作:友坂りさ
「な、何っっ??この光っ!??・・・あ、クマちゃん!!!」
光に導かれるように、小熊は走り出そうともがきだした。
未夢はあわてて小熊から手を離す。
小熊は未夢たちを振り返り、何か言いたげに山の茂みのほうへ導こうとする。
「未夢っ!!よせっ!!たぶん、親熊の気配を感じたんだ」
しっかりと、掴まれた腕。
きっ、と強い瞳で未夢を見つめる。
「だって!!クマちゃんがっ」
「言っただろ、危ないって!!!」
「だけどっ。あのクマちゃん、私達にこっちに来て、って言ってるみたいだよ?
ペンダントも光りだしたし、不思議なことだと思わないっ!!?普通じゃこんなことあるわけないよ!!・・・・・きっと、彷徨とわたしを呼んでるんだよ!!」
「・・・っ・・・・」
未夢と彷徨が言い合っている間も、小熊はピンクのペンダントを首の上で揺らしながら、光の指す方向へ数歩歩いては、時折未夢たちのほうを振り返っている。
「・・・わたし、行くから!!」
「あ、おいっ・・・ったく、何でこうなるんだよっ!!」
彷徨を振り切って、小熊を追いかけて走り出した未夢に。
放っておくことなどできない彷徨も、すぐに追いついて。
ぎゅっと未夢の手をとって、小熊の導かれるまま、後を付いて行った。
―――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「―――え?桜・・・の木?」
小熊を追いかけて、たどり着いた場所には。
見たこともない、そして、今の時期にはまだ早い・・・・、
満開に花の咲いた、大きな桜の木。
「何だよ、これ・・・」
未夢も彷徨も、目の前の桜の美しさに心を奪われながら、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
「・・・・あ、クマちゃん・・・・」
そして、追いかけてきた小熊は。
桜の木に、寄り添うように、幹にしっかりとしがみついていたのだ。
((――・・・ルゥーイ、見つけてきてくれたのね))
(うん、おかあさん。やっと見つけたよ。二人の、ちきゅうじん)
((そうね、きっと大丈夫だわ。・・・・この二人なら))
がし、がし、ぎし・・・
「か、彷徨っ!!!」
「うそだろ・・・」
そのとき。
満開に咲き誇る桜の木が。
ありえないことに、動き出したのだ。
彷徨の影に隠れるようにしておびえだす未夢。
それを見て彷徨もまた未夢の手をとってぎゅっと、握り締めた。
「きゃあっ!」
「・・・待て、よく見て見ろよ」
((・・・あなたたちですね。ルゥーイに、気づいてくださったのは))
「しゃ、しゃべった・・・??」
「・・・ああ。未夢の言うとおり、“普通”じゃなかったな」
((ありがとうございます。・・・あなたたちはとっても信用できそうだから・・・、本当のことを話しますね。
実は私達は遠い宇宙から来た、ハルヤマ星人なのです。もちろん、この子も))
「「えっ???」」
((地球という美しい星に、オンセン、という温かい天然のお湯のお風呂があると聞いて・・・旅行好きの親子の私達はいてもたってもいられなくなって・・・思い切って、この星に来たのです。・・・怪しまれないよう、現地のものに似た格好をするよう地球カプセル、というものを飲んだのですが・・・どうやら間違ったカプセルを飲んでしまったみたいで・・・))
(それで、ぼくと、おかあさんがこんなすがたになっちゃったんだ)
「クマちゃん・・・も?・・・声がっ?」
さっきの小熊が、言葉を発したことに、未夢は驚き、目を見開いた。
(ありがとう、おねえちゃん。・・・さっきはおはなししたかったんだけど、おかあさんがいないとしゃべれないみたい。ぼく、まだまだ小さいから・・・まほうとかもつかえなくて)
(そういうことだったのか・・・)
小熊→親熊というつながりを考えて、彷徨は未夢のことが心配でたまらなかったのだが。
どうやら、また地球にきた“宇宙人”の仕業らしい、とわかって、ようやっとほっと胸をなでおろす。
「だけど、この姿のままってわけにはいかないですよね。元の姿に戻れないと、あなた方も帰れないでしょうし・・・何か俺達にしてほしいことがあるから、この小熊・・・いや“ルゥーイ”をよこしたんではないですか?」
((・・・えぇ、そのとおりよ。 私達には、あなた達二人の協力が必要なの。・・・声を揃えてある呪文を言ってほしいのよ))
「じゅ・・・もん?」
((凄く簡単なことだから、心配はいらないわ。))
「・・・それで。その言葉とは何ですか?」
((・・・「サクラ、サケ」と言ってほしいの))
「「サクラ、サケ・・・ですか??」」
―――凄い偶然のように。
この季節に、―――この親子にぴったりの、その“呪文”。
春の訪れを告げる、魔法のような言葉。
「わかりました・・・じゃあ、そのとおりにします」
「そうだね。 ん〜、なんだか不思議だけど・・・私達が力になれるんなら。クマちゃんも、元の姿に戻してあげたいし!!」
「・・・だったらさ」
「うん!」
「未夢。せーのっ、で言うからな」
「うんっ、わかった!」
目と目を合わせて。
再び手と手を取り合って。
すう〜っ、と深呼吸をして。
せぇの、で。
「「サクラ、サケ!!!!!!」」
――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぱあっ、と光の粒で。
一瞬にして、明るく空が輝いた後。
まぶしくて閉じた瞳をそうっとあけてみると。
目の前に、地球人の姿そっくりの親子がいた。
「わあっ!!よかったぁ・・・、彷徨」
「・・・・・ああ・・・・」
「本当に。・・・ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらよいのでしょう。
これで、安心して私達もハルヤマ星に帰れます」
「ありがとう!」
元の姿に戻った親子は、まだ若い母親と本当に小さな子供で。
未夢も彷徨も、まるで、数年後のルゥと本当の母親をみているような気持ちになった。
「いえ、そんなこちらこそ・・・、本当によかったです・・・」
「本当に。・・・まぁ、結構、驚いたけどな・・・だけど、初めから変身なんてしなくても、ハルヤマ星人の方は、地球人にそっくりなんですね、ちょっと驚きました」
「あはっ、ほんとだっ」
「・・・そういわれれば、そうですね〜。もっと地球ガイド本でも読んでくるんだったわ。ふふ」
「ほんとだよぉ〜、おかあさんってば」
「ふふ、ごめんなさいね」
互いにくすっ、と笑いあって。
二人の親子と。未夢、彷徨の間にどこからか、優しい風が吹いた。
「・・・せっかくですから、帰られる前に温泉に入っていかれませんか?実は俺達もまだなんです。温泉掘る途中でしたし」
「まあ、そうなのですね。だったら、簡単だわ!!」
☆☆☆
「凄〜い!!!凄いよ〜!この山にこんな温泉が眠っていたなんて!!
えへへ〜、ありがとうございますvv早速入っちゃおうっとvv」
「おまえ、ちゃんと水着持ってきただろうなー」
「持ってきたわよっ、エッチ!!」
あのあと。ハルヤマ星人のルゥーイの母の力により、一瞬にして、いくつもの温泉を沸かすことが出来たのだ。
掘るのが目的、と言っていた彷徨も、今日の不思議な出来事にそんなこともすっかり忘れて、未夢たちとは別の温泉にゆっくりとつかっていた。
「そういえば、お母さんはなんていうお名前なんですか?ルゥーイくんは聞いたけど」
(・・・・だけど、“ルゥーイ”くんなんて、不思議☆ ルゥくんと名前似てるよね・・・)
「私は、チェーリィー、よ。そうそう、あなたのお名前も聞いてなかったわね」
「みゆ、といいます」
「そう。ミユちゃん・・・あなたにぴったりの、とっても可愛いお名前ね」
にっこり、と微笑むチェーリィーに、未夢はどきどきして、顔が熱くなった。
(あ・・・。なんだか、このお母さん、とっても素敵で、きれい・・・・・。
それと・・・)
「おねえちゃん、・・・あ。えっと・・・みゆちゃん、きょうはほんとうにたのしかったよ〜!!」
「ふふふ。私も、楽しかったよ〜。今の姿もすごくかっこよくてかわいいけど、クマちゃんの姿もすごくかわいかったんだよv」
(・・・それとね、ルゥーイくんって。何だか彷徨に凄く似てるんだぁ。きっと、ちっちゃなころは、こんな無邪気な感じだったのかな。きりっとした瞳が、ダークブラウンの色が彷徨みたいで・・・なんか・・・)
(って、何考えてるの、私ってばっ・・・だけど・・・)
◆◇◆
「――それでは、今度こそ、帰ります。本当にありがとうございました」
「ばいばい、みゆちゃん、またねっ!!きっとあおうねっ。おにいちゃんも、ありがと」
「こちらこそ、本当に楽しかったです。素敵な出会いが出来て、よかったです・・・!!
ルゥーイくん、・・・またね。きっと・・・きっといつか会えるよっ!!」
「さよなら・・・、気をつけて。こちらこそ、いろいろ、ありがとうございました」
温泉をしっかり楽しみ、満喫した様子のハルヤマ星人の親子。
帰る時間が迫り、小さくコンパクトにしていた宇宙船を、チェーリィーの超能力で元の大きさに戻し、船の入り口に二人並んで、宇宙へと飛び立とうとしていた。
「あ、ちょっと、待って・・・カナタくん、だったわね」
チェーリィーは軽く手招きしながら、彷徨を呼び寄せた。
・・・そして、耳元でささやく。
――――――ー・・・・・実はね、あの呪文、想いが通じ合った二人が言わないと効果ないのよ。
「・・・っ!!?」
「・・・じゃあね、また。ミユちゃんと・・・いつまでも、仲良くね」
「えっ・・・」
言葉の意味に気づいて。
真っ赤になる彷徨に、チェーリィーは、ふわっと、微笑んだ。
・・・・彷徨にとって、どこか懐かしい微笑だった。
「それでは、さようなら!二人とも、元気でね。・・・そうね。ミユちゃん、今度会うときは素敵な人を連れてるかもしれないわね。・・・・・ううん、もうすでに近くにいるかもしれないけれど」
「・・・え?」
「ばいばい、みゆちゃん、ぼくみゆちゃんのこと・・・きっとずっと、大好きだよっ――」
―――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・行っちゃったね」
「ああ・・・」
ぶわっと、大きな風を巻き起こして。
二人の親子は帰っていった。
満面の笑みを残して。
「未夢」
「何?」
「実はさ、あの母親、何だか母さんに凄く似ていたような気がするんだ」
「・・・そうなの?」
「ああ。俺が三歳のころに死んじゃったから、よく覚えてないけど。
きっと、あんな雰囲気だったと思う。・・・だからかな、少しでも長くいたいと思ったんだ」
目を細めて懐かしそうに微笑む彷徨に、未夢もつられて、笑顔になる。
とても、優しい時間。
「そっか〜。ふふふ。だったら、ルゥーイくんは彷徨にそっくりだったよ!!」
「・・・って。俺の子供時代知らないじゃん」
「だって似てたんだもん!」
「・・・ふーん・・・ま、いいけど・・・」
「あ、照れてるの〜??」
「ばっ、違うよっ」
「はぁ〜い。そういうことにしておきますかっ」
未夢が笑って、つられて、彷徨も微笑む。
なんだか、春の匂いがする。
「だけど・・・、きっとルゥーイくんたちが今年の“はるいちばん”、だね!」
「そうだな。俺達がきっと地球で一番初めに桜、見たもんな」
「―――未夢。お前は、・・・・ずっとここにいろよ」
瞬間、ざわっと二人の間に、あたたかな風が吹いて。
未夢には、その声ははっきり届かない。
「え。何〜??」
「いや・・・、さ、帰るか!!」
ホントウの、桜―サクラ―が咲くのは、きっともうすぐ。
春の訪れを、ほんの少し感じて。
二人の距離も、もっと近づいた、そんな三月のある日。
きっと今日は。
―――― HARU ICHIBAN ・ はる、いちばん!
こんにちは、友坂りさです。
今回は時間がなく、参加をあきらめていたのですが、皆さんの素敵作品に影響され、ついに今回は滑り込み参加。
これで2003年の夏企画から始めて通算6回目の参加になります。
プチみかん祭〜すくらんぶるだぁ!パーティ!〜 HAPPY FROWER(春花の無礼講!)
プチみかん祭2004〜Happy Lucky bag!〜そして今回のこの子どこの子サクラの子
思えば、いろいろありました(^^;
じゅもん・・・・あはは、某アイドルの曲タイトルまんまです(笑)
実はBGMはこれで。
ひとつのプロットで作品を作り上げるという今までのない試みで、本当に楽しく書かせていただきました。一日でできたのも、white love 以来ですね〜。
皆様の素敵作品に混じって、無理矢理の投稿でしたが、今回とっても楽しかったです。
本当にありがとうございました!!!
一気に仕上げてしまったため、文章変なとこあります、ご了承ください( ̄▽ ̄;)
(いつものことですが・・・)
☆こちらにUP時加筆修正。
友坂りさ(kitkat6220@ybb.ne.jp)