○春日 みちる・・・ 主人公。中学校受験失敗を期に病態が悪化する。
(かすが みちる) 頭脳明晰というところまでいかないが、頭の回転はいいほうである。
寂しがりやであり、家族に対しては不信感をもっている。
○遠山 日向 ・・・ みちるの幼馴染。男っぽくなく、高い声に劣等感を感じている。
(とおやま ひなた) 昔からみちるのことが大好きで、みちるのことを必死に考えようとする。
○牧野 一葵 ・・・ 大人しく、清楚な女の子。勉強はあまりできないが、
(まきの かずき) 詞をかくのが得意。周哉とは恋人同士である。
○星河 周哉 ・・・ 日向とは逆に男っぽい男。美形。
(ほしが しゅうや) 思ったことをストレートに表現しようとする。
なにかと、一葵のことを気遣う。
【以前 同盟に掲載していた-Never giveup for NOZOMI-の内容を一部改訂したもので
す。】
『試練は、乗り越えられる人にしかこないんだ…。
だから、苦しくても、きっと自分には、乗り越える力があると信じなければいけない。
僕はそう思うんだ…。』
…みちるはさっき、日向にいわれた言葉を反芻していた。
潰瘍性大腸炎という難病を患って、もう2年がたとうとしている。
日向は、みちるの幼馴染で、寺の住職の息子だ。
小さいころから、良く遊んだし、良く喧嘩もしたし、ひそかではあるが、淡い恋心も
抱いていた。
『病気』って残酷だな…。
みちるはそうとしか思えなかった。なぜなら、あらゆる機会を奪いとるから…。
みちるから奪ったものは、『学生生活』、『友人』…あげればきりがない。
みちるが潰瘍性大腸炎に罹患したのは中学受験に失敗した12歳のとき。
最初は受験失敗のストレスによる腸炎と診断されていたけれど、
みるみるうちに体重が減少して、貧血を起こして、学校にいこうとするも、高熱を繰り返して
また、病院戻りとなる…。
みちるの入院はもう10回を超えていた。
「春日さん、検温にきました。」
看護師が、いつもの検温にやってきた。
みちるは黙ったままで、体温計を受け取ると、看護師のいうことをただきいている…。
「明日は、大腸の内視鏡検査がありますから、今から食事はできなくなります。」
そういわれると、コクリとうなづいて、体温計を差し出した。
「38℃2分か。なかなか、熱が下がらないわね…。アイスノンもってくる?」
みちるはそのせりふに「首をふると」看護師は「そう」というその場を退いた。
☆☆☆
「みちる、みちるいる!!、あけていい?」
日向の声だ。
「・・・いいよ。入って。」
みちるは答えると、日向は花束を手にもって、みちるに差し出す。
「これ、母さんから、みちるへって、この花瓶にいれていいかな。」
日向の声はいつも明るい。声だけじゃない、なんか、太陽のようで、いつも暖かくされる。
日向のお父さんは頭がよかったらしいが、日向はいたって平凡で、勉強の面からいえば、
私のほうがよかった。
「日向、、、また、明日も内視鏡検査があるの…。なんか、私の病気って治療じゃなくて、
いつも検査ばかりしているような気がする…。」
みちるは、日向に告げる。日向は、
「難しい病気だからね。治療法も僕なりにいろいろ調べてみたんだけど…。」
そういうと、日向はメモ書きを私に差し出した。
「白血球除去療法、ATM療法、ステロイドパルス療法、外科的手術方法…。」
私は名前だけ読み上げた。
私は病気に対して積極的ではなかなった。自分で調べれば、いろいろと見つかるのだろう…。
でも、私の心の中にはあるコンプレックスがあった。
「私、ステロイド療法はやったよ。ほかの治療法やったことないけど…。」
そういう私に、
「みちる!!もっと、積極的になろうよ!!たしかに、みちるは大変だと思う!!でも、病気と闘うのは
自分だけなんだよ。さっきも、看護師さんに対して殆どしらけ状態だったろ。
今日、僕もさ…みちるの主治医の、坂場先生に話しをしてみたいとおもうんだ…。いいかな??」
日向は真剣な眼差しだ。私は、
「坂場先生って、あんまり人の話をきくような人じゃないよ。なんかさ、昔どっかの大学
病院で女性にして講師やってたらしくて…。なんか高飛車で…。」
そういう私に、
「高飛車だろうが、なんだろうが、病気になっているのはみちるなんだよ!!いうこといわなく
ちゃ。」
…こういうのって本当は親の役割なんだよね。
だけど、うちは、…中学校受験に失敗したあの日から、パパもママも私のことなんて、
ほったらかし…。見舞いは体裁的に週に1度くればいい程度。日向の方がよほど頼りになる。
☆☆☆
「白血球除去療法、ATM療法か…。よく調べてきたわね。」
坂場医師が日向にいう。
「みちるは2年間この病気と闘ってきているんです!!でも、僕はどうにも積極的な治療をしていな
いような気がするんです。ステロイドを増やすとか、ペンタサを増やすとか、絶食とか、
これじゃどうにもいかないような気がするんです。」
みちるは立場がわかっているのか??と日向を疑った。
日向はいつでもまっすぐで、曲がったことが嫌な性格。
きっと、サラリーマンになったとしても、上司におべっかなど到底使える様な性格ではない。
「…。たしかに、日向君のいうことは分かる。だけど、この病院じゃ、白血球除去も、
ATM治療も行えないのよ。それに効果は半分程度ともいわれている。春日さんの場合、左
結腸型といってね。重症度的にも適応になるか、非常に微妙なの。ただ、一番は本人、
春日さんの意見だと思う!!浅生さんはどう考えているの?」
坂場医師は、私にそうきいた…。
「私は…。今のままでいいです。ほかの治療法をしたとしても、なおるとは限らないから…。」
嘘だ!!私は、心のそこで叫んだ。
私だって、挑戦してみたい。だけど、怖い。
「・・・だそうよ。日向くん。だからね。このままの治療でいこうと思うの。」
坂場医師は思うようにいった、とニヤリと不気味な笑顔を日向に向けた。
「・・・。先生には、みちるの心のメッセージーが伝わらないんですね。みちる、さっき泣いていませ
んでした??僕は、入院したこともなければ、大きな病気にかかったこともありません。
医療のことも寺の息子だし、頭もよくないから良く分かりません。だけど、みちるの気持ちは先生よりわかっていると思います。」
そういうと、私は日向に手をひかれ、カンファレンスルームを出た。
☆☆☆
「ほーい。麦茶だよ。これなら、まだ飲めるだろ。」
日向は私に麦茶を差し出した。
「私のこと、叱ってよ。」
私は、日向にそういった。
「私、日向を裏切るような発言をしたんだよ。なんで、怒らないの!!」
日向は優しく私に語りだした…。
「みちるの気持ちは分かるんだ。裏切ったんじゃない!!いけないのは、あの坂場っていう医者
だよ。あのさ、みちる、セカンドオピニオンって知ってる??」
日向の質問に、
「第二のお医者さん」よね。たしか、それが…。」
日向はみちるの手をとって、
「だから、一回他の医者のところにいってみようよ!!今度外出の許可を受けてさ。」
「でも、私…。」
日向は言葉を続ける。
「治すんだ!!これは、みちるに与えられた試練だよ。乗り越えなくちゃ!!僕ができることは
なんでもするから…。」
その言葉に圧倒されて、普段、日向がこんな勢いにいうことなんてなかった。
本当に真剣に思ってくれているからこそなんだね。
「…うん。」
そういうと、日向はみちるの手をとり、小さい子のように、小指と小指で指きりをしたのだった。
☆☆☆
とある都内の病院。
ここは大学病院ではなく、全国の患者から慕われているといわれる医師がいる。
IBD(炎症性腸疾患)専門医がいる病院だ。
2時間くらいまたされたが、呼びだしのアナウンスがあって、みちると日向は診察室に入った。
「…ということなんです。いくら、違う治療をもとめても同じことの繰り返しで…。」
日向は今までの経緯を私らかわって話してくれた。
先生は、日向に向かって、
「よく勉強してきているね。春日さんのことがほんとうに大切に思っているんだね。…
ところで、浅生さん…。春日さんの意見がききたいんだ。自分の病気についてどう思ってるか…。」
ここで勇気を振り絞らなきゃ、…こんだけやってくれている日向に悪い!!
勇気を振り絞らなくちゃ…。
「わたしは、私…。治して、日向や…クラスの皆と一緒にいろんなことをしたいです!!
それには、困難があることは覚悟しています。先生!!お願いします。」
言えた!!やっと言えた。
私は、どこかで病気と向き合うことに恐れていたのかもしれない。いや、恐れていたのだろう。
医師は「にこり」と微笑んで、
「では、もう一つ勇気を振り絞ってもらう必要があるよ。坂場先生に紹介状を書いてもらう
こと。「立つ鳥跡を濁さず。」っていうよね。坂場先生にその思いを日向君なしで伝えるんだ。」
私は、こくり。とうなづいた。
☆☆☆
「みちる、よかったね。これで一歩前進だよ。」
笑顔で答える日向に私は、いつも励まされてた。
振り向くと、いつも日向がいた。
幼いころから、ずっとそうだった。
「あのね。日向、私、日向にたくさんのお礼をしたい!!でも、私のできることって特にない
だけど…本当にありがとう…。」
日向はにこりと満面の笑顔で、
「みちるはさ、覚えてるかどうかわからないけど…。むかし、僕のことを救ってくれたのは、
みちるなんだよ。」
私は、びっくりした。
「私が…。」
日向は話を続ける。
「僕って、なかなか「俺って」自分のこと言えなくて、しゃべり方も男っぽくなくて、
父さんに似なくて、頭も悪くて…。いつも、比較されてた。父さんと…。でも、そんなとき
みちるは…」
そう日向がいったとき、私は思い出した
☆☆☆
それは8年も前のこと。日向とみちるが6歳のときである。
「僕って、やっぱり父さんの子じゃないのかなぁ。」
半べそになった日向は、みちるに話しかけた。
「日向は日向でしょ。「遠山祐樹の息子」じゃない!!遠山日向なんだから。
もっと自信をもって生きていこうよ。私、日向のこと大好きだよ!!」
私は確かにそういって、日向の頬に…。
☆☆☆
「ボッ!」顔が真っ赤になった。
そうか、私・・・そんな恥ずかしいことしてたんだ。
日向は、
「思い出したみたいだね。僕はあの頃から、みちるのことが大好きだった。
大好きな人のために、なにかをしたいってあたりまえなことでしょう。僕が僕でいられるのは
みちるのおかげ。みちるのためだったら、なんでもする。というのはきれいごとかなぁ。」
そういうと、私の頬にキスした。」
私は、恥ずかしい気持ちもあったけど、日向に肩を寄せて、
「日向となら、乗り越えていける。そう思う!!これからも、私のそばにいてね。」
といい、彼にしがみついた。
あなたと出会えたのは偶然じゃない。
きっと必然だった思う。
この「必然」逃すわけにはいかない。
私も努力しなきゃ。
あなたのために、
そして自分のために、
一歩ずつ進んでいこう
GO AHEARD
翌日、坂場医師と話をつけるべく。私はカンファレンスルームにいった。
日向もついていくといってくれたが、断った。
今度こそ、自分でつかむんだ。
私の夢を。