過去拍手

作:あかり

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りんご


「今日のおやつは、特売で買ったこの真っ赤なりんごですぅ。」
ジャーンという音が出そうなくらい目をキラキラさせてワンニャーが取り出したりんごは本当に真っ赤で、すごくおいしそう。スーパーたらふくは時折すごい特売をすることがある。安かったというりんごを山のように買ってきているからしばらくは毎日りんごがおやつなんだと思う。そのまま食べるのもいいけど、しばらくしたらアップルパイとかも作ってほしいなと思っていたら、くるくるとりんごの皮をむき始めたワンニャーにびっくりする。つながって切れない皮の薄さと、形が違うんだなって。
「あれ?ウサギじゃないの?」
「ウサギですか?」
「うん。パパが切ってくれるときには、必ずウサギだったんだよ。ママのときは皮そのままだったけど。」
「未夢の家らしいな。親父さんのほうが料理上手だったもんな。」
「うん、パパ料理上手だし、そういうのも好きみたい。かわいいんだよ。えーっと、どうやって切るんだっけ?」

危なっかしく包丁を握る未夢にワンニャーははらはら顔だ。見るに見かねた彷徨は貸してみろとりんごと包丁を受け取った。八等分に切って、それから切れ目を入れてしたからうすーく皮をきってできたウサギの形。
「これだ。彷徨すごい!!ルゥ君、ほらウサギさんかわいいね。」
「きゃーぁ。」
パチパチと手を合わせて喜ぶルゥ君をみて、私もパパにウサギのりんごを作ってもらったときはすごく嬉しかったことを思い出す。それから、私がありがとうって言ったときのパパの嬉しそうな顔も。なんとなく、彷徨はどんな顔をしてるんだろうってきになって横を見たら、ひどく嬉しそうに笑っているのに、でもどこか寂しそうで、体の中心がキュってつかまれたような気がした。







林檎


ワンニャーが安かったのだといって買ってきたその赤い果物は山のように積みあがっていて、嫌いではないけれど、しばらく毎日食べることになるんだろうと思うとなんとなくため息が出た。
「今日のおやつは、特売で買ったこの真っ赤なりんごですぅ。」
そういって、くるくると器用に皮をむき始めたワンニャーにびっくりする。家で食べるりんごは丸かじりだったから。小さいときは小さく切ってあったような気もするけど、大体は半分にきるか、そのまま食べることのほうが多かった。遠足のときにみんなの持ってくる弁当は自分のとは違っていて、そうウサギのりんごなんかもはいっていてなんとなく口をきゅっと結んだことを思い出す。そして、自分で切れるように練習したことも。あの時はうまく出来なかったししばらくすると周りの持ってくる弁当もそういうのはなくなった。だから結局1度として出来ることのなかったウサギのりんごは初めてちゃんと形になった。

ルゥが喜んでくれるくらいのものが。

「すごいですぅ。」
「きゃーあ。」
「彷徨すごい!!ルゥ君、ほらウサギさんかわいいね。」
ルゥにかわいいねと言いながらニコニコと嬉しそうに笑う未夢に、機嫌よく笑っているルゥ。二人とも屈託なく笑いあっていて、それがひどく嬉しい。
結局誰にも見せることのなかった自分で作ったウサギのりんごは、今日のためにあったんじゃないかとわけもなくそう思った。









Apple


お世話になっている西園寺さんの一番近くのスーパーは特売をすることがたびたびあります。5日前の特売ではりんごがたいそう安くて、たくさん買い込んでしまいました。毎日のおやつに食べるのですが、この星では生のまま食べるようで非常に驚きました。初めて食べたときは試食でくるりと皮をむいたものでした。意外とおいしいんですよ。ほのかに甘くて、かんだときもしゃりしゃりと結構おいしいのです。でも、さすがに5日も続くと未夢さんや彷徨さんから「アップルパイとかにはできない?」と打診がありました。もちろん、私にお任せくださいと返事をしました。なんといっても、オット星ではこの星で言うアップルパイにして食べることのほうが普通ですから。

「ワンニャー、うしゃー。りー。」
今日の育児日記には何を書こうかなと思いながらアップルパイを作っていましたら、ルゥちゃまが近くまできていました。最近は私や未夢さん、彷徨さんの言葉を真似ようとされているようです。さすが、私のルゥちゃま、大変賢いです。
「ルゥちゃま、ウサギのりんごですか?」
「はーい」
パチパチと手をたたき正解を喜ぶルゥちゃま。りんごをたくさん買ってきた日に彷徨さんが作ってくださったウサギの形をしたりんごをことのほか置きに召した様子で、おやつの時には必ずこんな風にウサギの形にしてくれとおねだりされるようになった。多分、りんごの皮をむくたびにこんな風に話されるのだろう。
オット星では、こんな風な食べ方はしないから、きっとルゥちゃまだけのここでの記憶のひとつになるのだろうと思う。それが良いことなのか悪いことなのか分からないけれど、でも、親元を離れていても私や親代わりのふたりの傍でこんなに健やかに育っておられるのだから、悪いようにはならないような気がする。ルゥちゃまが地球のママとパパと認めたお二人との記憶だから。
「できました、ルゥちゃま。でも、今日はアップルパイにするんですから、ウサギは1つだけですよ。」
「きゃー。」

お皿の上のウサギのりんご1つ。

特性アップルパイのシナモンの香りが西園寺を包む頃には二人も帰ってくるだろう。
「ただいま。」と帰ってきた未夢さんと彷徨さんが、ウサギのりんごをみて「ルゥ君おきにのウサギのりんごだね。」と未夢さんが言って、嬉しそうに彷徨さんがルゥちゃまの頭をなでるまであともう少し。








拍手いただいた皆様ありがとうございました。そろそろ入れ替えようかなと思いまして、またこちらにupさせていただきました。
短いですが、小話を楽しんでもらえたら嬉しいです。




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