過去拍手

作:あかり

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たんぽぽ


今日は休日の昼下がり。せっかくの晴れの日だから、みんなで庭に出てる。
彷徨は縁側に腰掛けてて、完全には外にはでていないけど。
境内の片隅でさいていたタンポポは黄色から白へ変わってしまっている。
ひとつ手にとって、ぷぅと吹いたら、ぱあっと綿帽子が浮かぶ。それを見ていたルゥ君は一瞬目を大きく開いてから「きゃあ」って言って手を叩いて喜んでる。本当にかわいい。
ぱちぱち手をたたいて喜んでいるから、させてあげたらもっと喜ぶかなって口元に綿毛をもっていって「ふーってするんだよ。」っていったらそーっとふーっとしていくつか綿帽子が飛んでいった。「きゃあ」ってさっきよりもいっそう高い声で笑って喜ぶから、私もつい「飛んでいったねぇ」なんていいながら笑顔になってしまう。
何回かしていたら、今度は「パンパ」って言って茎をもつから、彷徨にも見せたいのかなって思って「はい」て手渡した。ちっちゃな手にギュって一生懸命茎をつかんで、フワフワ浮かんで、縁側でこっちをみていた彷徨のところへ飛んでいった。
「お、ルゥ綿毛飛ばしてたのか?はは、髪の毛についてるぞ。」近くにやってきたルゥ君をみて目を細めている彷徨はクールって言葉はつながらないなと思う。どちらかといえば、というよりは完全に「親ばか」のほうが似合ってる。ホントのパパじゃないけど。
柔らかな綿毛をそっとはらっている彷徨をみて、そんなことをぼんやり思っていたら、いたずらな風が大きく吹き抜けた。強い風に一瞬目を閉じる。目をひらいたら、体中に綿毛をくっつけた彷徨が目に入ってきた。フワフワをまとった彷徨にルゥ君は大喜びで、体にくっついた綿毛を「ふぅ」ってふいて飛ばそうとしている。彷徨は自分の様子をみて驚いたみたいだったけど、タンポポの花と同じにふいたら綿毛が飛んでいくのだと思って自分の体を吹いているルゥ君をみたらおかしくなっちゃったみたいで、「俺を吹いても綿毛は飛んでかないぞ」なんていいながら笑い始めてた。
太陽はやさしく照っていて、風もさっきのいたずらからはなりを潜めてそよと吹いてる。「彷徨さん、どうしたんですか?」なんて綿毛だらけの彷徨をみてびっくり顔のワンニャーに、「風で飛んじゃったんだよな、ルゥ」なんていって、ある程度綿毛を払って答えている彷徨にその腕の中で喜んでいるルゥ君。もう慣れてしまった、いつもの光景。
だけど、みていたら体の真ん中がほっこりしてくる。理由なんてないけど、それが嬉しい。


駆け寄って、「綿毛、とばしてあげるね」って言って茶色の髪に残っていた綿毛をひとつふわりと飛ばした。










あじさい


シトシトシト
6月に入ってから空は毎日ご機嫌斜めだ。ご機嫌斜めなのはついでに言うと家にいる1人も。毎日毎日雨だから、外に出れずにむくれてる。いつもはご機嫌なのに。俺も、もうそろそろ、雨の音は聞き飽きてきた。
「ルゥ君も外にでれないとやっぱり嫌なんだねえ。」
一緒に住んでいる未夢はなぜか感心したようにいっていた。外に出れないわけではないけど、こう毎日雨では俺だってげんなりするくらいだから赤ちゃんのルゥはもちろん不機嫌になってもしょうがないと思う。今日もせっかくの日曜だというのに外は雨で、知らずため息が出てしまう。
「やぁねぇ、彷徨ったら幸せが逃げちゃうよ。あ、ルゥ君、こっちに来てごらん。いいもの着せてあげる。」
やけにニコニコしている未夢が手にしていたのは子供用の雨合羽で、未夢の好みだろうヒヨコの形をしていた。とはいえ、ルゥはまだ小さいから合羽がかなり大きくて、ちょっとおもしろい。
「ほら。ワンニャー、これなら濡れないよ。庭までなら良いよね?」
「本当ですぅ。これなら少しなら外にでても大丈夫そうですね。ルゥちゃま、早速お外に行きましょう。」
久しぶりの外出にルゥは大喜びだ。いつもみたいに手をぱちんと叩こうとして、雨合羽に音が消されている。それも嬉しいみたいで、またキャッキャと笑っている。
「すごいな、もうご機嫌だ。」
「良かったー。買ってきて。昨日、ななみちゃんちからの帰りで見つけたんだよ。ほら、彷徨も行こう。」
あんまり嬉しそうにいうものだから、一緒に外に行ってみるとルゥは庭先のあじさいのところでじっとしていた。うしろからのぞいてみるとカタツムリの親子がいた。「なつかしいな。カタツムリ。あ、ルゥ君。カタツムリは歌があるんだよ。えっとね、でんでん むしむしかたつむり・・・。」
歌いだした未夢の歌の歌詞にびっくりしているワンニャー。未夢さん、「意外といじめっ子だったんですね」なんてずれたことを言われて、「そういう歌だよ」なんて大急ぎで反撃している未夢。二人の騒がしさに喜んでいるルゥ。その景色がやけに鮮やかに見えるのは、後ろで咲いている薄紫の花が満開に咲いているからで・・・。

シトシトシト

雨は降り続いていたけど、もう少しこの音を聞くのも良いかもしれないと思った。










あやめ


「わぁ、すごい数。」
今日の天気は晴れ。公園で、アヤメや菖蒲が見ごろだという広告を買い物帰りに見たらしいワンニャーが「どんな花なんです?」っていうから皆でピクニックよろしく公園に来ていた。もちろん、ワンニャーはみたらしさんの格好で。
「本当にきれいですね。こんなにたくさん咲いているとは思いもしませんでした。今日の育児日記はこのことを書きます。」
花をみてニコニコの未夢とワンニャーはてくてくてくとどんどん先に進んでいく。未夢に抱っこされているルゥもご機嫌で、文句なしにいいことだと思う。
天気が良くて、仲のいい家族で出かける。少し前までは考えられなかった。


「あ、あっちにお団子やさんが。私、ちょっと買ってきます。」
しばらく歩いていたら、公園の先にでていたお団子ののろしにワンニャーはかけていく。まさしく花より団子だ。未夢の腕の中にははしゃぎすぎて眠ってしまったルゥがいて、シートの上にはワンニャーが朝準備してくれていたお弁当の空があって。ここ何年も縁のなかった家族の休日の中に自分がいることが不思議だけど、でも心地いい。
「私、こんな風に家族でピクニックとかもうずうっとしてなかったから、なんかこそばゆいな。ワンニャーに感謝しなくちゃ。」
独り言のように出された言葉は、思っていたことと一緒で、胸に暖かなものが広がる。



多分、この目の前の鮮やかな景色と一緒にずっと覚えているんだろうなと思った。






拍手いただいた皆様ありがとうございました。そろそろ入れ替えようかなと思いまして、またこちらにupさせていただきました。
短いですが、小話を楽しんでもらえたら嬉しいです。





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