Never land 〜 恋の魔法〜

2

作:友坂りさ

←(b)



「・・・たん、ねぇ、おねえたん。」



 突然、未夢の耳に小さな声が届いた。
声のするほうを見下ろすと、未夢のパンプキンパイの入った、バックをくいくいっと、小さな男の子が引っ張っていた。
見た感じは、3歳くらいの男の子。

「えっ?何?」

ひとりぼっちの未夢は何だか自分を呼ばれたことが嬉しくて、にこっと笑顔で小さなその子を見つめた。

しかし、よく見てみるとその男の子の目にはうっすらと涙の跡があった。
少し驚いて、未夢はその子の顔を覗き込んでみる。


「・・・ふぇっ・・・あ、あのね、ママとパパがいなくなっちゃったの・・・」

「え?」

男の子は未夢の優しい笑顔に安心したのか、ぽろぽろと涙をこぼしはじめた。
未夢はその様子に心配しながらも、安心させるようによしよし、と頭を撫でてやる。

その子の瞳を良く見てみると、綺麗な紫の瞳。


(ルゥくんの瞳と同じ色だね・・・あっ、だけど、ワンニャーも紫色だったよね、ふふ。さすがはシッターペットですな〜)


そんなことを思いながら、何だか懐かしい気持ちになっていた。


「ママとパパ?いなくなっちゃったの?」

「うん・・・ふぇっ、ぅぅ・・・」


泣き続ける男の子に未夢は何とかしてあげたくて、小さなその手をつないだ。
まるで、近い将来のルゥの姿をみているようだった。

 ( ルゥ君もこうやって迷子になったら、ちゃんと誰かに助けてもらえるといいな。
  ワンニャーもみたらし団子に夢中にさえならなければ、ゆ〜の〜なんだけどなぁ。)


  遠い遠いオット星で、ルゥもワンニャーもこうやって遊園地とか行ってるんだろうか。
  本当のパパと、ママと一緒に・・・



「よし、私が探してあげるよ!!君のパパとママ。・・・おなまえは、言える?」

「ゆ、ゆう・・・」

「ゆうくん、ていうのね。じゃ、いこっか。」

「うん・・・ぅぅ、ありがと・・・おねえたん」

「どこまで・・・いくの?」

まだとまらない涙をちっちゃな手で必死に拭いながら、男の子は未夢を見上げて、言った。

「とりあえず、ゆうくんみたいな子が行く場所、かな。」


未夢は正面ゲート近くにあるはずの迷子センターに向かった。


この場を離れるのは、彷徨たちと待ち合わせしていたので、未夢はほんの少し、ためらったが、時刻はもう9時半を回っていた。
それにそれ以上に、小さなこの男の子のことも、とても心配だった。




――もう、来ないよね・・・私も、この子と同じ、ひとりぼっち。
   せめて、この子にはちゃんとママとパパのもとへ会わせてあげたいから。




少し歩いた頃、またその子はくいくいっと今度は服を引っ張ってきた。



「まっておねえたん・・・ゆう。おなかちゅいた」

「え?お腹空いちゃったの?」

未夢はちょっと考えてから、ぱっと思いついた。

「ゆうくん、かぼちゃ、好き?」


突然そう聞かれて、小さなその子はえ?と首を傾げた。

「・・・う、うん!!」


「そっか〜。よかった。あのね、これ、お姉ちゃんが作ったんだけど、よかったら食べる?」

だったら、いいものがあるんだ、と未夢は男の子の頭に手をやりながら。
かさこそとバックからいびつな形のパンプキンパイを取り出した。


未夢はひとまず、観覧車をバックに近くのベンチに座って、食べやすいようにパイをペーパーナイフで切り分けてあげた。

「ありがと・・・おねえたん!!」


男の子はよほど嬉しかったのか、ぱくっと、一気にパンプキンパイをほおりこんだ。
それをおそるおそる覗き込む未夢。
いつものことだが、誰かに自分の作ったものを食べてもらうのはどきどきなのだ。

「どう?お、おいしい?」

「うんっ!!とってもおいちいよ〜、おねえたん、おりょうりじょうずなんだね〜」

「よかった」


(料理が上手だなんて、初めていわれたな・・・ありがとう)


満面の笑みのその子に、
未夢は何だかとっても嬉しくなって。にっこり微笑み返した。
そして、すっかり元気を取り戻した男の子は嬉しそうに与えられたパイを全部食べてしまった。


「まだ・・・いる?」

未夢の膝の上には、6分の1だけ欠けた、パイ。



「ううん、ありがと。・・・あのね、おねえたんもひとりなの?」

「え・・・」

どきり、とした。
そのとき。
未夢が瞳を揺らして、男の子に何か言おうとした瞬間、若い夫婦の声が聞こえてきた。



        「ゆーうっ!!悠!!どこ〜??」

        「あなた、ゆう、どこいったのかしら?」


        「ああ、迷子センターにもいなかったしな・・・」

        「あの子まだ、あんなに小さいのに・・・」

        「大丈夫さ。パーク内の外にはでてないよ、
         もっとちゃんと探せば、きっと見つかるさ」

        「・・・だけど・・・」




・・・ゆう?

もしかしたらっ・・・・?


未夢ははっと気づいて、ちょうど前方からやってくるまだ若い夫婦の声のするほうに向かって、手を振ってみた。


若い女性はそれに気づいたのか、大急ぎで、未夢たちのもとへ駆け寄ってくる。

「!!ゆう!!」


「・・・まま・・・?・・・・ママッ!!」


男の子は未夢の手を離して、とてとてと、小さいながらも一生懸命にその女性のほうへ走っていった。
母親らしき女性は、その姿を確認すると、駆け寄ってきた大事な“息子”をしっかりと抱きしめる。
どうやら、この女性が、母親だったようだ。

未夢はほっとして、気持ちが和らぐのを感じた。


「悠、よかったわ・・・もう心配させないでね。」
「心配かけるなよ、悠」

「ご、ごめんなさい・・・」

すっかり安心しきった夫婦は、ようやっと側にいる未夢の存在に改めて気づいた。
さっきは夢中で、誰が手を振っていたのかでさえ、気づかなかったのだろう。

「あなたが、ゆうを?」

女性はやわらかな微笑で、未夢に話しかけた。

「あ・・・は、はい。」


「本当にありがとうございました・・・っ!!何とお礼をいっていいのか・・・助かりました・・・!!」
ぺこりと、女性は頭を下げた。

少し遅れて男の子の父親らしい男性のほうも丁寧に頭を下げる。

「いえ・・・そんな。ただ、一緒にいてあげただけですから」

未夢は恥ずかしくなって、うつむき加減につぶやいた。


「いえ、どんなにそれがこの子の支えになったか・・・本当にありがとうございました。・・・では、私たちはこれで・・・ほら、悠も挨拶するのよ」

「そうだぞ。悠。お姉ちゃんにありがとう、は?」

「うん、ありがとう!おねえたん」

紫の瞳をきらきら輝かせてその子は最後にお礼を言うと、父親と母親に手をしっかりとつながれながら、その場を去っていく。
男の子だけが、何度も振り返って、未夢に向かって小さなその手で、バイバイ、と手をふっていた。

男の子とその両親の姿が見えなくなるまで。
未夢もまた、手を振っていた。



(また、本当にひとりぼっちになっちゃったな・・・)


ふうっと、未夢はため息をつく。
気がつけば、もうすぐ10時。

もう帰ってしまおう、・・・そう思った。
・・・きっと、もう彷徨はこない。

・・・今なら、まだ最終列車に間に合う。


・・・だけど。一瞬。

何だか心に風が吹いたような気がして。

一度だけ、未夢は振り返った。



そして。

次の瞬間。
未夢は目の前の光景に、あっという間に目を奪われた。


「わぁ・・・キレイ・・・」



――振り返った先には、綺麗にイルミネーションが輝いている、大きな観覧車。

虹のように七色に光る観覧車は、まるでオーロラのように見えた。

すっかり魅了された未夢はぼんやりと空に浮かぶ月を見上げて、遠い宇宙を想い、その光に吸い寄せられるようにその観覧車に向かった。







                           ☆






(はぁ。それにしても男一人で遊園地ってのも変な感じだよな)


もう帰るか、彷徨はそう思って、一度だけ、何気なく後ろを振り返った。


時刻は午後10時。



(あ・・・れ?)


彷徨は一瞬、目を見張った。


「さっきまであんなに綺麗にライトアップされてたっけ?」

彷徨の目には、七色に光る観覧車。


ふいに、目の前のカップルの会話が聞こえてきた。


『10時からだったよな〜、観覧車がライトアップされるのって。』
『そうそうvv早くいこう!!とっても綺麗なんだからっ』
『そうだな、いくか』


(三太が言ってた夜のイベントってこれか。せっかくだから近くまで行ってみるかな・・。まあ、まさか一人では乗らないけど。けっこう綺麗だし。)


彷徨もまた、観覧車のイルミネーションに惹かれて、ゆっくりと歩き始めた。



(確かに綺麗だな・・・)




――未夢が見たら、きっと綺麗だよねっ、ねっ!!とかって大騒ぎするんだろな。
   宇宙のオーロラみたいだよね、とかってはしゃぐだろうな。





   あいつの笑顔がまた見たい・・・




彷徨は知らず未夢のことを思い浮かべながら、自分の想いに苦笑した。
こんなにも、未夢のことばかり考えてしまうことが不思議で、くすぐったかった。
だけど、いつまでも傍ににいてやりたいと、切実に願っていたことは確かだ。


  自分が一歩踏み出せば、叶ったかもしれない、願い。





乗らないと思いつつも、間近でその光を見ていたくて、気づいたときには観覧車乗り場の入り口にいた。
イベントというはずだから、混んでいるはずの、観覧車。
しかし、何故かあまり人はいなかった。


呆然と立ち尽くしていた彷徨に、遊園地の従業員のおじさんが後ろから声をかけてきた。



「君、乗らないのかい?今はちょうどいいよっ。みんな今日一日限りのパレード見に行っちゃってるから。」


そういわれて、耳を澄ましてみると、確かににぎやかな音楽が聞こえてくるのがわかった。


「あ、いえ、別に俺は。」


そう否定したが、おじさんはにこにこと彷徨の腕をとって、観覧車に乗るように促した。


「ほら、彼女も待ってるよ」

「えっ?」





「じゃあ、楽しい観覧をしてきておいで。いってらっしゃい。」


「あ・・・あの、俺たちは。」「わ、私も」




パレードの音に邪魔されて、互いの声もあまり聞き取れない。
互いの顔も、観覧車の入り口だけは灯りが届いていなくて、薄暗くて、分かりづらかった。


気づくと、言われるままに彷徨は偶然側にいた女の子と何を勘違いされたのか、一つの観覧車に乗せられてしまった――・・・






                          ―え・・・?







俺、何幻なんかみてるんだ・・・??
















恥ずかしそうにこちらを見ようとしない、目の前の女の子。

色素の薄い髪に、うつむいていてもわかる、新緑色の瞳・・・






(み、みゆ・・・?)







彷徨は信じられなかった。

夢でもあるまいし。
こんな都合のいいことがあるはずがない、と。

だけど。

確かに―――。



目の前にはさっきまで思い描いていた、ずっとずっと会いたかった―・・・


                    未夢がいた。




驚きのあまり目を見開いている彷徨に、ようやっと未夢の視線がこちらを向いた。

その瞬間に、未夢の大きな瞳もさらに大きく開かれる。




「・・・・・・・・・・・え。何で・・・?・・・・・・か・・・なた?彷徨?」





先に名前を呟いたのは未夢のほうだった。
彷徨にとって、ずっと聞きたかった、柔らかな、高めの優しい未夢の声。



「あの・・・・未夢だよ、な・・・」

その存在をしっかり確かめるように、彷徨も未夢の名前を呼んだ。

「う、うん。」

久しぶりに聞く、互いの声だった。
名前を呼び合うのが少し恥ずかしい気さえしていた。




「――よかった〜、やっと会えたね・・・来てくれてたんだね」

ポツリと、未夢がそう、漏らすと、彷徨はえ?と首を傾げた。


(何で?未夢は俺が来るのを知ってるんだ?)




あ・・・




“ひとりで行ってくれっ!!頼むよぉぉ〜”

数時間前にやたらと慌てた様子の 三太。
思えば不自然に。
いやだと否定しても、絶対にここに来るようにと、突然の誘い。


――・・・そういうことだったのか。







自分の未夢への想いに明らかに気づいている三太たちが仕組んだことだな、彷徨はようやっと、そのことに気づいた。


「・・・お前は知ってたのか?俺がここに来ること」

それでも。
目の前の未夢の姿にやっぱり今だ信じられなくて、じいっと視線をはずさないまま、彷徨は未夢にたずねた。

「え?う、うん。あのね。・・・ななみちゃんたちが久しぶりに彷徨に会ったら?っていうから・・・」

その視線を受けながら、恥ずかしげに、未夢が事情を説明しだす。

「だけど、変だよね、普通に一緒に行けばいいのに、ななみちゃんたちが彷徨を驚かせたいからって・・・ほんと、変なの」


(っていうか、あいつら〜。何考えてるんだよ〜///)



未夢でなければ、おしゃべりなななみたちのことだから、自分の未夢に対する気持ちにとっくに気づかれていただろう。


――気づかれないのも、問題だが・・・




「まあ、いいさ。せっかく久しぶりに会ったんだ。観覧車、楽しもうぜ」

突然目の前に現れた未夢に驚愕したが、そうは言っても、この思いもよらない再会に、三太達の心遣いも、気分よく感じていた。
何しろ、また、自分の側に未夢がいる。



ただ、それだけで。
彷徨の胸はもういっぱいになるのだった。



「・・・綺麗だね〜」
「ああ・・・」


彷徨の横顔を見ながら、未夢は終始どきどきさせられていた。


この半年で、思っていたとおり、彷徨は前よりももっともっとかっこよくなっていた。
声も、少し低くなっていた。背だって、少し伸びたように思える。
大人っぽい横顔から、視線がはずせない。



一方、彷徨も、未夢の様子をちらり、ちらり、と伺っていた。
半年会わないうちにさらに、綺麗になったように見える。

少し痩せたのだろうか?
白い素肌も、柔らかそうな頬、そして、唇・・・

狭い空間の中にふたりきり・・・


未夢に触れたい・・・そんな切ない想いが彷徨を襲ってきた。
だけど、まだ想いも何もまだ伝えていない。


――そんな状況で、未夢には触れることができなかった。







「綺麗だったね〜。すごく」

「本当綺麗だったな」

「ななみちゃんたちに感謝しなくっちゃ」

「そうだな」
「お、今日はやけに素直ですなぁ〜、彷徨さん」

「ば、からかうなよっ。俺だって、綺麗だとか・・・思うんだよっ」

「ふふふ」


半年間、空白があったとは思えないほど、観覧車から降りた二人は自然な会話を交わした。
言い合っていても、最後は二人して、和やかに笑いあってしまう。
そんななんでもないことが、二人にとって、何よりも大好きな雰囲気だと感じていた。


「・・・もし、そこのお二人さん」


観覧車から離れて、メリーゴーランドの前に来たときだった。
未夢と彷徨は突然、自分達を呼ぶ声に足を止めた。
何だろう、と二人同時に振り返ると、80近い年老いたおじいさんが、昔ながらのカメラ・・・いや、写真機とよぶような古めかしい機械を脚立に立てて、それを抱えて二人の前にやってきた。


首を傾げる二人に、老人はにっこりと微笑んだ。

「君たちの写真を撮ってあげようと思うんだが・・・どうかね?無論、代金などいらんのだが。」


「「え?」」

突然の申し出に未夢と彷徨は一瞬戸惑った。


「君達は、とてもいい関係のようじゃ。わしは今まで、いろんな人間の写真を撮ってきたが、こんなに素敵な二人を見たのは本当に久しぶりじゃ。

どうかね?モデルになってくれないかの?いや、なって欲しいんじゃよ。」


「で、でも、(か、彷徨と二人でツーショット写真だなんて・・・それにおじいさんにも何だかただでとってもらうなんて、気の毒だよね・・・)」


未夢が少し頬を染めながら、老人の頼みに断ろうとしていた。
彷徨は横で照れている未夢の表情に自然と顔をほころばせながら、ゆっくりと未夢の耳元で囁いた。

(いいじゃん、撮ってもらおうぜ。このおじいさん、撮りたいっていってるんだからさ。)
(でも・・・)
(いいから!)



「じゃあ、お願いします。」
「彷徨っ・・・」



「それじゃあ、メリーゴーランドを背に、二人並んで立ってくれんかの?ほら、ちょうど灯りが点ってとても綺麗じゃ・・・」



「未夢」
「あ・・・」

彷徨は未夢の手をとるとしっかり握ってメリーゴーランドの前に連れて行く。
このように、手をつなぐのは、初めてじゃなかった。
西遠寺にいたころも、彷徨はごく自然に手をとることがあった。

彷徨の長い指をした手と、未夢の細くて白い手がやさしく、こうして、また再びつながれた。



「それじゃ、行きますぞ。わしが合図がわりに手をかざすから、その瞬間に撮るからの」


「・・・ほら、そんなに緊張しないで、肩の力抜いて」


「・・・未夢、ほら、笑えって」

「う、うん・・・」






――カシャッ・・・








「おお・・・これはこれは」




「どうじゃ、すごいじゃろ。こんな古い写真機でも、すぐにこうやって写真になるんじゃよ。」

老人は満足そうにたった今撮ったばかりの写真を未夢と彷徨の前に差し出した。


写真には、メリーゴーランドのイルミネーションをバックに、寄り添うように、二人のやわらかに微笑んだ姿。


「わしの写真は真実の姿を写すんじゃ。君たちのように可愛らしい恋人同士には、ちゃんと恋人達の姿が写る。

じゃが、いつわりの恋人達は、どんなに表面で笑顔を作っていても、自然と憎しみの表情が写真に現れる。

これは本当じゃよ。――今夜はかわいらしいお二人さんにあえて、本当によかったの」

「こ、恋人・・・あの、私たちはっ!」

未夢が慌てて否定しようとすると、その言葉をさえぎるように、彷徨が口を開いた。

「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。大切にします、写真」


うんうんと満足そうに頷きながら、にこにこと笑顔を絶やさないまま、老人は未夢と彷徨の前から去っていった。



「あの・・・おじいさん、何言ってるんだろうね、こ、恋人同士だなんて・・・」
「まあ、いいじゃん」


(――え、彷徨・・・?)


彷徨は、戸惑っている未夢をよそにまたその白い手をとると、未夢を連れて、駆け出した。

「せっかくだから、もっと遊んでいこうぜ」
「あ、う、うんっ!!そうだよね」


いつもとは少し違う彷徨の様子に未夢は鼓動が高鳴るのを感じながら、それでも、とっても嬉しくて、彷徨のつないだ手をぎゅっと握り返した。




   ―こんなにも近くにいるから、せめて今だけは、この手を離さずにいてね・・・彷徨。



未夢は夢見心地で、今のひとときをとても幸せに感じていた。








強引にぐるぐると廻されたコーヒーカップ。

水をかぶるような、ジェットコースター。


パラシュートのような絶叫マシン――

そして、前回、偶然皆がはちあわせたミステリーマーケットも。





楽しめるアトラクションをほとんど乗り終えると、未夢と彷徨の二人は再び先ほどのメリーゴーランドの前に戻ってきた。


「未夢。これ、お前が持ってろよ」


彷徨はポケットから、先ほどの老人にとってもらった写真を取り出した。


「え、いいの?」

「ああ。一枚しかないしさ」


「ありがと・・・」


本当は彷徨は自分がその写真を持って居たかった。
だが、未夢に渡すことで、ずっとつながっていれるような気がしたのだ。


未夢は心底嬉しそうに微笑むと、今度は自分から手をつないだ。
一瞬、彷徨がびくっとした気がしたが、それでも、また、ごく自然に指を絡ませた。


「ね、彷徨。もうすぐ遊園地しまっちゃうから、最後にメリーゴーランド乗ろうよっ」

「え・・・馬にまたがんのか?恥ずかしいじゃん、それって」

「だから、かぼちゃの馬車に乗るのよ♪二人で。彷徨かぼちゃ好きでしょ・・・ってああーー!!」

「なんだよ、急に大声出して。何があったんだよ」

「そうだっ、私パンプキンパイ作ってきたんだっ!!」

「え。未夢がか?」

「〜っ、ちょっと何よそれ〜っ!!」

「はいはい、じゃあ、中で食べればいいじゃん。乗りながらさ」

「あっv乗ってくれるの〜。」

「しょーがねーからな」
そういう、彷徨の顔は少し照れているようだった。





「はい〜、これで最終ですよ〜。最終だけ、特別に連続二回サービスしますよ〜」

メリーゴーランドの入り口に来た二人は未夢の願いどおり、馬車に乗り込んだ。
観覧車のときのように、向かい合わせに座る。





                             *






ファンタジックな、かわいらしい音楽が鳴り響く中、未夢がパンプキンパイを差し出した。
その中身を見て、彷徨は首を傾げた。

「お前、なんでこれ、欠けてるんだよ。焦がしたのか?もしかして」

「んっ!失礼ね〜。ちいさな男の子にあげたのっ・・・迷子になってたから」

「へぇ〜・・・」

「お前もでも、だいぶ成長したよな・・・」

「当たり前でしょ〜っ、もう彷徨に会って一年以上たつんだよ?」

「俺が傍にいてやったからだろ?」

「え・・・?」




ふいに、沈黙。


そのときだった。


フッ・・・





今まであれほど輝いていたイルミネーションが一瞬にして、突如消えてしまったのだ。




「きゃあああ、何っ!??」

「っ??」




未夢は怖さのあまり目の前の彷徨に思わず首に腕を廻して抱きついた。

「お、おい?未夢っ!??・・・こらっ」


鼻をくすぐる、甘いシャンプーの香り。
掴んだ二の腕の柔らかささえ、どきっとさせられる。
くびれた細い腰に思わず触れてしまって、戸惑ってしまう。


(みゆ・・・俺は・・・)


あまりの近い距離に、・・・彷徨の心にまた突き上げてくるような感情が生まれ始めていた。





―俺は・・・




        お前が好きだ・・・―





未夢は思わず彷徨に抱きついていることにも気づかず、小刻みに肩を震わせていた。


いつもは強がりの未夢も、本当は涙もろくて弱いこと、そして、誰よりも優しいことを彷徨は一緒に暮らしていたときから思い知っていた。



――ずっと傍で見守りたい――


きっと、将来も決して、変わることはない。


この想いは・・・








――だが、未夢は今ここにいるけれど、明日になれば、未夢はまた帰っていってしまう。


また、俺の目の前からいなくなる。
こんなふうに、心から笑いあうことも、また、なくなる――


今だけ、ほんのひと時、未夢を独り占めできた。
だけど、これから先、俺がつなぎとめておかないと、きっと・・・離れていってしまう。








ボーン  ボーン  ボーン・・・



ファンタジーパーク内の、大きな時計台が、12時の鐘を告げた。




 今は、かぼちゃの馬車。そして、二人きり。

 人影からも隠れて――


 まるで、あのときのシンデレラのようだった。

だが、シンデレラの魔法は、12時をすぎると、とけてしまう・・・



  

あのときはニアミスキス――けれど・・・


















12時を回ってすぐに、一瞬にして、いっせいに照明が再びライトアップされた。
輝きはそのままに、観覧車も七色を取り戻して、再び色づかせた。





「あ、ご、ごめん!!わたしっ!!」

明るくなってようやくはっとした未夢はまだしがみついたままだったことに気づいて、慌てて離れようとした。

しかし、彷徨の腕がぎゅっと未夢の細い手首を掴んだ。



「待てよ・・・俺の傍から、どこにも行くな・・・」
「えっ?」

「未夢・・・」

「・・・ぁ・・・っ・・・」



それは、まるで夢の中のように――・・・


一瞬の、迷いもなく――・・・



突然だった。




彷徨の唇が未夢の唇にやさしく押し当てられた。
腕に手をそえ、右手を未夢の腰に廻して、知らずにぎゅっと引き寄せていた。



やさしいけれど、長いキス・・・
彷徨は名残惜しそうに唇を離すと、未夢の耳元で囁いた。




「未夢。ずっと好きだった」


「彷徨・・・」



未夢は信じられなくて、涙を浮かべて彷徨を見つめ返した。
だけど、今回はきっと現実。

「私もだよ」
ぽうっと、頬を染めて、小さく、未夢が呟いた。


その言葉に彷徨は一度目を見開いて。
それから、今までに見せたことのないような嬉しそうな笑みを未夢に向けると、今度は未夢の頭を抱くようにして、さらに自分のほうに引き寄せた。


「誓いのキス・・・もう一回するか?」
「え・・・」


一瞬にして、真っ赤になった未夢を彷徨は愛おしそうに見つめながら、ゆっくり未夢に顔を近づけた。


「ん・・・っ・・・」

日付が変わっての二度目のキスは、彷徨の想いが切実に伝わってくるような、熱く、深いキスだった。








                            ☆


――未夢、ありがとな。


――何でお礼言うの?

――いいのっ、俺がいいたかったんだから。


――ねぇ、彷徨・・・

――ん?なんだ?


――大好き。これからも、ずっとずっと傍にいてね・・・

――当たり前だろっ・・・そんなの。

――それよりも今夜うちに泊まってくんだろ?親父いないしな〜

――え?そうなの?


――二人っきりだな、未夢。


――ば、何言ってるのよ〜!!もう信じらんない!!





                          

                         






     Never land 〜 恋の魔法〜






     近い将来もずっとずっと二人で・・・

    
     二人の奇跡はまだ始まったばかり。


     そして、二度目のシンデレラの確かな魔法は、まるで覚めない

     夢のように――




――月がこれからの二人の未来を照らすように、明るく輝きを放っていた。







こんにちは。

すみません、今回本当にまとまってないですね(><)
申し訳ないです。

甘く切ないお話にしたかったのですが、こんな形になってしまいました(汗)
タイトルも随分悩みました。
何度も書き換えまして・・・意味としては夢のある終わりのない世界、
・・・(ん〜・・・わかりにくくて、すみません(><))みたいだと思ってもらえればいいです(^^;


ちなみに、地球型の噴水は「ディズニーシー」にあるものです(^^)
地球じゃ、ないかもしれませんが(笑)


ではでは、読んでいただいて、本当にありがとうございました!!
ご意見、お待ちしております・・・

※文章1のほうに誤字があったため、少し修正しました。内容は変わりませんのでよろしくお願いします。  


2003.12.16  

←(b)


[戻る(r)]