作:あゆみ
天河石 (アマゾナイト) Amazonite 聖なる愛
そんな毎日が過ぎて、もうあれから更に2年が経過した。
私は、夜、ひっそりと皆が寝静まった時間にベランダの窓を開けて
空を見上げるのが日課になっている。
今日も、私は空を見上げた。
星が綺麗――
私は、昔、瑞樹さんがプレゼントしてくれたシルバーの月の形をした
ネックレスを月明かりに照らした。
これがあったから私達一緒にいられるんだよね。
どんなに冷たくされてもそばに入れられるのは
あの頃の瑞樹さんの優しさを思い出せるからこそ・・・
そう思うと、力が沸く。
バカみたいかもしれないけど、夜空の星や月からこの月の
ネックレスへ、エネルギーを充電してもらおうと思って、いつもそうやって空を見上げる。
――― 月って彷徨みたい・・・。
私はその間、たまにそんなことを思うことがあった。
静かに、優しくひっそりと夜を照らす。そんな彷徨見たいな月・・・。
そう思いながら、いつも、会えることを楽しみにしていた。
いつ逢えるか分からないのに・・・
いつか・・いつか・・・・・・と楽しみにしていた。
◇◇◇
それからまた何ヶ月か過ぎ、瑞樹さんは大学生活に忙しく、
私の相手も出来ないまま、バイトに勉強に、忙しく飛び回っていた。
家に帰っても相変らず忙しい両親。
私が生まれてからいったいどれだけの時間を家族と過ごしたのだろう?
パパも、ママも・・・自分の夢を追いかけて
まぶしい存在だということは分かる。
けれど・・・
相変わらず、何も変らない高校生活に
私は寂しく思っていた。
それでも負けるもんかと思って頑張ってきた。
ある時――
今度もまた数ヶ月ぶりに逢うことになった瑞樹さんをを私は喜んで迎えた。
「こんにちは!」 そう言って。私は笑った。
傍に寄っても、また抱きしめてはくれなかった。
疲れてるのは分かってる。
だけどもう少しなんかあってもよくない?
久しぶりに会ったんだよ?
私だってどうにか頑張ってるのに……。
そう思うと、言ってはいけないと分かっているのに、私の口が勝手にしゃべりだす。
「あの!今日は何します?どこ行きますか?!久しぶりですし私は・・・」
私がうるさくそう言ってつきまとっていると、
「ごめん。未夢ちゃん僕・・・疲れちゃって・・・。やっぱり今日は帰ってもいいかな」
そう冷たく一言、言われてしまった。
―――分かってるよ、疲れてるのも、忙しいのも、だけど寂しいよ。
「そ・・・そんな・・・久しぶりに・・・会ったのに・・・」
「悪い・・・。」
そう頭を抱えて頭を軽く下げると私に背を向けて
来た方向へ帰えろうとしている。
寂しい……抱きしめてほしい、笑顔が見たい。
それだけなのに……昔みたいに私の
こともう好きじゃないのかな……
私が子供だから・・・
何も分からないから・・・
こんなんじゃない……どうしてこうなっちゃったんだろう。
昔はあんなに私の為に……。
分かってる、疲れてるのは……どれだけ必死に・・・。
だけど、こんなの酷すぎるよ……。
冬の冷たい風が頬を通過する。
冷たい・・
そう思うと同時に私は自分が泣いていることに気がついた。
指で頬を伝う涙を拭う。
いったいこの涙はどこから出てきているのだろう。
もう・・・
なぜ泣いているのか、何が悲しいのか・・・分からなくなってしまった。
◇◇◇
私は重たい足を引きずり、またベランダの窓を開けた。
またいつもと同じように月が優しく照らし続けて、冬の夜空の透き通った星空が
綺麗に輝き、私はそれを眺めているだけで……ううん、その間だけ癒された。
―――役立たず……か。
あんなにも優しく愛撫してくれるはずの指も唇も、私の肌には触れない。
キスさえもしない……。心が乾いてゆく・・・。
私は胸の痛みを抑えながら、月に問いかけた。
「ねぇ、私間違ってたのかな……?」
私はたまに考えてしまうことがある。
もしもあの時、彷徨の思いを貫いていたら幸せだっただろうか、と。
一度はあきらめてしまった恋の種も、
芽吹かそうと・・・育てようとすれば・・・
彷徨を好きになっていたら・・・。
今、なぜか蘇ってくる。
ルウ君たちが帰ってしまう前日西遠寺の鐘楼の前で初めて肩を抱かれたときのこと。
別れが・・・、苦しくて、切なくて、涙がたくさん流れた。
あの時、言葉を口にしなくても、触れ合う指先で、優しい人だと知った。
そして、触れ合う指先から、とても愛のある人だと知ったから。
――会いたいな。元気なのかな。
私は今日も月に彷徨の笑顔を重ねて思い浮かべた。
◇◇◇
そして、次の日、ついに……私を壊してしまう出来事が起きてしまった。
これまでの不安からくるストレスの行為のせいで、
私は生理でもないのに出血をしていた。
まだ生理から1週間くらいしか経過してない。
私は、きっといつか止まる、と思った。
それをたまたま、遊びに来ていたみかんさんに言ったら、
ものすごく心配してくれて、
一緒に病院に付き添って行ってくれた。
「まったく、瑞樹のやつ、どういう神経してるのかしらね!大事な彼女の
体のこと、こんなにして許せないわ! 会ったらケチョンケチョンにしてやるから!」
そう言って、みかんさんはまるで自分のことのように怒ってくれた。
詳しくは話さなかったけれど、みかんさんもなんとなく察したんだと思う。
最近の私達の様子を・・・。
診療を終えて・・・
「どうだった?未夢ちゃん」
心配そうにみかんさんが私に駆け寄ってきた。
「はい……なんかちょっとやっぱりストレスみたいで……」
私が俯きながらそう言うと、みかんさんはさっきよりもずっと怒ってこう言った。
私はみかんさんがいて良かったと思った。
「みかんさん、たよりないからかな……?」
そう言いながら、私の目から大量の涙がこぼれ落ちていった。
「未夢ちゃんが悪いわけないじゃない!
……あの子の苛々した気持ちも分からないでもない。
優しい子だから・・・お父さん子でね・・・ショックだったみたい。
その父親が・・・まっ・・・だけど、今回はちょっと酷すぎね」
そう言って、私の頬の涙を丁寧に拭いてくれた。
「私、もう……だめです。このままじゃもう……別れたい」
思わず私の弱音がこぼれた。みかんさんだけが優しくしてくれる。
だけど、いつまでもいてくれるわけじゃない……忙しい人なんだ。
……そう思うと、急に心細くなってしまった。
「そんなこと言わないでよ、未夢ちゃん。私は感謝してるのよ?
瑞樹の彼女になってくれて。私の義妹みたいに思っているんだから」
そう言って、ちょっと涙目になりながら、私の背中をまた抱いてくれた。
私は思わず、みかんさんの胸にしがみつき、大声をあげて泣いた。
しばらくそうして、落ち着いた頃、みかんさんが口を開いた。
「今は、お父さんが亡くなったばかりだし……そっと見守りましょう。
瑞樹も色々長男のせいで背負ってしまったものがあってね・・・
私もずっとそばにいてあげたいけれど……そうもいかないものね」
そう言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。
「みかんさんがいて本当によかった……じゃなければ私……ッ」
そう言いながら、私の目からまた涙が溢れてくる。
「あーもー泣かないで?ね?大丈夫よ。私は信じてる。未夢ちゃんのことも、
それから……、あのバカ弟のこともね。」
そう言って、みかんさんは慌てて私の頬にまた流れ出した涙を
びしょびしょになったハンカチで押さえると、そう言って軽くウインクした。
その夜、みかんさんは、私の心配をしながらも、帰っていってしまった。
瑞樹さんの家に二人でいたくなくて、
私は、何も言わずに思いっきり家を飛び出した。
振り向いても追いかけては来てくれない……。
昔だったら慌てて追いかけてすぐに抱きしめてくれたのに。
いつからこんな風になってしまったのだろう・・・
家に帰って・・・
再びアメリカに行くと両親から言われたのは
この日珍しく家族3人が集まった夕食のときだった。
3に続く