作:ちーこ
今日から、家族がひとり増える
増えるって言っても今さらだけど
だからと言って今までと何にも変わらないわけじゃない
俺にとって最高で最愛のパートナーを迎えるのだから。
「はい、西遠寺です。」
『もしもし〜彷徨か?オレオレ。』
聞きなれた声が受話器から聞こえてくる。
「三太か?どーしたんだよ。」
『今さ、すぐそこまで来てるんだ。彷徨さ、独身最後の夜だろ。だから』
「宴会とかはヤだからな。後片付けすんのいつも俺じゃん。お前いつも先につぶれるし。」
大学時代のコンパでも、そのあと付き合った数々の飲み会も例に漏れず俺は酔いつぶれた三太を引きずって帰ってきた覚えがある。
『ちがうって。宴会なんかしないけど…一緒に昔思い出しながら酒のもーと思ってさ。光ヶ丘も来てるんだぜ。』
『ハァ〜イ西遠寺くん。久しぶりだねぇ。ボクの事覚えてる?忘れるわけないよね。こんなすばらしフガッ』
『はいはい積もる話はまた後でな。じゃあと10分くらいでつくから。』
俺が返事をするまもなく、突然電話が切れた。
…というか三太が光ヶ丘から電話を奪ったって方が正しい気がする。
もちろん三太の決断は間違っていない。
光ヶ丘のことだから、あのまんま何時間話しつづけるかわかったもんじゃない。
俺は電子音のする受話器を置くと、何か肴になるものは無いかと冷蔵庫をあさり始めた。
ぴんぽーん
あれからきっかり10分。
予告どおりにふたりは西園寺の玄関に現れた。
「よぅ彷徨。」
「ここは全然昔と変わらないなぁ。」
「ほら、入れよ。親父いないから。」
「おじさんいないの?また修行?」
親父は、やっぱり今でもふらふらしてて家にいることの方が少ないくらいだ。
「らしいけど…なんかインドにいるのかと思ってたらこの間ドイツから手紙が来た…ったく何やってんだか。」
未夢にしか言ってはいないが、この前はアメリカだったし、その前はブラジルだった。フィンランドってのもあった気がする。
「あはは〜おじさんらしい。」
「でも西遠寺くん、明日の結婚式には帰ってくるんだろう?」
光ヶ丘の問いはもっともだと思う。
それは未夢もしきりに気にしていたが、3日前に電話で何があっても帰るという連絡があった。
あんな親父でも息子の結婚式には出席したいらしい。
「あぁ。」
居間に入るとどっかりと腰をおろした。
こうやっていると中学のときと何も変わらない気がする。
もちろん中学生の俺らの手には酒の入ったグラスなんて無かったけれど。
「かんぱーい!」
グラス同士がカチャンカチャンとぶつかり合う。
「それにしても、西遠寺くんが一番先に結婚するなんて思わなかったなぁ。」
「それは言えてる。「女の子には興味ありませーん」みたいな顔してたくせにさ。」
「別に…」
別に興味が無かったわけじゃない。
ただ、集団で群がってくる女子に飽き飽きしてただけで。
「いつの間にか光月さんっともう西遠寺さんかぁ…なれねーなぁ…まぁいっか。光月さんとくっついてるしさ。」
「そうそう。ボクはてっきり君は孤高の王子様タイプだと思っていたよ…」
「…なんだそりゃ」
しゃべりながらもどんどんグラスにはあたらしい酒が継ぎ足されていく。
「確かに昔はそんな感じだったよなぁ。」
三太がつぶやいた。
「ボクは知らないけどね。」
「いや、おまえいなかったじゃん。知ってたら怖いって。」
「ったく…オレがどーだったっつーんだよ…」
ため息混じりにオレが言うと、三太はう〜んと腕を組んだ。
「なんつーかさ…そりゃぁ話しかければ返事はするし、面白ければ笑うんだけどさ…そこまで、みたいなさ」
「つまり友達が少ないってことかい?」
どがっ
笑顔で言う光ヶ丘を殴る。
「お前だけには絶対言われたくねー…」
「ボクの美しい顔に何をするんだい!」
「はいはい。で、三太なんだって?」
三太はまたグラスに酒を継ぎ足しながら答えた。
「友達は友達なんだけどさ、頼らせるくせに自分は頼んないんだよ。GiveのみでTakeがないわけ。けどそれに気づかせないから何とか成り立ってるって感じ?」
「それじゃぁ西遠寺くんが損するばっかりじゃないか。」
「そうそう。だから割に合わないんだよな。」
好き勝手言ってくれる。
「別に、そんなことねーよ。ちゃんと信頼してるぜ、三太くん」
「あったり前じゃん。何年付き合ってると思ってんだよ」
嫌味をこめたつもりだったのに、人生の約9割をいっしょに過ごしてきただけあってさらりと流される。
「だけどさ、彷徨変わったよな。ほんと。」
「そうかい?ボクにはわからないけど…」
「だからお前いなかったじゃん。」
自分では…あまり変わったとか、そういう実感はない。
オレは小さい頃からやっぱりオレで今もオレ。
「たしか…光月さんきた頃だよ。彷徨が変わり始めたの。」
三太が記憶の中からほじくり出したかのように言う。
「最初はさ、彷徨が女の子といっしょにいるなんて考えらんなくて、結構びっくりした。ほら、あんなふうに彷徨がふざけたりすんの晶だけだったし。」
「まぁ…そうかもな…」
「でも、そのあと彷徨昔より人当たりよくなったっつーかさ。人間っぽくなった感じ?」
「つまり、西遠寺くんはそれまでメカだったのが、未夢っちの心の温かさに触れて人間になったってわけだね。」
「…だれがそんな話してるんだよ。光ヶ丘はもう黙ってろ。それで?」
「ん〜ほら、温泉掘りに行った時光月さんががけから落ちた事あったじゃんか。」
「あぁ。」
中学生らしい事をしようとと言って三太と出かけたときの事だ。
今考えるとどこが中学生らしいんだか甚だ疑問ではあるんだけど。
「普通なら当然助け呼んで人が来てから、だろ。
それがこいつどーしたと思う?」
「んー未夢っちの後を追ってがけから飛び降りたとか?」
「…んなことしたらオレここにいねーよ…」
こいつはオレのこと一体なんだと思ってるんだろう。
その後に三太がニヤニヤしながら続ける。
「でも、あながちはずれでもないじゃん。彷徨ってばがけかけおりたんだぜ。」
「そんな…無茶な…」
「飛び降りるよりかマシだよ。
…しょーがねーだろ、あいつ怪我してたし。」
「そーかー?光月さん「いたっ」って言っただけじゃんか。あの距離落ちたんだから少しくらい痛いの当たり前だろ。それが、俺に助け呼びに行かせて自分はがけ下にダーッシュ。」
「それこそヒーローの鏡じゃないか!」
だから…ちがう…なんてオレのつぶやきはもう完全に無視される。
「だってさ彷徨って感情より効率のタイプだったじゃん。いや悪い意味じゃなくてさ。それが後先考えずに走り出すんだぜ?よっぽどのことじゃん。あとでふたり分引き上げる事になったオレらの身にもなってみろよ。」
「理性をかなぐり捨てて本能のおもむくままってわけだねぇ。」
「そうそう、本能だね。あれは。」
…自分の行動を冷静に…とはいいがたいけど…分析されるのは気持ちいいものじゃない。
「それからさ、ラブラブ視線ビーム出すし。」
「…なんじゃそりゃ。」
こいつらもうすでにできあがってるんじゃないだろうか。
「あぁ、それはぼくもわかるよ。
西遠寺くんずっと未夢っちの事見てたからねぇ。」
「んなことねーよ。」
「いや、ぜーったい見てたって。」
「ちがうって。」
「見てたじゃないか!」
「…あいつが危なっかしいからかもな。」
「やっぱり見てたんじゃんか。」
「だから、見ようと思って見てたわけじゃねーってんじゃん!」
「じゃぁ、無意識だったわけだね。余計に重症じゃないかい」
……なんだか墓穴を掘らされた気がする…。
「まだ、無意識のうちはよかったよ…。ふたりが付き合い始めてから、おれが光月さんに話しかけるたびに威嚇されたし…」
「…してねーよ…」
「あんな目つきで睨んどいてよく言うよ。」
ぽんと光ヶ丘が手を打った。
「だからぼくが未夢っちにバラを贈ったりする度に機嫌が悪かったんだね。」
「あーもーうるせー。余裕無かったんだよ。精神的に。」
ぶっちゃけて言ってしまえば今だって余裕なんか全然無い。
未夢が出かけるたびに不安になる。
それは未夢を信用してないわけじゃなくて。
周りの奴らが信頼できないだけだ。
オレが未夢にホレたみたいに、誰かがそうなるかもしれない事を恐れている。
束縛なんてしたくないけど見せたくない。
そんな事を思っているから、こんな風に結婚式が明日に迫っていたとしても
「んじゃ、今は余裕あるわけだ。
もし、オレが光月さんに迫ったらどうするよ。」
「シメる。」
「即答かよ。」
「当たり前だろ。」
「ならぼくが…」
「光ヶ丘余計な事すんじゃねーぞ!」
となってしまうのだ。
まぁこいつらは冗談だとしても。
「そーいや、お前はどうなってんの?」
気がつくとグラスがまた空になっていた。
いい加減飲み過ぎかもしれない。
「どーなってんのって…あぁキョウコのこと?」
「まだ続いてんだ?」
「…まぁね…」
「はっきりしない返事だね。」
「なぁーんか最近微妙でさ。」
「うまくいってないのかい?」
三太は一瞬目をそらしてグラスの中を覗いた。
「ほら、キョウコさぁ映画の主役決まったじゃん。それでアメリカ行っちゃってさ。全然会えないんだよ。」
「連絡とかないのか?」
「ないわけじゃないけど…時差とかあるし。仕事の邪魔したら悪いし。
相手のこと考えるとなかなかできないじゃん。お互いにさ。」
「やっぱり黒須くんは大人だねぇ。」
「はぁ?」
…オレがガキだと言いたいのか…?
「別に西遠寺くんが子供だって言ってるんじゃないよ。ただね、君は未夢っちと離れたらどうなる?電話しちゃうだろ。んでなきゃ意地張ってぎりぎりまで頑張ってキレちゃってどうしようもなくなるタイプ。」
…否定はできないというよりも…その通りかもしれない。
「逆に黒須くんはあんまりそういうの表に出さないタイプだよね。相手のためなら結構我慢できちゃうのさ。」
光ヶ丘ってちゃらんぽらんしてるようで、意外と人の事しっかり見てる。
「まぁな。やっぱり好きなコには変に気使って欲しくないしさ。」
「まぁ、どっちがいいってものじゃないけどね。」
オレは…どうなんだろう…。
「おや、暗くなっちゃって。マリッジブルーかい?」
「ばーか。んで、お前はどーなの?」
「ぼくは来週からツアー公演であっちこっち。
おかげさまで忙しくさせてもらってるよ。」
「へぇ…すごいじゃん。」
「そーじゃなくてさ、光ヶ丘はいないの?」
「いないわけないよな。こいつの人生に女がかかわんない事があるわけねーじゃん。」
「ちょっとそれはあんまりな言い方じゃないかい?」
「さっきまで人のこと散々言ってたくせに。」
「まぁまぁ、それで実際どーなんだよ。」
光ヶ丘はグラスにわずかに残っていた酒を一口で飲みほした。
「まぁ、いるよ。」
「まぁって…ひとりじゃないとか?」
「あーありえるな、それ。」
「失礼な。ぼくだって愛する人を大切にしているよ。」
「ほぉ…お前も大人じゃん。
中学の頃はデートしててもほかに声かけまくってたからな…。」
「あの頃はぼくも子供だったんだよ。」
「んで、どんな感じ?」
「秘密。」
光ヶ丘は人差し指を口に当ててウィンクした。
「なんだよー、どんなコなんだよ。」
「ん〜一途で可愛いい人だな。」
「美人?」
「とっても美人。
そう、昔そでにした人が後悔するぐらいにね。」
光ヶ丘はちらりとオレを見た。
「んだよ?」
「そのうちわかるよ。」
ディーンゴーンディーンゴーンディーンゴーンディーンゴーン
オレの隣には真っ白なドレスを着た未夢。
幸せにしてやるなんてゴーマンも、幸せにしてくれなんてすがるようなことも言わない。
ふたりで幸せになれればそれでいい。
ふたりで幸せを作っていければいい。
未夢が持っていたブーケを高く投げ上げた。
そしてそれはぽんと見覚えのある腕の中におさまった。
「まぁ…わたくし…ですの?」
花小町はうれしさと複雑さの入り混じった顔で隣に立っている奴の顔を見上げた。
…そーゆーことかよ…
ちらりとこっちを見た光ヶ丘の表情でオレは悟った。
失礼かもしれないけれど、オレは後悔なんかしていない。
するわけがない。
未夢の顔を眺めていたら、未夢がこっちを向いて微笑んだ。
「いやー遅れてすまなんだのぉー。」
どたどたと足音がして親父が来た。
「遅せーよ」
「記念写真とりますよー」
声が聞こえてカメラの前に並ぶ。
「せーのっ!」
後ろからの衝撃。
バランスを崩して前につんのめる。
かしゃっとシャッターの音がした。
未夢を支えて、後ろを振り返ると思ったとおりの奴らのニヤケ顔。
「てめぇらやりやがったなっ!」
中学の頃から何も変わってない。
あぁそーだよ。
そーゆー奴だよ、お前らは。
親友なんて言葉照れくさいけど、でも、親友だと思ってる。
これからもよろしく。
また酒でも飲みながらオレのノロケに付き合ってくれよな。
……絶対先にあいつらにノロケられる気がするけど
40000ヒットの春香さんからのリクエスト「未夢と彷徨の結婚式」でした。
…いやぁぁぁぁぁぁっごめんなさい。
気が付いたら彷徨の結婚前夜になってたのよ。
かき終わってから気がついたんですけどね(遅)
いや…決してリク内容を忘れてたわけではなく…原作風味に(モゴモゴ)
初光ヶ丘?
あっそうかも〜。
なんか書いてて楽しかったですのよ。
ってかこの三人おもしろい。うん。
ちょくら山稜しゃんの設定お借りしてクリスちゃんを方向転換させて見ました。
今回はかなり原作重視(?)で。
クリスちゃん以外はできるだけいじくらないように…。
久しぶりにちょっと長め。
書き応えっていうか…時間はそんなにかかってないんだけど
久しぶりにあぁ〜書いたなぁって感じです。
題名が決まらなくって…悩んだ結果です…
なんかしっくりこないなぁ…
もうちょっと考えてみようかと思います。
でもいいですよね…男の友情って。
(初出:2003.01)