作:紅龍
クリスの登場に下級生たちが悲鳴を止めた。
いつもの様にやきもちを焼いたクリスの手によって
この光景がすぐに変わるであろうという恐怖と、少しの期待で。
「み、見つけましたわ。かなたくん・・・と未夢ちゃん?」
聞きなれた友達の声に
条件反射で彷徨から離れようとした未夢だったが、
瞬間、逆方向に引っ張られ、そのまま彷徨の胸へと飛び込んでしまった。
周囲から再度、悲鳴が上がる。
生徒達は一般客も一緒に一歩下がり、3人の周りにスペースができた。
普段のクリスならここで大暴れを始めるからだ。
未夢が転ばないように受け止めた彷徨は
そのまま未夢の手を取りしっかりと繋ぎ、クリスへと向き直った。
目の前には彷徨に支えられながらしっかりと手を繋ぐ二人。
そして、自分に向けられる彷徨からの視線。
まっすぐに自分の目を見る彷徨。
クリスの頭はいつもの妄想モードには入らず、
冷静にふたりの関係を認識していった。
気持ちが通じ合い、恋人同士になったのであろう、と。
・・・自分の恋は確実に終わったのだと。
無言のまま立ち尽くす3人に周囲が注目していると
突然、頭上からバラの花びらが降ってきた。
「はぁ〜い、レィディ達。まだまだダンスの時間はこれからだよ。
次に僕と踊ってくれるのは誰だ〜い?」
花びらとともにステージ上に現れた
“自称”西遠寺彷徨のライバル、光ヶ丘望は、
人混みの中を器用にすり抜けながら女性へバラを手渡していく。
目の前に降り続けるバラの花びらに
歓声の声をあげながら上を見上げる人混みの中
「今のうちにみゆっちと花小町さんを」
彷徨の横を通り過ぎながら光ヶ丘は一言だけ告げて行った。
彷徨は小さく頷き、繋いだままの未夢の手を引き、
綾とななみがクリスと一緒に後ろからついてくるのを確認して
そっと人混みを抜けて行った。
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屋上の扉を開けると、予想通り誰もおらず、中庭からの音楽や歓声が聞こえてくる。
右手は未夢と繋いだまま、彷徨はクリスへと振り返る。
綾とななみは扉の近くで待っていた。
彷徨たちの後につづいていたクリスは彷徨の足が止まる前から
俯き、立ち止っていた。
泣いているのかもしれない、いや、今から自分が泣かしてしまうかもしれない。
けれど言わないわけにいかない。
友達だからこそ、はっきりさせなければ。
「・・・花小町・・・」
「彷徨君、未夢ちゃんを大切にしてくださいな。」
フワッとピンク色の髪が大きく揺れ、
彷徨が言うよりも先に、クリスは笑顔を彷徨と未夢へと向けた。
予想外の言葉に、そして奇麗に微笑むクリスに
彷徨も未夢もクリスを見つめたまま時が止まる。
「わたくし、彷徨君の事が好きでしたわ。」
「クリスちゃん・・・」
クリスの告白を聞き、未夢の胸に痛みが走る。
大切な友達を傷つけてしまった。
思わず謝りそうになる未夢に、クリスは一層深く微笑む。
「でも、多分、わたくしが今、好きなのは《未夢ちゃんを好きな彷徨君》なのですわ。
未夢ちゃんが居なくなってからの寂しそうな彷徨君も素敵でしたけど、
未夢ちゃんと一緒の彷徨君の方がもっともっと素敵ですもの。
ですから、どうか二人で幸せになってくださいな」
言い終わるとクリスはサッと後ろを向き、扉へ向かって歩き出した。
「花小町!・・・ありがとう」
小走りになりそうなクリスの後ろ姿に彷徨は頭を下げた。
一瞬、足を止めたクリスは振り返らずそのまま校舎の中へと戻っていった。
そのすぐ後を、綾とななみが追いかけて行く。
微かに震えていたクリスの肩に申し訳ない気持ちと
二人を認めてくれた感謝の気持ちが胸に詰まる。
「クリスちゃん、あんなに彷徨の事好きだったのに、辛いだろうな・・・。
傷つけちゃった。大切な友達だったのに。」
「仕方ないよ。俺には花小町は選べない。他の誰も・・・、未夢の代わりにはならない。
それに・・・傷つけたのは俺だから・・・未夢のせいじゃない」
「彷徨・・・」
今にも泣き出しそうな未夢を
彷徨はそっと抱き締めた。
「花小町の言うとおり、幸せにならないとな」
「・・・うん」
しっかりと大切な物を抱きしめた二人を
秋風が祝福するかのように通り過ぎていった。
一年間、考えに考えて
結局まとまらなかったため、とりあえず一区切り。
こんなお話ですが、
読んで下さる方に感謝!!!!