作:瑞穂
(パチッ)
未夢が目を覚ますと、頭上には雲ひとつない青空が広がっていた。
穏やかな風が木々を揺らす。
小鳥たちの鳴き声。
辺りには誰も居ない。
どうやら、未夢は噴水の淵にもたれて眠っていたらしい。
(また絵本入っちゃったのかなぁ・・・?)
未夢は辺りをきょろきょろ見回そうとして。
後ろにそびえ建つ、大きな建物を見て驚いて固まった。
(な、何!?お城?)
未夢が、もたれていた噴水のすぐ後ろには立派な階段。
その階段が続く先に、大きなお城。
未夢が立っていたすぐ側には、馬車が止まっている。
階段の上の扉の前には何人か人がいた。
同じような黒いワンピースに、白いエプロン姿の女の人たち。
銀色に光るよろいを身にまとった人。
未夢はとりあえず、その人たちにここがどこか、たずねようと歩き出した。
だが、未夢が歩き出してすぐに、正装している男の人が二人、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
手に持った赤い布のようなものを階段に敷いている。
(嘘!レッドカーペット!?一体誰が降りてくるんだろう。)
階段を少し上がったところで立ち止まり、未夢は腕を組み考えた。
その時初めて自分の着ているドレスに気がついた。
そう。未夢はピンクのドレスを着ていたのだ。
「何これ〜!?素敵!」
未夢は満面の笑みで、リボンとレースが沢山付いているドレスのすそを持ち上げ、回ってみる。
ひらひらと手を動かし、ドレスの後ろを見ようとする。
見る者まで幸せな気分になるような、愛らしい笑顔にしぐさ。
いつの間にかレッドカーペットは階段の一番下まで敷かれていた。
その上を歩く二人の人物。
豪華な衣装に緑のマントをつけて歩く、髪も髭も長い威厳のある男の人。
その隣を歩く、美しいドレスを身にまとい綺麗に結い上げられた美しい金髪の女性。
二人の頭には冠がつけられている。
二人は、王様と、お后様なのだろう。
未夢が二人を見つめていると、目が合った。
二人とも微笑んでこちらに歩いてくる。
「え!?」
(嘘!?やだ・・・こっちに向かってるの!?)
未夢は慌てて、階段の一番下に下りて深く頭を下げた。
そんな未夢を見て、二人は顔を見合わせて首をかしげている。
でも、未夢は頭を下げているので、そんな二人のしぐさは見えていない。
未夢の目の前で二人が立ち止まる。
未夢が恐る恐る顔を上げると、お后様が首をかしげながらくすくす笑っている。
「姫、何をしているの?」
「え?・・・姫?」
未夢は辺りをキョロキョロ見渡したがそこには未夢しか居ない。
今度は王様が微笑みながら話しかけてくる。
「何をとぼけておるのだ。」
「と、とぼけるって・・・」
「姫、あなたに話しかけているのですよ。」
お后様がが未夢の手をとった。
「えー!!?私が姫!?」
未夢の大きな声に王様もお后様もきょとんとする。
すご〜い!私がお姫様なんだ〜。でもこれ何の話なんだろう?ま、いっか〜♪私、今お姫様なんだし〜♪
とか何とか言いながら、嬉しそうにくるくる回る未夢。
そんな未夢を見て。
「どうしたの?おかしな姫ね。」
「まったくだ。」
クスクス笑う二人。
未夢はなんだか恥ずかしくなってえへへ〜と頭に手をやる。
「わしらは、これから用事で出かけてくる。」
「姫。一人で知らないところへ行ってはいけませんよ。」
「?はーい!」
そして、王様とお后様は馬車で出発した。
゜+.゜☆*。
未夢は庭を歩いていた。
庭のあちこちに綺麗な花が沢山咲いていて。
果物も沢山生っていて。
楽しくて、さっきまで走り回っていたのだ。
「ん〜、ちょっと休憩。」
未夢は近くの芝の上に腰掛けた。
すると。
カタン、コットン。
と、どこかから楽しそうな音が聞こえてくる。
未夢は、首をかしげて辺りをキョロキョロ見回した。
(何の音?)
未夢は立ち上がり、音のする方へと歩いていった。
゜+.゜☆*。
音は庭のはずれにある、古い塔から響いていた。
入り口にはドアが付いていなかったので、外まで音が響いていた。
未夢は好奇心に駆られ塔の階段を登っていく。
カタン、コットン。
一番上にある小さな部屋で、一人の女の人が、何か木で出来た機械をまわしている。
その機械からはどんどん糸が出来上がってく。
「あの、すいません」
未夢が声をかけると女の人はくるりと振り返った。
ふわりと綺麗なピンクの髪が揺れる。
「ク、クリスちゃん!?」
「まぁ、未夢ちゃん!」
二人で同時に声を上げた。
「クリスちゃんこんなところで何してるの?」
「わたくしは、なんだか気が付いたらここにいて、糸車を回して糸を作っていましたの。未夢ちゃんは?」
「あ、私は、気がついたら庭にいて、音がしたからこっちにきたの。」
「そうでしたの。」
「クリスちゃん、糸も作れるんだね!」
すごいね〜、と言いながらニコニコしている未夢。
クリスは微笑みながら首をかしげて。
「簡単ですわよ。未夢ちゃんもやってみます?」
未夢は目を輝かせた。
「うん!」
そういって未夢も、クリスがやっていたように糸車を回してみた。
だがうまくいかない。
「う〜ん。うまくいかないよ〜」
悪戦苦闘する未夢。
側で、微笑みながら作り方を説明しているクリス。
やはりうまくいかない。
その時、クリスの一緒にやってみますか?という提案に未夢は、先ほどのように目を輝かせた。
「でわ、未夢ちゃんはそちらを回してくださいな。」
「うん!」
未夢が糸車を回したその時。
チクッ!
針が指に刺さり、未夢はそばにあった粗末なベッドに倒れてしまった。
「未夢ちゃん!」
クリスが未夢に駆け寄る。
が、未夢は起きない。
「しっかりして!未夢ちゃん!大変ですわ…今人を呼んできますね!」
そう言い残してクリスは走って塔を降りた。
すると、ポン!っと音がして部屋にルゥがあらわれた。
「きゃぁーい!」
ルゥが、持っていた魔法の杖を振ると、キラキラ光る粉が降りはじめる。
すると、未夢が倒れた粗末なベッドが輝きだした。
キラキラ光る粉は、あっというまに渦になってお城中を包みこむ。
その時、ちょうど帰ってきた王様とお后様は広間の椅子で眠り始めていた。
家来やコックも眠って動かなくなり、庭では犬も猫も、小鳥もリスも眠っている。
風も止み、全てのものが眠ったお城の周りに、いばらが伸び。
みるみるうちにお城は、茨に覆われてしまったのだ。
続く