぞ。」
「何か彷徨くんも誠大くんも、未夢ちゃんと組むと新婚さんのカップルみたいよね…。」
クリスのその発言に一瞬場が凍り付いた。
誠大も未夢もこの発言に少し動揺したが、すぐに誠大がこう言った。
「もう、クリスは冗談ばっかりだな。
ほら、ケーキ食べて、紅茶飲んで、おかわりしちゃって、なんならもう一度鐘突いて…。
いや、さっきクリスは鐘突いてなかったよ…な。」
場の雰囲気が一遍に静まりかえる。だだ滑りとはこの事を言う。
誠大は冷や汗をかいて、赤面しているが、すぐに未夢が、
「静かなのも、なかなか良いね。」
とフォローしてくれた。しかしその直後、クリスが席を立って、
「待って。今何か声がしませんでした。」
彷徨も席を立つ。多分、声の主は知れているのだろう。
「そうか?」
「いや、確かにしましたわ。」
「ホントに?」
「マジか?」
未夢も誠大も席を立つ。
「他にもどなたかいらっしゃるの?」
言葉に詰まった彷徨、少しして、
「ああ。親父が…帰ってきたのかな。」
「それではご挨拶しなくては。」
クリスが部屋を出ようとすると、
「ああ!ちょっと待って花小町!」
しかし、もうクリスは部屋を出ていた。彼女がそこで目にした物は…。
しっぽをプロペラにして飛んでいるワンニャーと、ルゥだった。
ルゥは限りなく地球人に近い宇宙人なので、見かけ上問題はないが、
問題はワンニャーである。それもそのはず、未夢たちが初めて彼らと会ったとき、
未夢が一夜明けても夢であって欲しいと願うほど、得体の知れない生き物だからだ。
「きゃ〜!」
クリスが叫んだ瞬間、女子達が一斉に集まる。
「何これ!」
「浮いてる!」
などと口々に言っているが、
「ああ、万事休すか…。」
彷徨と誠大が完全にうなだれているが、
その中で一人、未夢が何かをひらめいた様子だった。
「今流行の、ロボットタイプのペットなの。『AIBO』的な。」
「ええっ!」
そのあまりにものこじつけに、男2人はぎょっとしていた。
「ロボット…ですの?」
クリスの質問に未夢はこう答えた。
「お母さんの仕事の関係もあって、NASAが開発した、
新しい作品の空飛ぶロボットをモニターしてるの。」
「じゃあ、その赤ちゃんも、ロボットですの?」
「この子は私の弟のルゥくん。」
それによって女子はいっぺんに沸き、
「こんな小さな弟がいたの?」
「抱かせて抱かせて!」
そんな雰囲気を尻目に誠大は一人こう考えていた。
「あいつは…!さっきのみかんさんの時と言い、なんて芝居を打つんだ!」
が、ルゥはやはりオット星人。早くも超能力を使い出した。
トーテムポールのような木彫り人形を浮かせ始めた。
「わわわわ!」
彷徨がその人形に飛びついて、部屋に置いてあったベッド
―無論、これもワンニャーが先程作り出した物―に飛び込んだ。
そのまま彷徨はベッドで撥ねている。
「学校では無口でクールな彷徨くんなのに…。」
「家では意外と面白いのね。」
「誠大くんはその逆ね。家にいる方がクールだわ。」
などと言い合って、結局ずっと話していた。気がつけばもう夕方である。
誠大は先程のケーキが「ロシアンケーキ(「当たり」の中身にワサビ入り)」で、
しかもそれに「当たった」らしく、小一時間ほど、洗面所に釘付けだった。
が、クリス達はもう帰るのだ。
「おじゃましました〜!」
「今日は突然でごめんなさいね。」
「ううん。歓迎会ありがとう。また来週ね。クリスちゃん。」
「ルゥくんも、お姉ちゃんと仲良くね。」
と、その時。
「ママ、パパ。」
と、ルゥが言ったために、クリスはピタリと足を止めた。
「な、何言ってるの?ママとパパはアメリカにいるんでしょ?ルゥくん。
あたしはお姉ちゃんでしょ。」
辺りの雰囲気が静まりかえる。
そこから妙に力の入った声で、クリスはしゃべり出したのである。
「やっぱり、私のにらんだ通り、二人はできてたのね。
いとこ同士の2人は、幼いときからいつもなかよしで、
いつの間にかお互いを意識し始めていた…。
小6の頃、未夢ちゃんは告白…。彷徨くんも気持ちは同じで2人は両思い。
それを知った仲の良い両親同士は、
『そう言うことなら、この際2人で同居させて、18歳になったら即結婚…。』
みんなには内緒で、かわいい赤ちゃんまでできて…。」
そう言うとクリスは、玄関先に植えてある大きな木を両手で抱えて、そしてものすごい力で、その木を抜いた!
「なんだかんだで結局ここは!愛の巣だったのね〜!」
今にもその木を投げんばかりの迫力だったので、彷徨と未夢はすぐにクリスの元へ行く。
「待ってクリスちゃん!」
「早まるな、花小町!」
と、急にルゥが、
「にぃに!」
と言った。驚いた彷徨と未夢が振り向いた先には、誠大がいた。
「だったら俺の存在はどうなるか、よく考えてくれよ。
俺はとりあえず、ルゥのいとこの兄貴なんだぜ。
それにルゥは小さいから、犬でも猫でも、『パパ、ママ。』って言っちゃうんだよ。」
そこになんと、宝晶が来た。
「3人とも、友達かね。」
「ルゥくんが私達のこと、親みたいに言うものだから、誤解されて、こうなっちゃったの。」
「はっはっは。そう言うことなら、さっきの誠大くんの説明通りじゃ。」
「犬や猫を見ても…。」
そう言うとクリスは、自分が抜いた木をまた植え、土をかぶせた。
「私…。恥ずかしい…。本当にごめんなさい。」
そう言ってクリスが去ると、他の女子達もそれに付いていった。
「お、終わった…。」
辺りが静けさを取り戻したところで、未夢が宝晶に聞いてきた。
「そう言えばおじさん。いつ修行から帰ってきたんですか?」
未夢が聞くと、宝晶はしっぽを出して見せた。
「もしかして…。」
未夢が言うと、
「ワンニャー。」
と言ったら、よく見かけるワンニャーの姿に戻っていた。
「さっき、ルゥがアルバムの写真浮かせて遊んでただろ?
その時こいつが、宝晶おじさんの写真を見つけたらしくってな。
トイレから出てきて、最後ぐらい顔出したら?
って言ったらあの騒ぎだから、俺だけ先に出てきたってワケだ。」
「助かったぜ。2人とも。」
「ありがと。」
「これでお役に立てましたね。」
3人が玄関を上がると、未夢が、
「でも、クリスちゃんってすごいのね。」
「昨日、ルゥを助けて戻った直後がまさにそれでな。机二つに割ってたよな。彷徨。」
「そうだな、誠大。それ以外にも、この前のバレンタインの時なんだけど、
一際大きいチョコ持ってきてな…。
『もしこのまま私がチョコをあげられずに、
この中にいる女の子全員が彷徨くんと付き合ったりしたら…!』
そう言って、あの時は掃除用具入れ持ち上げてたと思うよ。
後々、自分で片付けたらしいけど。
誠大はわかっているとはいえ、未夢は見るのは初めてだったからな。
一応一緒に住んでる関係上、あんたにも言っておかなきゃならないことだからな。」
「えっ…。あたしのこと、心配して…。一緒に住んでるから…。」
そんなことを言いながら、未夢はこんなことを考えていた。
「こんな状態って、みんなから見たら、特別なことなんだよね。やっぱり。」
と、顔が赤くなった。
「やだ。何あいつのこと意識してるんだか。」
と、また玄関の呼び鈴が鳴った。
「今度はなんだ?」
「みかんさんか。気付いたのかもよ。」
「でもとりあえず、怖いから3人で行こう。」
そして玄関の扉を開け、
「どちら様でしょう。」
と未夢が言うと、大きなトレーラーのような宇宙船が降りてきて、煙を上げていた。
「ご注文いただいた紙オムツとミルクです。こちらに認めの声を。」
そう言って差し出したのは、ボイスレコーダーのような物。
ハンコやサインの代わりなのだろうか。
「オムツとミルク?」
と、彷徨が質問したかのように言うと、どうやらその声を機械が受け取ったらしく、
ピピッと音を出して、
「はいどうも。まいど!」
と配達員は言って、その宇宙船は再び煙を上げて飛び立った。
唖然とする3人。と、その後ろからワンニャーが来て、
「いやぁ、よかったよかった。今朝通販で商品を注文したんです。」
「って、やっぱりストック無かったのか!」
誠大に突っ込まれた。
「はい。実はそうだったんです。」
少し落ち込んだが、ワンニャーは商品の所へ行くと、
「おお。ドナイ星印の粉ミルクとオムツ。これでしばらく安心です。」
「おお…。」
「す、すごい…。」
この事実には、感嘆するしかなかった。
「ワンニャーの育児日記。オット星暦、3408、D-11。
テスト通信はまあ成功。
オット星ではなく、ドナイ星でしたが、宅配便が届く。
まもなく救助も訪れることでしょう。
お客様が多く、にぎやかな1日で、
ルゥちゃまも、未夢さんの弟、ということで、楽しく遊んでいただいた。」
次回、第4話は初のオリジナルストーリー。
オリキャラ、誠大くんの真実に迫る回となる予定です。