displeased fruit vol1 sweet or bitter

act2 suddenly

作:流那

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僕はあの日の君の涙が心にはりついて離れない。
いじっぱりで、気の強い、だけど何処か純粋なところがある君の涙。
いつのまにか、僕の心の中に君が住んでいた。
それは友情とは違う。また、僕はいままで経験して来た恋とも違う。
それは、まるで苦くて、甘い果実を口にするような、不思議な感覚だった。
きみのしぐさ1つ1つが気になって仕方がない。



”彼とはどうなの?”



思わず聞きたくなってしまう。この気持ちは。
そう。分かっていたはずだった。この気持ちは。
だけど恐かった。


自分の気持ちを知るのが恐かった。
いつもの君を失うのが恐かった。
だから気づかないふりをしていたのかもしれない。
君の微笑みがいとおしい。君の涙がいとおしい。
君の笑顔を失いたくない。
心からそう思った。
こんな気持ちは初めてだった。




19回目のBD。私はあの日、涙と供に感じた、
何か別の感情が忘れられないでいる。
あの日思わず流れた涙。
彼の本当の気持ちを知ってしまった。
そんな彼を失うかもしれない悲しみ。



そして、あともう1つ違う感情が、私の心の中に、
あの日の涙に潜んでいる。
いつも違うリズムを刻んでいるあなたと私。


だけど時々重なり合う心のリズム。私にはこのリズムはとても心地よい。
心の壁のない心地よい空間をつくってくれる。
だからかしら?あなたの前では素直な自分でいられるの。
感情を押し殺さない、素の自分でいられるの。


この気持ちは何?
この何処か温かい感情はもしかして。
それはまぎれもなく、美童に対しての特別な感情に違いなかった。
だけど私は、はこの時、この気持ちに気づかなかった。
いや、目を反らして、気づかないふりをしていたのかもしれない。







* * *







誕生日なんて久しく忘れていた。
それだけ彼を好きになってしまった証拠なのかもしれない。
自分を忘れてしまうほどの、激しい彼への想い。
そんな想いに自分のことをゆっくり考える余裕がなかったのかもしれない。
だけど今は何だか違う気がする・・・。
可憐は心の中で、そうつぶやいていた。




そうこうするうちに、会場のドアが野梨子によって開けられた。
大量のクラッカーの音がした。
そして、万作・悠理・清四郎・魅録そして美童の




「可憐、誕生日おめでとう。」



という声が口々に聞こえた。



テーブルの上には可憐の好物である、おそらく特注と思われる、
大きなマキシムのナポレオンパイをはじめ、たくさんのごちそうが置かれていた。いずれも百合子・万作の手配で、特別につくらせたものばかりだった。


「私の想像した通りだわ。やっぱり女の子は
こうでなくっちゃあいけないわね」


百合子がうっとりしたような表情で、可憐を見つめている。
百合子にとって、理想的な空間がそこに生まれていた。


「可憐ちゃん、綺麗だがや。まあ、その・・かあちゃんも綺麗だけど」
「あら、あなたったら・・・ふふ」


相変わらず、ラブラブっぷりを見せつけて、じゃれ合う百合子と万作。



「綺麗ですよ。可憐。ドレスはかなり派手ですけど」
「綺麗だぜ、可憐。女ってどうして来ている服でこう変わるもんなんだな」
「可憐、いつもよりずっと綺麗ですわよ」
「可憐、そのドレスあたいのなんだけど、お前の方がよっぽど似合うな」



みんなも口々に感想を述べた。
美童は一瞬、そんな可憐の姿に心を奪われていた。
だけど言葉にすることは出来なかった。
いや、言葉に出来ないのがもどかしいほど。
今の美童にとって、目の前の彼女は
ダイヤモンドのように光り輝いていた。



「可憐、綺麗だよ。いつもよりずっと」



と口にするのが精一杯だった。そして、思わず可憐の手をとった。
そしてぎゅっと握り締めた。


可憐は一瞬ドキリとした。だけど、
すぐにいつもと変わらないような笑顔を見せた。



「ありがと。ふふ」




一言つぶやくと、可憐の目から涙が溢れ出した。
これが何の涙なのか、彼女自身もまだ気がついていなかった。
それでもなんだか心が温かい気持ちに溢れていた。
それは玲人からも感じない、何か別の感情だった。






* * *







僕は正直戸惑った。君の涙に。
君を傷つけたくない、本当の君を無くしたくない。
心からそう思ったんだ。


美童は、あの日の可憐の涙が気になって仕方が無かった。
そして、可憐が今つきあっている男・玲人との関係を
いつも以上に気にするようになった。


それは男と可憐の関係に何かあったのかもしれないという不安に、
もう1つ”別の不安”があるということは、
自分自身の心が強く語りかけていた。




「僕・・・まさか可憐のこと」



そんなこといままで考えたことが無かった。考えたくも無かった。
僕が君にこんな気持ちを抱くなんて、何だか照れくさい。
僕は君がそばに居てくれさえいればいい。
僕に見せる笑顔・涙。いつもの心地よい空間さえあればいい。
今まではそう思っていた。
だけど今は違う。



不安なんだ。君がそのうち別の男のモノになってしまうことに。
僕ってずるいよね。自分でもそう思う。



だけどね。君の前だけでは、ずるい僕でも許して欲しい。
君が大切だから。でも君はどうなの?
そう君の心に問いかけてしまう。




放課後。生徒会室で美童は食い入るようにして、考え込んでいた。
そしていつのまにか自分も何か可憐の役に立ちたい、
可憐のためになにかしてやりたいと考えるようになった。



他のメンバーもそんな美童の異変に気づき始めていた。
そんな美童の変化を、まっさきにキャッチしたのは意外にも魅録だった。



「なあ、悠理、あいつ・・・可憐のこと、好きなのかな?」
「そうなのかもな。でもなんでそんなことお前が気にするんだよ。」
「何となくな。友達として・・・かな・・・」


いつも魅録のそばにいる悠理には、彼の嘘なんて
手に取るように分かってしまう。


「嘘つけよ・・・。」



悠理はぼそっと呟いた。明るく元気な彼女の顔が、
一瞬曇ったのを野梨子・清四郎は見逃さなかった。



「悠理、お前何か言ったか?」
「なんでもないよ」



悠理は不安で仕方が無かった。傍らにいる男が
自分から離れていってしまうのが。



「それより帰ろうぜ。今日もひとっ走りするんだろ」
魅録が話題を変えるように言った。



「うん。」



悠理の表情が少し元気になったのを確認すると、
魅録は悠理の手をぎゅっと握った。
やっぱりコイツといると安心するな。
魅録はそう思っていた。



2人は手をつないで、清四郎・野梨子・美童に別れを告げると、
足早に生徒会室を出ていった。




「そうだ。」


ふっと思い立ったように、美童は立ちあがった。
何事かと野梨子と清四郎が尋ねるや否や、


「あっ、僕、今日デートあるから帰るね。」


と言ってさっさと生徒会室を出ていってしまった。
いつも以上に美童の美しい髪がいっそう綺麗に
キラキラ輝いているようにも見えた。
これは旗から見ればいつもの「有閑倶楽部」の風景のようだった。






* * *






あなたの突然の誘い。
あなたから誘うなんて初めてね。いままでそんなこと絶対になかったのに。
会ったら絶対に聞いてやる。どんな心境の変化ってね。
女ってのはそれだけ男の変化の一つ一つが気になるものらしい・・・。




「ったく、美童のやつ、どういうつもりかしら?」
こちらは可憐である。
玲人とのデートがキャンセルになった直後の美童の誘いに、余計不機嫌な気持ちが隠せずにいながらも、しぶしぶ指定された場所で待つことにした。1分・1秒でも遅れたらすぐに帰ってやる。。。そう呟いた。
それにしても、いったいどういう風の吹き回しだろう・・・。あの美童が食事にさそってくるなんて・・。
可憐は心の中でそう思っていた。いや絶対何かあるはず。なにせ場所があの夜の、高級ロシア料理店だ・・。そう詮索している内にいつのまにか美童が後ろに立っていた。
「さあ、とびっきり綺麗なお嬢さん、評判の夜景をみながら一緒にお食事でもいかがですか?」
そう言ったかと思うと、美童は可憐の手をとった。可憐はクスクス笑いながら。
「ええ、喜んで。」
内心まめなやつだと思いながら軽く美童の手の平に自分の手の平を軽くのせた。そして静かに例の店に入っていった。












「あれ、美童と可憐じゃないか?」
こちらは魅録と悠理。放課後ツーリングの帰り道。いつものように魅録のバイクの後ろの座席には悠理が乗っていた。その日の余韻とともにバイクを軽く飛ばしていると、悠理が意外そうな顔をして言った。
「ま・・まさか。。他人の空似じゃねえか?」
魅録はやっぱりと思った。でも揺れ動いている自分の気持ちを認めたくなかった。
「そうかなあ・・あたい眼はいい方だぞ。」
魅録の動揺に、さすがの悠理も気づいていた。だから試すような言い方をしたのだ。
「やっぱり魅録は・・・」
悠理はぼそっとつぶやいた。
「悠理、なんか言ったか?」
「嫌、何でも無い。それよりさ、今日魅録んちに止めてくんない?」
「俺は構わないけど。。どうしたんだよ急に?」
今日は何となくそばに居たい・・悠理は心の中で、そう思っていた。魅録が自分の気持ちに気づく前に、今だけ・・・。独占欲のようなものが悠理の心の中に漂っていた。
悠理はそんな自分の独占欲が少し恐かった。。














「綺麗・・・。」
可憐は思わず叫んだ。評判通りのすばらしい夜景が窓の外いっぱいに広がっていた。



「この間は窓際の席は取れなかったの。あいにく予約でいっぱいで。」
「そう。それは良かった。これはお嬢さんのために用意した特等席でして。」
美童は向かいの席でにこっと笑った。
「全く。女を喜ばせることだけはうまいんだから。」
可憐はいつもの調子で言った。
「たまにはこんなのも良いでしょ。まあ今日は相手が特別だけど。。」
「アタシって、あんたにとって特別だったんだ。」
と言うと、白ワインの入ったグラスを口に近づける。
こう言いながらも、可憐は内心ドキリとしていた。
(”特別”っていったい。。。)
そう言えばなぜディナーなんかにさそったのか、理由を聞くタイミングをすっかり外してしまったと思った。
”あの人”の前ではこんなこと絶対にないのに・・と、同時にいつもと変わらない美童の表情にとまどいと疑いの気持ちを持つことも忘れていなかった。












まるで外の景色を彩るような豪華なディナーに、舌がとろけるようなデザート。2人はいつもの他愛ない恋愛話をしながらそれらを平らげていった。
ーチン
食後。
2人はゆったりとワイングラスを傾けていた。
そして美童がさっきに比べて少し真剣な表情をして聞いた。
「可憐、この間の夜のことだけど・・。その・・。今のボーイフレンドと何かあったの?」
「何って。別に何も無いわよ。第一、この可憐さんに限ってそんなことあると思う?いったい何年顔突き合わせてんのよ。」
「そう、そうならいいけど。」
気づかれた・・と可憐は思った。たかが自分のつきあっている男のことで倶楽部のメンバーに迷惑は掛けたくなかったという気持ちが強かったのかもしれない。が、誰かに甘えたいという気持ちの方が強かった。そう思うと、可憐の眼から涙が溢れ出していた。その表情はあの日のパーティのときと同じ表情をしていた。
(甘えるなら美童がいいわ。)
心の中でそう呟いた気がした。
「可憐・・・。」
自分の勘が当たっていたことを痛感して美童は胸がドキリとしていた。
可憐はふっとあの日の夜のことを思い浮かべていた。いつものような大好きな人と過ごす。可憐にとっては最高の安らぎと愛情に満ちた空間になるはずだった。そんな日がこれからもずっと続いて欲しいと、可憐はこころから願っていた。
思い出したくないあの日、だけど、絶対に忘れられないあの日。
可憐の脳裏にはあの日の出来事が鮮明に浮かび上がっていた。
そう思うと、可憐の体は椅子から転げ落ちていた。
・・・・可憐・・・可憐
自分の必死に呼ぶ声がする。可憐の意識はその声が誰のものか分からないほど失われていた。









私の名前を呼ぶあなたは好き。だけと他の女(ひと)の名前を呼ぶあなたは嫌い。。
私の中に、こんなに醜い自分があるなんて、思っても見なかった。
こんなにママの名前が憎いなんて、思ったことがなかった。
怖いー悲しいー苦しい
こんな気持ちが、可憐の中で巡り巡っていた。



可憐は、あのときの怜人の言葉が心に引っ掛かりながらも、可憐は彼とのつき合いを続けていた。だが、あんなに暖かく、心地よかった彼との関係が、彼と寝るたびに、”はなこ”という彼の何気ない言葉がぐるぐる頭の中で回ってしまい、怖く感じるようになった。いつのまにか、彼と一歩距離を置くようになってしまった。






ー怖かった。何が?
ー彼を失うことが?






いいえ。こんな醜い自分を知られるのが怖かったのかもしれない。



ープルプルプルッ



可憐の携帯の着信が鳴る。画面には”皆川怜人”と表示されていた。可憐はこの表示があるたび、電話に出ることが出来なくなってしまっていた。ーふう、とため息を付いた瞬間、バタンという車のドアが閉まる音がしたかと思うと、腕を何かに捕まれた。



「可憐」



振り向くと、とまどいを隠し得ない怜人の表情が、可憐の顔を覗かせていた。



「玲人・・・。」
可憐は、すぐに彼の目から顔を逸らしてしまった。
「可憐、最近俺を避けてるだろ。何かあったのか?」
可憐は彼の顔を凝視することが出来なかった。
怜人は、可憐に顔を近づけると、無理矢理キスをした。
「ちゃんと俺を見ろよ。俺はここにいるだろ。」
怜人の声が、可憐の胸にずきんと響く。
「いや・・・。離して。。」
体は拒絶していたが、心では彼とのキスを求めていた。
だが、同時に、今までの温かいキスでは無くなっていたことに気づいた。
怜人ははっと我に返り、可憐から離れた。頬がいつも以上に赤く染まっていた。
「すまん。。つい。。」
「いいの。私こそごめんなさい。」
「・・・・。今度、食事でもして、ゆっくり話そう。送ってくよ。」
「ありがとう。」
車のドアが開いた。
「乗れよ。」
「うん。」



ーバタン
車の音に、二人の間に突然出来た、溝のようなものを感じてしまった。



ーゴー
車の中では、何かぎこちないが状態が続いていた。車のエンジンの音が、それを象徴していた。可憐も、黙ったままの状態だったが、突然口を開いた。



「私、家に帰りたくない。」
「・・・・・・・・。」
怜人は突然のことで驚いたが、何も聞くことが出来なかった。
そして、(俺にも言いたくないことがあるのか・・・。)と心の中で呟いていた。
しばらく沈黙が続いた。怜人は話を切り出した。
「久しぶりに食事にでも行くか。」
「うん。」
可憐は、あの話をしなきゃ・・・ということが頭の中で駆けめぐっていた。
(聞きたい、聞かなきゃ)
これが、可憐のこのときの心境だった。














あの日の夜もゆっくりと時間は過ぎていった。
可憐の心は、胸の高鳴りが鳴りやむことがなかった。
いつ、あのことについて聞こうか、それだけが可憐の意識を支配していた。






ーチン






同じようにワインを手向け、怜人の顔を強く見つめた。そして、口を開いた。
「怜人は、今でも、黄桜Y子・・・・今でも、私のママを愛してるの?」
「・・・・・。」
突然の可憐の問いかけに、怜人は言葉が出てこなかった。しばらく沈黙が続いた。
「知ってたのか・・・。その、Y子・・・もとい・・おまえの母さんと俺が昔つき合っていたことを。。。」






”Y子”






母の名を呼ぶ玲人の言葉に、可憐は胸が張り裂けそうになった。
「あなたと私の初めてのあの日。あなたがママの名前を呟いていたのを聞いたの。」
「・・・・。いままで黙っていてすまん。でも俺達は終わったんだ。」
そう言うと、今までの華子との出会い、恋の始まり、別れをゆっくりと語った。



「一時期、同棲するほど、俺達は、お互いを愛し合い、信頼し合っていた。本気で結婚まで考えたくらいだからな。だけど突然、糸が切れちまった。若かったんだな。俺達も。そして、あいつが出ていった後、しばらくして、あいつは俺の兄貴と結婚し、子供まで生んでいた。あのときはちょっとしたショックだったがな。。その兄貴が失踪して、あいつはずいぶん変わってしまった。。それもこれも、あいつの気持ちに気づかなかった、俺のせいだと思ってる。」



可憐は、怜人の話を黙って聴く他なかった。ママと彼の間の私の知らない時間に対して、妬ましいものを強く感じていた。が、相思相愛だった、華子と玲人の間に何があったのかということに対しても気にならないというなら嘘になった。



「あいつが気になるというなら嘘になる。それでも俺はお前を愛している。」
怜人のいつもにも増した、彼の真剣な眼差しが、可憐の目の前に降り注いだ。
「・・・・・・。」
「すまん。。突然こんなこと言って。今日、謝ってばっかりだな俺。。」
「ううん。いいの。」



可憐は表情は冷静を装いつつも、心の中ではショックでたまらなかった。ママとパパと彼の間にそんなことがあったなんて、信じもしなかったわ・・。(怜人がパパの弟?・・・・。)同時に悲しい現実が可憐を襲った。そう、気づいてしまったのだ。彼は自分を好きなのではなく、自分を別の相手を重ねてみているということを。
自分がどれだけ彼を好きでも、彼の眼に私は移らない。そんな現実が可憐の胸をぎゅっと締め付けた。あの日交わしたキスが別の相手のものだったなんて。ましてや自分の母親のものだったなんて、考えたくは無かった。
それでも今の可憐には、彼の「愛している」という言葉を信じる他無かった。












あれから どれだけの時間が経ったのだろうか?そして、どれだけ自分の顔を涙で濡らしたのだろうか?
可憐の意識は、突然現実に引き戻された。






-チチ






・・・・・朝?になったのだろうか?小鳥の朝のさえずりが聞こえたような気がした。そして、窓からは、灯りが差し込んでいた。周りを見回すと、場所は高級ホテルの一室。
横には美童が気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。可憐はしまったと思った。この黄桜可憐が、よりにもよって、こんなスケコマシと寝てしまうなんて・・そんな屈辱的な気持ちでいっぱいだった。と同時に可憐はこうしちゃいられないと思い、美童を叩き起こした。



「ちょっとぉ、美童、起きなさいよ。」
「あ、可憐おはよう。気がついたんだ。昨日急に倒れたんだよ。」



と言うと、ふぁーとあくびをした。
(倒れた?昨日のことはなぜか全く覚えていない。ワインのせいだろうか?そういえば、頭も少し痛い気がする。お酒は結構いける口のはずなのに)
こう思いながらも、美童にいつもの調子で言った。
「おはようじゃないわよ。これはどう言うこと?なんであんた服着てないのよ。」
美童の方も少し寝ぼけていた状態から正気に戻りつつあった。そしていつにもない真っ青な顔をして、可憐の顔を覗き込みながらこう言った。
「え・・・ど・・・どうして可憐の隣に僕・・が・・」
「どうしてじゃないわよぉ。あんたも昨日の夜のこと覚えてないの?」






-クスッ






二人はお互い顔を見合わせた。顔を摺り合わせると、思わず笑いが込み上げた。(お互い、今までに経験したことのない、屈辱的な夜だったはずなのに)
でも、何だか、いつもより温かい夜だったような気がしていた。
そして、お互いの唇が重なり合わせた。その瞬間が、可憐にも、美童にも、何だか自然に感じられたような、そんな想いで胸がいっぱいだった。













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