作:あゆみ
早めの夕食。
パパとママの嬉しそうな顔。
話の内容はこう・・・。
これまで日本で続けてきた研究が評価されて
アメリカの著名なひとから共同研究をしないかとオファーがあったとのこと。
宇宙に特別な夢を持つ両親は
その内容を心から喜び。
すぐさまオーケーのサインを出したのだという。
また、私の意見は・・・相談は最後だった。
「未夢・・・今度はついてきてくれるかな?」
「・・・考えさせて。」
せっかく久しぶりにそろった3人の食事もなんだか喉を通らなかった。
直ぐにノーと返事が出来なかったのは瑞樹さんとの関係がうまく
いっていないからだろうか・・・
ついこの前までなら、絶対日本に残るといっていただろうに・・・。
「そうかい・・・よく考えてね。」
娘とまた分かれてしまう寂しさからか
表情を暗くしてパパはそういった。
「未夢は、ママににてもてるから!残していきたくない人の一人や二人いるわよね!」
ママは重くなった雰囲気を払拭しようと声を上げていった。
私はそれが分かると「へへ・・・」と軽く笑い下を向いた。
パパは、その様子に私が照れているのだろうと思い込み
「みゆぅ・・。」と余計悲しそうにした。
そして数日後
私のアメリカ行きの話は保留状態のまま
二人は足早にアメリカへと立った。
中学のときとは違うのだから・・・
私は二人にそう説得してこのことは宝生おじさまに伝えないでくれと
申し入れた。
瑞樹さんのことがある。
また彷徨と暮らすというのはなんだか違うと思ったからだ。
パパとママがアメリカへいってから1ヶ月が経ち・・・
今年の冬も厳しい寒さを予感させるような木枯らしが吹いていた。
帰っても誰もいない家にいたくなく
私は毎日友達と遊んでいた。
寂しさを紛らすように・・・
一人になってもただ一人町を歩いた。
◇◇◇
もういいや……。
あるときも一人で私は歩いていた。
友達と別れたあと、そのまま夜の街をただ走った。
何かしていないと壊れてしまいそうで……。
きっと周りはなんで走ってるんだろう、という目で見てる。
だけど、そうでもしないと、ほんとにどうにかなりそうだった。
しばらくそうやって走って疲れると、私は立ち止まってしゃがみこんだ。
足がブーツのなかで疲労感を表していた。
瑞樹さんのことを思うと心が悲鳴をあげる。
寂しいよ
さみしいよ
サミシイヨ・・・
どうしてこうなっちゃったんだろう。
私がやっぱり悪いのかな?
どうしたらまた愛してもらえるんだろう?
どうしたらいいのかわからないよ。
私はそのまま、誰もいないのを確認すると、また声をあげて泣いた。
もう枯れるんじゃないかってくらいの涙が溢れる。
体中の水分が抜けていく気持ちだった。
しばらくそこでそうしていて、落ち着いて
そろそろ帰ろうと思うとき、私は急に
声をかけられて思わずビクッとした。
そろそろと後ろを向くと、そこには……
私がずっと会いたかった彷徨の姿があった。
◇◇◇
驚いた様子で私の顔を見て……。
まるで何かに引っ張られるみたいにお互いが駆け寄った。
そして、昔のようにあの優しい笑顔で、「久しぶり」と言って笑った。
腕の脇には紙袋を抱えて、
あがった息を整えるように、少し長めの前髪をぐいっと持ち上げて笑った。
彷徨は、私のことを幻でも見てるんじゃないかと言っていた。
それは逆にこっちのセリフだった。
◇◇◇
久しぶりに見た顔は相変わらず、綺麗で、やっぱりいい男というものは何年、
年を重ねてもいい男なんだな、と思いながら……
中学のときに女子からもてはやされたとき以上にいい男になったな、と思った。
そのまま、彷徨にお茶を誘われると、私も暖かいものが飲みたかったな、
というと、「じゃあこれから行く?」と誘ってくれた。
私は物凄く嬉しかった。家のことが少し気になったけれど、
誰もいないし・・・そう思って忘れることにした。
「二人の再会に乾杯」
私がそう言うと、同じように「 乾杯 」と言って彷徨のコーヒーと
私の紅茶のカップを軽くを重ねた。
たくさん聞きたいことや話したいことがありすぎて何から話せばいいんだろう。
私が思わず、同窓会に来てくれなかったことを言うと、申し訳なさそうに
ごめんな、と言って謝った。
「ううん。忙しいの聞いてたし、生徒会に所属したんでしょ?
すごいよね、相変らず・・・」
そう、彷徨は、高校入学して直ぐにその能力をかわれて生徒会に入ったことは
この前黒須くんから聞いていた。
「なんか未夢・・・元気ないな、何かあったなら俺でよければ聞くよ」
変わらない優しい喋り方、穏やかな笑顔。
心の中にあたたかな春の風が吹くような心地になる。
―――彷徨、ありがとう。
なんか……やっぱり私間違えたのかな。
彷徨のこと好きになればよかったのかな……、ついついそう思ってしまう。
そう思っていると、自然とそんなことを言ってしまうもので、つい言葉にしてしまった。
すると、私の目を見ないで、一言だけ告げた。
「――未夢には瑞樹さんじゃなきゃ」
私はちょっとだけがっかりした自分に驚いた。何を、考えてるんだろう。
このまま彷徨が私をさらってくれるんじゃないかって勝手に夢を見てしまった。
―― いけないいけない……!
せっかく会えたんだから。そう思って、私は色々な話をした。
これまであった出来事、彷徨は私の話す言葉のひとつも見逃さないで
聞いていてくれる。私は本当に楽しかった。
喋りたかった。
帰っても誰もいないあの家にいても友達と分かれた後は特に寂しかった。
一通り話し終えると、私は自分だけがしゃべっていることに気づいて、
何気なく聞いてみた。
「そういえば、彷徨はどうなの?彼女とか。さっきから私ばっかり喋ってるじゃない」
そう聞くと、「話聞いてるのが楽しいから、俺のことはいい」 と言った。
彼女はいるの?って聞いても、言いたくなさそうな顔をしていた。
「うーん、いたけど、今はいない。なんか違うなって思って」
それだけを聞いて、私はそれ以上聞いちゃいけないような気がして、
「そっか」と一言だけ言った。
そうだよね、彷徨も彼女とかいるよね・・・
少しだけがっかりしている自分もいた。
そうだ、楽しくてすっかり忘れてた、帰らなきゃ。
さすがにこんな時間まで……。
時間が止まってしまえたらいいのに……。
思わず溜息が漏れていく。
「じゃあそろそろ帰ろうかな」
また彷徨と会えなくなるのかな……このまま。寂しい……。
私が名残惜しく感じてると、彷徨から思いがけない言葉を言われた。
「――未夢、また会おうよ」
私は飛び上がるくらい嬉しかった。そう言ってもらえることが。
それと同時に、その気持ちが気づかれはしないかと思ってふざけて笑った。
「彼氏持ちをさそうなんて……。いいよ、私もまた会いたい。」
それだけ伝えた。
それから送ってくれるって言ってくれたけど、そのまま帰りたくなくなりそう
だったから、「運転が怖いから」と言って断った。
――まぁね、中学のときの出来事を思い出すと確かにそれも正直なとこ。
やっぱり彷徨は彷徨だ。いつになっても私の心の支えになる人。
中学生だった頃の、意地悪顔の彼の姿はもう、ないけれど。
その分、なんだか大人の色気が増して、ますますかっこよくなっていた。
そう思いながら、一人家にそろそろと帰ると、
いつものように寂しい静けさに包まれているのにもかかわらず
今日に限ってはそこまでそれが辛くなかった。
私はいつものベランダでその夜も月を見上げた。
――ありがとう、彷徨。元気出たよ。
私は夜空に浮かぶ月を、まるで彷徨かのように話しかけ、見つめた。
◇◇◇
それから数日、私はその元気をもらったおかげでなんとか頑張れた。
お腹の痛みもすぐに消え、病院に行ったらもう心配はないといわれ、ほっとした。
でもやっぱり相変わらず、瑞樹さんの様子が変わることはなく、
またちょっとしたことで言い合いになった。
私が苛々させてるのはわかってる……。
だけど、もっと私を見て欲しい、もう少しでいいから――
そしてあの日が来た。
この前のデートもキャンセルになってしまったから
仕切りなおしで逢いませんか?
と瑞樹さんに連絡をした。
でも忙しい・・・と電話口で断られてしまった。
私は心の隅でなんとなくこうなる気がしていた。
あまりショックを受けていない自分がいた。
いつものように高校生活を終えて帰宅する。
すると、帰り道いつものように友達と寄り道をしようと考えていると
遠くで忙しくて会えないといわれた瑞樹さんの姿を見つけた。
しかも・・・綺麗な・・・女性の肩を組んでいた。
自分の立っているところがどこか分からなくなる間隔。
足元から何かが崩れていく音がした。
もしかして・・・とは思っていたけど、まさかね、本気にはしていなかった。
瑞樹さんが他の人を好きになるなんてこと・・・。
もう・・・だめだな。
絶えられない・・・。
「もう分かれてください。」
私がそう言うと、瑞樹さんは驚いた顔をした。
「何言ってるの?未夢ちゃん駄目だよ・・」
私は少しだけほっとした。これで引き止められなかったらもう絶望的だ。
それでも私はまた口にしてしまう。もっとちゃんと引き止めて抱きしめて
捕まえていて欲しい……そう思ったから。
「もう耐えられない……別れたい」
「絶対に別れない。悪かったよ。あの人は本気じゃなくて・・・」
言い訳・・・するんだ・・・
……それならもういいよ……。
「もういいっ……私はもう嫌なの!」
しばらく同じような言い合いが続くと、私はもう耐え切れなくなって、
入れて、瑞樹さんの家から飛び出していった。
「僕は別れねーから!」
そういう怒鳴った声だけが聞こえてきて……。
でもやっぱり追いかけてきてはくれなかった。
◇◇◇
もうどうでもいいや……もうどうでもいい。心が乾いていく。
せっかく彷徨に元気もらったのに……もう私、耐えられないよ。
そう思うと、私はまた彷徨の笑顔を思い浮かべた。
――会いたい……会いたい……会いたいよ。
そう思ったら、私は携帯を取り出して鳴らしていた。
この前再会したときに携帯を持っていることを知って
番号を交換していたのだ。
お願い…………出て欲しい・・・・・・
私のそんな願いが通じたのか、携帯の向こうから、声が聞こえてきた。
それは携帯の向こうの声でも彷徨だって分かった。
私は、その声を聞いて、もう涙が止まらなくなった。
そして、私はつい 「会いたい……」 そう言ってしまった。
◇◇◇
それから、心配してバイクですぐに来てくれて、私の話にじっと耳を傾けてくれた。
このまま連れ去ってくれないかな……そんなことを思いながら。
心配かけるとよくないと思って、みかんさんにかばってもらったってことにしよう……と思った。
連れ去って欲しいだなんて……
なんて私は都合のいいことを考えてるんだろう。
彷徨が困った顔をしてるのを見て、私はハッとした。
バカだな、私。そんなことが起きるわけがないのに……。
そう思うと、恥ずかしくなって、じゃ、とお礼だけ言って席を立って帰ろうとした。
また彷徨は、送るよって言ってくれたけど、私はまた断った。
今は、この間よりも辛い……帰れなくなるから……。
それでも、彷徨は、心配してくれて、強引に私をバイクの後ろに乗せた。
バイクで走行しているとき思わず、
私は彷徨の腰にしがみつきながらポロリとこぼれていった。
「やっぱり……私、彷徨を好きになればよかったな……」
そう言うと、彷徨は笑いながら?こう言ってきた。
「そーいうこと言うとこのまま連れ去っちゃうよ?」
本当に連れ去ってくれるのならば、私は着いていきたい……。
そう思うと、また自然と私の口から勝手にこぼれだしていった。
「ほんとに……連れ出してくれる……?」
その瞬間―― 急ブレーキをかけられてバイクが止まった。
私が驚いて文句を言うと、彷徨は「そんなこと言うからだよ」と、ため息をついた。
そうだよね……あんなの冗談だもん。そんなことできるわけがない。
私は一瞬、本当に連れ出してもらえるような気がしてしまった。
でも、帰りたくないよ……あの家に。もっと傍にいたい……。
そう思ったら、私は自然と彷徨の手に触れてこう口にしてしまった。
「もうちょっとだけ一緒にいさせて。あの家に帰りたくない……
パパもママもまたアメリカに行っていて・・・」
私がそう言葉にした瞬間、私は気づけば彷徨の胸の中にいた。
あったかくていい匂いがする……。
私は抱きしめられた胸の中で思い切り泣いた。
こうやって私はずっと抱きしめられたかったんだよ……ねぇ、瑞樹さん……。
しばらく、しがみつくようにして泣いていると、突然、彷徨は肩を離し、
唇にキスをしてきて私はとても驚いた。
それでも、そのキスは、優しくて、あったかくて……
私の心を溶かしていくようで――
私は自然に任せてそのまま受け入れた……。
「このまま連れ去りたい」
私はまさかそんな言葉が出てくるとは思わなくて驚いたけれど……
でもこのまま本当に連れ去って欲しいと思った。
まだ流れる涙があるのかと驚く・・・
私は涙を流しながら縦にひとつ首を振った。
4に続く