【猫かわいがり】5のお題 過去拍手

1. 独占欲の甘い蜜

作:あかり

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本を読むのは好きだ。
ミステリーなら謎解きを、物語なら経験できないことを、文字を通して経験できる。知識が増える、興味が広がる・・・理由なんてたくさんある。
でも、もうひとつ上げるなら本を読むにはつながらないんだろうけど、目線を隠せる。こっそり、相手の様子を伺うのにも使えたりする。みる相手が無防備なら、なおのこと容易に。


休暇中に山のように出ている課題、少しずつその山を切り崩していっていた彼女。今日、そのすべてが終わりそうだと機嫌よく話していたのは朝だっただろうか。自分の作ったお昼を「おいしい」と言いながら一緒に食べたあとも、頑張っていた。自分は彼女より早めに課題が片付いていたから、今日は本を読むと告げて一緒にいた。風通しのいい居間は過ごしやすかったし、なにより、一緒にいたかったから。何かをともにしているわけではないけれど。
本を読み進める合間、ふと目線を上げると、何かを書きとめている彼女の姿。サラサラと書くリズムが途切れたのに気付いたら、自分のものと一緒にコーヒーを持っていく。彼女のだけにミルクと砂糖を入れて。差し出された飲み物にびっくりしたような顔をして、その後に花がほころぶような笑顔になる。どういたしましてと告げて、頑張れよとクシャリとひとなで。
ままごとみたいなふれあいだけど、それだけでも満たされる気がした。


「終わった・・・。」
彼女の声に現実に引き戻される。時計を見るとそろそろ日も暮れようかとする時間。あたりはオレンジ色になっていた。一日頑張ったから疲れたのだろう、「ちょっと休憩。」そういって、パタンと横になってしばらくした頃にスースーと規則的な寝息が聞こえてきた。多分、そうなるだろうなと思っていたけれど。
暑い季節でも、山間のせいか夕方になると冷えてくるから、薄着の彼女に掛け物をふわりとかける。一緒に持ってきた枕を入れようと頭に触れる。なんとなく思いついて、ひざに乗せてみる。思ったよりも重みがあってびっくりする。それでも、重すぎるってほどじゃない。
手に触れるサラサラと流れるような手触りの金色の髪。ひと房とって口づけを落とす。いつ気がつくだろうか・・・。そう思うのと同時に、起きたときの飛び起きる様子が目に浮かんで、頬が緩む。
彼女の穏やかな寝顔も、起きたときの驚く様子も、自分だけが見れる。そう思うと、彼女のコーヒーに入れた角砂糖を口に含んだような甘さが胸に広がった。











頭をなでる手が心地いいな。それに、なんだかポカポカ温かい。『このまま、眠っていたいな・・・』そう思っているのに、優しく夢の終わりは訪れる。
縁側で、猫になってひなたぼっこをしている夢。優しい飼い主のひざの上、ひどく優しく頭を撫でられていた。陽射しで顔は隠れているけど、でも、この石鹸の香りは良く知っているもので、私も使っている。だから、多分夢の中で頭を撫でてくれていたのは、彷徨の手だろうな、なんて思いながらゆっくり瞼をひらく。
目の前には彷徨の顔があって、まだ夢の中なのかな、なんて一瞬思う。
「おはよう。まだ、夢の中みたいな瞳をしてるな。」
そう言って、心臓に悪い笑みを浮かべて見せ付けるように私の髪をほんの少し持ち上げてキスを落としたのは、さっきまで夢に出てきたヒト。
なんで、なんて頭がパニックになって飛び起きる。起き上がっても、下に引いてあったはずの枕は見当たらなくて、そこにいるのは正座をしている彷徨だけで。声にならない悲鳴をあげる。
「な、なにしてるの!!」
「何って、みて分かるだろ?膝枕。」
平然と言ってのける彼に、頬はもうこれ以上ないってくらい熱くなった。それなのに、目の前にいるひとは、さっきと同じ心底嬉しそうに笑顔を浮かべてる。前に一緒に住んでる頃よくみたのは、意地悪そうな顔。そして、それと一緒に言われる意地悪。でも、付き合うようになってから彷徨の意地悪は、前にもましてたちが悪くなったと思う。だって、笑顔でひどく嬉しそうに私を困らせるから。そして、最後には「恥ずかしがりやだな、未夢は。」そんなお決まりの文句を繰り返し言うのだ。ほんとにたちが悪いったらない。
私の心臓は、いつか壊れちゃうに違いないって最近ずっと思ってる。
「今度は、未夢がしてくれると嬉しいな。」
そう言って、かすめるように奪われたのは唇で。目覚めのキスだよ、なんて耳元で小さな声で告げられる。私はまた声にならない悲鳴を上げるしかなくて。
「恥ずかしがりやだな、未夢は。」
やっぱりいつもの決まり文句。ほんとうにたちが悪い。
それでも、彷徨が嬉しそうに、ひどく優しく笑うから、私はもう何も言えなくて。
やっとのことで「意地悪。」って言うしかない。


でも、出した声はびっくりするくらい甘えている声で・・・。
「未夢にだけな。」耳元でもう一度小さく囁かれて、溶けてしまいそうなくらい体が熱くなった。











お題に挑戦させていただきました。
【猫かわいがり】5のお題 『だって可愛くて仕方ない』
お題サイト様以下のとおりです。ありがとうございました。

管理人:藍花
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