作:聖 叶都
連載・第4話
オリキャラ『空野流星』登場。
「大丈夫?」
未夢が、突然前に現れた男に目を見開く。
一切気配もなく、足音すら聞こえなかった。
「あなた…だれ…?」
「んー。予想以上だな。これ。」
男が突然呟く。
未夢は首をかしげた。
「え?」
「あぁ。いやいや。」
そう言って首を振る男。
茶髪の髪。黒のタートル・パンツ・帽子。全身真っ黒で更にサングラスまでかけている。
あやしいとしか言いようがない。
未夢は怯えたように立ち上がり、男の前から逃げようとする。
「あ。待って。君、未夢さんでしょ?」
「……は、はい……。」
「君のお母さんの未来さんに頼まれて様子を見に来たんだ。俺、NASAに居たんだけど、休暇でしばらく帰国することにしたから。」
「お母さんが?」
「あぁ。聞いてみれば、わかると思うよ。」
「そう…なんですか。」
未夢の肩から力が抜けた。
「俺は、空野流星〔そらのりゅうせい〕。よろしく」
サングラスを外し、流星はにっこりと微笑む。
その顔は意外に端正で、未夢は頬を紅く染めた。
「よろしくお願いします。」
「って、ココ寒いねぇ。中、入れてもらっちゃだめ?」
タイミングよく木枯らしが吹く。
未夢がその寒さに気付いたとき、流星は手に持っていたマフラーを未夢にかけた。
「女の子は身体を冷やしちゃだめだよ。」
「あ、ありがとう。気付かなくてごめんなさい。中へどうぞ!」
顔を赤らめながら、未夢がにっこりと笑った。
それからしばらく。2人はお茶を飲みながら、談笑した。
流星はとても話が上手で、未夢の悲しみは吹っ飛んでしまったようだ。
「ふーん。じゃあ、未夢ちゃんはこれからアメリカで暮らすの?」
「はい。そのつもり…です。」
「やっぱ、子供は親の傍がいいよね。未夢ちゃんがアメリカに来れば、また俺とも会えるし、嬉しいな。」
流星の優しい笑顔で、未夢の心が更にやわらぐ。
流星は、17歳。天文分野に興味があって、現在は研究者である両親とともにアメリカに渡っている。向こうの学校に通いながら、両親の働くNASAで手伝いみたいなこともしているらしい。
「じゃぁ、俺そろそろ帰るよ。近くにホテル取ってあるから。」
「あ、はい。」
玄関から出ると、肌寒い秋の空気が身体に当たる。
「また、明日会って貰える?学校が終わったらお茶でもしよう。」
そう言って、流星は未夢を抱き締めた。
「はぇ!?」
突然のその行動で未夢の脳が混乱をきたしている間に、流星は走り去ってしまう。
「今の奴、誰だよ。」
「か、彷徨!お、お帰り…。早かったね!」
「ただいま。悪かったな。邪魔して。」
「なに?その言い方。」
「別にぃ。」
何故か不機嫌な彷徨。
そそくさと自室へ向かってしまう。
「あ。彷徨。ご飯は?クリスちゃんちで食べて来たんだよね?」
「…いや。」
「そうなの?私、今から作るけど一緒に食べる?」
「あぁ、貰う。」
しばらくして、いい匂いが漂ってきた。
「彷徨ぁー。できたよー。」
未夢の声に、ダイニングへ来た彷徨は声を上げる。
「あ。カボチャ。」
「へへへぇ〜。見た目はちょっとあれだけど。多分味はまぁまぁだと思うよ!」
珍しく料理が上手くいったことが嬉しいのか、未夢はとても上機嫌だ。
彷徨と食卓を囲めることも嬉しいのかもしれない。
カボチャの煮物。鳥のから揚げ。味噌汁。ご飯。箸休めの漬物。
純和風の食卓は、彷徨好みだ。
彷徨は、好物の並んだその光景と、心に感じる暖かな感覚に酔いしれた。
こんな気持ち…忘れていた気がする。
私はどこに向かっているのでしょう。(知るか)