作:あかり
どんな家族か今尋ねられるとちょっと返答に困る。
まず始めに、クラスメイトには口が裂けても言えないが、家族のはずの親父は修業にでて常に不在。母は幼い頃に他界している。
そして、一緒にすんでいる家族は半分が宇宙人で一人は一歳にも満たない赤ちゃん。だが、あなどるなかれ超能力で浮かぶは、物を浮かすは操るはと、未夢と二人で隠すのに必死だ。二人目は(一匹は?)姿形が猫のような犬のような不思議な姿で、変化自在に姿を変える。宇宙では常識らしいシッターペットだ。地球では断じて常識ではないけれど。そして、三人目の未夢。同い年のただのオンナノコ、母親どうしが親友でうちに預けられた。
多分、第三者人からみれば、全員、血の繋がりのない赤の他人だ。以前なら、生活をともにしていても他人は他人だと自分も思っていた。でも今は、そんな風にはとても思えない。紛れも無い家族だと言いたい。もし、家族だと言えないとしても家族に最も近い仲間だ。多分。多分なんて言葉が着くのは地球人仲間の未夢がいるから。
家族だとおもっているけど、その一方で、目が離せないとずっと守っていきたいと思っていることも確かで・・・。それでも、この家で4人家族として過ごすために口には決して出さないと決めた。今、一番大切なことは家族を守ることだから。家族を守ると決めた自分がそれを壊すようなことは出来ない。気弱だともしかしたらとられるかもしれないけれど、それでも、今優先順位をつけないとしたら家族だ。例えば、今気持ちを未夢に伝えたとして、よい返事でも、悪い返事でも今守られている生活は変わるだろう、確実に。ワンニャーは3人での相談を気兼ねをするだろうし、未夢もどう動いていいか分からなくなるんだろう。そして、自分も。ワンニャーもルゥもオット星の迎えが来るまではうちにいるしかなく、未夢もアメリカから両親がこちらに戻ってくるまではうちにいることは、未夢の中では決定事項になっている気がする。そのいちばんの理由は、ルゥやワンニャーの存在があるから。家族は、喧嘩をしてもある瞬間どれだけ家族の誰かのことが憎たらしくなっても一緒に暮らしていかなくてはいけない。今、暮らしている4人もそれに当てはまっているように思う。そうだとするなら、皆が穏やかに生活していくには、今を維持していくことが最善で、そうなると皆が揶揄する状況はどうしたって自分から選択することはできない。絶対に。
途中で思考がそれてたなとふっと息をはいて頭を軽く左右に振る。家族について書くんだったと思い直す。そうして、小学生の時にでた作文で同じ課題を出されたことも。
授業参観で全員が読んだ作文。僕の家族は3人でした。たしか、そういう書き出しで書いたそれ、親父はあの日珍しく来ていて、母がなくなったくだりを読んだときには盛大に泣いていた。それでも、お父さんと二人で支えあって生活をしていることは楽しいし、お父さんが頼りにしてくれることも最近は出てきて嬉しいなんて事を書いていたら満面の笑みで嬉しそうに笑ってくれた。俺は、親父が喜んでくれて嬉しかったし、誇らしく思っていた。
けれど、そう思っていたのは俺だけで、俺が作文を呼んだ後の教室は居心地の悪い空気になった。同級生はそうでもなかったけど、その親たちの一部が。「かわいそうに。」そう言われた言葉は胸をグサリと刺した。そんなこと、言われたことなどそれまではなかったから。それに、自分をかわいそうだなんて思ったことなど一度もなかったから。
それでも授業は滞りなく進んで、終わった休憩時間。「かなたくんはかわいそうなの?」そう口にしたのは誰だったのか、もう今では思い出せない、同級生の言葉。「違う。」一言だけ返事をして押し黙ってしまった俺に、教室から出ようとしていた親たちの動きが止まった。シンとなった教室は気持ちが悪いくらい寒く感じた。
それでも、やり取りを聞いて背後に近づいた親父が「どうしてそう思うのかね?」と同級生に尋ねたとき、背中から空気が温度を取り戻していくような気がした。その子がなんて返事をしたかなんて覚えていないけどその後に続けられた親父の言葉は、やわらかでひどく温かかった。
「彷徨も私もかわいそうなんかじゃないんだよ。確かに、私と彷徨は彷徨のお母さんとは人よりも早くに別れなければならなかったけど、私の中にも彼女との思い出は残っているし、彷徨にも残っている。別れは、皆に平等に訪れるものじゃ。その時期が早いとか、遅いとかは関係なく、一緒の時間を大切にすごせるかが大切なんじゃ。私も彷徨も彷徨の母さんとの時間は本当に大切に過ごしたよ。一生分。その時間を大切に思っているよ。君も傍にいなくても、家族との時間を思い出すとここが温かくなるじゃろ?その気持ちは、色あせることはないんじゃよ。それは、形は見えなくとも、傍に家族がいるってことなんじゃよ。・・・難しいかもしれないけどきっと君にも分かるときがくる。」そう締めくくってクシャリと頭を撫でられたのだ。
あれは、同級生にというよりは、俺に話しかけていたようにも思う。そして、この手に守られていると強く感じたことも確かだ。
あの後、パチパチと宿題を出した先生が拍手をして、弾かれたように後ろにいた両親席から拍手がこぼれて結局教室中拍手の渦になった。あの光景は、今でも鮮明に思い出せる。
その後も、「かわいそうに」や「寂しいでしょう」なんてことを言われたことはあったけど、それでも自分をそう思わないでいられたのは、あのときの親父の言葉があったからだ。
そう、親父と二人暮らしをしていた間、寂しいと思ったことはなかった。特に何かを不自由に思うこともなく、ただ過ぎていく時間はそれでも確実に守られていた。親父と二人暮らしの時には気付かなかったけれど。その分、未夢やルゥ、ワンニャーが来てから、守るだけの十分な力を自分が持ってないことは、何度も思い知らされた。3人が来てすぐの頃、未夢の目が朝見たら赤いことが多かった。ルゥも泣いている回数が多かったように思う。3人が家に来てからいろんなことに巻き込まれることが多くて、不安げな顔をするくせに「大丈夫だよ」と笑う未夢に助けられたり、突拍子もないことをすることが多いけど、それでも4人の中で多分一番大人のワンニャーが色んな事に奔走してくれて、要みたいなルゥがいて、支えあって成り立っている。俺も、できるだけのことをやって、大変だと思うことはあったけど、それでも守りたいとそのたびに思った。
未夢も、そう思ってくれていたらいいのに。