真夏の夜の夢

3

作:友坂りさ

←(b)



―――― 「――・・・大好きなんだからっ」







それは本当に。
偶然なのか、必然なのか。それとも、・・・夏の夜がそうさせたからなのか。




未夢の叫んだ気持ちは、――傍にいないはずの、彷徨の耳にも、しっかりと届いたのだ。





彷徨は、未夢へ見せたいものがあって。
さっきはいったん、わざとああやって別れたけれど。

未夢をただ、喜ばせたくて、元気にさせてあげたくて。


今は、裏庭に出ていたところだった。


だが、思いもかけない未夢のその声に。
彷徨は目を見開いて。
反射的に、口元を押さえる。





きっと、自分へ向けられた気持ちだと願いながら・・・、
だけど、確信はなぜかあって。




――気づいたらもう、迷わず、駆け出していた。











***


未夢は、ほうっと息をはいて、空を見上げた。
どんな時代も空を彩る星たちは、こんなにも夜空を照らして綺麗だけれど。一体、何億光年前の光なのだろう。



そんなふうに思いを馳せながら、未夢は部屋へと戻ろうと空から視線をはずし、家の中へと戻ろうとした。




















そのときだった。







    とつぜん、・・・・ 近くで何か囁かれて。






未夢はそのまま。

「何か」に導かれて、連れられていく。








きっと、その“声”は


        少し低いいつもの―――・・・・・・・・・・・・・・・










(え・・・?)





目の前の光景に未夢はただ驚いて、目を見開く。






・・・・・・・・・・・・・・・・・






・  ・ ・ざわっと大きな風が吹いたかと思うと。



一瞬にして。







   目の前がいっせいに明るく輝き始めた。














――ー――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「な・・・に?」




未夢の瞳に映るのは、信じられないほどに、輝く、たくさんの光の粒、
光の雨―・・・






同時に、ぱぁ〜ん!!!!と上からも、大きな・・・







             「はな・・・び・・・?」






木の上から降るように、花火が――――

月明かりに負けないくらい、





           夏の色の光の雨のように、降り注いでいた。






きらきら輝いて、ただもう、本当に綺麗で。

それは、星屑が降っているようにも見えて。



光の「カーテン」がはらはらと舞い降りていく。


色とりどりの世界が夏色に染まって。夜の色に染まって。

夜とは思えないほど信じられないくらいその「場所」だけは明るくて、


例えるならば、夏色の花火のシャワーだった。




  まるで。


現実にはありえないような。


真夏の夜の夢のできごとのように――――――・・・・・・・・












未夢は瞳の中いっぱいに光を取り込むように、魅せられたように。



あんまり綺麗過ぎて。

自然と、涙がにじんでくるのがわかるほどに―――。

 





「・・・綺麗だろ?」

「うん・・・」


 夏の「かけら」がそのまま、空から降ってくるようだった。








それから・・・・・気づけば。




―――そばにはまた、・・・・やっぱり


               彷徨がいた・・・・・・・・・・・・・










「宇宙への夢・・・みたいだね・・・」

「・・・・・」


未夢は、こぼれそうな泣き笑いの笑顔で、ふわっと彷徨のほうを向いて、微笑んだ。
その笑顔だけで。
彷徨のほうは、ただもう胸がいっぱいになって。




どくんっと心臓が跳ね上がる。
彷徨は、赤い顔をごまかすように・・・、
あわてて口を押さえてそっぽを向いた。













――銀河の流星のような光の雨が消えるころ。








未夢は「そこ」にいるはずの人物の姿を確かめたくて。


涙でにじんだ目で、横を見上げる。



「あれ・・・?」






(い・・・ない?)





「どうして・・・?」







「未夢」



(え・・・)




声がしたと、気づいたときには。










彷徨の唇が、未夢の唇に重なっていた・・・・・・・・・・





「俺も好きだよ、未夢」





優しく色づいた瞳で、彷徨が未夢に向かって目を細めて微笑んだ。


未夢はただ信じられなくて、キスされたことに・・・

もう、心が真っ白になって。

ようやっとの思いで、目を見開いて、顔をあげて、彷徨のほうを見つめ返した。




「だって・・・なんっ・・・で?」






「バカ。お前が先に俺に告白しただろ?」

「え・・・わたし・・・?」

「それとも。違うのか・・・?」


(あ・・・)  





――― 大好きだからっ―――


  


 
空に叫んだ、あの気持ち・・・






(うそっ!!聞かれてたのっ)

(あれ、だけど・・・彷徨の名前なんて・・ひとことも)



未夢は確認するようにまだ赤く染まったままの顔で、彷徨のほうを向く。


「俺のこと・・・だよな?」




彷徨のほうも、首筋をうっすらと赤くしながら未夢の顔を覗き込んで、確かめるように、
見下ろした。
ばちっと視線が交差しあう。




お互い恥ずかしくて視線をそらしてしまいそうになるけれど。
それでも、今度こそはもう、そらしてはいけないような気がして。
二人は互いの気持ちを認め合うように、見詰め合った。


彷徨のまっすぐな瞳に捕らえれて、未夢は切なさで涙がかすんでくるように、視界がだんだんぼやけてくる。




  だけど、もう、逃げないと決めたから。






「・・・・うん・・・そう、だよ・・・彷徨のことがっ ・・・・・ずっと・・・ずっと前から、好きだったからっ・・・」





そういって。
自分の気持ちを精一杯伝えて、頷いた。



  瞬間。





気持ちがすぅ〜っと、嘘のように軽くなった気がしたのは、きっと気のせいじゃない。
口に出したら、こんなにも素直な気持ち。



「俺も。信じられないけど、お前のことが・・・かなり好きみたいだ」



彷徨も、ほっとしたように、未夢の耳元で囁く。




彷徨もまた。
不思議だった。
あんなに言えなかった言葉も。
未夢のあの笑顔をみたら、迷わず口にしていた。






(これって夢じゃないよね・・・?夢だったらどうか・・・醒めないで・・・)




今までだったら考えられなかったほどに。
気持ちを認め合ったら、気づいてしまったら、もっともっとそばにいたくなる。



ふと気づくと、あまりに近くに彷徨の顔があって。
未夢は、かっと全身が熱くなるような気がした。



だけど今は、そんな鼓動の音さえも、とても心地よかった。






「・・・あの花火、どうしたの?」

「 三太から、教わった。あいつ、ああいう“仕掛けもの”だけは得意でさ。
 上から雨みたいに・・・滝みたいに降らせるようにする花火はどうしたらいいかって聞いたんだ」


「びっくりしたんだよ・・・っ。すごかったよ。本当に、本当に、綺麗だった」

「・・・そっか。よかった」


きらきらと目を輝かせて嬉しそうにはしゃぐ未夢に、彷徨のほうも嬉しい気持ちと優しさに満ちてくる。





「月、おっきくて綺麗だね・・・」

「ああ」

「知ってる?彷徨の生まれた日は半分だけの月だったんだよ」

「何だよ、それ」

「月!調べてみたの。私は満月に近いんだよ」

「へぇ・・・」




確かに月は、満ちては、欠けて、いろんな形に姿を変えるけれど。
未夢には満月のような温かさと明るさがぴったりだな、と心の奥で彷徨は思った。



月を見ながら微笑む未夢の横顔が、光に照らされて、本当に綺麗で。
彷徨は息を呑んでその姿に見入っていた。



だからかもしれない、こんなにも未夢に触れたいと願ったのは・・・






「・・・未夢」

「なに・・・?」


「あの・・・さ。今日、満月、だよな」

「うん・・・?」

「いつかの、月食の日じゃないけど」

「・・・え?」

「あのとき、みたいに」


(・・・・・)



耳元で、彷徨の少し低い声が未夢に囁かれる。

ぱっと頬を赤く染めながらも。
幸せそうに未夢も頷いた。




「うん・・・」

二人の影が近づいて、やがて重なっていく。




甘い甘い、初めてのキス。
やわらかな感触にまだ慣れなくて。
互いにぎこちないけれど、何度も唇を重ねた。



月下の下の、誓いのようなキスはあの日の「恋人達の木」の伝説にも似て。






真夏の夜の夢のように。

二人の世代は、月の夜からまた始まっていく。

―― The moonlight generations(ムーンライト・ジェネレーション)







―― だけど彷徨、変だよね?月食と満月となんの関係があるの?


―― いいじゃん。俺たちにとって、月はなんだか特別・・・そうだろ?

―― うん、そうだよね。ふふ、だけど嬉しいな


―― なんだよ?


―― ううん別に・・・ただ彷徨も、「同じこと」考えてたんだなぁって。

―― え?

―― ううん、こっちの話!




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



――ねぇ。彷徨。本当に覚えてないの?

――だから何が?さっきから聞いてくるけど。

――もういいっ。今度、私から言うからねっ。

――おかしなやつ・・・




(今はまだ、秘密にしておこうかな。・・・抱きしめられた、あのことは。

 きっとね、夢だって思ってるから・・・)




未夢は自然と顔が綻ぶのを感じながら。
こっそり舌を出して、微笑んだ。




幸せすぎて、今日のことは、きっとずっとずっと覚えていると思う、そう未夢は感じた。





―― ・・・いつか宇宙にいけるといいな


―― 行けるさ。だって、お前の母さんが行ったんだから。


―― そうだよ、ね!ルゥくんたちにもきっと・・・逢えるよね。


―― ああ。きっと、な。









夢のような、熱い・・・真夏の夜が更けていく・・・・・・・


 Endress  Summer Dream――――夏の西遠寺での夜のこと・・・


未来がまた、輝くように動き始めた・・・・・・・・・・・・


来年の夏はきっと、もっと夏色に。









こんにちは。友坂りさです。
今年で夏企画は二回目の参加になります。それこそ、去年の企画のことをはっきりと鮮明に覚えています〜。
早いですよね・・・

昨年は、Summer Visit、それにあわせて今年は、「Summer Dream」にしてみました。
最後は彷徨くん視点、未夢ちゃん視点入り混じってますので、読みづらくてごめんなさい(ぺこり)

それから、テーマは「いろは(色は)」。
一体何がいろはなんだろう、ということですね・・・夏色、ということで許してください(汗)

このお話のもとになっている、月。
私が生まれた日は、上弦の月でした。

未夢ちゃんはネットで調べたのですが、本当に満月に近いのです。
(なかよし連載当初の年齢から調べました)
皆さんは、どんな月が浮かんでいるときに生まれたのでしょうね。

あと、ラストの花火は、実際去年結婚式に招待されたときにガーデン風結婚式で、屋根から花火が降ってきたことを思い出したのが、きっかけでした。
本当にとっても綺麗で、ぜひ、このお話に使いたいと思い、自分なりに表現してみました。(とはいえ、難しいですね(><)
・・・・しかし・・・木の上から・・・って燃えますよねぇ・・・まぁ。細かなことはスルーしてください(><)



ではでは、今年も参加させていただいて、本当にありがとうございました。
それにしても、偉大な皆さんに混ざってまた無謀な参加です(泣)
それでも、読んでくださった皆様、本当に嬉しいです。
・・・真夏の夜、みなさん、素敵な思い出ができるといいですね♪


2004.7.24 友坂りさ(kitkat6220@ybb.ne.jp)

☆プチみかん祭企画の文章、そのままださせていただきました。
 来年の夏も、きっと参加できることを願って・・・
 ではでは、ありがとうございました!!

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