でぃせんばー・ぱずる

#9

作:山稜

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 けさは…来るかなぁ。
 あれからずっと、来なかったもんなぁ…。
 やっぱりもう、あきらめちまったのかなぁ…。
 もう、きょうが今年最後なんだけどなぁ…。

 玄関を出て、とぼとぼと歩き出してみる。
 角を曲がったところに、
 …いない。

 しかたないか…。

 ふと、後ろから走ってくる音。
 ふりかえる。
 期待は、裏切られなかった。

「せんぱいっ、おはようございますっ!」



「あーもう彷徨ぁ、一休みしようよぉ、一休みっ」
 未夢はコタツに、つっぷした。
「さっきからおまえ、一休みばっかしてんだろっ」
「だって、眠いんだもんっ」

 彷徨が呆れ顔で、赤ペンのキャップを締める。
「まだ5時半だろっ」
 つっぷしたまま、言い返す。
「外なんて、まっくらじゃないっ」
「いまの時期なら、あたりまえじゃねーか」

 顔を一応上げて、うらめしそうに彷徨を見る。
「あーもぉ、なんでクリスマスイブまで勉強なのよぉ」
 彷徨が、のぞきこんでくる。
「誰かさんが、期末テストでひどい点とってきたからなっ」

 ぷう、とふくれてみる。
「いーなぁ三太くん、いまごろ涼子ちゃんと楽しんでるんだろうなぁ」
「まぁ…あれは、三太が当ててきたんだし」

「そうなる運命だったのかな?」
「そうかもなっ」
 顔を見合わせて、笑う。

 …そう、最後のピース。

「そうだっ、これっ」
 持ってきたかばんの中から、少し大きめの箱を出す。
 ていねいに緑色の包装がされて、赤いリボンがかかっている。
 さし出しながら、お決まりの言葉を添える。
「メリークリスマスっ!」

「…ったく、しょーがねーなぁ」
 そう言いながら、彷徨の顔は笑っている。
「開けていいか?」
 返事を聞く前に、彷徨は包装をときはじめた。

「おいおい…」
「だって、きれーだったんだもん」

 天使のたくさん描かれた、白い、パズル。

「だいいち、ここ、寺なんだぞ?」
 文句を言う。
「彷徨の部屋に飾っとけばいーじゃないっ」
 言い返す。

 それでもふたりは、笑いあっている。

「…さんきゅ」
「ピース少ないから、彷徨ならすぐできるよねっ」
 彷徨は首をかしげた。
「いや…しばらく、このままにしとく」
「ええっなんでっ、せっかくあげたのにっ」

 顔を未夢の方に向けて、彷徨は言った。
「おまえと一緒に作りたいからな…受験終わるまで、とっとく」

 顔を赤らめながら、未夢はぶんぶん手をふった。
「そっ、そんなっ、心配してくれなくて大丈夫だよっ」
「どこが大丈夫なんだよ…」

 うなだれる。
「はい、すいません…」
「だからなっ、」
 彷徨はポケットに手をつっこんだ。
「これ」

 さし出す手には、細長い小箱。
 少し包装が、とれかかっている。

「メリー…クリスマス」
 反対側の天井を見たままだ。

 用意してくれてるんじゃないか…とは思っていても、実際、目の前に出されると、やっぱりうれしい。
 声がひっくり返りそうになるのを、何とか押さえた。
「開けて、いいっ?」
 彷徨は横目でうなづいた。

 箱の中から出てきたのは少し大きめの、シンプルなペンダント。
 なんだかんだと言っても、好みはよくわかっている。
 手にとって、すみずみまで、ながめる。

 彷徨はそっと、未夢の手からとって、金具を開いた。
 すぐ目の前から、彷徨の両手が、肩をこえて首のうしろにまわる。
 いきおい、顔と顔が近づく…。

「ほら、どうだ」
 ぼぉっとしている間に、ペンダントはきれいに未夢の胸元におさまっていた。
「あ…ありがと」

「それと…それ、開くからなっ」
「へ?」

 見てみると、ペンダントの横に爪を引っかけるところがある。
 少し、押さえてみる。器用に、開く。
 中には、小さな写真があった。

「ルゥくんと、ワンニャー…」

「まっ、お前の場合、ルゥに出会うぐらいの奇跡が受験に必要だろっ」
 彷徨は舌を出している。
「そこまで言うっ?」

 彷徨が笑う。
 それがうれしくて、笑う。
 そうだ、どうせなら…。

「あのね彷徨っ、これ…っ」
 未夢はまた、かばんの中から彷徨にわたした。

 彷徨は手にとって、しげしげとながめている。
 ミトンの手袋に、KANATAという模様。
「一日早いんだけど、お誕生日おめでとうっ」
 にっこり、笑う。

「これ…おまえが編んだのか?」
 彷徨は信じられないといった顔だ。
「そうだよっ、だってこないだ、彷徨の手、すっごく冷たかったから」
「いや…そうじゃなくて、…よくできてるなぁと思って、な」

 口をとがらせて見せてみる。
「何よっ、わたしにだってひとつぐらい、とりえはあるんだからっ」
「でもいつのまに編んだんだ?」
「毎晩、寝る前にっ」
 自慢げだ。

「おまっ、そんなことしてるから、テストの結果…」
 彷徨のあきれ顔に、未夢はかみついた。
「あーもー、せっかく編んだのに、そんなことばっか言うんなら、返してっ」
「やだ」
 ひと言で返されると、拍子抜けする。
「へ?」
「気に入ったから、なっ…さんきゅ」

 彷徨が笑う。
 やっぱり、それがうれしい。
 ずっと、そばでそれを、見ていたい…。

 思いっきり、背筋を伸ばした。
「よーし、勉強、がんばらなきゃっ」
 彷徨はまた、あきれている。
「急になんだよっ」
「なんでもいーから、ほらっ、ここ、教えてよっ」

 降りそうな星空が、外には広がっていた。


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