天河石 〜the languege of stones〜

4, それから

作:あゆみ

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<念のため・・・ご注意下さい>









――・ ・・・…


そして、今、私達がしてることは――




久しぶりの西遠寺。そして彷徨の部屋へ通されたあと
今でも私の記憶はあいまいなものになっている。


それほど・・・強烈で・・・幸せで
うそでもいいから・・・さめないで・・この幸せよ・・・



強く・・・強く・・・彷徨い・・・願った。




彷徨は、まるで私を壊れ物でも扱うかのように優しく抱きしめ、抱いてくれた。
こんな風に、抱かれるのは初めてだった。
どうして、気持ちのいい場所を知ってるんだろう。
どこを触れられても、快感の波に攫らわれて行く。



何度も、指を絡ませあい、微熱交じりの吐息にかき消されて、温かい唇に塞がれる。
気持ちが昂ぶっているから、感じるのか……
それでも、今までにないくらい、私は自分で感じているのがよく分かった。



優しく触れて、口づけて……、 乱れる甘く痺れるような吐息に、私の身体も
心もざわめきたつ。全ての情熱を預けて、大切に愛されていると感じる。



私は、そのまま、されたことのないようなところを求められ、
攻められると、快感の波が急激に押し寄せ、緊張が一気に高まり、






そのまま……






真っ白な世界を彷徨った。






――それから、深く……、深く求め合い……。







何も考える隙さえもない、そんな心地よさ。
海の底へ堕ちていくような快楽の波。
切なくて、苦しくて……愛しくて……




思わず、愛してると言いそうになった。





そのまま、私は迫り来る緊張の波に襲われ……絶頂に達した。






”愛してる”






その瞬間、愛してるっていう声が聞こえた気がした。遠のく意識の中で……。





深く暗い闇のそこで感じたもの。それは温かく・・・
私の体を……、慈しむように、そっと抱きしめてくれている感触だけが、伝わってくる。
肌を寄せ合って、頬に…、睫毛に、まぶたに……、唇に柔らかなキスが降りてくる。




それから私達は、会話もしないまま、眠りについた。





もしも、あの時、彷徨を選んでいたら……ずっとこうして愛してもらえたのかな。
私は半分夢の中でそんなことを思っていた。このまま帰りたくないと……。




そもそも、こんなことを考えている時点で私は彷徨に・・・




惹かれていたのだろうか・・・おもわず「愛していると」口にしてしまいそうになるほど・・・
忘れられなかったのだろうか・・・もうあれから3年経つというのに・・・。



気付くと部屋の中でもわかるくらい今は真夜中であるということがわかった。
私と彷徨はあれからずっと彷徨に体を包まれるようにして
ひっそりと暗闇の中にいた。



静かな寝息だけが耳に聞こえる。
安定して・・・寸分のリズムも狂わない寝息・・・


まるでそれは私を眠りの世界へいざなうような安らかな音だった。




私はまだ気だるさの残る体を奮い立たせ
彷徨が起きないようにゆっくりとベットから出た。




あちらこちらに散らばった自分の服を集めて着るのがなんだか恥ずかしい。




着替え終わると私は懐かしい場所に足を進めた。
ルウ君とワンニャーと彷徨と・・・家族4人でよくお月見をしたあの場所、縁側。



ゆっくり、静かに意識しながら・・・歩くたびきしむ音がする廊下を進んでいくと。
変わらない私の特等席があった。


懐かしい家族の憩いの場。
私は石垣においてあるサンダルに足をかけて
まだ強い光を放つ月を見上げた。



今日ほど月が近くに感じられたことは無い。
それは彷徨のそばに近づけたからだろうか・・・
切ないような・・・くるしいような・・・でも
甘くて・・・心がしびれて・・・くすぐったい懐かしい気持ち。



自然とこぼれる笑み。
私は月に向かって手を差し出した。
届きそうで届かない月。





―― ねぇ彷徨。

―――― ねぇ彷徨。





ありがとう。
きっと今日のことは忘れない。
宙に投げ出した手を握りしめて微笑んだ。



突然背後から温かいものに包まれた。
私は驚いて首だけ振り返ると温かくやわらかい唇のキスを浴びた。
目に・・・頬に・・・唇に・・・



「だまっていくなよ。」

「ごめん。」



心なしか言葉のトーンが甘くなる。
彷徨は私の首元に顔をうずめながら甘えた。




―― ねぇ彷徨。


―― きっと私あなたのこと......好きだよ。




決して言葉に出来ない二文字。
私は前で組まれた彷徨の手をそっと握り微笑んだ。




「俺のそばにいてくれ」


「・・・彷徨。」



何もいえなかった。
今日のこのことは決して誰にもいえない罪。
たとえ瑞樹さんとの関係が最悪に悪くても完全に断ち切られてはいないのだから。



―― 好きだといいたい。ねぇ・・・あなたを好きだといいたい。


―― 今もまた振り向いて正面からあなたに包まれたい。




だけど私は罪を犯した。
どんなに愛情のこもった行為を行ったとしても。
お互い「好きだ」といえない関係。



こんなことに彷徨を巻き込んだのは私のせいだ。





―― だから、神様。この罪は私だけに



―― この人は・・・彷徨は関係ないのです・・・



―― すべては私の弱さが招いたこと。





だから神様お願いです。
このひとから、あのひとからも私は距離を置きますから。


決して彼らに罪や罰が降りかからないよう。
全ての罪は私に・・・



だから神様お願いです。








月の光だけが
重なる二人の影を遠くまで伸ばしていた。







天河石<おわり>



珪孔雀石 〜the languege of stones〜 >続く






2008/03/01

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