【猫かわいがり】5のお題 過去拍手

3. 激情をやり過ごせ

作:あかり

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未夢は恥ずかしがりやだ。「好きだ」と彼女に告げたとき、返ってきた返事は「私も。」だった。伝えたとき、それで十分だとは思った。けれど、付き合い始めてからもこの調子で、告白のときと同じように真っ赤になって返事を返してくれるから恥ずかしくて言えないだけだと分かってはいるけれど、時々足りなくなるんだ。
たまには、未夢からも言ってほしい。そう思うのは、些細な願い事だと思う。


休日の遊びに行った帰り道、時間が遅くなって空には月が浮かんでいる。今日は、綺麗な満月で綺麗だなと思った後に思い出したある話。
「月綺麗だな。」
「ほんとだ。綺麗だねー。一緒に見れて良かった。」
帰ってきた返事は、望んだもの。未夢の表情も嬉しそうに顔をほころばせている。
笑みがこぼれてしまったのは仕方なかったと思う。未夢は、いつも以上に機嫌がいい俺に怪訝そうな顔だ。
「どうしたの?月が綺麗だとそんなに嬉しいの?」
「そうだよ。未夢は月が綺麗だと嬉しくないのか?」
「そりゃ、嫌な気持ちはしないけど。確かに今日は月、すごく綺麗だよ。・・・でも、彷徨なんかいつもと違うよ。」
「じゃあ、理由を教えようか?」
繰り返される「月が綺麗だね」のフレーズ。夏目漱石が「君といると月が綺麗ですね」そう訳した英文は「I love you.」。未夢は、知らずに返していたけれど、それでもその話を知っている俺としては「I love you.」「好きだよ」って言われてる気持ちがしたんだ。

教えてしまうのはもったいない気もしたけれど、でも知ってほしくて秘密を告げるように囁くように理由を伝える。伝えた言葉に未夢は真っ赤になっていた。「え」とか「あの」とか言って慌てふためいていた。その様子がおかしくて、でも愛おしい。
手を繋いで歩いていたから、近くに引き寄せるのは他愛ない。近くで香る石鹸の柔らかな香り耳元に口を寄せて告げる言葉は決まっている。

「月が綺麗ですね」

あふれ出す気持ちは、どうしようもなくて。思いのままに気持ちを出すと未夢はきっと戸惑ってしまうだろうから、これでも精一杯抑えているんだ。
このくらい、許してほしい。









休日デートの帰り道。帰る道も同じ方向に帰れることがなんだか嬉しい。
デートも、もちろん楽しかった。だけど、何より嬉しいのは、二人で一緒に過ごせるってこと。
手を繋いで、月明かりの下を急ぐでもなく、のんびり歩く。今日のお月さまは満月で、帰り道を優しい光で照らしてくれている。
それに、なんとなく、今日のお月様はずっと綺麗に見える気がする。

「月綺麗だな」

そんなことを思っていたら、横から聞こえてきたのは私が思っていたのと同じこと。なんだか嬉しい。うんって、一緒に見れて良かったって返事をしたらひどく嬉しそうな彷徨の顔。私だってもちろん嬉しいけれど、こんなにお月様が綺麗だと嬉しそうにするヒトだっただろうか?
不思議に思っていたら、もっと優しく嬉しそうに笑うから心臓をつかまれるようにぎゅって胸が痛くなる。そうして、耳元で囁かれた理由。

心臓の音が、うるさいくらいに早く強くなる。

返す言葉が見つからなくて、ワタワタしていたらグイっと大きな力で引っ張られた。大きな腕の中に私はすっぽり収まってしまう。トクトクトクって普段より早い私の心臓の音。

「月が綺麗ですね。」
ひどく優しく、囁くように溶かすように耳元で囁かれたコトバ。どうしてかな?直接「I love you.」って言われるよりも甘い気がする。胸がギュウッとなって、湧き上がってくる暖かな気持ち。どうしたら彷徨に伝わるんだろう。
少しだけ、背伸びをして彷徨がしてくれたように耳元でこっそり伝える私の気持ち。
「私も大好きだよ。」
―それに、彷徨と一緒なら、お月様もお星様も、それ以外のなんだって、いつも綺麗に見える―
力が抜けるように緩まる拘束。ぬくもりが離れてしまうことが寂しくて、つい裾をつかんでしまう。頬の熱さに、耐え切れなくて地面を向いてしまうのをとめられない。
彷徨、びっくりしてるよね。急に、あんなこと言って・・・。


伺うようにそっと目線を上げたら、口元に手を持っていって私を見ている瞳と目が合った。
視線が合ったとたん、「そうか。」って溶けるように優しく彷徨が笑うから。もう、どうしようもなくなって、「そうだよ。」ってやっとのことで声を絞り出した。










お題に挑戦させていただきました。
【猫かわいがり】5のお題 『だって可愛くて仕方ない』

お題サイト様以下のとおりです。ありがとうございました。

管理人:藍花
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