White Love 〜恋の奇跡〜

2

作:友坂りさ

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「はぁい♪めぇりぃーくりすます〜♪こんにちはぁぁ〜。」
「ごめん、遅くなっちゃって・・・」


「あーー!!みかんさん!わ、それから弟さんのみずきさん!お久しぶりです〜♪私、小西綾で〜す」

本堂の入り口から聞こえてきた声に。
さっそく綾が目をきらーんと光らせて、新たな客人2人に声をかけた。

最後のパーティー出席者、みかんとみずきが予定より1時間ほど遅れてやってきたのだ。


「あー!!みずきさんだ〜!相変わらず素敵ですね〜、あたし、天地ななみでーす!一度お祭でお会いしましたが、覚えていただけてますか〜?」



「こんばんは。遅くなりました〜。姉ちゃんが相変わらず漫画のネタにつまっちゃって、なかなか出られなくて。・・・えっと・・・こちらは、未夢ちゃんのお友だちだね。そうだね、みんな、一度お祭りであったことあるかな?覚えてるよ〜。あとは彷徨くんのお友達の男の子かな?よろしく!」
そばにやってきた、綾、ななみ、少し離れているクリスにもペコリと頭をさげながら、みずきはにっこりと微笑む。



「みーずーきー!漫画のネタにつまっちゃって〜、なんて、余計なこと言わないっ」

「だって姉ちゃん、いつものことじゃないか〜、ネタにつまるのって」


「・・・・こんな弟を漫画の主人公のモデルになんかするんじゃなかったわ。未夢ちゃんもみずきのどこがいいのやら・・・」
「いてて、姉ちゃん子供じゃないんだから耳は引っ張るなよ〜」


みかんとみずきがそんなやりとりをしていると。
彷徨は“待っていた”客人に気づき、静かに声を掛けた。




「・・・みずきさん、いらっしゃい」


「彷徨くん、久しぶり!あれ、未夢ちゃんは?」


「それが・・・」






『彷徨さんっ!ちょっと来てくださいっ』


彷徨がみずきに対して何か言おうとしたとき、――ふいに、背後からワンニャーがあせった様子で彷徨を呼んだ。みんなには騒がれないよう、小声で。


『どうしたんだ?』


『取り急ぎ、話しておきたいことがあるんです。ここではちょっと・・・』


『・・・わかった』


「・・・みんな、ごめん、俺急用を思い出したから、ちょっと抜けるよ。」
彷徨は皆にそういうと、ワンニャーと共に本堂の廊下に出た。



「どうしたんだ?・・・未夢に何かあったのかっ?」


「それが、大変なんです、・・・あの香料についてなんですが、――日が沈むまで、つまり最初の星が輝きだすまでに目覚めさせないと、永久に眠ってしまうんだそうです!!ワタクシ、その部分を見落としてしまっていて・・」


「っ・・・なんだってっ!!?」


「なんでそんな肝心なこと気づかないんだよっ、ワンニャー!」
「す、すみません〜」


普段冷静な彷徨。
いつもなら、めったなことでワンニャーを責めたことなどなかった。だが、未夢の危機となれば話は別だ。


現在の時刻は――四時半すぎ。
冬の夜は、ことのほか早く訪れる――




未夢は依然として深い深い眠りの中
目が覚めなければ、生きている意味がない。


  永久にメザメナイ・・・







どくんっ



―――――“父さんっ、父さんっっ、どうして母さんはいなくなったの?どうして僕の傍から見えなくなっちゃったのっ?”



11年前・・・・幼い頃、必死に親父に聞いてみた。
親父は静かに涙を流していた・・・
やっと言ってくれたのは、
“母さんはあの空の星の仲間になったんだよ。星が好きだったからな。母さんは・・・”


ただ、それだけだった。




あのころのような深い悲しみ・・・
今だって、決して忘れることはできないけれど。





――だけど、ルゥやワンニャーが現れて、そして未夢がやってきて。


やっと、やっと手に入れた本当の家族のような温かさ。

気づかないうちに未夢に惹かれて・・・ずっと傍にいて、いつまでも守りたいと思った。

傍にいるのが当たり前のようになっていくのが、嬉しくて・・・

どうしようもなく、大切な存在で――





なのに・・・

失ってたまるもんかっっっ













             





                   ◇◇◇




「――ワンニャー。みずきさん、それから、 三太、光ヶ丘を呼んで来てくれ」
彷徨は決心したように顔をあげた。



「彷徨さん?」



「未夢を目覚めさせる方法は・・・ただ一つしかないから」


「彷徨さん・・・。わかりました。お三方に試していただくのですね」
ワンニャーは彷徨の目を見上げてしっかり確かめるように頷いた。












「どうしたんだっ?彷徨。光月さんどうかしたのか?」


最初に 三太を未夢の部屋に呼んだ。 三太はまだケーキ食ってないんだけど、などとぶつぶついいながらも、何かあったのかと怪訝そうに彷徨のあとについてきた。
そして、今二人の目には、静かに眠る未夢が映っている。

彷徨はいったん目を伏せると、静かにつぶやいた。

「・・・・未夢の唇に触れてみてくれ」


「は?何いってんだよ??それに彷徨。そんなことしたら、お前がさぁ〜」
「いいからっ!」

突然のわけのわからない申し出に、三太は首を何度もかしげる。
それに三太自身、未夢に指一本でも触れることは彷徨の手前かなり気がひけるのだ。

しかし、彷徨にとって、今はそんな場合ではない。
もたもたしている時間はないのだ。

結局、彷徨は半ば無理やりに三太の手をとり、未夢の唇に触れさせた。





――――――


                   ―――――――



                                    ―――――――      



「わぁぁ、何だ?」
三太が指先で未夢の唇に触れたそのときだった。
強烈な光と共に 三太の体に電流のような痺れが走ったのだ。


「彷徨っ!?なっ、なんだこれはっ??・・・ん」



・・・






「ワンニャー?今 三太に何を?」

突如未夢と同じく眠るように倒れてしまった 三太に、彷徨は驚いて、今まで側で見守っていたワンニャーに尋ねた。


「 三太さんにはオット星印の正真正銘の認定商品、瞬間記憶ワスレール薬、を飲んでいただきました。直前5分間に起こった出来事を瞬時に忘れてしまうおくすりです。あのままだと、 三太さんが不審に思ってしまうでしょうから。10分ほどですぐに目覚めます」


「ワンニャー・・・」


「えっへん、ワタクシはゆ〜の〜なシッターペットですよ。そのへんにぬかりはございません!さあ、残りのお二人も」




(・・・三太はやっぱり違う。)





となると、光ヶ丘か。やっぱりみずきさんか。
前の中学は女子中だというし、他にはもう、考えられない。


キスしてしまっても、この薬さえ飲めば、光ヶ丘やみずきさんの記憶は消えてしまう。
だが、そのとき、俺はそれに耐えられるのだろうか。


そして、未夢の本当に好きなやつを知って、俺は・・・



「彷徨さん、早く、お二人を」

「ああ・・・」












「未夢っち〜、こんなに深い眠りについて、よっぽど具合が悪いんだね。ああっ、僕は一体どうしたらいいんだ〜!!」


「光ヶ丘。未夢の唇に触れてみてくれ」


「ええっ!西遠寺くん、どうしたんだい?それは僕は嬉しいけれど、何を言い出すんだ、急に。だって、君は未夢っちのことを・・・君はとくに独占欲がつよ・・」
「いいからっ!早く。もう時間がないんだ」




(ったく。・・・こいつもか・・・俺が未夢のこと想ってるって知ってたんだな)






「未夢っち・・・君に僕のささやかな口付けを与えよう」


そういうと、望は未夢の顔に自分の顔を近づけ、目を細めた。




(え・・・)



「ばっ!!!!!違うよっ。指で触れるんだよっ!!」

勘違いしている望に彷徨は慌てて手をとって、未夢の唇に触れさせた。

















「・・・光ヶ丘さんも違いましたね」
「ああ。残るはみずきさんだな・・・」


ワンニャーはみずきでも、誰でも試さなくても彷徨がキスさえすれば、未夢はすぐにでも、目覚める――最初からずっとそう思っていた。


だが、肝心の彷徨が動いてはくれない。
時刻はもう五時を過ぎている。
ワンニャーは何としてでも、彷徨に未夢へ触れさせるつもりだった。








―――――――――   ――――――――   ――――――――  ――――――   




「・・・みずきさん、突然ですが、未夢の唇に触れてみてください」


最後のかけだった。彷徨の目から見ても、望や 三太より、あきらかに未夢はみずきに憧れていた。


おそらく、みずきが・・・




彷徨にはもう彼しかいないと思った。初めから、そう思っていた。
悔しいけれど、みずきには勝てない。
だが、未夢を助けるにはそんなことためらっているはずもなかった。
電流が走らなければ、未夢の唇にみずきの唇を重ねてしまうしかない・・・っ

なんだってこんなことにっ、そう思ったときだった。

「え・・・」













――――――
                     



                  ――――――
         




                                    ――――――
         


(――は?)

(どういうことだっ!?)



目を見開き。呆然と、彷徨は立ち尽くした。みずきで間違いないと思っていたのに、みずきでも未夢は拒否反応を示した。


やがて、今まで黙っていたワンニャーが口を開いた。

「彷徨さん。ワタクシ、ちょっと 三太さんと光が丘さん、それからみずきさんを起こして本堂まで連れて行きます。彷徨さんはここに残って下さいね。それから、パーティーはもうお開きにします。皆さんにも帰っていただきますので」






ワンニャーは彷徨をわざと一人残した。きっと、一人になれば、彷徨が思うことはただ一つ・・・未夢に触れてみるだろうから。
――そう、確信していた。




―――――




―――――――――




―――――――――――――――・・・・・・








(みゆ・・・)

お前の好きなやつは一体、誰なんだ??

俺だったら、どんなに――いいか。






未夢の目の前に、彷徨は膝をついてしゃがみこんだ。
頬はほのかに赤く、依然として、閉じられた瞼も美しく。
長い長い、睫毛。


眠っていても、唇は変わらず、綺麗な色をしていて。艶やかだった。


誰でもいいわけじゃない。

やっぱり・・・俺が何としてでも、目覚めさせてやりたい。





――他のヤツに触れさせてたまるもんか・・・っ。





彷徨は、未夢の白くて透き通るような頬を撫でると、手で唇をなぞることなく、顔を未夢の前に落とした。顔を寄せて、唇を見つめて。


迷いはなかった。


間近で見る未夢にこんなときでも、どくどくと鼓動が高鳴る。
微かに自分の唇を開いて、彷徨はそのまま・・・





未夢の唇に自分の唇を押し当てた。


















☆☆☆






――・・




――――――・・・・・・・







(か、なた・・・?・・・ってきゃっ・・・)



(ななななななにっ!!!この感触!!!???)



唇に確かに感じる柔らかな感触。目が覚め、未夢の唇が僅かに開かれた。
そのことに彷徨は気づかず、目を閉じたまま、無意識にさらに強く唇を押し当ててきた。



「未夢・・・」
彷徨は知らず知らずのうちに未夢の名前を呼ぶ。




「かかかかかかかかなたぁぁぁ!??」




(!!!)

「みゆっ!!?」





がばっと、彷徨が起き上がる。未夢が目覚めたことにようやっと気づいて、あわてて唇を離す。
未夢の顔はこれ以上にないくらい赤く染まっていた。
彷徨もはっと我に返り、顔を真っ赤にするが、目を覚ました未夢にダークブラウンの瞳を大きく見開き、ひどく驚きの表情を見せた。





(なんっ・・・で、え・・・?目を覚ました・・・っ)




確かに開かれている未夢の瞳。
いつもの高い、甘い、自分を呼ぶ声。


間違いなく、未夢は目を開いているのだ。
彷徨は信じられない思いで、未夢のようやっと開かれた新緑色の瞳を見つめた。


「未夢。よかった・・・目を覚ましたんだな」
「☆。って彷徨ぁ??さ、さっき、な、なにしてたのよっ!!!」


「・・・お前なぁ。ケーキつまみぐいしただろ」
「!!イキナリ何いいだすのよっ。そんなことより、ななななんで、彷徨が私にキ、キ・・・」



「キスか?」




ぼぼぼんっ






これ以上にないくらい真っ赤になった未夢を間の前に、もう彷徨にはためらいはなかった。


「好きだから・・・」


そのまま、彷徨はまた未夢に近づいて、未夢を肩を抱き、自分のほうへ引き寄せた。
「かなたっ?」


未夢は慌てて彷徨の腕から逃れようとするが、彷徨はさらに自分の胸に未夢を抱きこんだ。
未夢の肩に顔をうめて、べったりと抱きつくように・・・



「お前が、ケーキに入ってたオット星の香料のせいで、眠り姫のように眠ってしまったんだ。ただのお菓子じゃなかったんだ。眠り薬みたいな・・・目覚めさせる方法はただ一つしかなかった――好きなやつからのキス・・・だけだったんだよ」


「え???」



「俺は――ずっと前から未夢が好きだ」



彷徨は独白するように、いつもとは違う、熱を帯びた声で未夢の耳元でささやいた。
その真剣さに、未夢もおとなしく暴れるのをやめて、彷徨にされるがままになった。



少しの沈黙の後、ためらいがちに未夢がつぶやく。





「・・・・・・・・・・うん、私もだよ・・・。だって、それって好きな人じゃないと目覚めないんだよね・・・?」



そうして、恥ずかしそうに、未夢は彷徨の胸に顔をあてた。





               ☆

               ☆

               ☆









「――だけど、ほんとにびっくりしたよ〜。あのまま彷徨が目覚めさせてくれなかったら・・・
でも、眠り姫の王子様役が彷徨だ、っていうのがなんだかなぁ〜」

「なんだとは何だよ?・・・っていうか、自分で姫っていうなよ、姫って。それに俺くらいしかいないだろ。お前の面倒見れるのって」


「もーまた何で、そんなこというかな〜っ、この人はぁ!」


とんっと、彷徨の胸をたたいて、未夢は離れようとする。


「嘘だよ・・・」

「え?」




「――未夢しかいないから、俺には・・・よかった、お前が目を覚ましてくれて・・・本当に・・・」


離れようとする未夢を彷徨が許すはずもなく。
彷徨は未夢の腰に腕をまわしたまま、少し身を放して、睫毛が触れ合うくらいの距離で未夢を見つめた。
真っ赤になる未夢もまた、その視線から目がはずせない。

「彷徨・・・」


「なあ・・・」
「何?」




「お前ってやわらかいな。体も・・・唇も」
「な、なにいいだすのよ〜」
「キスが、・・・唇が気持ちよかった」


にやっ、と彷徨は意味ありげに微笑んだ。




「っ!?・・・ばかっ、な、なに言い出すのよ〜」


彷徨の言葉に未夢は目を潤ませて、トマトのように真っ赤になった。


「好きだよ・・・」




「・・ぁ・・っ・・・」



彷徨はさっきよりも深く、熱を含んだキスをする。
離れたと思ったら、また、唇を強く、押し当てて、角度を変えて。
何度も、何度も交わされる甘い甘い・・・深いキス。



未夢も彷徨の想いを受け止めるかのように、二人は時の流れも忘れて、キスを繰り返した・・・





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






そのとき・・・



あんなに晴れ渡っていた空も、ほんの少し前に。
日が暮れ、いつの間にか立ち込めていた雲が、静かに密かに、・・・雪を降らせ始めた。


・・・二人は、まだ気づかない。



そして、この数分後、ワンニャーは目を覚ました未夢をみて、心から祝福し、舞い降りる雪をみて、未夢は目を輝かせることになる。



雪が降っていながらも、空が割れていて、今日いちばんの星の光がささやくように、降り注いでいた。






  ――クリスマスイヴの聖夜の奇跡。

    





こんにちは。
これは、冬企画にださせていただいたものです。

即興で作ったため、本当につたない文ですが、少しは形になれてよかったです。とはいえ、わかりにくく、読みづらくてすみません(><)

――夏の企画に参加させていただいて、皆さんの素敵な作品にとても感動していました。
冬企画を知ったのが、直前でして、間に合わせのものになってしまいましたが、こうしてまた参加させていただくことができ、無事に終了しましたことをとても嬉しく思っています。

本当にありがとうございました!!
また、メールなどで感想を下さる方、いつもとっても励みになっています(´∀`)(感謝ですvv)

皆様、これからもよろすぃくお願いします(ぺこり)
こちらを含めて、他の小説の感想などいただけると、とっても嬉しいです。
感想いただいた人の中にはお礼に、小説(本当につたないですが・・・)をお届けしたいなと思っています。・・・夏にはかけるといいなぁ・・・

※当時のコメントのままです。

あまりにも、一話にするのは長いので、二つにわけました(^^;
それにしても、読み返すと、かなり、甘いですね・・・(苦笑)・・・とうか激甘??(^^;

友坂りさ(kiykat6220@ybb.ne.jp)

2003.12
2004.5.23 一部加筆修正。
2004.12.5 修正。(2つにわけて、投稿)

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