見えない気持ち

第四話*不安*

作:瑞穂

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夜も更けた西遠寺。

未夢は眠れずにいた。
涙は、先ほどやっと止まった。
だがやはり、彷徨のことを考えると、止まった涙がもう一度よみがえってくる。
考えないように、考えないようにと思うのだが、彷徨が溢れて。
未夢の中から、彷徨が溢れて止まらなくなるのだ。
その気持ちに比例して、涙も溢れて止まらない。

考えないと思うこと自体が、考えているのと同じことだと、思うのだが。
考えないようにとでも思わないと、今まで楽しかった思い出を思い出しても涙が溢れて。

未夢にとって、それだけは嫌だった。
楽しかった彷徨との思い出。
それを、それまでを悲しい思いでいっぱいにしてしまうのは。

わかってはいても。
頭で理解してても止められない、彷徨への気持ち。

自分は彷徨に・・・


――オボレテイル。


簡単には抜け出せない。
いや、抜け出せるかわからないほど深く。




未夢は机の上に置いてあった、手鏡を手に取った。
ぼやける視界で覗き込む。

そこに写っているのは、目が真っ赤に腫れ、涙でぐちゃぐちゃな未夢の顔。


(・・・変な顔)

未夢は、笑おうとして。

笑えなかった。

(彷徨、彷徨・・・彷徨ぁ・・)

何度も何度も、彷徨の名前を心で呼ぶ。
呼んでも来てくれない。
振り向いてはくれないあの人の名前を。

頭ではわかっているのだ。
諦めなければならない。
忘れなくては。
自分は彷徨にとってただの友達なのだと。

だが、心が理解してはくれない。
未夢のすべてが、彷徨を求めている。


未夢は、泣きすぎて痛くなった頭を押さえ、涙で汚れてしまった顔を洗うために。
洗面所へと向かった。




*.゜+





彷徨は、縁側に一人で座っていた。
何故だかはわからない。
今が昼なのか夜なのかもわからない。
ただ、太陽がないのに明るかった。

そんな場所に座ってぼーっと庭を眺める。
そこにあるのは、庭だけで、その向こうは真っ白だ。
その他には、何もないし、誰も居ない。

不意に後ろから、走っているのか、リズミカルな足音が聞こえる。

だが、別に気にはならない。
ただ何となく、足音が聞こえるな、と思うだけ。

その足音が彷徨の隣を通り過ぎて、庭に出た。
金色に輝く髪がふわりと舞う。
何となくそれを眺めて。

その足音の持ち主が彷徨の正面で立ち止まり、こちらに向いた。
そこではっとした。

未夢だ。
だがなぜ走ってそんなところに?
何処に行くんだ?

声をかけてみる。

「未夢?なにしてんだ?そんなとこで。」

彷徨の声を聞いて、薄く微笑む未夢。

その表情からは、何の感情も読み取れなくて。

そして、未夢の口が動く。

さよなら、と。


何故だかわからないが、声は聞こえないのに、そう動いた気がした。

彷徨が首をかしげる。
何故さよならなどと言われるのだ。

「未夢!」

そういって未夢のほうへ歩み寄ろうとする。

だが、彷徨が立ち上がったのを見た未夢は、くるりと彷徨に背を向けまた走り出す。
彷徨は走って未夢の後を追いかけた。

「おい、未夢!待てよ!」

だが走っても走っても追いつけない。
本気で走っているのに、どんどん未夢との距離が離れていく。

「未夢ー!!」

名前を読んでも、未夢は振り返らない。
そればかりか、未夢の姿がどんどん遠ざかってゆく。

彷徨は大分息が切れているのに、未夢のスピードはいっこうに落ちない。

(くそっ!)

未夢の姿が見えなくなる。
その瞬間、彷徨の周りが闇に包まれた。




「未夢!」

がばっ!

未夢の名前を呼びながら勢いよく起き上がる。
そこは、さっきまで走っていた場所でもなく、縁側でもない。
居間だった。
どうやら彷徨は、あのまま眠ってしまったらしい。

「・・・夢か。」

体中に汗をかいていた。
息も上がっている。

(そのまま寝ちまったのか。)

毛布を握り締めている手を見つめる。

(未夢がかけてくれたのか?)

とんでもない夢だった。
未夢がさよならと言って走り去ってしまった。
どんなに追いかけても追いつけない。
最終的には見えなくなってしまった。
未夢が、消えてしまう。

(未夢・・・)

もしかしてもうここには、いないのか?
急に、不安になってくる。
本当に、夢のようなことになったらと。

よく考えるとありえないことだ。
未夢の両親はアメリカにいる。
今未夢のうちはここしかないのだ。
こんな夜になって、未夢がどこかに出かけてしまうなんてこともありえない。
さっきまで、未夢が風呂に向かう前までは一緒にいたのだ。

だが未夢が恋しい。
今すぐこの目で未夢を確かめたくて。
未夢がここに、西遠寺にいることを。

ふと時計を見ると、深夜三時。

未夢に会いたい。
しかしこんな時間に、未夢が起きているとは考えにくい。

大体会って何を話すのだ。
デパートでのことを謝るか?

でも、彷徨には、なんと言って良いのか。
なんと切り出せば良いのかわからない。

「はぁ・・・」

ため息をつく。
とりあえず、寝汗を流したい。
彷徨は立ち上がり、風呂場へと向かう。

居間のふすまを開けて、彷徨は立ち止まった。

風呂場のほうから水の流れる音が聞こえる。
その音がこもっていないのは、脱衣所の戸を開けたまま、中にある洗面台を使っているからだろう。

こんな時間に誰が?

といっても、彷徨のほかには、ワンニャーか未夢しか居ない。
彷徨としては、未夢であればイイと思う。
だがしかし、未夢だったとして、こんな時間に洗面所で何をしているのだ。

彷徨は首をかしげながらも、歩く速度を速める。
未夢であればイイと、未夢に会いたいと、願いながら。




*.゜+




未夢は、洗面所の鏡に映る自分の顔を見つめてため息をついた。
冷たい水で何度も洗っているのに、目の腫れが引かない。
瞳も赤いまま。
冷たい水を触り続けている手も赤くなってきた。
何度も顔を洗っているうちに、涙は止まった。
だがコレでは泣いたことなんて一目瞭然だ。

未夢は何度目か知れないため息をついた。

もう一度、冷たい水をすくって顔を洗う。


「・・・未夢?」

彷徨の声が聞こえた。
でも、彷徨は眠っているのだ。
また幻聴が聞こえると思い、未夢はそのまま水で濡れた顔をタオルで拭く。

「未夢!」

肩をつかまれた。
強い口調に、未夢の細い方を引っ張る力強く暖かい手。

そこには、本物の彷徨がいた。





続く


毎度ありがとうゴザイマスw笑
瑞穂でゴザイマスw
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本当に嬉しくて、嬉しくて、しょうがなくて(*>∀<*)笑
パソコンの前で一人で騒いでます((笑
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