作:山稜
にらみつけてる、パパ。
そのひじをとる、ママ。
おろおろしてる、ワンニャーさん。
かたまったままの、わたし。
ぽわぽわ飛んできた、ちっちゃなルゥ。
「ルゥっ、もどれっ」
「ルゥくんっ!」
「ルゥちゃまっ!」
きーてるのか、きーてないのか。
ふしぎそうな顔が、ぽわぽわどんどん近づいてくる。
とうとう、わたしのすぐそばにきて。
手をのばしてきて。
「マンマ…?」
「へっ?」
ママじゃないよーっ!
あんぐり、くちをあけてたら、
ほっぺをぺしぴし、はたかれた。
「きゃーい、マンマーッ!」
けらけら、わらってる。
…のはいーけど、たすけてーっ!
パパの目が、苦笑いにかわった。
「で…アンタ、なにモンなんだ」
「ちょ…そ…」
「もしかして、ことば、通じてないんじゃない?」
「宇宙人でしょうか…」
「ち…」
この状況で、どーやって返事しろってゆーのっ!?
「きゃーいっ!」
だれか、とめてーっ!
「はいはい、もーそのへんにしとけ…」
パパがひょいっと、ルゥをだっこ。
「う〜、パンパ?」
「おねーちゃん、なんか言いたそーだろ…」
ルゥがいっしょけんめい、くびをふる。
「ねーね、あい、マンマッ、マンマッ!」
「なんだ?なにがいーたいんだ?」
「そういわれてみれば、このひと未夢さんににてますねぇ」
「そーかなぁ…似てるってことなら、どっちかってゆーと、彷徨のような気がするけど…」
パパがひとつ、ため息をついた。
「…まぁいーから…で、しゃべれるか?」
こーゆートコ、パパはやっぱりやさしーよねっ。
「あ…ありがと、パパ…」
「パパ?」
みけんに、ぐっとしわがよる。
「たしかに、ルゥはおれのことパパのつもりらしーけど…アンタにパパよばわりされるすじ合いは…」
しまったーっ!
ただでさえルゥに「パパとママに見つからないように」って、いわれてるのにーっ!
「ルゥちゃまがパパ、ママとよんでいるからじゃないですか?」
「そっ、そーなのっ!この子がパパってよんでるから…っ」
なっとくしてなさそーな目。
「で…アンタだれなんだ?どっからきた?」
「未宇です…20年ほど先の…」
パパのまゆ、への字…
ちっちがうちがう!
「20万光年ほど、先のところの…」
「20万光年っていうと、シャラク星あたりでしょうか?」
「そ、そーそー!シャラク星!」
ワンニャーさん助かるよーっ!
「やれやれ、またシャラク星かよ…で、なんだ?アンタもルゥをねらってんのか?」
「ねらってないねらってない!」
ぶんぶん、カオふりまわし。
「時空のひずみに飛ばされて…気づいたら、ここで…」
「じゃなんで、押入れになんか入ってたんだ?」
「それは…クツはいたまんまじゃ、おこられると…」
あいかわらず、けげんなカオのパパ。
パパに言われちゃうと、ちょっと、つらいな…。
ここじゃ、おない年ぐらいなのに。
「もーいーじゃない彷徨っ、それぐらいで…わるいひとじゃ、なさそーだし」
「おまえはひとが良すぎるんだ…夜星のときだって、そーだっただろっ」
「でも…飛ばされてきたのは、うそじゃなさそーだよ?」
だまって、こっちを見てるパパ。
その顔を、じっと見てるママ。
ルゥがまた、飛んできた。
ひざの上、すわって。
「パンパッ、いーう、マンマッ」
じっと、パパの顔、見てる。
「ルゥにまで言われちゃ、な…」
よ…よかったぁ…。
「未宇ちゃん…だっけ、すごい汗だけど、だいじょうぶ?」
ママはこーゆートコ、すごく気がついてくれる。
このころから、そうなのかな。
「あ…うん、だいじょうぶ…」
「とりあえず、着かえたほーがいーんじゃない?わたしのでよかったら」
「え…でも」
「ねっ、わたしの部屋、行こ?」
手を、ひかれた。
ママはこーゆートコ、ゴーインなこともある。
このころから、そうなのかな。
◇
「…いや、いまお客さん、きてるからな…
え?うん…イトコ、だ、イトコ…
未夢?呼ぼうか?」
ちょうど着かえてでてきたら、パパが受話器をふさいでた。
「あれ、未夢は?」
「マ…未夢ちゃんなら、すぐだと思うけど…」
「そう…お〜いっ、未夢っ」
「は〜い、いま行く〜っ」
ぱたぱた、ママが走ってきた。
「ったく、なにやってんだよ…」
「なにって、しょーがないでしょ片づけたりなんだってあるんだから…彷徨みたいにボーっと本ばっか読んでるんじゃ、ないんだからねっ」
「なに言ってんだ、いつもボーっとしてんのは、おまえじゃねーか」
「言ったわねぇっ!」
ママの、にぎりこぶし。
パパの、舌ぺろ。
ママとパパって、このころからそーなんだ。
つくづく、なんかおもしろいな。
受話器の向こうから、なにか音がした。
「いけね…花小町」
さしだす、パパ。
「えっ、なんではやくとりついでくれないのよっ」
あわてる、ママ。
「もしもし?クリスちゃん?」
クリスちゃん…?
って、アリスちゃんちのおばさん?
「そーですのね…。
わたくしがいくら『納涼雪山かき氷大会』なんて企画してみたところで…
ふたりっきりで、カップのかき氷食べてるほーが、よっぽどしあわせですのねーっ!」
「ちっちがうって、クリスちゃんっ」
パパがわたしをゆびさして。
「イトコがきてるからって言えっ、イトコっ」
「そうっ、イトコがきてるからっ」
「イトコって未夢ちゃんのことなんでしょーっ!」
「ちがうちがう!ホントにきてるんだって、ホラっ!」
で…そこでわたしに、受話器わたされても…。
「未宇ちゃんごめんっ、なんか話してっっ」
え〜と…。
「もしもし?」
「やっぱり未夢ちゃんじゃない〜っ!」
…親子だもん。
声、にてるよどっか、そりゃ…。
パパが受話器をとりあげた。
「もしもし?いやホントに…未夢のイトコだから、声ぐらい…
え?うん、ルゥもオヤジもいるし…
まぁひさしぶりだから、水入らずっていうかな、…
うん。せっかくさそってくれてわるいな…うん。うん。
ん?あぁ、」
ママに受話器。
「もしもし…うぅん、いーっていーって…うん…
せっかくさそってくれたのに、ごめんね…うん。
またさそってね、ありがと…じゃね、はーい」
は〜っ。
また汗、かいちゃった。
「タイミング、わるいよ〜っ」
アリスちゃんちのおばさんって、すっごくやさしーのに…。
中学のころって、荒れてたの?
「…なんか、のどかわいたな…もう一杯、かき氷作るか…」
ママがちょっと、くちとがらせた。
「ことわらずに、行けばよかったんじゃない」
パパがのほっぺた、ちょっと、ふくれた気がする。
ため息ひとつ、ついた。
「…こいつもいっしょに、か?」
「べつにいーでしょ、イトコなんだったら」
ママの返事をきくまえに、パパはずんずん歩いていった。
あれはパパ、おこってる。
…おじゃま、かな…。
「かえりたいな…」
ママが肩さき、両方とった。
「だいじょーぶっ、ちゃんと帰れるからっ!」
ママはいつでも、そーだよね。
元気付けて、くれるよね。
裏づけもなんにも、なくっても。
「うん…ありがと…」
「さっ、未宇ちゃんもかき氷、食べよっ!」
うなづいたら、通信機がなった。
「ごめん…ちょっと」
「じゃ、先に行ってるね」
スイッチをいれると、ルゥの声。
「もしもし?きこえる?」
「うん、よくきこえてる…」
「よろこんで未宇っ、かえる方法、わかったよっ」