My will 〜雪が降ってきた〜

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作:友坂りさ

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「あ・・・」




夕暮れも、すっかり終わりを告げ、月が浮かぶ頃。
未夢は帰り道、ふと、街路樹に飾られている、
色とりどりの灯りに目を奪われた。



なかには、サンタの人形が二階の窓から、まるでよじ登るようにつるされていたり。
トナカイがひくソリを、光だけで形作ってあって、キラキラ、とデコレーションされていたり。



――季節は、きづけば、 ホワイトスノーがいつ舞い降りるかわからない、12月を迎えていた。

未夢の目には、そんな街を彩るイルミネーションが、去年よりもなぜだか鮮やかに感じていた。


今いる場所が、去年とは違うだけじゃない、
きっと、それは今が楽しいから。



低い雲が、星空を照らし始めていた。



――こんなにも、輝いていた季節は今までなかった。

あの出会いの春から・・・急いで駆け抜けた、夏から・・・寂しいはずの秋も。


ルゥ、ワンニャーそして、・・・




             彷徨が、いるから。







◇◆◇


昨日の昼休みのこと。



「もうすぐクリスマスですわね・・・皆様はどうなさいますの?」

クリスマスを3日後に控えた日の午後、何でもない話の途中に、ふいに、クリスがたずねてきた質問に、クラスの女子たちはいっせいに興味を示した。


「決まってるじゃない、そんなの、彼氏とファンタジーパークに行くよvv」

「私も〜vv私は最近できた、水族館に行こうかなぁ」

そんな中、クラスでも、一番目立つ二人のある女子は少し得意げに真っ先に応える。


「私たちは、西遠寺くんに、クリスマスプレゼント届けるよね〜♪」
「「とうぜ〜ん!!!」」

彷徨ファンクラブのさゆり、しおり、かおり、ゆかりが口を揃えてはしゃぎだす。


「綾ちゃんはどうなさいますの?」


「私は今年も、クリスマスをテーマにした、演劇コンクールが24日にあるの♪」

「天地さんは?」

「私はね〜、クリスマスといえば、チキン!!チッキン!!ケーキ!!グルメでしょ〜♪」


「まぁ・・・皆様、それぞれ楽しそうですわねvv」


クリスはやんわりと微笑みながら、ななみの横に立っている未夢のほうを見た。


「・・・未夢ちゃんはどうなさいますの?」

「えっ?わたし?」


クリスマスなど特に考えてもいなかった未夢は、急に話を振られて、戸惑った。



今までクリスマスといえば。
仕事の忙しい両親は、クリスマスももちろん、お休みはないわけで。
友人達もみな、それぞれ家族でクリスマスしたり・・・もう彼氏と過ごすコもいたりして。

いつも、ひとりぼっちだった。



―そういえば、今年はどうするんだろう。――

今年は、一人じゃない。


だって。




ワンニャーも、ルゥくんも、・・・・彷徨もいる。

だけど、「いる」にはいても、ワンニャーたちはともかく、彷徨は別に過ごすかもしれない。




「・・・未夢ちゃん?どうかなさいました?」


ぼーっと考え込んでしまった未夢に、クリスは怪訝そうにもう一度、尋ねた。


「えっ・・・?あ、ううん、何でもないよっ。・・・そうだなぁ〜、まだわかんないや。家でゆっくりするくらいですかな〜」



未夢はクリスに、あはは、と軽く笑ってみせた。
自慢するような“クリスマス”など、何だか想像できそうにもない。
ふうっと、心の中でため息がこぼれるのを感じながら、また今年もひとりぼっちかもしれない、そんな不安が襲う。


「・・・そうなのですわね・・・未夢ちゃんは彷徨くんとひとつ屋根の下にいるんですものね・・・
「未夢、寒くないかい?」「ううん、平気、彷徨がいるから」「・・・未夢がいれば、こんな寒い夜も俺の最高のスパイスになるさ」「彷徨・・・」「・・・ずっと一緒にいよう。俺たちの心の熱があがるまで」「まぁっ!!」・・・・なーーんてなーんてっなーーーんてっ!!!!!わたくしなんてっ、わたくしなんてっ!!!!一人で勝手に、クリスマスに浮かれていやがれ、お疲れ〜らいすですわっ!!!!」



ばた〜ん!!!!がっしゃーーん!!!




何を勘違いしたのか、クリスはものすごい勢いで、いつもの「妄想モード」に入り、教室を破壊しだした。
周りのクラスメイトはすでに教室の隅に避難している。




花小町クリスティーヌ。
未夢が転校してきたころからの、クラスメイトで、友人だった。
母がフランス人ということで、日本人離れした、綺麗な顔立ちとは裏腹に、こと未夢の同居人、大好きな「西遠寺彷徨」のこととなると我を忘れてしまうほど、“暴走”してしまう。
机が破壊されるなど、日常茶飯事で。

ななみ、綾も、未夢を連れてそんなとばっちりをくらわないように、慌てて教室をあとにした。




「ねぇ、未夢ちゃん。本当は未夢ちゃんは、西遠寺くんやルゥくんやおじさんと、お家でクリスマスでしょ??」



クリスの目から逃れるように教室を抜け出して、綾は廊下を歩きながら興味津々と言った感じで未夢に問いかけた。
隣にいたななみも、意味ありげに笑いながら未夢を見ている。



「・・・えっ??そんなことないよ・・・」

だが、未夢は覇気のない返事をしながら、うつむいた。



そんな未夢を見て、ななみと綾は「え?」と首を傾げた。


「だって・・・うちはお寺でしょ?彷徨に言ったら、きっと“寺の息子がクリスマスではしゃぐなんて・・・”って絶対言うに決まってるよ〜。たぶん、普通にワンニャーたちと過ごすんじゃないかな〜」

「「わんにゃーー??」」



妙な聴きなれない名前?らしきものが未夢の口からでてきたことにななみ綾は頭に?を浮かべるように聞き返した。
未夢はしまった!!と思って、慌ててフォローする。


「あ、わ、ワンタン!!!クリスマス料理にワンタン食べるくらいかな〜なんて・・・あははっ」



もちろん、ワンニャーたち宇宙人のことは秘密である。
とっさに未夢は、以前もつかった「ワンタン」(ワンニャー、と言う言葉をあやふやにするため)を取り出して、必死にごまかした。



「ワンタン?クリスマスに?珍しい〜!!西遠寺家はワンタン好き?なの〜?
・・・あ〜っ!!そうだったよね〜。未夢ちゃん達の間では料理の名前は最後に何でも“にゃー”がつくんだったよね♪かぶとにゃー(魚の頭)とかvバンバンにゃー(バンバンジー)とか♪やきざかにゃー(焼き魚)とかv」

「そうっ!!そうなの〜。あはっ、あはは〜」



そんな苦し紛れの言い訳を信じてくれたことにほっとしながら、未夢は乾いた笑いを漏らした。



「ふ〜ん、未夢んちまだそれ使ってるんだ☆なんかあんたたち新婚さんみたいだよね、あ〜や☆」

にやにやしながらななみは腕を組んで、うんうんと頷く。



「いいわ〜。もう新婚さんも同然!!!今度の演劇はなんか最後の言葉に“にゃー”、とか“ぴょん”とか、“なり”とかつけるのを流行らせた、コメディモノを取り入れようかしら??」

「綾、“なり”って・・・時代劇じゃないんだから・・・」




「24日に迫っているクリスマス演劇、実はまだラストどうするか悩んでたとこなの〜。今までクリスマスの演劇って言ったら、どうしても最後はロマンティックなものになりがちだったけど、ラブコメってオチもいいよね〜!!あ〜!!なんかいいネタ浮かびそうvv・・・ごめんっ!!ちょっと部室行ってくる〜!!」


普段はおっとりした性格の彼女だが、演劇のことになると、とっさに周りが見えなくなるようで。
あっ・・・というまに、綾は廊下の向こうに消えてしまった。
ななみと未夢はわけがわからず小首を傾げるしかなく。
いつものことなので、あまり気にはならなかったが。




「ふふっ、ねぇ、“ワンタン”はともかくさ、・・・未夢はほんとのところ、どうなの?」



周りには、寒くなった12月の季節のせいか、夏に比べて廊下に出ている人もあまりいない。
ひんやりとした冷たい風が、廊下の窓の隙間から滑ってきて、二人の頬を掠めた。


「え??な、何言ってるの?ななみちゃん?」


突然真剣な表情になったななみに、未夢はどきっとして、振り向く。
ときにななみは鋭いことを言ってくるから、未夢もどきり、とさせられることも多い。

従妹同士ということになっている未夢と彷徨の関係に、何か別のことを期待されてしまっているような気がして、いつも戸惑ってしまう。




「・・・私さ、思うんだけど。クリスちゃんって、本当に西遠寺くんのこと好きだと思うんだよね。・・・ほら、クリスちゃんって、両親が忙しくてなかなか一緒に過ごせないって・・・前別荘に行ったとき鹿田さんが言ってたでしょ?小さな頃から、・・・ずっと寂しかったって。
そんなクリスちゃんがさ、あのクールで、かっこいいって言われてる西遠寺くんを好きなわけじゃん。
私も未夢が来るまでは何でクリスちゃんが西遠寺くんを好きなことも、他の女子から人気あるのかわからなかった。・・・正直なところね。

だけど、未夢が来てから、西遠寺くん変わった。
クールで無表情、って言われてたころの西遠寺くんとはまるで別人でさ〜。私もびっくりしたよ。

・・・それからかな、クリスちゃんが、西遠寺くんのこと好きな気持ちがわかるような気がするなって。
・・・それくらい、西遠寺くんのこと見つめてた・・・ってわけじゃない?
本当の彼のことをずっと前から気づいてたって。
クリスちゃんはさ、“寂しかった”から、本当の西遠寺くんをちゃんと気づいてたんだよね。
きっとさ、西遠寺くんだって、“変わった”んじゃなくて、もともとは今みたいだったと思うから」



「え・・・?」


変わった?彷徨が??



未夢は驚いて、はっ、とした。
未夢よりも長身ですらっとした体型のななみの目を見て話すには、ちょっと見上げるような姿勢で。


ななみは、しっかりした性格なのか、周りの友人達をきちんと「見て」いる。
今でも、クリスのことを、そして、彷徨のことを・・・一緒に過ごしているだけであるのに。


「クリスちゃん、もしかしたら、今年こそは西遠寺くんを、クリスマスパーティーに誘うんじゃないかな?」

「え?」



鈍感な未夢でも、ななみが何を言いたいのかは、何となくわかるような気がした。
未夢の心が、気づかないうちにとくん、となる。


「・・・未夢。自分の気持ち、まだ分かってないのかもしれないけど。気づいたときには遅い、ってこともあるからね。
私が言いたいのは、それだけ。・・・あ!予鈴だ。次体育だったよね、いこ!」


未夢を残して、一足先にななみが走り出す。
ぼんやりとした気持ちのまま、未夢もそのあとを追った。




・・・少し強く吹いている冬風が、チャイムの音をよりいっそう、いつもより広く響き渡らせていた。






◇◆◇




クリスマスがホワイトクリスマスになればいいな、なんて、一体誰が言い出したんだろう?
雪が降らなくても、街のデコレーションは、白く染まっているし、ツリーもホワイトのものもたくさんある。



だけど、聞いたことがある。


      雪は空からの、天使なんだって。


だから、みんなクリスマスに雪が降って欲しいなどと願うのだろうか?


・・・もちろん、そんなことあるわけないってわかってるけど。
昔、絵本で見たあの雪の白い世界みたいに、今になっても、そんな奇跡をほんの少しだけでも信じていたい。


(中学生にもなって、雪の天使なんていったら、彷徨に笑われちゃうよね)



ふふっと、白い息を漏らしながら、未夢はそっと心の中で思った。



クリスマスイヴ。
そして、次の日は彷徨の誕生日。


今までそんな「クリスマス」らしいことなんて、本当にしたことなかったから。
どんなことをすればいいのか、わからない。


大きなチキンを食べること?
イチゴのいっぱい乗った、生クリームたっぷりの、サンタの飾ってあるケーキを食べること?
そして、庭にポインセチアがあって。

きらきらと輝いている、作り物の大きな星が飾ってある、ツリーが窓際にあって。




小さな頃から。
きっと、そんな普通のクリスマスを夢見ていた。



子供の頃は家族と。
そして、いつかは・・・大好きな、大切な誰かと。




思いを馳せながら、ゆっくりと歩いていると、いつの間にか西遠寺の石段の下に来ていた。
買い物当番の日はいつもよりも遅くなるので、辺りはすっかり暗くなっていた。

と、そこに人影あることに気づく。




「彷徨?」

「・・・おせーぞ、未夢。何やってるんだ?」



どこか不機嫌そうな声で。
石段の下のところに彷徨が立っていた。


彷徨こそなんでこんなところにいるんだろう?と不思議に思いながら、だけど、さっきまで無意識に彷徨のことを思い描いていたから、そこにいてくれるのが嬉しくて、未夢は知らずに微笑んでいた。



「決まってるでしょ、買い物。だって当番ですから〜」
「なに、それ。何か、恩着せがましいんですけど。
俺だって、当番の日はちゃんと行ってるじゃん」



こんな会話も。
以前ならただの やなやつ、としか思えなかったけど。

それが、なんでもないこんなやりとりが、嬉しく思ってくるなんて。



『・・・自分の気持ち気づいてないだけかもしれないけど・・・』





――ふっと、ななみの言葉が浮かぶ。

   その意味はわたしが彷徨のこと好きだってこと?




   ・・・わかんないよ。

   最近になってやっとだけど。
   彷徨のそばにいると、ほっとするって思った。

   だけど・・・それは・・・

   これが、「恋」なんて、わからない。  

   わたし・・・





「・・・なにぼーっとしてんだ?」

ぼんやりと考え込んでしまっていた未夢に、彷徨は下から顔を覗き込むように、視線を下げて体をかがめてきた。



「!!!」



急に視線が近くなって、未夢はどきっとして、慌てて考えを中断した。
すぐ目の前に、ダークブラウンの綺麗な瞳が未夢の目を捉えている。

こんな綺麗な顔に見つめられたら。
きっと誰だって・・・





「・・・お前、遅すぎ。あんまり遅いから迎えに来てみれば。ぼんやりと突っ立ってるから」

「ど、どーもしないよっ。荷物重かったのっ」



必死に赤い顔を見られないよう、未夢はどきどきする自分の心臓を押さえて、うつむいた。
きっと暗いから、赤い顔なんてわからないだろうけど。
それでも、彷徨にはどきどきしてるなんて、知られたくない。



よいしょ、と重い荷物を抱えて、未夢は石段に一歩踏み出した。





(・・・あれ?)


すっと、突如軽くなった体に、未夢は首を傾げた。




「行くぞ」

気づけば、彷徨がキャベツだの、大根だの、重い野菜などの食材の入ったスーパーのその袋を何事もないように抱えて、目の前を歩き始めていた。

「あ・・・りがと」




(まさかまた星矢くんっていうわけじゃないよね?)

未夢はふふっと笑いながら、彷徨の後ろ姿を追った。




(あ・・・)


彷徨の背中。



そういえば。
前クリスとルゥとももかと公園でデート?したときに、彼女が言っていた。





――彷徨くんの背中が好きなんですの。




ああ、そうだね。
こうしてみると、やっぱり男の子なんだなぁと思う。

肩も、自分と違って、広くて。
しっかりとしていて。
出会ったころよりもたぶん、逞しくなっているような気がする。


いつも、からかったり、憎まれ口を叩いたりするけど。
それが決して、意地悪じゃないって、わかってきた。



言葉の一つひとつに、「やさしさ」を感じる。



クリスは、きっと、こんな彷徨のいろいろな一面を見ていたのだろう。
もう、ずっと前から。

クリスだって、いつもストレートに「彷徨を好きだ!」とは公言しているようなものの、直接彷徨に向き合っているわけではない。
ななみが言っていたが、今度こそクリスは彷徨に向き合って、想いを伝えるかもしれない。





ずきん。




(あれ・・・)

なんで?


(わたし、どうしたんだろう・・・?胸の辺りがもやもやするよ・・・)



未夢はクリスと、彷徨が一緒に笑っているところを想像すると、胸がちくっと痛むような気がした。
彷徨とはクリスマス過ごしたいとは思ったけど。
それはきっと、家族で、ワンニャーたちとみんなで過ごしたいから。
ひとりでも、寄せ集めの家族でも、欠けてしまったらきっと、寂しいと思ったから。
なのに、なぜ・・・、と未夢は自分で自分の気持ちに戸惑いを覚えた。






◇◆◇

(未夢のやつ・・・何考え込んでるんだ?)

未夢の前を歩きながら、彷徨は後ろでずっと様子のおかしい彼女を気にかけていた。
 
いつもの時間だったら、どんなに遅くても6時までには買い物から帰ってきている。
それなのに、今日の未夢はといえば、6時半を過ぎても、帰ってくる気配がない。
物騒な世の中であるし、何しろ、未夢は年頃の女の子である。
何かあったのかと、思わず心配になって、駆け出してみると、石段の下のほうで、ぼんやり歩いている未夢を見つけた。


・・・決して口には出せないけれど。
ひとり、頼りなさげに歩く未夢は、はかなそうにも見えて、ひどく綺麗に見えた。






◇◆◇



(光月さんって、かわいいよな〜)

昨日の体育の授業中だった。
そんなふうに、突然ある男子がぽつりとつぶやいた。

体育は2クラス合同で男子、女子と分かれている。
彷徨たち2年1組は、隣のクラスの2組と合同でバスケットボールをやっていた。
この時期、二年生男子はバスケ、女子は創作ダンスをすることになっている。

この寒空の下、男子は運動場の端にあるバスケットコートで、女子は真ん中で、ダンスの練習をしていたのだ。


そんなふうに未夢のことを言い出したのは、同じクラスでもない、隣の2組の男子。
突然、未夢の名前が出てきて、彷徨はぴくっと、耳を傾けた。


「そうそう!なんかさ、こう、守ってやりたくなるかわいさがあるよな〜」
「テレビに出たときもすごくかわいかったし!」
「ほらッ、見ろよ、今から光月さんたちのグループがダンスするみたいだぜ」


「・・・・」


未夢が密かに男子達に人気があるのはわかっていたが。
こうもあからさまに、未夢のことをかわいい、などと言われると、全然いい気がしない。
自分だけではなく、他の男たちも未夢のことを「そんな」目で見ていると思うと、ムカムカした気持ちがわいてくるのを抑えられなくなってくる。


気がつけば、いつの間にか好きになって。
目で追うことが多くなって。
そして、今では未夢が自分の目の届くところにいないと落ち着かない。


(未夢が俺のこんな気持ち知ったら、どんな顔するだろうな・・・)



気のないふりをしながら、彷徨はちらり、とダンスをしている女子達のほうをみた。
正確には未夢のほうだけを見たのだが。


未夢は、天地や小西、そして花小町といったいつものメンバーと4人でグループを組んでいるようだった。

少し危なっかしそうに、未夢は、曲にあわせてダンスを始めた。
どうやら、それぞれグループで選んだ曲に、自分達で作ったオリジナルのダンスを披露する、というものらしい。





「光月さんってさ、誰か付き合ってる人いんのかな〜」
「ばーか。お前、いてもいなくても、西遠寺がいるから近づけないだろ?しかも、付き合ってんじゃないの?あいつら」
「・・・お前ら、西遠寺に聞こえるぞ〜」




    ・・・もう聞こえてるよっ





心の中で舌打ちしながら、そうは言っても、内心、少し彷徨には優越感があった。
自分が近くにいることで、未夢に悪い虫がつかないのなら、それは大歓迎だ。

とはいえ。
未夢自身が誰か別のヤツを好きになったのなら、どうこう言える立場ではない。
何しろ、気持ちだけはもう十分先走って入るが。
――「恋人」という関係ではないのだから。

未夢のことを大事にしたいし、だけど、近頃あふれ出してくる未夢への想いにときどき息苦しくさえなってくる。
かといって、あと一歩踏み出す勇気もない。


水のように、空気のような、いつの間にか、心に住んでいた、未夢という存在。


彷徨の中で。
ざわめく心と、重なる想いがまた湧き上がるのを感じた。







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