ある一場面

「ハラショー!」

作:英未

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 ご〜ん、と除夜の鐘が聞こえてきた。
 鐘の音が聞こえるたびに、彼の心はしだいにはやってくる。

(きた、ついにきたんだ、この時が・・・・・・)

 2005年まであと少し。
 そう言ってるうちにカウントダウンだ!

 ドキドキする。あと少し、あと少しなんだ。
 この緊張感、きっと世界中の人々が感じているに違いない。

 彼は今すぐ叫びたい言葉を、ぐっと飲み込んだ。

 まだダメだ。

 もう少しの辛抱なんだ。



 ちらっと横目で時計を見る。
 おぉう! あと3分足らず!
 こうしてはいられない。早く準備しなければ。

 彼は、すちゃっとレコードを取り出した。
 注意深くレコード盤に乗せ、再び時間を確認した。


(きたきたきたーーー!)

 カウントダウン開始!

「5」

(さよなら、サル年)

「4」

(さよなら、人類)(←「たま」でしたっけ?)

「3」

(校長先生、今頃泣いてるだろうなぁ)

「2」

(おごれる者久しからず。これからは「トリ」の時代だよ)

「1」

(くぅぅぅぅぅ!)

「ハラショー!!」

 三太の叫びとともにレコード盤が回り始めた。

♪ちゃっちゃらちゃららっ ちゃ〜ららっ♪♪♪

「ハラショーハラショー!スパシオ〜〜〜」

 彷徨がいたら「それを言うなら“スパシーボ”」と訂正されたであろう言葉とともに、三太は上機嫌でくるくると踊り始めた。

 うれしい!うれしいうれしい!!
 今年が「トリ」年というだけで彼の心はハッピーハッピー“トリ”プルハッピー! トリフルエンザ(※正しくはトリインフルエンザ)なんか気にしな〜い!

 あははは〜 あはは〜 ・・・・・・・・(略)・・・・・・ ←ちょっと望状態?

 心はハレバレ。いいなぁ〜トリ年!! あははは〜〜〜




*〜*〜*〜*〜*〜*〜*




「三太、おい三太! 起きろってば! もうとっくに年が明けてるぞ」
「幸せそうに寝てるね〜、三太くん」
「一緒にトリ年を祝おうとかなんとか言って、他人の家に押しかけてきといてコレだもんな」
「リハーサルまでしたのにね」

 目が合って、未夢と彷徨は笑い出した。

「今年も三太に振り回される一年かな」
「親友でしょぉ、彷徨さんや。あきらめなさい」
「同じ振り回されるなら、未夢のほうがいいけどな」
「え? なんか言った??」
「べ〜つにぃ☆」
「うそ! ぜぇ〜ったい私の悪口言ってる!」
「言ってません」

 そばでこんな会話がなされているというのに、当の本人は熟睡状態。あまつさえ笑みまで浮かべているその姿に、彷徨と未夢は、くすっと笑わずにはいられない。

「今年はやっぱり三太の年かなぁ」
「え? 三太くんて年男??」
「それを言うなら“トリ男”」
「あぁそっか。念願の“トリ人間コンテスト”に出るんだね〜ぇ」
「三太なら“トリ人間”になれるよな」
「なれるよぉ!」

 未夢の拍手を全身に受けて、トリ男、新年の第一声。

「ハラショー! トリ(?)って最高ーーーーー!!(←寝言)」

「三太、近所迷惑」

 親友のスルドイ突っ込みを全身に受けて、トリ男はにんまり微笑む。
 あぁ、我が世の春♪ そんな新年の一場面(ワンシーン)・・・・・・













「ん? どーしたの?彷徨。ため息なんかついて」
「一年後」
「一年後?」
「きっと今日以上に大騒ぎするよなぁ、三太のやつ」
「う・・・そーかも・・・・・・」

 おごれる者、久しからず。
 とはいえこの一年、三太にとって幸せな年でありますように。


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