作:英未
【注意】これは先に公開している「春宵の夢」のパロディ版ですが、内容は全く同じではありません。何が違うかって、勢いが違います(笑) その勢いとは、「神様のいたずら」シリーズ(?)並……かな?(^^;
はっと気付いたら、花嫁姿でバージンロードを歩いていた。
その両脇にはたくさんの人が詰めかけていて、口々におめでとうと言っている。異様なほどの盛り上がり方に疑問はあるものの、ふと耳に入った「王子様!」という言葉に、未夢の目はクリス以上に輝いていたかもしれない。
(え? 王子様??)
ガバッと、未夢は隣を歩く新郎に目を向けた。
その瞬間、表情は気持ちを正直に表していたのだろう。
「なんだよ、そのハトが豆鉄砲食らったみたいな顔は」
口の悪い王子様は、横目で未夢を見ながらぶっきらぼうに言い放った。
「な、なんで彷徨が王子様なのよっ!」
不機嫌そうに言う未夢を気にした風もなく、彷徨は黙々と歩いていく。
「だいたい、これって何なの? 前にも似たような……」
そう言いかけて、あっと未夢は口に手を当てた。
(思い出した。シンデレラの絵本!)
以前彷徨と一緒に入ってしまった絵本の世界。一緒に…と言うと語弊はあるが、まぁそんなところだ。あの時もこんな風に彷徨とバージンロードを歩いた。そして、そして、そして……
(ちょっ、ちょっと待ってよ〜〜〜)
あわてて彷徨を引き止めようとしたときには、もう手遅れだった。いつの間にやら、やけにワンニャー若パパヴァージョンに似た(というより、そのもののような)神父様がテキパキとコトを進めて、未夢に向ってにっこりと言ったのだ。
「誓いますか?」
「あ、あの……」
言いよどんだ未夢に、神父様はにこにこと無言の催促をかけてくる。そのとき、うら若い…という形容詞で表現していいものかどうかちょっと疑問に思うような、そんな女性の悲鳴に似た叫びが聞こえた。そう、例えるなら、絹を引き裂くような…と言うよりは木綿…いやいや、ちょっとちがう。“ざる”というか“たまご”というか“ごま”というか、もしかしたら“焼き”か?それとも流行り(?)のそうめん風??
「母さん、それって“豆腐”」
と息子(彷徨)のツッコミが入ったところで正確に表現するならば、素材は綿・ポリエステル・ポリウレタン、ハイゲージのリブでカラーヴァリエーション32色!3尺1本フェイス埋まりまっせ!だけど値入は5%……そんな定番いらんわ!
「母さん、靴下の仕入やってるわけじゃないんだから…」
えぇ、そうですね。絹とか綿とか言うからいけないのですね。
では、気を取り直して…。 そう、例えるなら天をも貫く魂の叫び(?)
「誓いますわ! 私(わたくし)誓いますわよ、彷徨く〜〜〜ん!」
髪を振り乱したお嬢さんが、目をぎらつかせながら今にも割って入ろうとしているのを見て、思わず未夢は彷徨の腕にしがみついた。それを見たクリスは、ほとんど鬼の形相状態。
「クリスちゃん、落ち着いて!」
「どうどう!クリスちゃん!!」
二人のご学友が必死で取り押さえるなか、神父様はその叫びを未夢のものと受け取ったらしく、声高々に宣言した。
「さ〜あ、メ〜ンイベ〜ント! 誓いのキスですよ〜〜〜!!」
「きゃ〜〜〜い!!!」
「へ? ルゥくん???」
いつの間にやら天使まで。吹くたびに「ピキピキ」と音がするラッパを楽しそうに吹いている。よくよく見ればそのラッパ、ピキピキエンジェルのイラスト入り……
「へ〜え、夜星が欲しがりそうなピキピキエンジェルグッズだな」
感心したように言う彷徨の言葉に、未夢はガクッと力が抜けた。
「あのねぇ! 夢とはいえせっかくの結婚式だっていうのに、なんで妙な盛り上がり方してんのよっ!」
そんな未夢の叫びに、敏感に反応した声があった。
「未夢、結婚式は楽しいほうがいいよ。でないとパパは、未夢がお嫁に行ってしまってさみしくてさみしくて……せめて式くらい楽しく過ごしたいよ……」
未夢の後ろで、父親の優が、未夢が歩いてきたバージンロードにひたすら「の」の字を書き出した。
「あらあら未夢、アットホームな結婚式じゃな〜い。パパのためにも楽しくやりましょうよ!」
そう言う母親の未来は、ワイン片手にすでにできあがっている模様。ちなみにそのワイン、どこから出したかは誰も知らない。
「はいはいはいはい、悩まな〜い!考えない! 私に任せてみなっさ〜い!」
パンパンとてをたたいて、神父様がにっこり笑いかける。
「さ、誓いのキス、いってみましょう。皆様カメラ片手にお待ちかねです♪」
にっこり、いやいや、にんまり…といったほうが正しいそうな神父様の笑顔に、未夢はどう反応していいものやら分からず、とうとう硬直してしまった。
未夢さん、ピンチです。
◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆◆◆
何がどうなっているのだろう。
ただハッキリ言えるのは、今間違いなく、自分は彷徨とキスさせられそうになっているということ。
(な、何なのよ〜〜〜)
真っ赤になってうつむく未夢の頭の中は、ミュージカルやってるNOVAうさぎちゃんやら、SL機関車の上で仁王立ちしているNOVAうさぎちゃんやら、「ぷりっ♪」と調子づく仁王くんやら、それに注意を与える柳生くん(眼鏡がキラリ)やら、その他大勢が入り乱れて、まぁ早い話がパニック状態。「リズムに乗るぜ!」とさり気なく流れに任せろと注意された気がしなくもない。
「未夢さん、もしかして、この期に及んでそんなことできないとかなんとか言い出すんじゃあないですよね?」
神父様の目がキラーンと光る。
「え、あ、あの、その…」
未夢が答えに困っていると、客席(?)から声が上がった。
「じゃあさっ、俺が誓うよ!」
見れば黄色のスーツに身を包んだに三太が、うきうきと近づいてくる。
「彷徨、光月さんが迷ってるなら、俺と誓おう!」
「ちょ、ちょっと三太くん、何言って…」
あわてて止めに入る未夢を、彷徨が制した。
「いいんじゃないか? 未夢が嫌だって言うなら」
「え?」
「こっち来いよ、三太」
他ならぬ彷徨にそう言われ、未夢は呆然としてしまった。
(負けたの? 私、男子に負けたの?……)
それって、女としてどうなんだろう。ちょっと不安になった。
そんな未夢には目もくれず、三太は声高らかに宣誓した。
「黒須三太、彷徨との永遠の友情を誓います!」
「では、誓いの握手をどうぞ〜♪」
「はーい!」
どっと、まわりから感動の拍手が沸き起こった。
(な、なんなのよ……)
異様な盛り上がりに納得いかず、未夢は三太に声をかけた。
「ねえ三太くん、これって彷徨と私の結婚式なんだよね?」
瞬間、三太の顔が険しくなった。
「光月さん、まさかとは思うけど、俺と彷徨の友情を邪魔しようっていうんじゃないよね?」
「邪魔する気なんてないけど、これって結婚式なわけだし…」
「光月さん!」
みるみるうちに、三太の両眼から滝のような汗…じゃなくて涙が流れ落ちた。
「やっぱり、俺と彷徨の仲を邪魔する気なんだーーー!」
「ち、ちがうわよ」
「違わねーな、違わねーよ、どーーーん!」
泣きじゃくりながら人差し指を真っ向から突きつけられ、未夢は思わず後じさりした。
(三太くん、さりげにキャラが変わってる!)
「うわーーーんっ! 俺のダンクスマッシュがーーーっっっ!」
そう言って、どこかのキャラになりきったような三太は、韋駄天のごとく走り去った。そのあまりのスピードに涙がついていけず、糸を引いたような状態になりながら…
(な、なんなのよ、これ…)
あんぐりと口を開けて三太を見送る未夢の背後で、また声が上がった。
「やあ未夢っち。西遠寺くんと結婚しないって言うのなら、僕が誓ってもいいかな?」
「え、ちょ、ちょっと、望くん!」
いきなり望からプロポーズ?と思ったのもつかの間、望はつかつかと彷徨の隣に立つと、真紅のバラを高々と掲げ、宣誓した。
「光ヶ丘望、西遠寺くんとは永遠にライバル同士であることを誓います!」
「では、誓いのバラの交換を♪」
「さあ西遠寺くん、受け取りたまえ!」
あははは〜という望の笑い声とともに、ざしゃあっと大量のバラが降ってきた。
またもや、どっとまわりから感動の拍手が起こった。
(三太くんといい、望くんといい、何なのよ…)
呆然とする未夢に、望がウインクする。
「未夢っちの気持ちはよく分かってるよ。僕だって、できることなら未夢っちと永遠の…」
そこまで言ったとき、ゴツンと鈍い音がした。同時に、望がフラフラと瀕死のマツケンサンバ…いや、きよしのドドンパかもしれない、とにかくダンスを始めたのだった。
「大丈夫ですか?望さん」
神父様が心配そうにしているのとは対照的に、永遠のライバルと誓われた当人は、んべっと舌を出している。目撃者によると、黄金聖闘士もビックリするスピードで凶器らしきものを客席(?)に投げ込んだそうだ。その凶器とやらはピキピキと音がするラッパだったようだが、どうやらそれは、鎧姿の人が錬金術で作り出したものらしい(…と所有者ルゥくんは語る)。
「な、何をするんだ、西遠寺くん」
「ん?いや、なんとなく」
「ふっ、僕の今日の出番はここまでってことかな? アディオース!」
ざしゃあっと大量の赤いバラが舞い、どろんと望の姿が消えた。
(…………)
またもや未夢は、あんぐりと口をあけ、速過ぎる(しかも非常識な)展開についていけずにいた。
(落ち着け、落ち着くのよ、私)
もうこれでおしまいかと、未夢は辺りを見回した。
(だ、大丈夫…よね?)
ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、
「じゃ、ようやく僕の出番かな?」
優雅に微笑みながら現れたのは、未夢のあこがれの人、山村みずきだった。
彼の登場で、客席(?)のご婦人方から、うっとりとしたため息がもれた。
「見て、不二周助よ!」
「え?あの青学の!?」
(誰よ、それ…)
一部ご婦人の中には人違いをしている方がいらっしゃるようですが、本人は気にした風もなく、未夢に近づいてくる。
(も、もしかして、みずきさん、私に……)
とくん、と胸がときめいた。
「未夢ちゃん」
「は、ははははははいーーーーーっ」
未夢の元気すぎる返事に小さく笑い、みずきが未夢の顔をのぞきこむ。
「本当に、彷徨くんと結婚しないの?」
「え?あ、あの……」
どう答えるべきだろう。彷徨が嫌とかそういうことではなく、単に展開についていけないだけで……
もじもじする未夢にうなずいて、みずきはポンと未夢の肩をたたいた。
「じゃ、僕が彷徨くんと誓ってもいいわけだ」
「…はい?」
わけが分からず固まる未夢をおいて、みずきはサッと彷徨の隣に立った。
「じゃ、彷徨くん、僕と兄弟の誓いを交わそう」
にっこり微笑むみずきに、彷徨も笑顔で応えている。
「ちょ、ちょっと待って……」
未夢が二人を止めようとしたとき、またもや声が上がった。
「ちょーっと待ったーーー!」
「さ、三太くん!?」
「彷徨は俺と永遠の友情を誓ったんだ!ボールは友達なんだ!友情フォーエバーなんだよーーー!」
「何を言う!西遠寺くんは僕の永遠のライバルだ!阪神といえば巨人!光といえば影!オスカルといえばアンドレ!僕の邪魔をしないでくれたまえ!」
「の、望くんまで…」
「でもオレ、みずきさんみたいな兄貴がいたらいいなぁって思ってるし」
「彷徨〜〜〜、俺を見捨てないでくれ〜〜〜!」
「西遠寺くん、僕はキミを見損なったよ!」
ぎゃいぎゃいと言い争いを始めた男子連中に、未夢は冷たい視線を投げかけた。
「ちょっと、昔から言うわよね…? 人の恋路を邪魔する奴は…」
ゆらりと、未夢が歩き出した。
「そうですわ、未夢ちゃん! 申しましてよ! 人の恋路を邪魔する奴は、月に代わっておしおきですわ〜〜〜! うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(←適当に続けてください)」
「ク、クリスちゃん!?」
クリスの乱入で場内騒然、一掃された未夢のライバル(?)たちはどこへやら。
「さぁ、彷徨くん、ハッキリおっしゃってください。彷徨くんは、どなたと結婚なさりたいのですかっ?」
ずんちゃっちゃ〜ずんちゃっちゃ〜と近寄ってくるクリスに動じる風もなく、しれっと彷徨は言い放った。
「未夢」
「え?」
「な〜んてね」
んべっと舌を出して、彷徨がにやりと笑う。
「な、な、な、なによ、それ!」
わなわなと、未夢が震えだす。
「女の子のあこがれのウェディングドレス着て、バージンロード歩いて、いよいよ誓いのキスで晴れて結ばれるっていうこの場面で、何てこと言うのよ、信じらんなーーーい!」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
未夢の怒りにクリスの怒り。恋の怒りは女の子を強くする。
ガタピシと建物が崩れ始め、場内パニック、聖域(サンクチュアリ)崩壊か!?
そんななか、ふっと未夢の意識が薄れた。
(え?なに??どうしちゃったの、私???)
薄れゆく意識の中で未夢が最後に見たものは、血相を変えて自分を助けようとする彷徨だった。
◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆◆◆
「おい、未夢、大丈夫か?」
はっと目を開けると、彷徨の心配そうな顔が見えた。
「彷徨?」
「大丈夫か?うなされてたぞ」
「うん……」
ぼんやりと、未夢は記憶をたどった。なんだろう、彷徨にどうしても言いたいことがあった気がする。
「あ…!」
「未夢?」
「ありがと、彷徨」
「何が?」
「さっき、助けようとしてくれたでしょ?」
「…?」
「うれしかったの」
ぽつりぽつりと話す未夢に、彷徨は怪訝そうな顔を向けた。
「いったい、何の……」
そう言いかけた時、がばっと未夢が彷徨に詰め寄った。
「でもね!誓いのキスまでしようとした相手に、あんな言い方ないでしょ!」
「はい?」
「信じらんないわよ!ほんとに私と結婚する気あるの?」
「ある」
「じゃあ、なんであんなこと言うのよ。結婚式ぶち壊しよ!ってことは結婚できなかったってことでしょ?」
涙目で訴える未夢に、彷徨は静かに話し出した。
「あのさ、未夢」
「何よ?」
「たしかにオレは未夢と結婚する気があるけど、オレたちまだ結婚できる年じゃないだろ?」
「…へ?」
「誓いのキスがしたいって言うなら、何十回でも何百回でもやるけどさ」
「あ、あの……」
にやりと笑う彷徨にどぎまぎして、未夢は必死で考えをまとめようとした。
(落ち着け、落ち着くのよ、私〜〜〜)
(ここはどこ? 西遠寺よね)
(私は誰? って、私は私よ)
(で、結婚式の途中…で……)
さーっと未夢の顔が青くなった。
(あれ? なんで結婚って。私まだ16歳になってない……)
がばっと彷徨を振り返ると、おもしろそうにこちらを見ている。
(てことは、あれは……夢………???)
ぽぉーーーーーっと未夢の顔が赤くなった。
(な、な、な、なんて言ったの、私。彷徨に、誓いのキスとか、結婚する気があるのかとか……)
かぁっとさらに赤くなって、未夢はハタと動きを止めた。
(あれ?彷徨、さっき結婚する気あるって、言った…よね?)
未夢は再び、がばぁっと彷徨に詰め寄った。
「か、彷徨、今、なんて?」
「二度は言わない」
にやっといたずらっぽく笑い、彷徨はんべっと舌を出した。
「えー!? 私、すっごく聞きたいな♪」
「かわいく言ってもダメ」
「……」
なんだかものすごい悪夢を見ていた気がするけれど、その分すごいことを聞いてしまった気もする。
春宵一刻値千金。
前に彷徨が言っていた。でも正直、意味は忘れてしまった。けれど……「春の宵」とは、なにか不思議な力が働いているのかもしれない。
春の宵が言わせた、彷徨の素直な気持ち。
にんまりする未夢に、彷徨が訊いた。
「で、誓いのキス、やるの?」
「な、なんで……」
「何十回でもやるって言ってるのに」
「ななな、何てこと言うのよーーー!」
(またからかってる!)
いたずらっぽく笑う彷徨を見れば、からかわれていることが分かる。でも、なんだろう、この気持ち……
(からかわれて、喜んでる???)
首をかしげる未夢を、おもしろそうに彷徨が眺めている。
やはり、春の宵には、不思議な力が働くのかもしれない。
そう思って、未夢はくすっと笑った。
(ま、いいか。夢の中のことは許してあげよう)
なんだか急に彷徨に甘えたくなって、彷徨が慌てるのもおかまいなしに、未夢は彷徨に抱きついた。気分はまだまだ夢の中。少し大胆になっても、それはやっぱり夢の中。
だから、これはきっと、春宵の夢。
女の子だけの、秘密の夢。
春の宵には、くれぐれもご用心♪
お疲れ様でした。書くのも疲れた小説ですが、読むのも疲れると思います、この小説(^^; 勢いだけで、何も考えずに書いていますので、つじつまの合わない所もあるかと思いますが、どうぞご容赦を。