ちいさな診療所。より

ねこ

作:ちーこ

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きょうはみゆもかなたもおこってるの。
ぷいってするの。
けんかしてるのもやだけどね、でもねいちばんやなのは…
あたしのご〜は〜ん〜
おなかへったのぉ〜!




夕飯を食ってたらにゃーにゃーとみゅうの声が聞こえてきて、まだ夕飯をあげていなかったことに気がついた。
イライラしていて周りが見えてなかったのかもしれない。
キャットフードを取りにいこうとしたら、未夢も同時に立ち上がった。
考えてることは一緒らしい。

「いーわよ、わたしやるから。」
「いいって、オレやるよ。」

ふたりとも台所へ歩き出す。

「やるって言ってるでしょ!」
「だからオレがやるって!」

おなかの中がもやもやしてる。
わたしはキャットフードをお皿に開けた。

「はい、みゅう。ごはんだよ。」

どんっ!
おおきなおとでみゆがごはんのおさらおいた。
こわいよー。
おなかへってるけど…るぅのうしろにかくれた。

「未夢さーん。みゅうが怖がってるじゃないですか。」

むかむかする。
何?全部わたしが悪いわけ?
もう知らない、知らない、知らない!
この場にいたくなくて、廊下に出た。
バタン。
力任せに閉めたふすまが思ったよりも大きな音を立てた瞬間、中からるぅくんの泣き声が聞こえてきた。





るぅが泣き始めても誰も動かなかった。
部屋の空気がゼリーになって体にまとわりついているかのように重かった。

「みゅう。」

泣いているるぅの後ろで縮こまっているみゅうを呼び寄せ、右手で抱き上げた。

「わんにゃー、ちょっとるぅのこと頼むな。」

左手でキャットフードの入った皿を持つとオレは居間を出た。

「ごめんな、腹減っただろ。」

かなたは、あたしをかなたのへやでおろして、なでてごはんくれた。
かなたはあたしをじぃっとみてる。
あたしがかなたをみたら、かなたははぁってした。

「ごめん、こんなにじっと見てたら食べづらいよな。」

オレの言葉が通じたのか、みゅうは首をふるふるとふって、また食べ始めた。
またため息が出た。
気がつくとまた、視線の先はみゅう。
…やっぱり無意識…なんだよな…。
こうやって気になるものを目で追うのは。

今日、未夢がコケた。
オレの隣で、そりゃぁもう豪快に。
思わず吹き出した。
そしたら未夢が怒った。
関係ないことまでぐちぐち言われて、オレもカチンときた。
お互いに悪口言い合って、そのまんま。
オレも悪かったと思う。
でも、オレだけが悪いわけじゃない。
…そんな風に保身的に考えてしまう自分がすごく嫌だ。
未夢をあそこまで怒らせたのは…オレなのだから。





いつまでも騒ぐほどこどもじゃない。
だからと言ってすぐに割り切れるほどおとなでもない。
次の一歩はどこに足を下ろせばいい?
片足をあげたままの間抜けな姿勢。
このままじゃすぐに疲れて倒れてしまう。
上げてしまった足はもう元の場所には戻せない。
進むしかないんだ。
次の一歩はどっちに向ける?
さぁ、決めるんだ。
自分の行き先を。
自分の進むべき道を。





なんでこんなことになっちゃったんだろう。
いつもの、いつもの道で、いつもの、いつもの帰り道で。
地面が凍っていて滑ってコケた。
彷徨が笑った。
恥ずかしくて、どうしようもなくて。
気がついたら憎まれ口が口から飛び出した。
自分でもよくわかんないうちにぽんぽんと言葉が出ていって、彷徨が怒った。
机に突っ伏すと涙がこぼれた。
バカなの、わたしじゃない。
自分のことばっかり考えて、人のこと傷つけて。
ばかばかばか

「ばかばかばかばかばかばかばかばかぁぁぁぁぁぁ」

目が熱くなってぼろぼろぼろろぼろ涙が出てきた。

ざらり。

頬に何かが触れた。

おなかいっぱいになったら、みゆがすっごいきになった。
なんでみゆはおこってたんだろう。
かなたはもうおこってないみたいだった。
でもこまったかおしてた。
へやのなかでみゆがないてた。
みゆがないてるのはうれしくない。
みゆのほっぺのなみだをなめたらみゆがこっちむいた。
ねぇ、みゆ。
どうしたの?
なにがあったのか、あたしにおしえてよ。





みゅうがじっとわたしを見てた。
彷徨の髪の毛と同じ色の毛。
そっとみゅうを抱き上げた。

「ばかだよねーホントに。なんであんなこといっちゃったんだろうなぁ…」

みゅう相手だと素直に言葉が出てくる。
とんとん。
襖が遠慮がちにノックされた。






やりたいことはわかってる。
しなきゃいけないこともわかってる。
だけど、踏み出す勇気がない。
そこに地面はあるだろうか?
一寸先は闇ばかり。
だけど止まってはいられない。
進むんだ。
最初の一歩さえ踏み出せれば。
そのまま歩き出せるかもしれない。
自分の行き先に。
自分の進むべき道に





「…ごめん。昼間は…言い過ぎた。」
「…ちがうの。わたしが悪いの。自分のことしか考えてなくて…ホントひどいこと言った…」





そのあとは、みゆもかなたもちょっぴりてれくさそうにわらった。
やっぱりこっちのかおのほうがすき。
かなたがあたしをだきあげて、みゆをつれていまにあるきだした。
かなたのあたしがいないほうのてが、みゆのてとつながってた。
いいな、いいな。
あたしもてつなぎたいな。
いまにはいったら、るぅがわらった。
いいね、いいね。
みんななかよし。



おひさしぶりでねこ。
今まででもしかしたら一番読みにくいかも?
会話をスイッチ代わりにしてるところが結構あるから…
いつのまにか語る人が変わってるのね。

…じつは…ねこのことしばらく忘れてました…
というか…すでに自分の中で完結したつもりでいたけど…
読み返してみたら全然そんなことなかったですね(笑)
ということで復活。

最近人と言い争って…というかちーこが勝手にひとりで怒ってしまって…
たぶんだいぶ相手のこと傷つけただろうなぁと思うことがありまして…
反省と自戒の意味をこめて。
…ホントにちーこと付き合ってる人は大変だと思いますよ…。
わがままだし、口悪いし。
そんなわたしでも付き合ってくれる友達たちに感謝感謝。
(初出:2003.01)

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