ちいさな診療所。より

whether おいしいごはん or not

作:ちーこ

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「綾ちゃんちでおとまり会するの。
明日の夕方には帰ってくるから。」
そう言って未夢が出ていったのは昨日の朝だった。





居間の置時計が日曜日の正午を告げた。
寝転びながら読んでいる推理小説は残りわずか。
テレビで言えば『犯人はあなただ!』なんて名探偵が真犯人を指差すタイミング。
ここでCM…もとい昼飯をはさんで、考えを整理するのも悪くない。

「未夢、そろそろ」

昼飯にしないか、という言葉を飲み込んだ。
そうだ…いないんだった。
からかう奴がいなくてつまらないから本を読み始めたというのに…





玉ねぎとハムを刻んで炒める。
とき卵とご飯を加えてまた炒める。
塩、こしょうにしょうゆをいれて、チャーハンのでき上がり。

「皿とって…あ゛ー。」

だから…今日はオレ1人。
皿を自分で出して、盛り付けていて気がついた。

「なんでオレふたり分作ってんだよ…」

無意識というのは…怖い。





粉末のコーンスープをお湯で溶かす。
何だか味気ない昼飯を無理やりふたり分腹につめ込んだ。
苦しくなってごろりと横になったのに、一向に眠気は訪れない。
寝てれば…夕方になるかとおもったのにな…
テレビをつけたら大分前の探偵ドラマ。
これ見たことあるな…この婚約者が犯人だろ。

「…つまんねー」

ひとり言がなんだか淋しい。
いつもは…何してるんだっけ…。
…………。
考えてみても…いつもとやってることは変わらない。
同じ事をしてるはずなのに、なんでこんなにもつまらないんだろう。

ぴんぽーん

チャイムが鳴って、玄関へと急ぐ。
ガラッとドアが開く音がした。

「彷徨ー。」

声を聞いたとたんスピードが落ちる。

「…んだよ、三太。」

気付かないうちに…期待してたのかもしれない。
何に?
そりゃぁ…もちろん…

「彷徨、どーした?機嫌悪いじゃん。…あれ光月さんは?」
「うるさい。……あっ…悪い…小西んちでおとまり会だってさ。」

三太はなにもしていないのだから、これは完全にオレの八つ当たりだ…。

「ほぉ…だから彷徨不機嫌なんだ。」
「別にそういうわけじゃねーよ。」
「ふーん」

三太はそれだけ言うと腕時計を見た。

「うわっ、ヤバイ。
2時から映画なんだよ。
『ザ・トーフ王国劇場版〜涙☆別れの最終決戦〜』!
あっ、そうそうこれ、読みたいって言ってただろ。
『トーフ王国』のノベライズ。
んじゃ、またな〜」

一方的にまくし立てて三太は出ていった。
手に残ったのは一冊の本。
…もちろんオレは読みたいといった覚えはない。





居間に戻って背を壁に預ける。
天井が見えた。
はぁ…たった1日。
たった1日会えないだけで、こんなに調子が狂うなんて思っても見なかった。
そう言えば…一緒に暮らし始めて丸1日未夢に会わないのは初めてかもしれない。
たった1日会えないだけで、気になって仕方がない。
会いたくってしょうがない。
自分がこんなに弱いと感じたのは初めてだ。





ほっぺたをつつかれて目が覚めた。

「こんなとこで寝てると風邪ひくよ。」

目の前に未夢がいた。
外はまだ明るい。
夢…なのか…?
未夢の腕をつかんで引き寄せた。
未夢の体温がいつのまにか冷えていた体に心地よい。
未夢の髪から柑橘系の匂いがした。

「彷徨、寝ぼけてるの?」

オレをじーっと見る未夢の目。
やわらかい視線。

「…寝ぼけてんの。」

笑われた。
そう、その顔が見たかったんだ。

「未夢。」
「なに?」
「…未夢。」
「なぁに?」

返事があるのがなんだかすごくいい。

「もっと遅くなるのかと思ってた。」
「綾ちゃんとななみちゃんが、あんまり遅くなると彷徨が心配するからって。
いつもならまだ学校にいる時間なのにね。」

未夢は笑った。
こいつは何にもわかってない。
もう一度腕に力を入れて、中に未夢がいるのを確かめて、オレは立ち上がった。

「よし、夕飯の買い物行くぞ。」





フライパンでハンバーグがじゅうじゅうと音を立てている。

「皿とって。」
「はい。これでいい?」

渡された皿に焼きあがったハンバーグを乗せる。
そのフライパンにケチャップとソースと生クリームを入れてソースを作る。
いい香りがする。

「おいしそうだね。」
「オレが作ったんだから当然。」

照れ隠し。
なんとなく…照れた。
テーブルには湯気の立つ料理が並べられている。

「いただきます」

昼間あれだけ食べたというのに、胃袋とは不思議なものでまだまだ余裕があるらしい。
飯がうまい。
…目の前にこいつがいるだけで…こんなに違うんだな…





布団に入って電気を消そうとしたときに、気がついた。
犯人を指差そうとしたまま止まっている名探偵に。
…まぁ…明日でいいや。





いまいちありえないかもなお話。
彷徨へたれすぎ…。

なんだか最近…納得いかない話が多すぎて…
ダメダメじゃん。
ちょっと休憩…。

「おいしいごはん」から「whether おいしいごはん or not」に改題。
ふむぅ。

(初出:2002.11)

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