神様のいたずら

作:英未

 →(n)


 12345HIT 南しゃんのリクエストです。2つリクエストいただいたうちの書きやすいほうを採用・・・という条件でした。2編並行して書いていましたが、こちらが先にあがりましたので、キリリク小説として公開させていただきます。
 リクエストは「いたずら」でした(^^)





 
 カチコチと時計の音が響いている。
 しん、と静まり返った西遠寺。ただ今の時刻は午前・・・

「2時くらいかなぁ・・・」

 ころんと寝返りをうって、未夢がため息をつく。

「眠れないよ〜〜〜」

 ころん、と、また反対側にころがってみる。
 いつもよりずいぶん早く布団に入ったというのに、びっくりして飛び起きてしまうほどの夢を見た。それからずっと、こんな調子で眠れない・・・

「う〜〜〜、なんであんな夢見たんだろう・・・」

 思い出して、ボンと顔が赤くなる。
 思わず、ぎゅっとタオルケットをにぎりしめた。

「綾ちゃんたちに、あんなこと訊かれたからかなぁ・・・」





 夏休みという開放感にどっぷり浸った頃にやってくる登校日。クラスのあちこちで近況報告が持ち上がる。

『グアムに行って・・・』
『田舎へ行く予定なの・・・』
『プレ○テ2買ってもらうんだ・・・』

 そんななか、綾が真剣に尋ねてきたのだ。

『私ね、秋の演劇祭に向けて、夏休みに超大作を書き上げるつもりでいるんだけど・・・』

『綾ちゃん、すご〜い』

『へ〜、どこまで進んだのよ〜?』

『それが、かんじんなところで詰まっちゃって・・・』





 その後に続く話を思い出してボボンと顔が赤くなる。

 綾たちの言葉がずっと頭の中に残っていて離れない。そのせいか学校でも帰宅してからも、彷徨の顔をまともに見られない。いつもなら一緒にテレビを見て、あ、こんな時間だ、そろそろ寝よう、といった具合に一日が終わるのだけれど・・・

「う〜〜〜、夢なんて久しぶりに見た気がするよ〜〜〜」

 ため息をひとつつくと、未夢はガバッと起き上がった。

「仕方ない。何か飲んで落ち着くとしますか・・・」

 にっこり笑うと、未夢はそっと部屋を出た。





*****





 そろりと台所をのぞいてみる。

(時々彷徨がいたりするから、用心用心・・・)

 真っ暗だった。

(大丈夫だね♪)

 ほっとして、明かりをつけた。

「眠れないときはやっぱりホットミルクよね〜〜〜♪」

 ひょいとカップを取って冷蔵庫を開ける。ひんやりした風が頬に当たって気持ちいい。

「・・・って、なんでこんな暑い夜にホットミルクなのよ?」

 お疲れですな〜と自分で自分をねぎらって、未夢は冷蔵庫の中を見回した。

「あ、これにしよ!」

 未夢が取り出したのは、彷徨お気に入りの野菜とフルーツのミックスジュース。彷徨はジュースよりお茶の方を好むが、何故かこれだけはお気に入りのようで、いつも満足そうに飲んでいる。



『それって、お砂糖入ってないんでしょ? おいしいの??』
『未夢はお子ちゃまだから、甘々なジュースしか飲めないんだろ?』
 
 にやりと笑う彷徨に反論出来なくて、素直に飲みたいと言えなかったのだ。



「これこれ!『トドメの野菜?生活100』! よ〜し、ちょっともらっちゃおう!」

 うきうきとテーブルにつき、注いでみる。
 朱色の液体が、なんとも緑黄色野菜っぽい。

「・・・彷徨さんや・・・」

 カップに注ぎきって、未夢は思った。
 なんて、中途半端な量・・・。

「あ〜あ、なくなっちゃった。これじゃ、私が飲んだってバレちゃうじゃない・・・」

 でもカップに入れてしまったものをまた戻すのもなんだしと、未夢はおそるおそる口をつけてみた。

 こくん、とのどが動いた。

「お、おいし〜〜〜!」

 意外にもいける味。

「彷徨って、こういうの好きなんだ・・・」

 ほわんと顔が赤くなる。

 またひとつ、彷徨のことが分かった。
 
 少しずつ、少しずつ、彷徨のことを知っていく。第一印象は最悪だったのに、少しずつ彷徨のやさしさが分かるようになって、少しずつ彷徨の好みを知るようになって、少しずつ、少しずつ、彷徨のことを知っていくことにうれしくなっている自分に気付いたのは、いつ頃だっただろう・・・

(な、なんか変だよ、私・・・)

 気付いたことは他にもある。

(無意識に、彷徨の姿を追ってるんだよね・・・)

 ぽてん、と未夢は机に突っ伏した。

 今の自分は、昨日までの自分とちがっている、とふと思った。
 何がちがうのかよく分からない。でも、たしかに、今までとは何かがちがう。

 気付いたきっかけは、綾の言葉・・・





*****




『それが、かんじんなところで詰まっちゃって・・・』

『かんじんなところ???』

『そう!そうなのよ! 第一印象最悪〜〜〜な二人が親の都合で一緒に暮らすことになったんだけどその親達が子供の頃からの夢をかなえるんだ〜〜〜な〜んて家を飛び出しちゃってぬわにぃーーー!二人っきりで暮らすのーーー?ってところへ異世界から赤ちゃんとそのお供の見たことのない生き物がひょんなことから二人のところへやってきてしっちゃかめっちゃか☆きゃーいきゃいって生活を送っていくうちに二人の間に淡〜い恋心が芽生えてくるんだけどお互い素直じゃないから全然気持ちを伝えられなくてでもこれじゃいけないどーすんだーーー!ってところでクライマックスのキスシーンなのよっ!!』

(どっかで聞いたような話・・・よね・・・。彷徨が聞いたら、どっかで見てたんじゃないかって突っ込みそうな・・・)

 いっきにまくし立てた綾をボーゼンと見ながら、未夢とななみは無意識に拍手を送っていた。

『問題はここよ! キスシーンよ! もうここはなんとしてもロマンティックにエレガントにジュディ〜〜〜って感じはイヤだけど誰もがうっとりするようなシーンを演出したいのっっっ!』

 おぉ〜〜〜と、未夢とななみは相変わらずボーゼンと拍手を送っている。

『・・・で、未夢ちゃん、どうなの?』

 ずいと綾がせまってくる。心なしか目がすわっているようで・・・

(うっ、なんか綾ちゃん、・・・コワイ)

『未夢ちゃん、未夢ちゃんだけが頼りなの! このシーンを完璧なものにするために、未夢ちゃんの経験をぜひっ!』

『・・・は?』

『未夢ちゃん、今は夏、夏といえば恋、恋といえばカッコイイ男の子! ほら、一緒に住んでてどうなのよっ?教えて〜〜〜、お願いよ〜〜〜!ネタが必要なのよ〜〜〜!』

 よく見ると、いつの間にやら綾の頭上に「プチ」と書かれたみかんが・・・

『未夢、今の綾は・・・』

『プチみかんさんモード・・・ですなぁ』

『そうですなぁ・・・』

『目、すわってるよね・・・。締切前のみかんさんが、ちょうどこんな感じなんだよねぇ』

『ははは・・・。すっかり未夢と自分が書いた登場人物を混同してるよ、こりゃ・・・』


『未・夢・ちゃ・ん?』

『は、はいっ』

『ど・う・な・の???』

『え、え〜と・・・』

(そんなことあるわけないじゃない・・・って言ったらどうなるんだろ・・・)

 言いよどむ未夢に、ずずいとせまっていく綾。
 突然、綾の瞳がきらーん!と輝いた。

『そうか、そうよねっ! 女の子の方からってのもいいかもっ! 人に言えない理由はこれかぁっ!』

『あ、あの、綾ちゃん?』

『あ、でもこういうとき、男の子ってどう反応するんだろ? やっぱり西遠寺くんに取材するしかないかなぁ・・・』

『あ、あのね、綾ちゃん・・・』

『ま、それは後でもいいか。よーし、これでいくわよ、今年もやるわよ、エイエイオー!』

(綾ちゃん・・・)

 ななみがやれやれと肩をすくめる。

『ななみちゃ〜〜〜んっ』

『で、ほんとのとこ、どうなのよ?未夢』

『な、ななみちゃんまでっ!』

『あはは、冗談、冗談よ☆ もしそんなことがあったら、すぐ分かるって』

『な、なにそれ?』

『未夢見てればすぐ分かるよ〜♪ ま、西遠寺くんにはかなわないけどね』

 そう言って、ななみは笑った。





(あれって、どういう意味なんだろ?)

 意味を訊いてもななみは笑ったまま教えてくれなかった。
 そうこうしているうちに、綾が「やっぱり主役の二人は未夢ちゃんと西遠寺くんかな〜」なんて言い出して、彷徨とキスシーンを演じることに、なんとなく・・・

(彷徨なら、いいかも、・・・って思えたんだよね・・・)

 ・・・他の男の子なんて、考えられなかった。

 そのせいだろうか? 夢を見たのだ。





 夢の中で、未夢は彷徨と腕を組んで歩いていた。なんだかとっても幸せで、ちょっと甘えてみたくなって、彷徨にささやいてみた。

『・・・キス・・・して』

 彷徨はふっと笑って、甘いキスをしてくれた。そんな彷徨に応えるように、未夢は彷徨の首に腕を絡めて、今度は自分から・・・





 がばっと未夢は顔を上げた。

「な、何考えてるのよ〜〜〜」

 さらに顔を赤くしてぶんぶんと首を横に振る。

(変だよ変だよ、私〜〜〜)

 ぼふっと机に突っ伏した。
 心臓の音が時計の音にかぶさって響いている。どきどきどきどき、と秒針よりも速い・・・





(・・・?)

 台所の入口で、つい、と影が動いた。



 未夢はまだ机に突っ伏したまま・・・





 突然、未夢は顔を上げた。

「そうよ、きっとそうだよ〜! これは神様のいたずらだよ〜〜〜」

 ぽん、と手をたたいてにっこり笑う未夢。

「あの話を聞いた神様が、『どれ、ちょっくらいたずらしてみようかのう』な〜んて思ったんだよね〜、きっと!」

 は〜、一件落着と言わんばかりに、未夢はしきりにうんうんとうなずいていた。





*****





「・・・で、一件落着したトコで、説明をお願いしたいんですけど?」

 突如かけられた声に、未夢ははっとしてドアの方を見た。
 そこには、呆れ顔の彷徨が、腕組みをしながら壁にもたれて立っていた。

「こんな時間に何やってんだよ?」

「かかか、彷徨・・・、なんで・・・」

「なんでって、のど渇いたから何か飲もうと思ってきたら、未夢がわけの分からんことやってるし・・・」

 憮然と答える彷徨の視線が、テーブルの上に止まった。

「・・・まさか、それ飲んだんじゃないだろうな?」
「あ、あの、あのね、その、つまり・・・」

 つかつかとそばに寄って来る彷徨から目をそらすこともできず、未夢はぱくぱくと口を開いている。

「・・・飲んだな? あんまり残ってなかったのに」

 ちらっと未夢を見て、彷徨がくやしそうに言う。そして、テーブルの上のカップに気付くと、目をすがめて尋ねた。

「・・・なんで、オレのカップ使ってるわけ?」

「・・・は?」

 見れば、どう見てもそれは彷徨のカップだった。

「え?え??えぇーーー???」

(なんで? なんで〜〜〜??)

 わけが分からず、未夢はわたわたと言い訳を考えていた。

(む、無意識に取ったとしか言いようが・・・って、なんでよりにもよって彷徨のカップを・・・)

 だらだらと冷汗をかく未夢を見て、彷徨はため息をひとつつくと、すいとカップを持ち上げた。

「か、彷徨?」

「所有権はオレにあるよな?」

 にやりと笑うと、彷徨は未夢が止める間もなくカップに口をつけた。

(ひゃぁぁぁぁ!!)

 未夢の焦りなどおかまいなしに、彷徨はカップをからにする。

(こ、これって、もしかして、か、間接・・・)

「・・・? なんだよ?」

 未夢の憔悴振りが気になったのか、彷徨が未夢の顔を覗き込む。

(ひゃぁぁぁぁ、ダメ! ダメだってばぁぁぁぁ!!)

「・・・?」

 怪訝そうにしながらも、それ以上尋ねることなく、彷徨は未夢の隣に腰を下ろした。

 未夢がほっとしたのもつかの間、

「・・・で?」

 にやりと笑って、彷徨が尋ねた。

「神様のいたずらって、何?」

「・・・え?」

「さっき言ってただろ?」

 彷徨はカップをもてあそんでいる。
 未夢はついついそのカップを目で追ってしまう。

 

 さっき、彷徨が口をつけた・・・。その前に、自分が口をつけた・・・。



 ・・・同時に、さっき見た夢を思い出す。



 ボンといっきに顔が赤くなった。

「う、それは・・・」

「それは?」

「ゆ、夢を見たの・・・」

「夢?」

「か、か・・・」

「か?」

「か、神様にキスされた夢・・・」

「・・・は?」

「も、もういいでしょ? 私寝るから・・・」

「よくない」

 立ち上がりかけた未夢の腕をつかんだまま、彷徨は未夢の顔を見つめている。

「神様って、どんなやつ?」

「え?」

「未夢にさわったやつって、どんなやつ?」

「・・・ど、どんなって言われても・・・夢の中の話だし・・・そ、それに・・・」

(あなたです、なんて言えないでしょっ! もうっ、なんでそんなにこだわるのよ!)

「未夢?」

 未夢はぎゅっと目をつぶったまま答えない。いや、答えないのではなく答えられないのだけれど、彷徨にはそれがやけに気に障った。





(・・・これじゃ持久戦だな)

 彷徨がため息をついた。

(ようし、そっちがその気なら・・・)

 彷徨は、ふと思いついて声をかけた。





「未夢、神様って、こんなやつじゃなかったか?」

「え? どん、な・・・・・・!・・・」

 彷徨の声につられて顔を上げた未夢の唇に、彷徨のそれが重ねられた。



 夢の中と同じ、甘いキス・・・



 長い、長い時間に感じられた・・・






*****





 どれくらいそうしていただろう。

 ようやく、彷徨が開放してくれた。



「・・・神様って、こんなやつだったろ?」

 いたずらっぽく舌を出して、彷徨が笑ってみせる。

「・・・もうっ、自信過剰!」



 未夢が笑う。

 彷徨が笑う。



 ようやく分かった。
 今の自分が、昨日までの自分とちがう理由に・・・





「神様のいたずらって、キスだけですんだのか?」

「ど、どういう意味よっ!」

「・・・動揺してるってことは、まだ何かあったな?」

「べ、べべべ別になにもないわよ!」

「むきになって否定するところが怪しいな〜♪」

「う・・・」

「・・・で?」



 体中が熱い・・・

 そんなほてった腕を彷徨の首にまわして、未夢はそっとつぶやいた。



「これじゃ神様のいたずらって言うより、彷徨のいたずらだよね・・・」

「・・・人聞き悪いな」

「そういうこと言うと、続きを教えてあげないんだから・・・」

「へーぇ、教えてくれるんだ♪」

 う・・と返事に詰まって、未夢はぷいと視線をそらせた。

「もう、知らない!」

 苦笑して、彷徨が言った。

「だったら、オレが続きを教えてやるよ」

「・・・え?」

「未夢がひとこと言えば始まる・・・」



 彷徨の瞳が妖しく訴えかける。



 未夢の瞳が艶っぽく揺れた・・・



「・・・キス・・・して」



 彷徨がふっと笑った。



 それが甘いキスの始まり。

 神様のいたずらから始まった、甘く、幸せなキス・・・

 お互いの気持ちに気付いた、深く、長いキス・・・



 いつまでも、こうしていたい・・・





「あ、言っとくけどな、未夢」

「ん? 何?」

「神様とか言ってたけど、うちは寺だぞ」

「・・・そうきましたか、彷徨さん」

「まだまだ自覚が足りませんな〜」

「なんですって〜!」

 甘いムードぶち壊しの彷徨の言葉に、未夢は思わずさけんでいた。

「・・・もうっ、なんで彷徨じゃなきゃダメなんだろ」

「そんなの当たり前のことだろ?」

「なんでよ?」

「・・・オレが未夢じゃないとダメだから」

 

 ふしゅ〜と未夢が倒れこむ。



「お、おい、未夢!?」





(神様は、その人の一生に一度だけ、こんないたずらをされるのでしょうか・・・)

(だとしたら・・・)





「未夢?」

 未夢は彷徨の首に腕を回した。

「好きだよ、彷徨・・・」

 おどろく彷徨に、未夢はそっと唇を重ねた。



(・・・だとしたら、彷徨にもいたずらしなくちゃね)





 未夢にキスされた神様が、微笑んだ・・・



 
 「この小説自体、西遠寺英未のいたずら」・・・と打ちかけたとき、リクエストしてくださった南しゃんからメールが! どきどきどきどき(汗) なんでいたずらがバレたんだろう、千里眼か?南しゃん??と、びくびくしましたわ(笑) いつもの業務連絡でした(よかった〜)
 さて、二転三転したこのお話。はじめに書きかけたお話とは全く別物(汗) 望の出番、没になりました・・・(ぉぃ) また、これと並行して書いているもう一つのリクエストは、キリリク小説としてではなく、ネタご提供というかたちで、きちんと書き上げて公開したいなぁと思っています(・・・希望ですけど)。
 それから、この小説、いつもの書き方をご期待頂いていたとしたら、ごめんなさい。たまにはこういうのもいいかな〜なんて♪ 書いてて恥ずかしかったけどね・・・
 「トドメの野菜?生活100」・・・すみません、ちょっとしたいたずら心です(汗)

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