はる、いちばん。〜Spring has come!!〜

2

作:友坂りさ

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「な、何っっ??この光っ!??・・・あ、クマちゃん!!!」



光に導かれるように、小熊は走り出そうともがきだした。
未夢はあわてて小熊から手を離す。
小熊は未夢たちを振り返り、何か言いたげに山の茂みのほうへ導こうとする。



「未夢っ!!よせっ!!たぶん、親熊の気配を感じたんだ」


しっかりと、掴まれた腕。
きっ、と強い瞳で未夢を見つめる。



「だって!!クマちゃんがっ」

「言っただろ、危ないって!!!」

「だけどっ。あのクマちゃん、私達にこっちに来て、って言ってるみたいだよ?
ペンダントも光りだしたし、不思議なことだと思わないっ!!?普通じゃこんなことあるわけないよ!!・・・・・きっと、彷徨とわたしを呼んでるんだよ!!」


「・・・っ・・・・」



未夢と彷徨が言い合っている間も、小熊はピンクのペンダントを首の上で揺らしながら、光の指す方向へ数歩歩いては、時折未夢たちのほうを振り返っている。



「・・・わたし、行くから!!」

「あ、おいっ・・・ったく、何でこうなるんだよっ!!」



彷徨を振り切って、小熊を追いかけて走り出した未夢に。
放っておくことなどできない彷徨も、すぐに追いついて。


ぎゅっと未夢の手をとって、小熊の導かれるまま、後を付いて行った。





―――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









「―――え?桜・・・の木?」

小熊を追いかけて、たどり着いた場所には。


見たこともない、そして、今の時期にはまだ早い・・・・、

満開に花の咲いた、大きな桜の木。





「何だよ、これ・・・」

未夢も彷徨も、目の前の桜の美しさに心を奪われながら、しばらく呆然と立ち尽くしていた。



「・・・・あ、クマちゃん・・・・」


そして、追いかけてきた小熊は。
桜の木に、寄り添うように、幹にしっかりとしがみついていたのだ。





((――・・・ルゥーイ、見つけてきてくれたのね))

(うん、おかあさん。やっと見つけたよ。二人の、ちきゅうじん)


((そうね、きっと大丈夫だわ。・・・・この二人なら))





がし、がし、ぎし・・・





「か、彷徨っ!!!」
「うそだろ・・・」


そのとき。
満開に咲き誇る桜の木が。
ありえないことに、動き出したのだ。


彷徨の影に隠れるようにしておびえだす未夢。
それを見て彷徨もまた未夢の手をとってぎゅっと、握り締めた。




「きゃあっ!」
「・・・待て、よく見て見ろよ」




((・・・あなたたちですね。ルゥーイに、気づいてくださったのは))



「しゃ、しゃべった・・・??」
「・・・ああ。未夢の言うとおり、“普通”じゃなかったな」



((ありがとうございます。・・・あなたたちはとっても信用できそうだから・・・、本当のことを話しますね。
実は私達は遠い宇宙から来た、ハルヤマ星人なのです。もちろん、この子も))

「「えっ???」」



((地球という美しい星に、オンセン、という温かい天然のお湯のお風呂があると聞いて・・・旅行好きの親子の私達はいてもたってもいられなくなって・・・思い切って、この星に来たのです。・・・怪しまれないよう、現地のものに似た格好をするよう地球カプセル、というものを飲んだのですが・・・どうやら間違ったカプセルを飲んでしまったみたいで・・・))


(それで、ぼくと、おかあさんがこんなすがたになっちゃったんだ)


「クマちゃん・・・も?・・・声がっ?」

さっきの小熊が、言葉を発したことに、未夢は驚き、目を見開いた。



(ありがとう、おねえちゃん。・・・さっきはおはなししたかったんだけど、おかあさんがいないとしゃべれないみたい。ぼく、まだまだ小さいから・・・まほうとかもつかえなくて)




 (そういうことだったのか・・・)


小熊→親熊というつながりを考えて、彷徨は未夢のことが心配でたまらなかったのだが。
どうやら、また地球にきた“宇宙人”の仕業らしい、とわかって、ようやっとほっと胸をなでおろす。



「だけど、この姿のままってわけにはいかないですよね。元の姿に戻れないと、あなた方も帰れないでしょうし・・・何か俺達にしてほしいことがあるから、この小熊・・・いや“ルゥーイ”をよこしたんではないですか?」


((・・・えぇ、そのとおりよ。 私達には、あなた達二人の協力が必要なの。・・・声を揃えてある呪文を言ってほしいのよ))


「じゅ・・・もん?」


((凄く簡単なことだから、心配はいらないわ。))



「・・・それで。その言葉とは何ですか?」



((・・・「サクラ、サケ」と言ってほしいの))



「「サクラ、サケ・・・ですか??」」



―――凄い偶然のように。
この季節に、―――この親子にぴったりの、その“呪文”。

春の訪れを告げる、魔法のような言葉。




「わかりました・・・じゃあ、そのとおりにします」

「そうだね。 ん〜、なんだか不思議だけど・・・私達が力になれるんなら。クマちゃんも、元の姿に戻してあげたいし!!」


「・・・だったらさ」

「うん!」


「未夢。せーのっ、で言うからな」


「うんっ、わかった!」


目と目を合わせて。
再び手と手を取り合って。



すう〜っ、と深呼吸をして。


せぇの、で。







                   「「サクラ、サケ!!!!!!」」











――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









ぱあっ、と光の粒で。

一瞬にして、明るく空が輝いた後。



まぶしくて閉じた瞳をそうっとあけてみると。

目の前に、地球人の姿そっくりの親子がいた。




「わあっ!!よかったぁ・・・、彷徨」

「・・・・・ああ・・・・」



「本当に。・・・ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらよいのでしょう。
これで、安心して私達もハルヤマ星に帰れます」

「ありがとう!」

元の姿に戻った親子は、まだ若い母親と本当に小さな子供で。
未夢も彷徨も、まるで、数年後のルゥと本当の母親をみているような気持ちになった。

「いえ、そんなこちらこそ・・・、本当によかったです・・・」
「本当に。・・・まぁ、結構、驚いたけどな・・・だけど、初めから変身なんてしなくても、ハルヤマ星人の方は、地球人にそっくりなんですね、ちょっと驚きました」
「あはっ、ほんとだっ」

「・・・そういわれれば、そうですね〜。もっと地球ガイド本でも読んでくるんだったわ。ふふ」
「ほんとだよぉ〜、おかあさんってば」
「ふふ、ごめんなさいね」

互いにくすっ、と笑いあって。
二人の親子と。未夢、彷徨の間にどこからか、優しい風が吹いた。





「・・・せっかくですから、帰られる前に温泉に入っていかれませんか?実は俺達もまだなんです。温泉掘る途中でしたし」

「まあ、そうなのですね。だったら、簡単だわ!!」








☆☆☆


「凄〜い!!!凄いよ〜!この山にこんな温泉が眠っていたなんて!!
えへへ〜、ありがとうございますvv早速入っちゃおうっとvv」

「おまえ、ちゃんと水着持ってきただろうなー」

「持ってきたわよっ、エッチ!!」



あのあと。ハルヤマ星人のルゥーイの母の力により、一瞬にして、いくつもの温泉を沸かすことが出来たのだ。
掘るのが目的、と言っていた彷徨も、今日の不思議な出来事にそんなこともすっかり忘れて、未夢たちとは別の温泉にゆっくりとつかっていた。


「そういえば、お母さんはなんていうお名前なんですか?ルゥーイくんは聞いたけど」

(・・・・だけど、“ルゥーイ”くんなんて、不思議☆ ルゥくんと名前似てるよね・・・)


「私は、チェーリィー、よ。そうそう、あなたのお名前も聞いてなかったわね」

「みゆ、といいます」

「そう。ミユちゃん・・・あなたにぴったりの、とっても可愛いお名前ね」



にっこり、と微笑むチェーリィーに、未夢はどきどきして、顔が熱くなった。


(あ・・・。なんだか、このお母さん、とっても素敵で、きれい・・・・・。
それと・・・)


「おねえちゃん、・・・あ。えっと・・・みゆちゃん、きょうはほんとうにたのしかったよ〜!!」
「ふふふ。私も、楽しかったよ〜。今の姿もすごくかっこよくてかわいいけど、クマちゃんの姿もすごくかわいかったんだよv」



(・・・それとね、ルゥーイくんって。何だか彷徨に凄く似てるんだぁ。きっと、ちっちゃなころは、こんな無邪気な感じだったのかな。きりっとした瞳が、ダークブラウンの色が彷徨みたいで・・・なんか・・・)


(って、何考えてるの、私ってばっ・・・だけど・・・)



◆◇◆


「――それでは、今度こそ、帰ります。本当にありがとうございました」

「ばいばい、みゆちゃん、またねっ!!きっとあおうねっ。おにいちゃんも、ありがと」



「こちらこそ、本当に楽しかったです。素敵な出会いが出来て、よかったです・・・!!
ルゥーイくん、・・・またね。きっと・・・きっといつか会えるよっ!!」

「さよなら・・・、気をつけて。こちらこそ、いろいろ、ありがとうございました」



温泉をしっかり楽しみ、満喫した様子のハルヤマ星人の親子。
帰る時間が迫り、小さくコンパクトにしていた宇宙船を、チェーリィーの超能力で元の大きさに戻し、船の入り口に二人並んで、宇宙へと飛び立とうとしていた。




「あ、ちょっと、待って・・・カナタくん、だったわね」



チェーリィーは軽く手招きしながら、彷徨を呼び寄せた。

・・・そして、耳元でささやく。





――――――ー・・・・・実はね、あの呪文、想いが通じ合った二人が言わないと効果ないのよ。







「・・・っ!!?」




「・・・じゃあね、また。ミユちゃんと・・・いつまでも、仲良くね」

「えっ・・・」


言葉の意味に気づいて。
真っ赤になる彷徨に、チェーリィーは、ふわっと、微笑んだ。


・・・・彷徨にとって、どこか懐かしい微笑だった。




「それでは、さようなら!二人とも、元気でね。・・・そうね。ミユちゃん、今度会うときは素敵な人を連れてるかもしれないわね。・・・・・ううん、もうすでに近くにいるかもしれないけれど」

「・・・え?」

「ばいばい、みゆちゃん、ぼくみゆちゃんのこと・・・きっとずっと、大好きだよっ――」







―――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「・・・行っちゃったね」
「ああ・・・」

ぶわっと、大きな風を巻き起こして。
二人の親子は帰っていった。

満面の笑みを残して。



「未夢」
「何?」
「実はさ、あの母親、何だか母さんに凄く似ていたような気がするんだ」
「・・・そうなの?」


「ああ。俺が三歳のころに死んじゃったから、よく覚えてないけど。
きっと、あんな雰囲気だったと思う。・・・だからかな、少しでも長くいたいと思ったんだ」


目を細めて懐かしそうに微笑む彷徨に、未夢もつられて、笑顔になる。
とても、優しい時間。



「そっか〜。ふふふ。だったら、ルゥーイくんは彷徨にそっくりだったよ!!」

「・・・って。俺の子供時代知らないじゃん」

「だって似てたんだもん!」


「・・・ふーん・・・ま、いいけど・・・」
「あ、照れてるの〜??」

「ばっ、違うよっ」

「はぁ〜い。そういうことにしておきますかっ」


未夢が笑って、つられて、彷徨も微笑む。
なんだか、春の匂いがする。



「だけど・・・、きっとルゥーイくんたちが今年の“はるいちばん”、だね!」

「そうだな。俺達がきっと地球で一番初めに桜、見たもんな」






「―――未夢。お前は、・・・・ずっとここにいろよ」




瞬間、ざわっと二人の間に、あたたかな風が吹いて。
未夢には、その声ははっきり届かない。



「え。何〜??」



「いや・・・、さ、帰るか!!」








              ホントウの、桜―サクラ―が咲くのは、きっともうすぐ。



春の訪れを、ほんの少し感じて。

二人の距離も、もっと近づいた、そんな三月のある日。



きっと今日は。




―――― HARU ICHIBAN  ・ はる、いちばん!












こんにちは、友坂りさです。

今回は時間がなく、参加をあきらめていたのですが、皆さんの素敵作品に影響され、ついに今回は滑り込み参加。
これで2003年の夏企画から始めて通算6回目の参加になります。
プチみかん祭〜すくらんぶるだぁ!パーティ!〜 HAPPY FROWER(春花の無礼講!)
プチみかん祭2004〜Happy Lucky bag!〜そして今回のこの子どこの子サクラの子
思えば、いろいろありました(^^;

じゅもん・・・・あはは、某アイドルの曲タイトルまんまです(笑)
実はBGMはこれで。

ひとつのプロットで作品を作り上げるという今までのない試みで、本当に楽しく書かせていただきました。一日でできたのも、white love 以来ですね〜。
皆様の素敵作品に混じって、無理矢理の投稿でしたが、今回とっても楽しかったです。
本当にありがとうございました!!!

一気に仕上げてしまったため、文章変なとこあります、ご了承ください( ̄▽ ̄;)
(いつものことですが・・・)

☆こちらにUP時加筆修正。

友坂りさ(kitkat6220@ybb.ne.jp)

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