氷イチゴがとけるとき

#2

作:山稜

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 にらみつけてる、パパ。
 そのひじをとる、ママ。
 おろおろしてる、ワンニャーさん。

 かたまったままの、わたし。

 ぽわぽわ飛んできた、ちっちゃなルゥ。

「ルゥっ、もどれっ」
「ルゥくんっ!」
「ルゥちゃまっ!」

 きーてるのか、きーてないのか。
 ふしぎそうな顔が、ぽわぽわどんどん近づいてくる。

 とうとう、わたしのすぐそばにきて。
 手をのばしてきて。

「マンマ…?」
「へっ?」

 ママじゃないよーっ!

 あんぐり、くちをあけてたら、
 ほっぺをぺしぴし、はたかれた。

「きゃーい、マンマーッ!」
 けらけら、わらってる。
 …のはいーけど、たすけてーっ!

 パパの目が、苦笑いにかわった。
「で…アンタ、なにモンなんだ」
「ちょ…そ…」
「もしかして、ことば、通じてないんじゃない?」
「宇宙人でしょうか…」
「ち…」
 この状況で、どーやって返事しろってゆーのっ!?

「きゃーいっ!」
 だれか、とめてーっ!

「はいはい、もーそのへんにしとけ…」
 パパがひょいっと、ルゥをだっこ。
「う〜、パンパ?」
「おねーちゃん、なんか言いたそーだろ…」
 ルゥがいっしょけんめい、くびをふる。
「ねーね、あい、マンマッ、マンマッ!」
「なんだ?なにがいーたいんだ?」

「そういわれてみれば、このひと未夢さんににてますねぇ」
「そーかなぁ…似てるってことなら、どっちかってゆーと、彷徨のような気がするけど…」

 パパがひとつ、ため息をついた。
「…まぁいーから…で、しゃべれるか?」

 こーゆートコ、パパはやっぱりやさしーよねっ。

「あ…ありがと、パパ…」
「パパ?」
 みけんに、ぐっとしわがよる。
「たしかに、ルゥはおれのことパパのつもりらしーけど…アンタにパパよばわりされるすじ合いは…」

 しまったーっ!
 ただでさえルゥに「パパとママに見つからないように」って、いわれてるのにーっ!

「ルゥちゃまがパパ、ママとよんでいるからじゃないですか?」
「そっ、そーなのっ!この子がパパってよんでるから…っ」

 なっとくしてなさそーな目。
「で…アンタだれなんだ?どっからきた?」
「未宇です…20年ほど先の…」

 パパのまゆ、への字…

 ちっちがうちがう!
「20万光年ほど、先のところの…」
「20万光年っていうと、シャラク星あたりでしょうか?」
「そ、そーそー!シャラク星!」
 ワンニャーさん助かるよーっ!

「やれやれ、またシャラク星かよ…で、なんだ?アンタもルゥをねらってんのか?」
「ねらってないねらってない!」

 ぶんぶん、カオふりまわし。

「時空のひずみに飛ばされて…気づいたら、ここで…」
「じゃなんで、押入れになんか入ってたんだ?」
「それは…クツはいたまんまじゃ、おこられると…」

 あいかわらず、けげんなカオのパパ。
 パパに言われちゃうと、ちょっと、つらいな…。
 ここじゃ、おない年ぐらいなのに。

「もーいーじゃない彷徨っ、それぐらいで…わるいひとじゃ、なさそーだし」
「おまえはひとが良すぎるんだ…夜星のときだって、そーだっただろっ」
「でも…飛ばされてきたのは、うそじゃなさそーだよ?」

 だまって、こっちを見てるパパ。
 その顔を、じっと見てるママ。

 ルゥがまた、飛んできた。
 ひざの上、すわって。
「パンパッ、いーう、マンマッ」
 じっと、パパの顔、見てる。

「ルゥにまで言われちゃ、な…」

 よ…よかったぁ…。

「未宇ちゃん…だっけ、すごい汗だけど、だいじょうぶ?」

 ママはこーゆートコ、すごく気がついてくれる。
 このころから、そうなのかな。

「あ…うん、だいじょうぶ…」
「とりあえず、着かえたほーがいーんじゃない?わたしのでよかったら」
「え…でも」
「ねっ、わたしの部屋、行こ?」
 手を、ひかれた。

 ママはこーゆートコ、ゴーインなこともある。
 このころから、そうなのかな。



「…いや、いまお客さん、きてるからな…
 え?うん…イトコ、だ、イトコ…
 未夢?呼ぼうか?」

 ちょうど着かえてでてきたら、パパが受話器をふさいでた。

「あれ、未夢は?」
「マ…未夢ちゃんなら、すぐだと思うけど…」
「そう…お〜いっ、未夢っ」
「は〜い、いま行く〜っ」

 ぱたぱた、ママが走ってきた。

「ったく、なにやってんだよ…」
「なにって、しょーがないでしょ片づけたりなんだってあるんだから…彷徨みたいにボーっと本ばっか読んでるんじゃ、ないんだからねっ」
「なに言ってんだ、いつもボーっとしてんのは、おまえじゃねーか」
「言ったわねぇっ!」

 ママの、にぎりこぶし。
 パパの、舌ぺろ。
 ママとパパって、このころからそーなんだ。
 つくづく、なんかおもしろいな。

 受話器の向こうから、なにか音がした。
「いけね…花小町」
 さしだす、パパ。
「えっ、なんではやくとりついでくれないのよっ」
 あわてる、ママ。
「もしもし?クリスちゃん?」

 クリスちゃん…?
 って、アリスちゃんちのおばさん?

「そーですのね…。
 わたくしがいくら『納涼雪山かき氷大会』なんて企画してみたところで…
 ふたりっきりで、カップのかき氷食べてるほーが、よっぽどしあわせですのねーっ!」
「ちっちがうって、クリスちゃんっ」

 パパがわたしをゆびさして。
「イトコがきてるからって言えっ、イトコっ」
「そうっ、イトコがきてるからっ」
「イトコって未夢ちゃんのことなんでしょーっ!」
「ちがうちがう!ホントにきてるんだって、ホラっ!」

 で…そこでわたしに、受話器わたされても…。

「未宇ちゃんごめんっ、なんか話してっっ」
 え〜と…。
「もしもし?」
「やっぱり未夢ちゃんじゃない〜っ!」

 …親子だもん。
 声、にてるよどっか、そりゃ…。

 パパが受話器をとりあげた。
「もしもし?いやホントに…未夢のイトコだから、声ぐらい…
 え?うん、ルゥもオヤジもいるし…
 まぁひさしぶりだから、水入らずっていうかな、…
 うん。せっかくさそってくれてわるいな…うん。うん。
 ん?あぁ、」

 ママに受話器。

「もしもし…うぅん、いーっていーって…うん…
 せっかくさそってくれたのに、ごめんね…うん。
 またさそってね、ありがと…じゃね、はーい」

 は〜っ。
 また汗、かいちゃった。

「タイミング、わるいよ〜っ」

 アリスちゃんちのおばさんって、すっごくやさしーのに…。
 中学のころって、荒れてたの?

「…なんか、のどかわいたな…もう一杯、かき氷作るか…」
 ママがちょっと、くちとがらせた。
「ことわらずに、行けばよかったんじゃない」

 パパがのほっぺた、ちょっと、ふくれた気がする。
 ため息ひとつ、ついた。
「…こいつもいっしょに、か?」
「べつにいーでしょ、イトコなんだったら」

 ママの返事をきくまえに、パパはずんずん歩いていった。
 あれはパパ、おこってる。

 …おじゃま、かな…。
「かえりたいな…」
 ママが肩さき、両方とった。
「だいじょーぶっ、ちゃんと帰れるからっ!」

 ママはいつでも、そーだよね。
 元気付けて、くれるよね。
 裏づけもなんにも、なくっても。

「うん…ありがと…」
「さっ、未宇ちゃんもかき氷、食べよっ!」

 うなづいたら、通信機がなった。

「ごめん…ちょっと」
「じゃ、先に行ってるね」

 スイッチをいれると、ルゥの声。
「もしもし?きこえる?」
「うん、よくきこえてる…」
「よろこんで未宇っ、かえる方法、わかったよっ」


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