作:ちょび
「ねえ、お見合いしてみる気ない?」
それは、突然の話だった。
ずっと、このままで、子供たちと暮らしていくものだと思っていたから。
まさか、わたしにそんな話が来るなんて思ってもみなかった。
「ね?それに、あの子達にも、父親は必要なんじゃない?」
彼女は渡された相手の写真を見てみた。
その人物に対しては、特に何の感情も浮かばなかったが・・・・。
「平尾町?」
「ええ、そこに住んでいるのよ。それが何か?」
(平尾町、ヘイオマチ・・・・なんだろう、なにか、懐かしいような・・・
せつないような気がする。)
『帰っておいで・・・。』
どこからか、彼女、海月にささやくような声が聞こえた。
「このお話、お受けします。」
(もしかしたら、この町に、わたしの失くしたものがあるのかもしれない。
だったら、行くしかない・・・!大事なものを取り戻すために・・・。)
「新名海月(にいな みつき)?」
「ああ、この写真を見るかぎり、彼女は間違いなく光月さんだと思う。で
も、今の彼女は新名海月なんだ。これは、この話を持ってきた叔母さんから
聞いた話なんだが、聞いてくれよ。」
10年前、三太の叔母、新名美砂はアメリカから帰ってくる途中、飛行機事
故にあった。
そして、海へと墜落し、三日三晩飛行機の残骸につかまり、海を漂っていた。
そこで、彼女ー海月と出会ったのだ。
「ねえ、あなた、しっかりして!」
「お願い、助けて・・・・。あの人が待っているの。」
「そうね、きっと助けは来るわ。だから、あなたも頑張って!」
気がつくと、二人は病院のベッドの上だった。
美砂は、隣りで眠っている海月を静かに見ていた。
(よかった、助かって・・・・。)
「新名さんですね?隣りの女性は、妹さんですか?」
「いえ、海で流されていたとき、たまたま近くにいただけです。」
やがて、彼女も目を覚ました。
「ここは・・・?」
「病院ですよ。さっそくで、申し訳ありませんが、あなたのお名前を教えて
ください。」
「名・ま・・え・・・・わたし・・・?」
彼女は、全ての記憶を失っていた。
さらに、お腹のなかに新たな命も宿していて、医者と警察につらい選択を迫
られたのだ。
「どこの誰かもわからない、今のあなたに子供を育てるのは無理です。今な
ら、おろすことも出来ます。」
「あんたも、そのほうがいいんじゃないかね?」
(たしかに、保護者もいない、頼れる人のいないわたしに育てるのは無理か
もしれない。でも、でも・・・・。)
「わたしが、彼女の面倒を見ます。」
そう言ったのは、美砂だった。
「わたしの両親が残してくれた家もありますし、それなりに収入もありま
す。彼女たちの世話くらい、みれます。それに・・・・、女にとって、子供
をおろすことが、どんなにつらいことか!」
「しかし、あんたにとって、この子は赤の他人じゃないのかね?」
「他人じゃありませんよ。あの極限状態の中を、二人で励ましあった、同
士です。」
「ありがとう、ございます・・・。」
「名前がないのは、不便よね。月のきれいな夜に、海であったから・・・・
海月。海月ってのはどう?」
「新名・・海月・・・。」
ちょびです。
急いで書いたから、ちょっと短くなっちゃいました。
次回は、もう少し中身のある話が書けるといいんだけど・・・。
けっこう、記憶喪失ネタ好きなんですけどね〜〜〜。
それでは。