取るに足らない物語

プロローグ

作:五月 芽衣

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   小さな四角い箱の中
  
   33人の声が
   33人の思いが

   はちきれんばかりに


   こだましてる

   

   規則や世間の目に縛り付けられた

   ・・・・・気がするだけ?


 その日は、早くに目が覚めた。
 カーテンの向こうはまだ薄暗くて。
 なんとなく、怖くなって
 もう一度布団を引っ張りあげた。

 けど、もう起きなきゃ。
 皆を待たせるわけにはいかない。

 私は、目覚ましの時間をもう一度確認してから、思い切り布団を跳ね除けた。
 こうでもしないと、またもぐりたくなっちゃうから。


 お母さんはもう起きていた。
 早くしなさいよ、そう言いながら、朝ごはんの用意をしてくれる。
 今朝はまだナナの散歩行っていないのよ。
 そういうお母さんの顔は笑っている。私もつられてにこっとした。
 今朝は冷え込む。きっとナナも、ベランダの下で丸くなっているのだろう。
 私は、ストーブの前にしっかと陣取り、今日から始まる朝練を考えながら目を閉じた。

 チチチと鳥の声が聞こえた。


 二度寝したせいで、予定を大幅に過ぎた出発。
 頬をなでる風は冷たいのに、コートはわざわざ脱いできた。
 いまさらながらに後悔して、マフラーにそっと顔を押し込む。
 緑の車体がガタゴト音を立てて、隣の線路を駆け抜けた。
 集合時間まで、あとわずか。



 先輩と同級生はほとんど来ていて、私は少し後ろめたい思いをしながら鞄を下ろした。
 資料集やワークなど、インクや紙質でかさばった鞄は、ドサっと重い音がした。
 サブバッグから縄跳びを取り出して、長さを確認する。
 そそっと麻奈美の隣に座って、部長の指示を待つ。

 萌の頬がほんのり赤くなっていた。さらさらと顔をなでるショート・ボブの髪の毛を、萌は右手で耳にかけた。
 私は肩で大きく息をついてから、首を反らせて空を見上げた。
 指先が温かくて、少しむくんでいるような気がする。
 

 良い日になりそう。

 そんな気がした。






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