ちいさな診療所。より

やぎさんゆうびん

作:ちーこ

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くろやぎさんから おてがみついた
しろやぎさんたら よまずにたべた
しかたがないので おてがみかいた
さっきのてがみの ごようじなあに





「おはよ〜。るぅくん、わんにゃー。あけましておめでとうございます。」

未夢がぱたぱたと居間に入ってきた。
「未夢さん、あけましておめでとうございますぅ。」

ワンニャーはおせち料理の入った重箱をもっている。

「あれ?彷徨は?」
「えっ…さっきまでここにいらしたんですけど…」

べちん。

「いだっ…ちょっとなにすんよぉ〜」
「んなところに、新年早々ぼーっと突っ立ってるからだろ。」

そういう彷徨の手には年賀状の束。
どうやらこれで未夢は叩かれたらしい。

「ほら、暇なら手伝え。これ、みんなの分けるぞ。」
「彷徨ってば、これ取りにいってたわけ?」
「…?元旦なんてこんなことぐらいしかやることねーだろ。…んだよ。」
「いや…なんかかわいーなと思ってさ。」

未夢
未夢
彷徨
宝昌
宝昌
彷徨
宝昌
未夢
るぅ
宝昌

宛名を見てそれぞれのところに分けていく。
「みたらしさんもしくは親戚のお兄さんだって…クリスちゃんも律儀だよね。」
「…ふつう…ここに送ってくるか…?」
「クリスちゃんだし…。」
「…まぁ…な。」





一枚を除いて全ての年賀状を分け終え、それぞれが自分宛てのものを読み始める。

「うわぁ…この人…出してないんだよね…。」
「光ヶ丘の年賀状…すげえ…」
「…ホントだ…バラとボクみたいな感じ…」
「あきゃぁvv」
「るぅちゃま〜よかったですね〜ももかさんと小梅さんから年賀状とどいてるじゃないですか〜。ワタクシなんて…この『みたらしさんもしくは親戚のお兄さん』一通だけ…」

一枚一枚、全部違う、その人の性格をあらわすような年賀状。
カラフルなもの
綺麗な字が並んでいるもの
シンプルなもの
写真入りのもの
なんだかよくわかんないもの…
未夢と彷徨の、年賀状をめくっていた手が止まった。

「…まじかよ…」
「…うそぉ…」

年賀状から顔を上げるとばちっと目が合った。

あけましておめでとうございます。
昨年はいろいろお世話になりました。
今年もよろしくお願いします。


片方は丸い字で。
片方は整った字で。

「…そいや…まだ…言ってなかったな。あけましておめでと。今年もよろしくな。」
「…こちらこそあけましておめでと。今年もよろしくおねがいします。」

お互いに相手を驚かせようと思ったのに、同じことを考えていたことに結局ふたりとも驚いていた。





「あれ?なんですかこの年賀状?」

ワンニャーが分けられずに余っていた年賀状を手に取った。

「あっ…。」

彷徨が小さく声を出した。

「西遠寺彷徨様 未夢様…なんだかご夫婦宛ての年賀状みたいですね〜。」

ぼんっ。

ふたりの顔が赤くなった。

「三太さんも、ずいぶん不思議なことしますねぇ…。あれっ、おふたりとも顔が真っ赤ですよ。おとそでも飲まれましたか?」

今年の西遠寺もやはりどたばたがありそうだ。
そして…こんな連名の年賀状が届くようになる日も…そう遠くはない。





かなたさんから おてがみついた
みゆさんからも おてがみついた
うれしかったので おへんじかいた
これからもずっと いっしょにいたい






(初出:2003.01)

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