全ては黄昏となりて外伝

2人

作:しーば

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未夢が居なくなって、何日経ったのだろう?
日数なんて数える気力も無く、ただ未夢の居た時の事だけを考えていた。

未夢が居なくなった前日、些細な事で言い合って未夢を一人で行かせた俺が駄目なんだ、全部俺のせいなんだよ!未夢を死なせたのは!おい!なんでだよ!答えろよ!未夢を返せよ!


「じゃあ、こっちに来てよ」

未夢に似た声が聞こえた瞬間、俺は時空の歪の様な空間に吸い込まれた。
中は真っ暗で、時折り未夢の様な声が聞こえる。

「彷徨」

「彷徨ってどうしてそうなの?」

「もう、彷徨なんて知らない!」

「ねぇ、彷徨あのね・・・」



真っ暗な空間の先に、一筋の光りが見えた。
段々とそれが近付いて大きくなって、最後はその光りの空間に投げ出された。

その空間には、俺と未夢との思い出の記憶が巡っていた。
右から左、上から下へと、2人でいた時の場面が流れている。

未夢と初めて出会った時の記憶もある、初めて想いを伝え合った記憶もある。



一つの記憶に触れようとした時に、真っ白な空間からさっきまで居た境内の場面に移り変わった。

目の前には、未夢が立っていた。

「未夢・・・、未夢なのか?」
目の前の人物は唇の前で人差し指を立てて、ゆっくりと首を振った。

でも、目の前に居るのは明らかに未夢本人にしか見えない。
今の俺には一番逢いたかった人物、今すぐにでも抱きしめたい人物。

その人物が微笑みながら、ゆっくりと左手で石段の方を示す。

俺は、その場を離れて石段の上から下を見下ろす。
すると、石段を下り終えたいつも見慣れた後ろ姿があった。

俺は境内に居るもう一人の方を見る。

「今度こそ、逃したら駄目だからね。早く追いかけて」と言い残し、その姿を消し去った。

俺は、石段を急いで下った。

未夢が何処に行ったのか分らずに町の中を走り回る。
今度こそ逢ったら、絶対に離さない、今ならまだ間に合う。

そう信じながら走り続け、交差点で目的の女性を見つけた。
未夢は信号も見ずにフラフラとよろけるように歩いていた。

俺はそれを見て走り出した。
どれほど、この瞬間を怨んだ事か、どれほどこの瞬間に戻りたいと思った事か。
「未夢!危ない!」

やった、この瞬間を防げた。
未夢を守る事が出来た、ははっ。

目の前には俺を呼んでくれる愛しい未夢の姿が映る。
だけど、俺の意識が段々と遠のいて行く中で声が聞こえてきた。

「もう少しだけ待ってて、そうしたらパパの大切な人を連れて来るから」


そして、また真っ暗な世界に変わった。

その暗闇の中では、2つの未夢の声で会話が聞こえてきた。


私が叫んだ後、時空の歪が現れて彷徨と私、そして過去の私を一緒に吸い込んだ。

時空の歪に吸い込まれた空間では、私と過去の私2人しか居なかった。
彷徨の姿が何処にも無い。

彷徨!彷徨は何処に行ったの!

どうしてっ・・・どうして、私は・・・こんな事に・・・彷徨ぁー!
もう一度体験できたこの時、彷徨を正直に好きになって、恋人になって、普通に幸せになりたいだけなのに、彷徨が死んじゃうなんて・・・。

私は何のためにここに居るの?

「今の死んでしまった彷徨は幸せなの?好きな女性の世界に居られないんだよ?」
目の前に居る過去の私が言う。

ねぇ!時空の歪で未来に行ければさっきの彷徨を助ける事が出来るでしょ!
お願い彷徨を出して!彷徨を病院に連れて行ってよ!お願い!

「だめ、貴女は幽霊の存在になってまで、私と彷徨の幸せを壊そうとやってきて、乗り移られたせいもあり、今の私の命が長くもたなくなり、さらに私の大切な彷徨を今度は殺してしまったんだよ?こんな罪どうやって償ってくれるの!」


そうね、私が彷徨が幸せになって欲しいと一方的に考えて、その考えをこの世界の私に無理やり押し付ける様な事をして、乗り移ったせいで命を無くしてしまい、この世界の彷徨を死なせてしまった。
私は、今まで何をしてきたんだろう。
時空の歪に吸い込まれていったい何をする為に存在していたのだろう。

これじゃあ、生きていた世界に思い残す事があって悪い幽霊になっていただけなんだ・・・。

あは、あははは。

私って、怨霊になってたんだね・・・気付かないうちに。

「うん、そうだよ、ようやく分ってくれたのね。それじゃあそろそろ成仏してもらえる?」

はい。

ごめん、彷徨。

私凄く我侭だった。

彷徨を彷徨がって言っておきながら、結局自分勝手な考えで勝手に残ってただけ。

しかも、他の世界の私と彷徨を不幸にしちゃって・・・悪霊になってたんだね。

ごめんなさい。

「じゃあね」


消えるような感覚が感じられた時に、暗闇の世界が真っ白な世界に変わった。


そこに、過去の私は存在せず。私の隣に彷徨が居た。

その彷徨が驚いた表情で「未夢」と話して私の手を掴んだ。

「えっ?どうして」と彷徨に聞き返す。

「もう、絶対に離さないからな」と彷徨が私を強く抱きしめる。


「あらあら、ラブラブなのは良いけど、あまり見せつけないでよ、私も恥ずかしいでしょ」

さっきまで過去の私が居た場所に、一人の女の子が立っていた。
過去の私とは姿が、違い彷徨のような顔立ちをしていた。

そんな、女の子が私達を見ながら。

「ねぇ、パパ」
えっ?彷徨がパパ?って事は彷徨の子供?
「ここに居るママがね、ずっとパパの事不幸せにしたって泣いてたんだよ」
その子は泣きながら話し始めた。

「私はそんなママを見ていられなかった。いつもパパの事を考えて、どうして私は死んでしまったんだろう。って後悔しながら

どうしたらパパが幸せになるんだろう?

ママがパパと一緒にならなかったら、ママが死んでもパパは他の人と幸せになれるから。って考えるようになった。


でも、そんなママは私の事に気づいてくれなかった。
私は、ママが死んでしまった時は居たのに、パパも私に気付いてくれなかった。

ママが幽霊になった後、私はどうにかしたいと思うようになった。

だって、私の大好きなパパとママが両方とも泣いて、悲しんでいる姿なんて娘の私には耐えられなかったの。


だから、すぐに今みたいにパパの前にママを連れてこようとしたけど。
その時の私の存在だと、まだそれが出来なかった。


そこで大きくなる為にママの記憶を借りて、ママの過去に似せた世界で私を成長させる事にしたの。
自分の事を幽霊だと思い込んでいたママは、その世界でずーっと私の側に居てくれた。
うーん、ママって言うよりお姉さんみたいな存在で凄く楽しかったよ。

そして、私も一緒に成長する事ができて、ママの存在を安定させる事ができた。


今この世界から、パパとママは生きている存在で、代わりに私が死んじゃった存在になりました。

ねぇ?一つ約束して欲しい事があるんだけど良いかな?
私はもう少しで、何処にも居られなくなっちゃうから」


その子は少し恥ずかしそうに照れながらこう言った。


「必ずパパとママは幸せになる事!

パパとママが幸せになって、娘であるこの私も幸せになるんだから、ね!」
最後にウィンクをして、身体が明るく光り、光りがいくつもの光の球になって空へと登って行く。

全ての光りが登ってしまう直前に最後の声が聞こえた。

「私ね、幸せでした。パパとママの娘に生まれてきた事・・・、生まれ変っても絶対にパパとママの娘になるからねっ、またね・・・。」


光りが登り終えた時、2人は交差点の歩道の場所で抱き合ってる状態だった。
歩行者信号が赤になって、その前をトラックが走り過ぎていく。

なあ、本当に未夢なのか?

ねぇ?本当に彷徨なの?

これは幻ではないのか? これは幻ではないの?


「未夢なのか?」「うん」
未夢の頬に触れる彷徨。

「うう、彷徨ぁ!彷徨!」

彷徨の胸で泣き叫ぶ未夢。
それを優しく抱き止める彷徨。



絶対に幸せにならないと、夢で怒りに行くからねっ!


数年後に未夢と彷徨の娘が夜遅くに、キッチンのテーブルにホットミルクを置き、イスに座りながらカップを眺めていた。

それに気づいた、未夢と彷徨。

もう遅いから早く寝なさいね。と促し
「はーい。もうすぐ寝るからパパとママは先に寝てよ、きちんと片付けしておくから」と答え、未夢と彷徨が廊下に戻る。


そこに「ありがとう!パパ、ママ。あの時の約束ちゃんと守っていてくれて、私凄く嬉しいよ、こうして2人の娘として生まれ変る事が出来たんだから!」
と、声が聞こえ。同時に振り返るが、キッチンには誰も居なく、テーブルの上にも何も無く、
ただ、電気が付いたままの状態だった。

2人は顔を見合わせながら嬉しそうに話す。
「ねぇ?彷徨・・・今のって」「ああ、そうだな・・・ずっと見ていてくれたんだよ」

うう、と泣く未夢の頭をなでて抱き寄せる彷徨。



アナタの大切な人は、いつでも近くに居ます、それを忘れないで。



全ては黄昏になりて外伝完成です。

あとがき+愚痴。
恋人達の木以降の内容は、前から創ってあったのを載せただけです、だから文章がちょっと変かもしれません。
[岩蔭|] '')友人にやっと書いたから見てくれと頼んだら、途中から内容が飛び過ぎとご指摘を頂き、正直悔しいです。
この話のサブタイトルも変更致しました。
もしかしたら、恋人達の木以降の別ルートを作成してるかもしれません。

あとがきまで読んでいただき、ありがとうございます。<(_ _)>




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