necessary & essential〜n&e 作:流那
  vol1 silver ring II ← →









あなたにまた伝えていないことがある。とても大切なこと。
大切だから言えないの。あなたが大切だから。
だから、もう少し時間を下さい。
私の全部、あなたに伝えたいから。









未夢・彷徨・クリス・渉の4人が通う、城南大学のキャンパスは、地方大学にも関わらず、とても大きかった。(クリスの話によれば、花子町財閥が、かなりの資金援助をしているらしいのだが・・・。)中央には噴水が二つあり、大学院を含む、10の棟があった。建物は、一昔前のフランスの洋風建築の雰囲気を呈している。
それにしても、すっかり冬だということを改めて感じさせる風景だった。噴水の水は凍り、周りの風景を、コントラストのように、ロマンティックに映し出している。また、キャンパスの周りに、シンメトリー調に並べられた木々がすっかり冬の姿に衣替えしている。そんな景色の中、キャンパス中が、まもなくやってくるクリスマスに向けてそわそわしている様子が見て取れる。
クリスの運転したスポーツカーが、大学の門をくぐっていく。クリス好みのあちらこちらに西洋風の細工がしてある車。クリスによれば、特注なのだという。とにかくクリスの車は目立つ。いつのまにか、周りの注目のまとになっていた。
ーバタン。
4人が車から降りる。
(あれが、光月未夢・・・。)
ひそひそと声が聞こえる。
4人は大学の中でも、かなり目立つ存在だった。未夢は母親が宇宙飛行士ということもあるが、すらっと高い身長に、金色の髪と、透き通った瞳が印象的だったし、クリスはフランス人とのハーフということを納得させるほどのまるでフランス人形のような美しく整った顔立ちが目立っていたし。未夢がちらっと横を見ると、クリスが少し恥ずかしそうな様子で俯いている。普段は頼もしい存在なのに、こういうところは、守ってやりたいといつも思ってしまう。

彷徨に至っては、地元の人間ということもあってか、結構有名な存在らしい。本人の自覚があるのかないのか、整った顔立ちを外に覗かせている。ときどき、他人の視線にムッとした表情を向ける彼が、未夢にとっては、可愛くて仕方なかったのだが・・。渉にしたって、ピンク色の髪をしているということもあるが、実はどこかの古い家柄の子息なのか、顔立ちもそれっぽく、とても綺麗で目立つ。密かにファンもいるらしい。
周りの視線が、4人を突き刺していた。
「じゃあ、わたくしたちはこちらで」
文学部のキャンパスは、中央とは右に行ったところにある。彷徨と渉の薬学部のキャンパスは、
それとは逆方向だ。4人はここから二手に分かれる。
「おう。またあとでな。」
「じゃあね、彷徨。渉くんも」
未夢はニッコリと笑った。心配ないよというシグナルを目の前の男に見せるように・・・。
彷徨は返事をかえさずに、耳元で囁いた。
(今日の夜、時間あるか? お前のバイト先で待ってる。)
「????」
何だろうと思いつつも、未夢は無言でうなずいた。






*****







午後。学食のテーブルで、未夢とクリスは向かい合っていた。相変わらず未夢の顔色があまり良くない。あいさつを交わす友人達に、いつもは元気良く笑顔を振りまいて返すのに、今日はそんな余裕もないようだった。友人も、心配そうにしてすれ違っていく。授業中も、いつもは細かく、几帳面にノートを取る人なのに、その様子もなく、ボーっとしていた。クリスの話も耳に入っていないようだった。クリスはそんな彼女が心配だった。
「・・・・未夢ちゃん、体の調子がお悪いんですの?
顔色がよくありませんわよ。朝だって、あまり喋られていませんでしたし。」
「うん。ちょっと寝不足なだけ」
「無理なさらないで下さいね。彷徨くんも心配なさっていましたわよ」
「ありがと」
(クリスには話そうか・・ここ2週間ばかり生理が遅れていることを・・。)
未夢は心の中でそう思っていた。だけど、自分の思い過ごしかもしれないし、今日は午前中にしか講義は入れていなかったし、今はみんなに心配をかけないように、黙っていることにした。
「そう言えば、今日、サークルに顔出す?」
未夢は話をすり替えたように言った。
未夢とクリスは、服好きが高じて、服飾関係のサークルに所属していた。今年の秋の学祭では、自分達のデザインした服が結構好評だったようで、ちょっぴり嬉しい気分だった。
「私は今日はちょっと用事があるので、帰りますわ」
「またホテル?大変だね」
「好きなことだから、続けられるんですわ」
クリスは花子町財閥が経営するホテル花子町で、調理師試験に向けての、実践的な勉強をさせてもらっていた。当然、財閥の令嬢であることは、ホテルの責任者のほんの一部しか知らない。
未夢は、クリスのこういうところはいつも関心する。たくましいと思う。私もはやく自分のやりたいことを見つけなきゃ・・と焦ってしまう。焦れば焦るほど、前が見えなくなってしまうということを分かっていながらも。
(あいつの足手まといにだけは、なりたくないから)
「未夢ちゃんはどうなさいますの?」
「私も今日は帰る」
「彷徨くんと約束ですの?」
クリスは意味深な顔で聞いた。
「バイトよ、バイト。」
未夢は真っ赤な顔をして答えた。
「別に照れなくてもよろしいですのに。」
「本当のことだもん。」
「アルバイト?クリスマスプレゼントのためですか?」
「そんなんじゃないよ。」
「クリスマスくらい、素直になった方がいいですわよ。」
未夢の目の前の美少女は、からかうようにして、にこにこっと笑っている。
金色の髪の少女は、ぷいっと横を向いて拗ねている。
(少しからかい過ぎてしまいましたわ。)
クリスは、そう思いつつ、空になった器を持って立ち上がった。
「さて、そろそろいきましょうか?」
「うん。」
「今日も、送っていきますわ。」
「ありがと。」
ーゴー
クリスは自然と助手席に座る未夢を、目で追ってしまう。この気持ちが自分でも何だか分かっていなかった。今年のクリスマスも、未夢と過ごせない可能性があるということが分かっていながらも、ちょっぴり複雑な気分だった。未夢が彷徨と両思いになったと聞いたときも、少し寂しかった。それは、自分が彷徨を好きだったからなんだと勘違いしていた。
だが、クリスの寂しさは別のところにあった。
未夢の顔は、相変わらず青みを帯びていた。このままバイト先に置ていったままで大丈夫だろうか?倒れてしまわないだろうか?と心配だった。
(くやしいですが・・・。)
内心そう感じ、車の上にあるマイクのような受話器を右手でカチャッと斜めに向けると、ダイヤルを左手で入力した。
090-5172-1248
彷徨のケータイの電話番号だ。
少し間が空いたが、しばらくして、低い声がクリスの耳に響いた。
「クリス?どうしたんだ。」
「今、なにをなさっていますの?」
「何って、バスケ。」
クリスは少し呆れたようにため息をついた。
「わたくし、今、未夢ちゃんと車の中なんですが、ちょっと体の調子がおかしいようなので、バイト先についていくことにしますわ。彷徨くんはどうなさいますの?」
クリスは少し強い口調で言った。
「・・・・オレも行くよ。どこだっけ?あいつのバイト先?」
「古着・雑貨のシモンです。平尾町商店街の少し外れにありますわ。」
「分かった。」
そう言うと、すぐに電話を切ってしまった。
「誰?彷徨?」
未夢はクリスの口調がいつもと違うことに少し驚いていた。中学時代から彼女のことは良く知っているが、ときどき思いこむと、周りが見えなくなってしまうところがある。そこが彼女の可愛いところでもあるのだが。
「何でもありませんわ。」
クリスはいつもの優しい口調に戻った。未夢はほっとして胸を撫で下ろした。そう思うと、何だか胸の奥に支えたものがとれ、今ならうち明けられる、そう決心した。






*****







一方、こちらは彷徨。
「俺って、どこまでも不器用だよな」
そう呟いていた。昼下がりと言っても、冬の真っ直中、息が白い。
実は、あのとき、バスケなんてしていなかった。一瞬焦った。クリスにすべてを見透かされたのかと。そう思うと、照れくさくて、あんな嘘をついてしまった。
例の店の前で、ポケットに手を入れつつ、白い息を吐きながら、立っていた。昼下がりとはいえ、すごく寒かった。看板には、「Simon」とだけ書かれていた。
今日は実験の日だったが、その間中、未夢のことが気になって仕方がなかった。実験が終わった途端、無言で飛び出していた。さすがの渉もあっけに取られたほどだ。気が付くと、友人に借りたバイクを走らせていた。
あいつの顔が頭から離れない
あいつのしぐさ一つ一つが気になってしまう。
彷徨は、そんな自分が怖かった。
ガサッ、コートのポケットの中が少し嵩張っている。
「こんなもの、オレのガラじゃなかったかな・・・。」
ふうとため息をつく。
「だけど、約束したからな。」
(約束ダカラ・・・・? ソウジャナイ)
(あいつの笑った顔が見たいから。)
しだいに顔がポッと沸騰していくのが分かる。心臓もドキドキしている。
「遅いな・・。あいつ。」
彷徨の頭の上を白いものが落ちてきた。手袋をしているのに、指先まで冷える気がした。たまらず、ポケットに手を突っ込んだ。右手がポケットに入っていたものにぶつかった。心臓の高鳴りが一層強くなる。
「雪か・・・。」
彷徨は、未夢に再開する前の自分の心みたいだと思っていた。真っ白で、行き場のない自分の心。どこかで寂しさを抱えていた自分の心。そんな昔の自分を重ね合わせて、ちょっぴり切なくなった。
さすがに寒くなって、座り込んでしまった。
「あれえ、西園寺くんじゃない。」
聞き覚えのある声が耳に響いた。
「天地・・・」
「こんなところで何してるわけ?未夢なら今日は休んでるよ。何だか病院に行くとかいってたけど、どこか体調でも悪いのかな?西園寺くん、何か聞いてない?」
「病院? そんなこと聞いてなかった。。。何処の病院か言ってなかったか?」」
「平尾町総合病院って言ってたよ。」
「サンキュ」
と言ったかと思うと、あっというまにバイクを走らせて、病院まで向かって言った。
「さて、これで良かったのかねえ」
ななみは意味深な微笑みを浮かべた。






*****







未夢とクリスは平尾町総合病院に到着していた。未夢は不安だった。待合い室の椅子に座っている間、クリスの手をぎゅっと握ったままだった。
彷徨には言えなかった。私は、あいつの重荷になりたくなかったから。
あいつ、何て言うかな。。。
呆れるかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。
それでも、未夢の心の中には不安の中に、嬉しさが渦巻いているのが分かった。
心臓がドキドキしていた。死刑を執行されるって、こんな気分なんだろうか?
未夢は、クリスの手の暖かさを感じながら、そんなことを考えていた。
「光月未夢さん」
名前が呼ばれた。心臓の鼓動が高まり、手がふるえ出した。
「未夢ちゃん、私も行きますわ。」
「ありがとう。」
未夢は、ゆっくりと診察室のドアをあけ、中に入っていった。
中には、綺麗で優しそうな女医、水野が座っていた。彼女は、不安そうな未夢の様子を見て、状況を一瞬で察した。
「あの・・・確かめて頂きたいことがあるんです。」
未夢の手は、ブルブルふるえたままだった。
彼女は、にっこりと笑い、
「大丈夫、ちょっと待っててね。」
というと、ナースになにやら支持している。
しばらくすると、そのナースによって、診察台に乗るよう、促された。
どのくらい時間が経ったのだろうか? それも分からないくらいだった。
それだけ、未夢の心の中は、一つのことでいっぱいだった。
水野はクリスにこう言った。
「お友達として、しっかり彼女を支えてあげてね。」
「はい。」
クリスは大きく頷いた。
未夢は、本当にありがとうございました。
と深々と会釈をすると、診察室を後にした。
外に出ると、切なすぎるくらい白い雪が未夢の頭に降り注いだ。
銀色に光る白い雪。それが、未夢の心を一層不安にさせていた。
「綺麗・・・・。」
「未夢ちゃん・・・。」
クリスにとっては、自分は未夢の心の支えになれても、自分の力では、不安を溶かしてあげることが出来ない・・・それが、とても悲しかった。
思わず涙が出てきてしまった。
(この涙ってなんだろう?)
未夢は、一瞬そう思った。
(そうだ、私は・・・嬉しかったんだ。)
未夢はそう実感した。
そして、今の気持ちをあいつに伝えなくちゃ。
あいつに・・・。
強くそう思った。と、そのとき、今一番会いたい男が、目の前に立っていた。
急いで来たせいか、息を切らしていた。
驚いて、一瞬声が出なかった。
「・・・彷徨・・・どうして・・・・?」
「はぁ・・・はぁ・・・その・・天・・地に聞いたから・・・。お前が・・病院だって。」
「・・・そうなんだ。」
未夢は今自分が一番伝えたいことを伝えようとしているが、伝えられずにいた。
「病院なんて、風邪でもひいたのか?」
「ううん。」
「それともどこか体の調子でも悪かったのか?」
「ううん。」
「・・・・もしかして・・・その・・」
(もしかして気が付いたのかな?)
未夢はそうあって欲しいと思った。
「・・・生理痛がひどくなったのか? オレには・・その・・女の体のことはよくわかんねえけど・・。」
「ちがうわよ。。」
未夢は少し怒ったような強い口調で言った。そして、むくれた表情を見せてみる。
「じゃあ何だよ・・・。」
(この鈍感。いい加減気づきなさいよ・・。)
正直、未夢は拍子抜けしていた。そして、こいつはこういうやつだったと、改めて実感していた。自分はどう伝えようかと必死で言葉を探しているところだというのに・・・。
「・・・・ねえ、海岸いかない?」
未夢は突然話題を変えた。
「・・・ああ、いいけど。何だよ急に。」
「いいから。」
「わかったよ。クリス、こいつしばらく借りるぞ。」
そう言い残すと、未夢を後ろに載せ、バイクを海岸に向けて走らた。
クリスは心の中で、
(未夢ちゃん、頑張って。と呟いていた。)
「わたくしには、結局何も出来ませんでしたわ・・。わたくしだって未夢ちゃんのこと。。。」
でも今は、彷徨にその想いを託すしかなかった。
バイクの大きな音が、クリスの心にズキンズキンと響いていた。






*****







- ブォォォーン


彷徨の運転するバイクは、海岸沿いを走っていた。
未夢は、彷徨の腰に両手で捕まり、顔を背中にしがみつけていた。その背中はあったかくて、ほっとした。
(ねえ、彷徨、ねえ、彷徨)
と心の中で強く語りかけていた。
バイクを運転している間、彷徨は何も喋らなかった。
というよりしゃべれなかったのだ。緊張のあまり。。。
バイクは、海岸の一番眺めが良いと言われている場所に止まった。
ーサブン サブン
夜の海岸。波音が静かに響いている。今日は満月らしく、海の表面にうっすらと写っていた。
月の光が海に反射して、とても綺麗だった。
「で・・・さっきの話の続きなんだけど。」
今度は、彷徨の方から話を切り出した。
「うん。」
未夢は口ごもったままだった。
「何だよ。お前にしてはずいぶんしんみりしてるじゃん。らしくねえぞ。」
「何よ。それじゃあ、私がいつもうるさいみたいじゃない。」
「まんまじゃん」
彷徨はいつものからかう口調で言った。
未夢は、こいつにはいつもペースを乱されてしまうと思った。早くタイミングを見失わないうちにと思いつつ、口を開いた。
「もしさ・・・彷徨が、急にさ・・・父親になったらどうする?」
「・・・・何だよそれ?」
「ルゥみたいなケースってこと?」
「そうじゃなくて。」
(やっぱりこいつは鈍感だ)
と未夢は思った。あまりの鈍感さに少しいらいらしつつも、
「ある日突然、自分の子供が出来たらってこと。」
「・・・・・嬉しいかもな。」
「え????」
未夢の顔が、少しずつ赤くなるのが分かった。内心、
(こいつから、こんなストレートな言葉が出てくるなんて・・)
と思っていた。
「相手が好きな奴ならな。」
彷徨の顔も、ぽっと赤くなっていた。
「好きな奴って?」
未夢は、からかうように言った。
ポポポっと彷徨の顔がさらに真っ赤になる。
「・・・・お前なあ・・・。いまさらこんなこと言わせんなよ。お前以外に誰がいるんだよ!」
未夢は、その言葉だけで嬉しかった。そう、その言葉だけで、勇気が沸いてきた。
もう何も怖くなかった。どんな現実が自分に降りかかってきても、乗り越えられる。そう確信していた。
「それが、”もしも”じゃなかったらどうする?」
未夢はにこっと笑い、満面の笑みを抱えて見せた。
彷徨は、ようやく状況を察したらしく、驚きと、とまどいの顔を浮かべていた。
「!? 未夢、おまっ・・・病院ってまさか???」
「・・・・その、まさか。」
未夢は何だかほっとした。やっと自分の一番伝えられたい想いが、伝えられた気がしたから。
だが、あまりにほっとして、足がふらついてしまった。
「大丈夫か。」
彷徨の太い腕が、未夢の体を支えた。
「ごめん」
彷徨は思わず未夢を抱きしめた。強く、強く。
オレにも言えず、一人で不安を抱え込んでいたのか・・そんな未夢がいじらしくてたまらなかった。
そして、未夢の変化に気づいていながらも、何もしてやれなかった自分にも腹がった。
「お前だけに不安な想いをさせてごめんな。」
「ううん。いいの。私の方こそ、ずっと言えなくて、彷徨のことが信じられなくてごめんね。」
「なにもしてやれなかったな。」
「そんなことない。彷徨のさっきの言葉だけで十分だよ。それにね。不安だけじゃないから。・・・・・嬉しかったから。」
「オレも。。。嬉しかった。」
2人は長いキスを交わした。お互いの心臓が、波の音に掻き消されていく。
私、もう迷わない。彷徨と一緒に生きていく。そう決めた。どんなことがあっても、2人だけで乗り越えていこう。
未夢は、心の中でそう決心していた。
ーサブン
2人は正気に戻って、赤くなりながら密着状態から、パット離れた。
「やっぱり何年たっても、こういうのはちょっと照れくさいな。」
彷徨は苦笑した。
「そうだね。」
未夢はそんな彼が、何となく可愛くて、可笑しくて、笑ってしまった。
「何だよ、そんなに笑うことないだろ。」
「・・・そうだ。」
彷徨は少し拗ねながらも、コートのポケットの中から、銀色の小箱を取り出した。
「これ・・・・その・・・お前にやる。本当にがらじゃねえけどな。」
「・・・・・これって・・・。」
「早く開けて見ろよ。」
「うん。」
未夢は、ドキドキしながら箱を開けた。
中には、銀色に光る、プラチナの指輪が輝いていた。
「綺麗・・・・・・・ありがとう・・・・すごく嬉しい。」
「早くはめてみろよ。」
「・・・うん。」
未夢はちらっと彷徨の方を見た。
「彷徨がはめてくれる約束じゃなかった?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。」
あの日の約束が、昨日のことのように蘇る。
彷徨はゆっくりと指輪を未夢の左手の薬指にはめた。未夢は指輪を彷徨の前で掲げて見せる。プラチナの光沢が、月の光に反射して、いっそう輝きを増している。
「もうあれから、15年も経ったのか・・早いな・・・。」
「そうだね。」
「でも私達を巡り合わせてくれたのは、ルゥ君だよ。きっと。」
「そうだな。でもオレは、たとえルゥと巡り会っていなくても、お前をいつか、どこかで見つけていたと思う。お前と出会うために。お前との約束を果たすために。」
「彷徨・・・・。」
「でも今度は”別の約束”が出来ちまったな。」
「うん。」
「・・・いますぐでもいい?」
「・・えっ・・」
彷徨の真剣な眼差しが、未夢を見つめている。
「・・・その・・・・オレ、ずっとお前と一緒にいたくて。もう止まらなくて。。・・・だから・・・。」
「彷徨・・・・。」
そのときだった。
「くしゅん」
とうくしゃみが聞こえてきたのは。
「あ〜あ、クリスちゃん、ダメじゃない。せっかく決定的な瞬間が見られると思ってたのに・・・。」
「すみません・・・・。」
ななみがため息をつく。ななみが呼び寄せたのか、綾までがしみじみと2人の様子を観察していた。
「あそこでストレートに言えないなんて、男じゃないぜ、彷徨。」
渉まで・・・。
彷徨の手はブルブルとふるえている。顔は沸騰したと言わんばかりに真っ赤になっている。(一方未夢は、すでに硬直状態だったりするのだが・・)
「お・・・前・・・え・・ら」
結局、未夢に最後の一言が告げられないまま、夜が更けていった。











← →
[戻る]