作:瑞穂
夜も更けた西遠寺。
未夢は眠れずにいた。
涙は、先ほどやっと止まった。
だがやはり、彷徨のことを考えると、止まった涙がもう一度よみがえってくる。
考えないように、考えないようにと思うのだが、彷徨が溢れて。
未夢の中から、彷徨が溢れて止まらなくなるのだ。
その気持ちに比例して、涙も溢れて止まらない。
考えないと思うこと自体が、考えているのと同じことだと、思うのだが。
考えないようにとでも思わないと、今まで楽しかった思い出を思い出しても涙が溢れて。
未夢にとって、それだけは嫌だった。
楽しかった彷徨との思い出。
それを、それまでを悲しい思いでいっぱいにしてしまうのは。
わかってはいても。
頭で理解してても止められない、彷徨への気持ち。
自分は彷徨に・・・
――オボレテイル。
簡単には抜け出せない。
いや、抜け出せるかわからないほど深く。
未夢は机の上に置いてあった、手鏡を手に取った。
ぼやける視界で覗き込む。
そこに写っているのは、目が真っ赤に腫れ、涙でぐちゃぐちゃな未夢の顔。
(・・・変な顔)
未夢は、笑おうとして。
笑えなかった。
(彷徨、彷徨・・・彷徨ぁ・・)
何度も何度も、彷徨の名前を心で呼ぶ。
呼んでも来てくれない。
振り向いてはくれないあの人の名前を。
頭ではわかっているのだ。
諦めなければならない。
忘れなくては。
自分は彷徨にとってただの友達なのだと。
だが、心が理解してはくれない。
未夢のすべてが、彷徨を求めている。
未夢は、泣きすぎて痛くなった頭を押さえ、涙で汚れてしまった顔を洗うために。
洗面所へと向かった。
*.゜+
彷徨は、縁側に一人で座っていた。
何故だかはわからない。
今が昼なのか夜なのかもわからない。
ただ、太陽がないのに明るかった。
そんな場所に座ってぼーっと庭を眺める。
そこにあるのは、庭だけで、その向こうは真っ白だ。
その他には、何もないし、誰も居ない。
不意に後ろから、走っているのか、リズミカルな足音が聞こえる。
だが、別に気にはならない。
ただ何となく、足音が聞こえるな、と思うだけ。
その足音が彷徨の隣を通り過ぎて、庭に出た。
金色に輝く髪がふわりと舞う。
何となくそれを眺めて。
その足音の持ち主が彷徨の正面で立ち止まり、こちらに向いた。
そこではっとした。
未夢だ。
だがなぜ走ってそんなところに?
何処に行くんだ?
声をかけてみる。
「未夢?なにしてんだ?そんなとこで。」
彷徨の声を聞いて、薄く微笑む未夢。
その表情からは、何の感情も読み取れなくて。
そして、未夢の口が動く。
さよなら、と。
何故だかわからないが、声は聞こえないのに、そう動いた気がした。
彷徨が首をかしげる。
何故さよならなどと言われるのだ。
「未夢!」
そういって未夢のほうへ歩み寄ろうとする。
だが、彷徨が立ち上がったのを見た未夢は、くるりと彷徨に背を向けまた走り出す。
彷徨は走って未夢の後を追いかけた。
「おい、未夢!待てよ!」
だが走っても走っても追いつけない。
本気で走っているのに、どんどん未夢との距離が離れていく。
「未夢ー!!」
名前を読んでも、未夢は振り返らない。
そればかりか、未夢の姿がどんどん遠ざかってゆく。
彷徨は大分息が切れているのに、未夢のスピードはいっこうに落ちない。
(くそっ!)
未夢の姿が見えなくなる。
その瞬間、彷徨の周りが闇に包まれた。
「未夢!」
がばっ!
未夢の名前を呼びながら勢いよく起き上がる。
そこは、さっきまで走っていた場所でもなく、縁側でもない。
居間だった。
どうやら彷徨は、あのまま眠ってしまったらしい。
「・・・夢か。」
体中に汗をかいていた。
息も上がっている。
(そのまま寝ちまったのか。)
毛布を握り締めている手を見つめる。
(未夢がかけてくれたのか?)
とんでもない夢だった。
未夢がさよならと言って走り去ってしまった。
どんなに追いかけても追いつけない。
最終的には見えなくなってしまった。
未夢が、消えてしまう。
(未夢・・・)
もしかしてもうここには、いないのか?
急に、不安になってくる。
本当に、夢のようなことになったらと。
よく考えるとありえないことだ。
未夢の両親はアメリカにいる。
今未夢のうちはここしかないのだ。
こんな夜になって、未夢がどこかに出かけてしまうなんてこともありえない。
さっきまで、未夢が風呂に向かう前までは一緒にいたのだ。
だが未夢が恋しい。
今すぐこの目で未夢を確かめたくて。
未夢がここに、西遠寺にいることを。
ふと時計を見ると、深夜三時。
未夢に会いたい。
しかしこんな時間に、未夢が起きているとは考えにくい。
大体会って何を話すのだ。
デパートでのことを謝るか?
でも、彷徨には、なんと言って良いのか。
なんと切り出せば良いのかわからない。
「はぁ・・・」
ため息をつく。
とりあえず、寝汗を流したい。
彷徨は立ち上がり、風呂場へと向かう。
居間のふすまを開けて、彷徨は立ち止まった。
風呂場のほうから水の流れる音が聞こえる。
その音がこもっていないのは、脱衣所の戸を開けたまま、中にある洗面台を使っているからだろう。
こんな時間に誰が?
といっても、彷徨のほかには、ワンニャーか未夢しか居ない。
彷徨としては、未夢であればイイと思う。
だがしかし、未夢だったとして、こんな時間に洗面所で何をしているのだ。
彷徨は首をかしげながらも、歩く速度を速める。
未夢であればイイと、未夢に会いたいと、願いながら。
*.゜+
未夢は、洗面所の鏡に映る自分の顔を見つめてため息をついた。
冷たい水で何度も洗っているのに、目の腫れが引かない。
瞳も赤いまま。
冷たい水を触り続けている手も赤くなってきた。
何度も顔を洗っているうちに、涙は止まった。
だがコレでは泣いたことなんて一目瞭然だ。
未夢は何度目か知れないため息をついた。
もう一度、冷たい水をすくって顔を洗う。
「・・・未夢?」
彷徨の声が聞こえた。
でも、彷徨は眠っているのだ。
また幻聴が聞こえると思い、未夢はそのまま水で濡れた顔をタオルで拭く。
「未夢!」
肩をつかまれた。
強い口調に、未夢の細い方を引っ張る力強く暖かい手。
そこには、本物の彷徨がいた。
続く
毎度ありがとうゴザイマスw笑
瑞穂でゴザイマスw
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本当に嬉しくて、嬉しくて、しょうがなくて(*>∀<*)笑
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