氷イチゴがとけるとき

#1

作:山稜

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毎度のアフター新だぁです(^^;
新だぁの最終話後、ルゥとワンニャーが地球に戻ってきて滞在してますのでご承知ください☆


 シャリ、シャリ、シャリ。
 雪のようなふんわり、うつわにこんもり。
 赤いシロップが、映えるいろどり。

「ほら未宇」
「きゃ〜」

 ひとくち、ぱく。
 帰ったばかりでのぼせたノドが、一気に元気、とりもどす。

「彷っ…パパ、わたしのもはやく、はやくっ」
「おまえ、何杯食う気なんだ…」
「いーじゃないっ、暑いんだしっ」
「ハラ、こわすぞ」
「へーきへーきっ」

 パパがハンドル、ぐるぐる回す。
 また雪山、うつわにひとつ。
 ママは黄色い、氷レモン。

 いまどき、うちぐらいじゃないのかな。
 こんなおおきな氷かき器、家にあるのって。

「こんどはぼくがやるよ、パパ全然食べてないでしょ」
 ルゥがちらっとママを見ると、パパはちょっとわらった。
「あぁ…たのむ」

「彷徨さん、練乳はどこですか?」
「あれ…切らしてたか」
「ええ〜っ、そんなぁ〜っ」
「いーじゃん別に、練乳なくっても」
「そーはいきませんよっ、楽しみにしてたんですから…あぁ〜っ、上等の宇治金時がぁ〜っ」

 練乳ぐらいで、泣かなくても。
 ワンニャーさんはときどき、おおげさなような。
 でも…。

「じゃ、わたし買ってくるよっ」

 スプーンおいて、それだけ言って。
 あわてる声は、笑顔でながして。
 おいたカバンを、肩からかけて。
 玄関あけて、外、ふみだして。
 なにかのアラーム、背中にきいて。

 …アラーム?
「だめだ未宇っ」
 ルゥの声を聞いたときには、もう目の前は、まっくらだった。


 あいたたた…。
 ころんじゃった…かな。
 ひざ…たいしたこと、ないな。

 ここ…あれ?
 わたし、外へ出たよね?
 なんで茶の間?

「ありましたよ〜、未夢さ〜んっ」
「お〜い、未夢〜っ、ルゥ〜っ」

 パパとワンニャーさんだ。
 練乳、あったのかな。
「パ…」
 ってわたし、くつはいたまんまだ!

「未夢〜っ、ルゥ〜っ!」
「は〜いっ、いま行く〜っ」

 ママもくる!
 おこられちゃう!
 ど…どーしよ…。
 とっとりあえず、押し入れ!

 入って閉めたら、ろうかの足音。
「やろーぜ、はやく」
「うん、ちょっと待ってルゥくんのお手てあらってくる」
「おまえの顔も、な」
「え〜うそっ…やだ〜こらルゥくんっ!」
「きゃ〜いっ」
「もぉ…とにかく洗いにいこっ、ねっ」
「あ〜い、マンマッ」

 ルゥくん?
 きゃ〜いっ?
 …マンマっ!?

 ちょっと待っ…。

 声が向こうの方、行った。
 押し入れの戸を、すこぉし開けた。

 見なれた、茶の間。
 見なれない、テレビ。
 …古いんだ。

 またろうかから、足おと。

「おーいっ、まだか〜っ」
「すぐ行くぅ〜っ」
「ったく…」

 そう言って出てきた、パパの顔。
 …わかいっ!?
 ってゆーか、幼いっ。
 どー見ても、わたしとトシ、かわらない…。

 ってことは、ここって、…
 さっきのまっくら、…時空のひずみ。

 かばんの中で、通信機。
「未宇っ、どこっ!?」
 ルゥだ。
「う〜ん、うちなんだけど…」
「うちなんだけど、って?」
「ねぇルゥ、時空のひずみって、おんなじ場所の『むかし』に飛ばされちゃうことって、ある?」
「あるんじゃないかな…ワンニャーもそんな目にあったことあるって言ってたし」
「やっぱり…」

 そうなんだ。
 ここは20年以上前の、うち。
 ルゥとワンニャーさんが、オット星から飛ばされてきたころの。

「パパとママが中学生ぐらいの、うちなの、ここ…」
「う〜ん、だれかいた?」
「いる…パパもママも…どうしたらいーのっ?」
「ちょっとまって、調べてみるから…あ、そーだ未宇っ」
「なっなに?」
「くれぐれも、うかつなことしちゃダメだよ」
「うかつなことって?」

「未宇がなにか言ったりしたりしたことで、未来を変えちゃうかもしれないってこと…
 たとえばパパやママが、いまそこでしらないことをおしえちゃったりしたことで、
 パパとママが結婚しなくなるようなことになったら、未宇が生まれてこなくなる」

 わたしが生まれてこなくなる?
 そしたら、ここにいるわたしもいないから、パパとママが結婚しなくなることもなくて…

 こーゆーややこしーハナシって、涙が出てくる。

「え〜ん、こんがらがっちゃったよ〜」
「だろ…ってぐあいに、ひょっとすると時空もこんがらがっちゃって、みんないなくなっちゃうかもしれないってことなんだ」

 それってセキニン重大なんじゃない〜っ!!

「だから、こっちから連絡するまでおとなしくしててよ?いい?」
「わかった…」
「パパとママに見つからないようにね、ややこしくなるから」
「うん…」
「じゃ切るよ、またあとでね」

 通信機をおいたら、胸がくるしくなった。

 うちだけど、うちじゃない。
 しってるけど、しらない。
 そんなところに、ぽつんとひとり。

 かえりたいよ…。

 とたんに、汗。
 不安と、プレッシャーと、
 …押し入れの中って、あつい!

 ちょ、ちょっとだけ、あけてもいーよね。
 風、とおらないかな…。

 きゅうに、にぎやか。
 台所のほうかな。

「そっちだとせまっくるしーだろ、氷かき器がテーブル占領してんだから」
「ん〜、しかたありませんねぇ…かき氷のできていくところ、見ているとおもしろいんですけど…」
「まーまー、また作るとき、むこうで見ればいーじゃない、ねールゥくん」
「あーいっ」

 みんなこっち、きちゃったんだ!
 あーん、これじゃとーぶん、こっから出られないよーっ…。

 風通しにあけたすきまから、ようす。
 みんなすごいいきおいで食べてる…。
 あ、みんなして、こめかみ押さえた。
 ルゥまでおんなじカッコして…ってあの赤ちゃん、ルゥだよね。
 シャラク星でちっちゃくなったときと、おんなじ顔してる。
 あはっ、なんかおもしろいな。

「マンマっ、ちゃーっ」
 うつわ、両手でさし出して。
「ルゥくん、おかわり?」
「あーいっ」

 ママもルゥも、いい顔してる。

「ちょっと待っててねー」
「おい…そんなに食べさせて、だいじょうぶか?」
「ちょっとぐらいいーじゃないっ、きょうすんごく暑いんだよ?」
「それはそーだけどなっ…」
「まーまー、少しぐらいでしたら…といいつつ、わたくしも宇治金時もう一杯」
「へへーっ、じゃわたしも氷レモンもう一杯っ!」
「おまえらなぁ…」

 文句いいながら立ち上がるトコなんて、むかしっから変わってないんだね、パパって。

「もう練乳もちょっとしかないし、少しにしとけよルゥ」
「あーい、パンパッ」

 ふたりとも、わたしに笑いかけるのと、おんなじ顔してる。
 …なんか、うれしいな。

 でも。
 あつーいっ!
 わたしもかき氷、食べたーいっ!

「練乳って、おいしいんですか?」
「宇治金時にかけると上等になるんだよね」
「え〜っそーなんですかっ…すみません彷徨さん、ここにそれっ」
「残念、もうルゥので使いきった」
「あぁ〜っ、上等の宇治金時がぁ〜っ」

 いーなぁ…おいしそう…。
 こっちは汗だくで、水たまりができそうだってゆーのに…。
 食べたことなかったけど、いま宇治金時がすっごく食べてみたいよーっ!

 乗り出しちゃったのが、わるかった。
 手をついたトコ、汗ですべって。
 がったん、大きなおと。

「なにっ、いまの音っ!?」
「さがってろ…っ」
「あっ、ちょっとルゥちゃまっ!?」
「う〜?」

 押し入れの戸が、いきおいよく開いた。
 あわててワンニャーさん、変身。
 パパがママの前、ふみ出してる。

「…なんだ、おまえ…っ」

 どっ…どーしよーっ!


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