広い宇宙のどこかに光り輝いている星
いつしか私達はその輝きに出会う。
その確率は何万分の一かもしれないし
何億分の一かもしれない。
そんな気が遠くなるほどの確率で
私の・・私達の想いは遠い遠い星に届いた。
あなたと私が出会って
ここにいるような運命的な確率で。
(パパ、ママ、ただいま)
金髪の少年の言葉に、未夢と彷徨は驚きのあまり、しばらくその場から動くことが出来なかった。目の前にある現実を「現実」と解釈するのに少々の時間を要した。
-見覚えのある、金色の髪に、愛らしい黄色い瞳。
そう、2人にとっては忘れられない、忘れることの出来ない大切な・・・大切な思い出。そして家族。言葉に言い表すことの出来ない想い。それらが、今、自分達の目の前にある。現実にある。何度想い焦がれたかしれない。何度願ったかしれない。その姿を、その声を。それらが、今、ここにある。
「「ルゥ(くん)、おかえり」」
ルゥにとっては、自分を忘れないでいてくれた、その気持ちだけで十分だった。自分を受け入れてくれた。それだけで・・・。そして、胸がいっぱいになって未夢の胸に飛び込む。
「僕・・・ね・・逢いたかったんだ。ずっとずっと。」
「私もね、ずっと逢いたかったんだよ。」
未夢はルゥを強く抱きしめた。そして、両手でルゥの頬を優しく撫でた。この肌の柔らかさ、温もりを手の感触で確かめていた。そして、それが現実であることを改めて実感していた。
また、それはルゥにとっても同じだった。
彼自身、時々、両親とは違う、別の「何か」を無意識に求めていることがあった。
そうそれは紛れも無く、地球に置いてきてしまった、もう一つの温もりだった。
しかし、残酷にも、彼にとってはそれが遠く離れていて、自分の力では、決して届かないものだということを頭の何処かで理解していた。
しかし、その温もりが今、自分の目の前にあるということを、未夢の胸の中で実感していた。
そんな2人を後ろで微笑ましく、かつ少し複雑な表情で見守っていた彷徨は、
(”あのとき”と同じだな)
と考えていた。
そう、2人だけの不安に満ちた、新しい生活がスタートしたあのときと。
ルゥ・ワンニャーの出会い・生活によって、自分達の心の中にあった、「わだかまり、不安、とまどい」が少しずつ溶けていくのが分かった。そして、自分の、自分達の一番大切なものが何かということも気づかせてくれた。そのおかげで、自分達がここにいると言っても過言ではない。
そして、今もそうだ。新たな出会いによって、自分達の不安やとまどいが、「希望の光」に変わったように感じていた。
「ところでルゥ、よく来たなと言いたい所だが、なんでお前そんなに成長が早いんだ?」
ルゥに出会えたという興奮状態から、少し冷静さを取り戻しつつあった彷徨が、いくつかの疑問があることに気が付いた。
「そうよ、それにどうやって来たの?まさかまたワンニャーのドジで時空のひずみに吸い込まれたんじゃ・・・。」
未夢も彷徨の疑問に気が付いたのか、心配そうな面持ちで、質問を投げかける。
「それはわたくしがご説明致しましょう。」
という声が聞こえてきたかと思うと、ルゥの胸のバッチがもくもくと煙をあげながら、犬と猫が合体したようなクリクリっとした愛らしい眼とフサフサな白い毛が特徴的な元シッターペット、今はお世話係りに昇進したワンニャーが現れた。
(説明といえば、どっかの戦艦アニメのイ○スさんが出てきそうですが、作者の個人的主観は置いておくことにして・・
「「ワンニャー!?いたの(か)?」」
未夢と彷徨は知らないふりをして、ちょっとからかうような素振りを見せた。
「お2人とも私を忘れるなんてひどいですぅ〜」
愛らしい眼を涙で一杯にして本気で訴えかけるワンニャーが、本当に可笑しくてルゥを含めた3人は思わず笑ってしまった。
こんな何気ない会話さえも、未夢と彷徨にとっては、懐かしい空気を感じた。それだけ地球とオット星は遠く離れた星だということを表している。
(以前は当たり前だった、心地よい空気が戻ってきた)
そんな気がしていた。
「・・・冗談だよ。ところで説明、するんじゃなかったのか?」
顔が笑っているのを必死に堪えながら、彷徨が元の話題を振る。
ワンニャーの話によれば、オット星の時間は、地球時間に比べて流れが速いということ、救助船に乗り、オット星に帰っている間の宇宙時間も計算に入れても、地球時間の4年がオット星時間の7・8年に相当するという、そして、宇宙中で研究が進んでいる、時空のひずみ発生・コントロール装置、通称、時空ステッキにより地球にやってきたということも、ワンニャーの口から語られた。
そして、未夢からの通信が届いたこと。2人に預けられた通信機と、ワンニャーの通信機が呼応したことによって、”この場所”に導かれたことも。それは、本当に低い確率だった。
そう、私達は奇跡的に出会い、奇跡的な再会を果たした。
◆◇◆
「お2人とも、本当に・・・本当にお久しぶりです。」
ワンニャーは、奇跡的な再会を懐かしみつつ、未夢と彷徨の観察に余念がなかった。そしてそれは、好奇心旺盛なルゥも例外ではなかった。
以前より磨きがかかった未夢のストレートの金色の髪。可愛らしいという言葉が似合い整った容姿、彷徨の以前よりぐっと背が伸びて少し大人っぽくなった顔立ちを懐かしみながら観察している。
ルゥは、一連の観察が終わると、もう部屋の中をキョロキョロ見回している。そして、何だか違和感を感じていた。自分が昔、住んでいた場所とは違う・・。無意識にそれを感じ取っていた。
「僕さぁ、パパとママのこと、写真でしか覚えが無いんだけど、写真と比べると、やっぱり2人とも、年取ったよね。雰囲気はちっとも変わらないけど。」
ちょっと痛いところを突かれて、未夢と彷徨もギョッとする。
「ルゥくん・・・いつのまにそんな・・そんな・・」
未夢は唖然としている。
「それを言うなら、成長したって言って欲しいなあ、俺達まだ18だぜ。もうすぐ19だけどさぁ・・。」
彷徨は顔を引きつらせながらも、冷静に対応する。
「ルゥちゃま、お利口なのはよろしいのですが、何だか最近学校でいろいろなことを覚えていらっしゃって、わたくしも焦ってしまいますよぉ〜意味が良くわかってらっしゃるのか、そうでないのか分かりませんし・・・。」
「ワンニャー、その言い方はひどいなあ、僕だってちゃんと意味くらい分かってるよ。それに、言葉を覚えるのに悪いことなんてないでしょ。」
ルゥが少し顔を膨らませて言い返す。
「それにしても限度というものが・・・今回はまだいい方だとしても・・・。やはり、ももかさんの影響もあるのでしょうか?」
(あ・・・ありうる)
未夢と彷徨は内心そう思っていた。本人が聞いたら怒りそうだが・・・
「・・・・ところで・・・・」
ワンニャーが一連の観察を終えると、にやっとした口調で未夢と彷徨の方に向き直る。
「////な・・なんだよ。」
「////な・・なによ。」
2人は少し頬を赤くして身構える。
「ここは何処ですか?西園寺でないのは分かりますが・・・。」
−バタン
2人は思わずずっこけた。
ワンニャーのいつも通りのボケに、拍子抜けしつつ、何だかほっとしていた。
「マンションだよ。俺んちの所有じゃないけどな。俺達は借りてるだけだ。まあ、あいつの好意で家賃はタダだから、ずいぶん助かってる。」
彷徨は先程のワンニャーのボケに少々呆れながら答える。
「誰の所有なんですか?」
「三太だよ。」
「へえ〜三太さんもご出世なさったんですねえ。」
「え〜、三太ってさあ、あのちょっと変わった三太お兄ちゃんのこと?」
ルゥが思い出したように口を挟む。
「そうだよ。今、彼、すごい人気なんだから。正確には彼らだけど。望君とお笑いコンビを結成したって、事務所の人に聞いたときは驚いたなあ・・。」
未夢は思い出したようにしみじみとしている。
「・・・で・・・。」
ワンニャーはわざとらしく間を空けると、少し下心のある笑みを浮かべている。
「なぜ、三太さんのマンションにお2人が住んでらっしゃるんですか?」
「////」
ルゥとワンニャーが、彷徨の顔をじーっと覗き込むと、何だか照れ臭そうな顔をして、顔を横に向けてしまった。また、未夢の様子を伺うと、同じように少し照れながら、彷徨の手を握りつつ、幸せそうな表情をしている。
「////俺達さ・・・・・その・・・・・結婚するんだ。」
「まあ、結婚って言っても、クリスマス・・・彷徨の誕生日に籍を入れるつもりだから、しばらくは同棲生活って感じだけど///」
言い終わった未夢の顔が先程より、一層真っ赤になっている。
(う〜ん、同棲って響き・・・結婚より照れ臭いかも・・・・)
自分で言っておきながら、内心そんなことを考えていた。
「そうですか、結婚・・・・けっこん」
「「ええ〜〜〜〜〜〜〜」」
ルゥとワンニャーの声が同時に発せられたのは言うまでも無かった。
・・・・が
「・・・って冗談は止めておきましょう。」
「・・・・・。」
未夢と彷徨は気が抜けて思わず倒れこんでしまった。言葉を必死に探していた先程の張り詰めた空気が一気に萎んでいくような、そんな心地を感じながら・・。
「わたくし達、本当は全部知っていたんです。こちらへ向う途中の時空のひずみの中で、すべて見てしまったんです。未夢さんと彷徨さんが、どんな想いでこの4年間、過ごしていらしたかということも。お2人にもこの4年間、本当にいろいろなことがあったんですね。わたくし達も、このオット星での8年間、本当にいろいろなことがありました。」
「そうだね。僕もいろいろワンニャーに心配かけちゃったし。ワンニャーといる毎日が本当に楽しかった。楽しくて、いつのまにか、こんなに時間が経っているなんて、分からないほど・・・・。でもね、何か足りなかったんだ。パパとママもいるワンニャーもいるそれなのに、自分の心の中に、何か欠けているものがあったんだ。」
ルゥも、ワンニャーはいかにもしみじみという様子で語っている。今、この場所に自分達が戻って来ることが出来たと言うことに対して、感謝の気持ちを込めながら。
そう、こうして出会えた・・・。また同じ時間を4人で過ごしていける。そう、それだけで嬉しかった。
(・・・・すべてってことは”あれ”も見られたのか?)
(////まさか・・・・ね・・・。)
それにしても、いつのまにか、お互い顔を見合わせながら、真っ赤になっている未夢と彷徨にルゥとワンニャーは気づいているのかいないのか・・・。
「さて、今夜はお久しぶりの再会を祝ってごちそうつくっちゃいますよぉ〜そのためにはさっそくお買い物にいかなければなりませんねぇ。ルゥちゃまも一緒に行きましょう。お買い物ですよぉ〜」
「僕も行く〜、僕ね、ケーキの生地つくるよ。すっごく練習したんだ。」
ワンニャーはそんな2人の様子にも気づかずに髭ち尻尾を揺らしながら、何やら張り切っている。ルゥはルゥで、そんな状況がわかっているのかいないのか、楽しそうに微笑んでいる。
未夢と彷徨は、思わず顔を見合わせて笑った。今の空間が懐かしくて、温かくて、
何事にも変えられないもの・・・。
「////未夢・・おいっ・・・。」
「えへっ・・ちょっとだけ。ルゥくんもワンニャーも見てないんだからいいの。」
未夢の心の中は嬉しいという感情を抑えることが出来ずに、思わず彷徨の胸に飛び込むと、顔を埋めた。
何度となく、自分を包み込んでくれた温かくて愛しいその胸の中に・・・。
彷徨もまた、思わぬ形で自分達の前に現れた幸せを実感していた。
”その日”をこうして未夢と迎えられるという幸せも。
かつての家族がまた、自分達の目の前にいる。
”絶対に再会出来るはずがない”
そう思っていても、心の何処かで、いつか必ず会えると信じていた掛け替えの無い家族。
そして、隣には大切な人。
ずっと夢を見てた・・・・それが現実(ココ)にある。
それだけで思わず微笑んでしまう。
それだけで、幸せで、何もいらなくて。
どんな現実にも負けないって心から強くなれたから。
そう、改めて気づいたの。
ここが自分の居るべき場所だって。
これから先も、自分が守っていく場所だって。
そう思うだけで未夢も彷徨も、自分自身の心が温もりで満たされていくように感じていた。
「////彷徨ったら・・・。」
「さっきのお返しってやつだな。」
家族が一緒にいられる幸せ
あなたとこうしていられる幸せ、
そして、あなたとこうして唇を重ね合わせる幸せも。
みんな、あの日の出会いが教えてくれた。
そしてこれからも・・・・。
「お買い物をしなければならないので、お二人に場所をお聞きしようと思っていたのですが、わたくし達、やっぱりお2人の生活を邪魔してしまったのでしょうか?」
「でも毎日、退屈しなさそうだよねぇ・・・。」
一方、ルゥとワンニャーは顔をニヤニヤさせてながら、2人の様子をこっそり覗いていた。
これからの新しい生活の始まりに胸をわくわくさせながら。
そう、私達は今、新しいスタートラインの上に立っている。
*****
-朝
はじまりの朝
いつもと同じ朝
そして横にはあなた。
だけど今日の朝は何処か違う。
(新たな始まりの朝)
そんな気がしていた。
***
「7時か・・・。」
彷徨は体を起こしつつ、時計を見ながらそう呟いた。横では未夢が小さく寝息を立てて眠っている。気がつくと、未夢が毛布を自分の方に寄せてしまっている。上に厚めの蒲団が被さっているとはいえ、時期は12月中旬。当然寒い。肌に直接、寒さが伝わってくる。
(しょーがねーな・・・通りで寒いと思った。)
内心そう感じながら、毛布に包まっている未夢の姿が無性におかしくて、可愛くて・・・思わず微笑んでしまう。
彷徨は蒲団から出ると、起こさないように、静かにベットから下りた。
暖房を付けても部屋が暖まるのに時間がかかる。寒さに体を縮こませながら、寝室のタンスからシャツと下着を裳探った。
何とか着替えが済むと、そのまま台所に向かった。
-台所
ワンニャーとルゥが朝食の支度をしている。ワンニャーが野菜を切っている横で、ルゥが小さな台の上に乗ってスープの入った鍋をじっと覗き込んでいる。その姿がとても可愛らしい。
ふとワンニャーの髭がぴくっと動く。
「あっ、彷徨さん、おはようございます〜」
「パパ、おはよ〜」
「おはよ。早いな、2人とも」
思わず顔が綻ぶ。
朝、当然のように交わす挨拶。お互いの時間が当然のように流れていく。
当たり前のことだが、心が温かく満たされているように感じる。
自分の居場所がここだと感じることが出来る。
(こんな気持ち・・・・未夢と暮らし始めたとき以来だ。)
彷徨はそう思っていた。
しばらくして、テーブルに朝食が並べられる。
ブラックのコーヒーに、ジャムトーストにバジルとトマトのサラダ。
テーブルの中央にある小さな花瓶には、真っ白な雪割草の花が生けられている。
(昨日、未夢が花屋で買わされた奴か・・。ったくちょっと目を離せばこれだからな。)
彷徨は昨日の買い物のことを思い起こす。
結局、ワンニャーの提案により、あれから夕食の買い物は未夢と彷徨の2人で行くことになったのだ。
行き先は当然、2人のいきつけとなっている近所のスーパーである。
実を言うと、彷徨は未夢と2人で買い物にいくということに少々憂鬱になっていた。
季節はずれの2人の引越しは、ご近所中の注目を集めていたと言う。
そして、あれこれ憶測をされ、有名人になってしまっていた。
というわけで、2人だけの買い物は周り中の視線を集めるため、かなり照れ臭かったということもある。
が、それだけではなかった。
彷徨がちょっと目を離した隙に、未夢が、スーパーの隣にある、美形の店員がアルバイトをしていることで有名な花屋にふらふらっと立ち寄って花を一束買ってきてしまったのだ。彼はどうやら同じ大学で、未夢を知っていたらしい。当然、彷徨の存在も知っていただろう。
(あいつ、確か、新庄開陸っていったっけ。あー思い出すだけでも腹が立つ。)
頭の中でそう思いながら、トーストに齧り付き、コーヒーを飲む。
(あの店員さん、すごく綺麗で、男の子っているより、男の人だったよ。うちの大学の有名人らしいね。)
未夢の言葉が脳裏に浮かぶ。
そのたびにトーストを齧る。
(なんだかすっげーむしゃくしゃしてきた。それもこれもあいつのせいなんだ。)
また齧る。
-ガシャッ
コーヒーカップを置く音がしだいに大きくなる。
「・・なた、彷徨」
「彷徨さん」
「パパ?」
ふっと我に返ると、未夢の顔が目の前に急接近していることに気づく。
「////未夢!!」
顔が真っ赤になっている彷徨に未夢は少し顔を顰める。
「彷徨、さっきから読んでるのに全然反応ないんだから。」
彷徨が周りを見回すと、さっきまでそこにいたルゥとワンニャーがいつのまにか姿を消している。
「あ・・起きたのか? おはよ」
居間の彷徨には、そう切り出すのが精一杯だった。
「おはよじゃないわよ。あんた、熱でもあるんじゃないの?」
コツンとおでこに顔をくっつける。
「ば・・ばか、熱なんかねえよ」
何だか必死になっている彷徨に未夢は追求の手を緩めない。
「じゃぁ、何よ、ポーっとして。」
「////い・・いや、別に」
(こいつのせいだなんて言えるか!)
彷徨は自分の内心を知られてしまうのが照れ臭くて、顔を逸らす。
「ったく、せっかく早起きして朝ご飯つくったのに、そんな顔されたんじゃなあ」
未夢は少し拗ねているような口調で呟く。
「おまっ、ルゥとワンニャーはどうした?」
確か、ワンニャーが朝食をつくって、テーブルの上に置いてくれたような気がしていたのに。
「・・・・寝ぼけてたわね。ルゥくんとワンニャーなら、もうとっくに食べ終わって、朝の散歩に出かけたわよ。私もこれから仕事で出かけるから、彷徨も早く食べちゃってよ。片付かないから。」
未夢は呆れた顔をしつつ、そっぽを向いてしまった。
そんな未夢が可愛くて、心の中にあった、小さな嫉妬が溶けて行くような気がした。
「・・・ごめん、うまかったよ。」
彷徨がにこっと笑ったかと思うと、未夢のおでこに柔らかいものが触れた。
(/////私ったら、こいつの笑顔に弱いんだった。)
未夢は顔を真っ赤にしたまま押し黙っている。
「と・・ところでさ、お前、仕事どうなんだ。」
彷徨は自分の行動に驚きつつ、照れ臭くなって話題を変える。未夢も自然にそれに合わせる。
長い付き合いだということもあってか、そんな彷徨の意思表示まで手に取るように分かる。
「・・・へっへえ、聞いちゃったね、言っちゃうよ。実はね、今日の仕事で初めて顔出しすることになったんだ。今まで手(ハンドモデル)だけだったからドキドキものなんだけど、マネージャーさんがやってみないかって言うもんだからさぁ・・。」
(こいつ、また有名人になっちまうな・・第一、ルゥとワンニャー・・・もとい子・・・子供はどうすんだろ・・。)
いつも以上の不安が彷徨の頭を掠める。
-だけど
お互いが、お互いを一番に愛してるって気持ちがあれば、どんな困難も乗り越えられる。
誰かがそんなこと言っていた気がする。
そう思うと、不安が強い意志に変わる。
そして、強い絆に変わる。
「未夢さん、彷徨さん、ただいま戻りましたぁ〜やっぱりこっちは寒いですねぇ」」
「ママぁ〜僕、咽乾いたぁ、ミルクちょうだい。」
「はいはい、今行く〜」
◆◇◆
-いつもの朝
−家族の声
それは当たり前だけど、掛け替えの無いもの。
私達が人生の一歩を踏み出した家は、一気に4人家族になった。
そして、半年後は5人家族・・・。
家族の絆は私のエネルギー。
それはどんなにときが経っても変わらない。
変わらない私でありたい。
私達はこれから、何度も現実の壁にぶつかることがあるだろう。
でも、家族の絆さえあれば、乗り越えていける・・・
そう思う。
4人の再会が、私達2人の始まり。
何億分の一の運命を私は信じたい。
あなたと私の心が決して消えない何かで繋がっていられるように。
私達4人が、決して切れることの無い絆で繋がっていられるように。
私は精一杯生きていく。
そして守りたい。
家族の絆を・・・私達の運命を・・・・。
それが、私の、私達の本当の始まりなのかもしれない。
(お義母さん、見守っていてくださいね。)
居間に飾られている瞳の写真が、微かに笑ったような気がした。
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