作:紅龍
「さぁ、いよいよ出番よ。二人とも準備はOK?」
「もちろんですわ。ねぇ彷徨くんv」
「はい大丈夫ですよ」
中庭のステージに続く道に作られた控室の中で
いつも通りのハイテンションな水野先生と、
いつも以上に暴走しかねないクリスとともに彷徨はいた。
この挨拶が終われば、自分の仕事は終了。
すぐにでも未夢を探しに行きたい衝動を抑えつつ、
二人の後に付いて人ごみの中へ歩き出した。
途中、おそらくいるであろう未夢を探しながら。
『・・・・・くださいませ。 』
クリスの挨拶が終わり、一礼して下がろうとした時、
今まで水野の陰に隠れていた人ごみの中にふわりと揺れる金色があった。
思わず飛び出しそうになる身体を抑え、水野とクリスと一緒に控室まで戻っていった。
「お疲れ様。花小町さん、西遠寺くん。この後は帰りのHRまで自由だから楽しんでらっしゃい」
「はい。ありがとうございます。では彷徨君ご一緒に・・・」
水野のOKが出たので、さっそく今日のメインイベントとして楽しみにしていた
彷徨と一緒にダンスv に誘おうとしたクリスだったが、
振り返った先には誰もいなかった・・・。
「か・・・かなたく〜ん。どこですの〜〜〜〜」
校舎内に響きそうな叫びを発しながら、クリスは彷徨を探しに飛び出していった。
水野の「お疲れ様」の直後、クリスに捉まらないように控室を抜け出した彷徨は
先程見つけた愛しい金色に向かって、人ごみをすり抜けていく。
途中、女生徒達に捉まりそうになるので、なかなか前に進めない。
先程のステージ用の道ならば通れるだろうが、そんな回り道をする余裕が
今の彷徨にはなかった。
少しでも早く未夢に会いたい。
一段高くなっていたステージ上からならすぐに見えた姿も、
この人混みの中では見つけにくい。
なんとか女生徒達を振り切り、人混みを掻き分け、視界の隅に揺れる金色が見えた。
「未夢!」
彷徨の声は賑やかな曲や、盛り上がる周りの声にかき消され、届かなかった。
「未夢!」
少しうつむき加減なその顔は、何かを我慢し、一人で耐えている時の表情。
一緒にいる天地たちに気付かせないように。心配掛けないように。
小さい頃から仕事で忙しかった両親を心配させないようにしてきたから、
優しすぎるから身に付いたその癖。
そんな表情させたくない!
「未夢 !!」
まだ距離があり、周りの騒がしさで聞こえないのは分かっていた。
だが、少し俯いていたその顔は、何かが聞こえたのかゆっくりと顔を上げた。
瞬間、こちらを見つけ、驚きに見開かれた新緑の瞳があった。
先程までの何かを耐えている悲しそうな表情ではなく、
不思議そうに、驚いた表情になったので彷徨の顔からも力が抜ける。
顔の筋肉から思いのほか、力が抜けたので、
どうも、自分はかなり必死な形相をしていたんだなと自覚しながら、
彷徨は未夢までの残りの距離を急ぐ。
未夢も彷徨の向かって歩き出した。
「彷徨・・・?」
「未夢・・・何考えてたんだ?」
目の前に立つ彷徨を、不思議な物でも見るかのような未夢。
彷徨は彷徨で、ドレスアップしいつもと雰囲気の違う未夢に目を見張る。
「さっき・・・ルゥくんの笑い声が聞こえたような気がして・・・そしたらそこに彷徨がいたから・・・」
「・・・ルゥが笑えって言ったのかもな?お前のあんな顔見たくないって」
驚いた拍子に、さっきまで潤んでいた瞳はいつもどおりに戻っていた。
「あんな顔?・・・」
それでもほんの少し赤くなった目元にそっと触れる。
「バカ未夢。いつまでもルゥに心配かけんなよ。・・・笑ってろ」
「彷徨・・・」
瞬間、周囲から悲鳴があがった。
彷徨のとろけんばかりの笑顔、未夢の顔に自然と触れるその行為。
硬派で知られる西遠寺彷徨のファンの女生徒達の悲鳴だった。
「み、見つけましたわ。かなたくん・・・と未夢ちゃん?」
悲鳴の中、ものすごい勢いで二人の近くまでたどり着いたクリスは
彷徨と寄り添うように立つ未夢をじっとみつめる。
いつものようなオドロオドロしい雰囲気が出ていない。
クリスの声を聞き、思わず離れようとする未夢の腕をつかみ、
逆に引き寄せる。彷徨は未夢から離れようとはしなかった。
ラストの形は出来ているのに、そこにたどり着けずにいる紅龍です。
なんとかあと一回の更新で完結できるかな?
脱線して書きためた小話達もそのうちに・・・。