作:あかり
スイカ
「夏はやっぱりスイカだよな。」
「そうだよねー。」
「スイカ?なんですかそれ。すごい色ですし、ギザギザのシマシマになってますけど、食べても大丈夫なんですか?」
みかんさんが持ってきてくれたスイカ1個。丸々していて、すごく大きい。みずきさんが実家から持ってくれたらしいそれ。自分は2個もいらないと持ってきてくれたものだった。
はじめてみるおおきな丸い果物にルゥは「ル?ル?」と不思議そうな顔をしながらもペタペタと良い音がするそれをたたいてご機嫌だ。
「オット星にはなかったのか?スイカ。」
「はい。私はみたことありませんでしたよ。」
「えーっ。おいしいのに、もったいなーい。」
「まぁ、食べてみたらうまいって分かるよ。」
冷やしたほうがおいしいからと半日冷蔵庫で冷やしたそれはとってもキンキンに冷えている。パンと半分に切ったときのワンニャーの「えぇ!?中は真っ赤だったんですか?」と狼狽していたのには未夢も彷徨も笑ってしまった。ワンニャーがこわごわと始めは今日のところは1/4だけと切ったそれ。結局、ワンニャーが一口食べた後に、「甘いです。こんなにすごい色をしているのに、何ででしょう?おいしいですぅ。」とか何とか言って、どんどん食べてしまうから、冷蔵庫に残っているスイカは1/2だ。
「あまーい。」
「うん、うまい。やっぱり夏はスイカだよなぁ。」
「そうですなぁ。あ、でもあれかけなきゃやっぱり物足りないな。」
「そうだな。・・・って未夢の家も使ってたのか?」
「もって彷徨も?」
「あぁ。ほら、持ってきた。」
「わーい。うん、この味だ。やっぱりこれがなくっちゃね。」
「うん。やっぱりこの味だな。」
照らす太陽はかなり焼けるようにあつい。それでも、縁側に屋根でできた陰間に座って冷たいスイカを食べれば、こころもち暑さも和らいでくる。
「・・・お二人とも何をかけてるんですか?・・・てこれは。」
「塩。」
「お塩でーす。」
パタパタとやってきたワンニャーの疑問に声をそろえて答えて、ワンニャーがスイカをはじめて目にしたときのようにうろたえること数秒。おいしいよと未夢にかけられた塩に半分泣きべそになっていたのに、一口食べた後に「おいしいですぅ。」とびっくりしたように叫ぶ声に未夢と彷徨が顔を見合わせて笑い声を立てるまであとほんのちょっと。
みんなの笑い声を聞いていたルゥが、手をたたいて笑顔を見せる。
窓際にかけた風鈴のチリンという音も楽しげに、涼しげに西園寺に響いた。
朝顔
「ねぇ、彷徨。朝顔、植えてもいいかなぁ?」
上目づかいで尋ねてきた未夢。反則だなと思う。本当に。計算や打算とは無縁の未夢は、ときどきこんな風に心臓を鷲掴みにするようなことをする。いつもは、割とはっきり物を言うのに、お願い事をするときに限って言いにくそうな様子をみせる。でも、だいたい口から飛び出してくるお願いはかなり些細なことが多い。だから、いつも俺は拍子抜けしたように「いいんじゃないか。」って返事を返すことばかりだ。
「ありがと。ほら、緑のカーテンって言うじゃない。縁側にしたら涼しそうだなぁと思って。朝顔、きれいだしルゥ君も喜ぶかなって。」
「良いんじゃない。でも、ゴーヤが多いんじゃなかったか?その緑のカーテンって。」
「えーっと、ちょっと苦手だから、毎日でたら大変だなって。」
「なるほどね。好き嫌いか?」
「た、食べれないわけじゃないよ。でも・・・苦いから。」
「好き嫌いだな。」
「意地悪。」
「はい、はい。」
「お二人ともどうされたんですか?」
「未夢が夏に向けて朝顔植えたいんだと。」
「朝顔ですか?」
「縁側、日が当たるだろ?だから日よけに、蔓のある植物を植えたいんだと。」
「なるほどー。それはいい考えですぅ。そういえば、テレビでやっていましたねぇ。あれ?でも、そんな名前の植物でしたっけ?たしか、食べ物がなるはずですよ。名前は・・・あれ?」
「ま、良いじゃん。なんでも。涼しければさ。」
家計を預かってるワンニャーとしてみれば、食べ物のほうが断然嬉しいわけで、それを聞いていた未夢は動きがギクシャクと怪しくなっている。助け舟のつもりで、一言添えたら、「そうですねぇ。名前、忘れちゃいましたからしょうがないです。」と存外あっさり返事が返ってきたから安心した。
「ルゥ君、見てごらん芽が出たよ。」
そんな声が聞こえるようになったのは数日後。それから順調に育っているみたいで、そろそろ小さな木陰を縁側に作るようになってきた。赤や青紫のつぼみが少しずつ見えてきたから、花が彩るのは、もう少し熱くなってきてからだろう。「ル?ル?」と花を待っているルゥと一緒に「もう少しで花が咲くよ。」と嬉しそうに笑う未夢。二人の間を風鈴のチリンという高い音と一緒に自分のところまでやってきた風は涼しくて、素直に「涼しいな」とこぼれた言葉。声に振り向いた未夢の笑顔は、直視できないくらい眩しかった。
みかん
「えっ、彷徨。みかんそんなに大きいの口に入るの?」
「はいるぞ。このくらい普通だろ。」
「そうなの?パパもママも1個ずつ食べてたから変な感じ。・・・ってワンニャー薄いほうの皮も全部むいちゃうの?」
「はい。・・・え?食べれるんですか?その薄い皮も。」
「たべれるぞ。」
「うん。たべれるよねぇ。」
テーブルのかごの中に山のようにある甘い果物。それぞれの手の中にあるオレンジ色の果物は全て大きさ、姿・形も異なっている。
彷徨の持っているものが一番大きくて、外の皮をむいて4等分。
未夢の持っているものはひと房。薄い皮がついたまま。
ワンニャーの持っているのもひと房。ただし、薄い皮はむいてあり、小粒がツルンと見えている。
「同じ果物なのに、皆バラバラだねぇ。」
「そうだなぁ。」
「ですねぇ・・・。」
一瞬シンとなる居間。
チクタクと柱時計の音が不自然に響く。みかんをペチペチとたたいて喜んでいたルゥは、急に静かになった周囲に驚いたのか不思議そうな顔だ。
「なんか、おもしろいねぇ。」
静かになった居間に音を戻したのは未夢で、クスクスと楽しそうだ。
「皆違うのがおもしろいのか?」
「うん。だって、皆違うところから集まってるでしょ。でも、ちょっとずつ、こんな風にしてきたんだよーって分かってきておもしろいよ。なんか、びっくり箱あけてるみたいじゃない?」
「なんでそこでびっくり箱が・・・。まぁでも、他にもたくさんやり方が違うこととかあるかもな。」
「そうでしょ?だから、楽しみだなって。他にもきっとたくさんあるよ。」
「そうですねぇ。こうやってちょっとずつ知っていってどんどん家族になるんですねぇ。」
「あ、ワンニャー良いこと言う。」
「本当、たまには良いこと言うなぁ。」
「えっへん。私、有能ですから!・・・って彷徨さーん、たまにって何ですか?」
「気のせいじゃないか?」
軽口が飛び交う中、ルゥは、笑い声に包まれた3人の真ん中でまた嬉しそうにみかんをパチンとたたいた。
小さな彼は、どの食べ方をえらぶのかな?