【猫かわいがり】5のお題 過去拍手

2. 愛の無条件降伏

作:あかり

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「まいった」としか言いようがない。本当にしょうがない。中学時代約1年一緒に暮らしたオンナノコは今はもう少女ではなく、当時の魅力をもったまま大人になっている。あのときの力関係はどちらかといえば、自分が勝っていたように思う。それなのに、彼氏・彼女といわれる関係になって力関係はひっくり返った。それからずっと勝てたためしがない。


「彷徨、カボチャ好きだよね。」
そう言って、差し出されたお菓子は焼き菓子で、台所には使い残しのカボチャが残っている。だから、好きだよね?とたずねて差し出してきた皿の上にのっているのは、おそらくほぼ間違いなくカボチャのタルトだ。下に引いたタルトの生地の端が下の生地とくらべて濃い茶色になってはいるけど、それでも、他の部分は黄金色でいい色に焼けている。
それに、カボチャ好きだとしっているからレパートリーを増やそうとお菓子にも挑戦したのだとはにかんで言われたらもう何もいえない。
これだけで「幸福だ」そう思ってしまう自分は重症だと思う。
少し削ってある縁は多分、こげたところを取ったからだろう。少し不恰好なそれはそれでもとてもおいしかった。甘さ控えめだけど、それは過度に甘いものは苦手な自分のために合わせてくれたのだろう。「あんまり甘くないほうがいいよねぇ。」なんていいながら砂糖を入れていたところをちょうど見ていたのだから。自分のために、自分の好みに合わせて作ってもらったそれは文句なく満点だと思う。
「また、作ってくれな。」
そう告げて、いつものようにクシャリと手触りのいいその髪にふれて頭を撫でる。
「また作るね。」とふわりと微笑んで返してくれるから、もうどうしようもなくなって、たまらずぐいと引っ張って抱き寄せた。
首の後ろに自分のものだとシルシを1つ。一瞬何が起こったのかわからなかったらしい彼女は一泊置いて「何するの」って顔を真っ赤にして抗議をしてきたけれど、知ったことかと思う。こんなに自分が参っているのだから、未夢も思い知ればいいと八つ当たりのように思う。


ああ、もうほんとうにかなわない。









グイグイと2本の華奢な腕で押されて、ぽっかりあいた一人分の距離。
うつむいた未夢の顔は、耳が真っ赤になっていて、顔をのぞかなくても頬も真っ赤になっていることが分かる。グイと顔を上げて「何するの!!」と言って見上げてきた頬はやっぱり朱に染まっている。
「お礼しただけだよ。」そう言うと、ぎょっとしたように目を見開いて動きを止めたその様子が、かわいいなと思う。「足りない?」とうなづいてほしいなと期待半分で告げると「もう十分」と必死な声にまた開く距離。腕を下ろすと、未夢はあからさまにほっとしたようにそっと息をついた。予想は出来たけど、開いた距離とその様子に少し寂しくなる。
「悪かった。」そう告げて仲直りな、と未夢の腕をとって揺らす。「うん。」とほわり笑う様子に、心臓をつかまれた気分になる。
ほんとうはもっと距離を縮めたくなったのだけれど、「お茶にしようか。」と告げて自分の気持ちをごまかす。無防備な様子を見せるのに、こちらが距離をつめると逃げるから、ますます追いかけたくなる。きっと未夢は気付いていない、一番近いところにいたいっていうこの気持ち。けれど、未夢を困らせてしまうのは本位ではないから、そっと距離を取り直すことになる。


少しずつしか縮まらない距離にじれったいと思うことはしょっちゅうで、手を握ったり頭を撫でたり、そんな子供だましのような触れ合いでごまかすことにももう慣れた。
だけど、ほかならぬ未夢とのことだから、まぁいいかと思える。
「メロメロって言うんだぞ、それ。」古くからの友人からあきれたように告げられた言葉はまぎれもない真実。初めてできた、何をおいても手に入れたい存在。一度は離れた距離にいた未夢が、この手の届く距離にあってくれることにジワリと広がる暖かな気持ち。
思い描いていた幸福は、ほぼ完成に近い形で目の前にあって・・・。
用意してきたコーヒーを「はい。」と、はにかんで渡す未夢に溢れ出した気持ちは蓋をすることがかなわない。そっと手をとって「ありがとう。」と告げてありったけの思いをこめて指先に唇を落とした。










お題に挑戦させていただきました。
【猫かわいがり】5のお題 『だって可愛くて仕方ない』
「*補足*2.愛の無条件降伏でもOKです」とのことでしたので、彷徨に合うのはこちらかなと書かせていただきました。

お題サイト様以下のとおりです。ありがとうございました。

管理人:藍花
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