ちいさな診療所。より

うさちゃん

作:ちーこ

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「王様だーれだ!」
皆が一斉に自分の手に握られた割り箸を見た。

「あっ…わたしだ…」





なぜか『王様ゲーム』が流行っている。
休み時間になるたびに、三太が周りをさそう声が聞こえてくるのだ。
もちろんこの昼休みも例外ではない。

「なぁ〜やろうぜ!」

三太の声にいつものメンバーがわらわらと集まる。

「みんな、一本ずつ持ったか?せーのっ」

いくつもの手が一本ずつ割り箸を掴んでいく。

「王様、だーれだっ」

それぞれ自分の引いた割り箸の先を確かめる。

「あっは〜い。私〜。」

綾が声を上げた。

「ん〜どうしよっかなぁ…んじゃぁ…3番と5番で姫抱っこ。
男女だったら男子が女子を抱っこね。
一緒だったら…軽い方をおんぶでいいや。」
「3番…わたくし…ですわ…」
「5番はボクだよ。じゃぁ…花小町さん、ちょっと失礼。」

そう言うと望はクリスをふわりと抱き上げた。

「小西さん、これでいいのかい?」
「ちょっ…光ヶ丘くん…」
「おっけぇおっけぇ、そのままハイチーズ。」

かしゃっとシャッターがきられる。

クリスがもがいて望の手から降りる。

「写真を撮るのは反則じゃないんですの!?」

クリスの頬が恥かしさからか真っ赤になっている。

「気にしない、気にしない。バラまいたりしないからさ。」
「わたくしには西遠寺くんという心に決めた方がいらっしゃいますのに…」
「いや…オレにかまう事ないから…」

三太が割り箸を回収する。

「はい、次いくぞ〜。」

また皆の手が伸びる。
全員が引いたことを確認すると三太が言った。

「王様だーれだ!」

皆が一斉に自分の手に握られた割り箸を見た。

「あっ…わたしだ…」
今度は未夢の割り箸の先に王様の印がついている。

「なになに?」

ななみが尋ねると未夢は困った顔をした。

「どーしよー…何にも思い浮かばないよー」

「なんでもいいだろ。」

彷徨の言葉に未夢は少し考えて、こくりと頷いた。

「んと…4番の人が…語尾に…“ぴょん”ってつけて喋るってのは…?」
「いーんじゃない?で…4番引いたの誰?」

皆の中を視線が行き来する。

「…オレ…」

彷徨が呟くように言った瞬間、数人が吹き出した。

「…オレ…じゃないでしょ。…オレぴょん…って言わなきゃ。」

ななみが笑いながら彷徨の口真似で言った。

「ねぇねぇ、これって期限は?」
「ん〜今日中…でもいい?」

綾の問いに未夢はちらっと彷徨のほうを見た。
彷徨は“ぴょん”を使いたくないらしく、無言のまま未夢をにらんだ。

「授業中とか人前で話すときだけ例外ね。あとは全部ぴょん。」





「なぁなぁ、今日西遠寺行っていいか?」
「あぁ…別にいいけど………ぴょん。」

嫌そうに後ろに”ぴょん”がつく。

「彷徨いいってさ。これで“ぴょん”堪能できるじゃん。」

三太の言葉に彷徨が固まった。

「…お前ら…そーゆーつもりかよ……ぴょん。」
「彷徨、お前そうやってるとかわい〜。」
「あ〜も〜うるせーなぁ……ぴょん。」

彷徨が真っ赤になって言い返すが、全然迫力がない。

「じゃぁ今日学校終わったら、西遠寺に集合ー!」





「ただいま〜。」

未夢と彷徨が玄関を開けると、ワンニャーが床掃除をしていた。

「未夢さん、彷徨さんおかえりなさい。」
「ワンニャー、今から三太たち来るんだ。悪いんだけど、変身しといてくれるか?」
「彷徨、“ぴょん”は?」
「……ぴょん。」

ワンニャーは不思議そうな顔をしながらポンとミタラシさんに変身した。

「ぱんぱぁ、まんまぁ、きゃぁあ!」
声が聞こえたのか、るぅが玄関まで飛んでくる。

「るぅくん、ただいま。」
「いい子にしてたか?………ぴょん」

彷徨が未夢のことを恨みがましげに見つめる。

「そんな顔しないでよ、ね。」

ぴーんぽーん。

チャイムが鳴って、開けてもいないドアが開いた。

「こんにっちわ〜」

「きゃぁ〜るぅくん、久しぶり〜。」

がやがやと入って来た。





「ぱんぱ…うちゃちゃん?」

しばらく皆で話していると、未夢のひざの上のるぅが言った。

「そうそう、今日はるぅくんのパパはうさちゃんなのだぁ!」

そういうななみの後ろで綾がごそごそとかばんをあさる。

「あっぶない。忘れるとこだった。はい、西遠寺くん」

綾が差し出したのは…耳…もちろん、うさぎの。

「…んだよ…これ……ぴょん。」
「いやぁ…せっかくの彷徨うさぎだから、聴覚だけでなく視覚も楽しもうと思ってね。」
「ほ〜ら、これでるぅくんのパパも完ぺきなうさちゃんだ!」
「うちゃちゃん!」

ななみがけしかけるとるぅがうれしそうに笑った。

「ほらほら、るぅくんもこんなに喜んでることだしさ。」

三太に言われて、彷徨はしぶしぶ頭に耳をつけた。

「うちゃちゃん〜!」

彷徨のほうに手を伸ばするぅを抱いて、未夢は彷徨に近寄った。

「うさちゃんはね、こーやって、いいこいいこするの。」

彷徨の頭を優しくなでる。

「ばっか、やめろって。」
「ほら、うさちゃんはおとなしくしててください。るぅくんもやってごらん。」

るぅも彷徨の頭をそぉっとなでる。

「いーこ、いーこ、いーこいーこ」
「なぁ…オレたち帰った方がよくない?」
「同感。」

三太の呟きに他の皆が立ち上がる。

「じゃ…明日、学校で。」
「あっ、もう帰っちゃうの?もうちょっといればいいのに。」
「いや…あんまり…お邪魔するのも…悪いし…な?」





「ぱんぱ、うちゃちゃん、ぴょんぴょん、いーこーいーこ。」

3人になった部屋の中、るぅが彷徨の頭をなでた。

「そうそう、うさぎはぴょんぴょん」

未夢が両手を頭の上でうさぎに耳のように動かした。

「まんま、うちゃちゃん」
「わたしもうさちゃん。」

ふぁぁ。

るぅがあくびをした。

「ちょっとはしゃぎすぎたか?」
「彷徨、“ぴょん”は?」
「…ぴょん。」

「ちょっと、るぅくん寝かせてくるからうさちゃんはここで待っててください。」





るぅを寝かせて未夢が戻ってくると、彷徨はうさぎの耳をはずしていじくっていた。

「もう、うさちゃん終わり?」
「うさぎは、ひとりになると寂しくって死んじゃうんだってさ。
未夢がいなっくて寂しくって寂しくって泣いてたら、かわいそうに思った神様が人間にしてくれたぴょん。」

未夢はぺろりと舌を出した彷徨の耳に触った。

「耳は人間になっちゃったけど、まだまだうさちゃんのままみたいね。
彷徨うさぎが死んじゃうと困るから、未夢うさぎがそばにいてあげるぴょん。」

彷徨の手にあったうさぎの耳を頭につけた。
お互いの顔を見つめて、ふたりで吹き出した。

「ばーか。」
「なによ、彷徨から言い出したんじゃない。」

暖かい笑い声が夕方の西遠寺を包んでいた。



アリスに続いてうさぎ2作目。
うさぎは寂しくて死んじゃうんだぞと“ぴょん”を彷徨に言わせたくて書きました。

最初はぴょんにしようか、にゃんにしようか悩んだんだけどね…。
やっぱりうさぎかなと。

小学生くらいの頃、王さまゲーム流行ましたよ。
割り箸に数字と王さまマーク書いて。
そいえば…誰がはじめたんだろ…あれ…。

ちょっと友達群が不完全燃焼の気があります…
途中から望くんとクリスちゃんが…いないぞ…。
なんか台詞のタイミングがうまく合わなくてね…。

ってか…なにも年末のこの時期にこんないつでもいいネタ書かなくてもいいよね…。
クリスマスものとか年末ものとかいろいろあるじゃんねぇ…。

嫌々ながらも結構まじめに罰ゲームをする、素直な彷徨くんに乾杯。

(初出:2002.12)

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