作:あゆみ
注)この作品は悲しみ多めのストーリーです。苦手な方は戻られることを望みます。
青琥珀 〜ブルー・アンバー〜
静かに燃える恋心
あれから3年。
俺達は特別時間をとって会うこともなくお互いの新生活に奮闘していた。
新たな環境。
高校という舞台で・・・
風の噂によると未夢は幸せそうにしているらしい。
中学の頃中の良かった天地と小西がそんな事を言っていた。
それは、ほっと胸をなでおろすのと同時に
ふさぎかけていた傷を疼かせるのにも十分だった。
だけど、未夢が幸せならいい・・・
両親との分かれ
ルウたちの分かれのときのような
辛い思いをしていないならそれでいい。
俺は、そう思うことで気を紛らわせていた。
でも・・・
なんで幸せじゃないんだろう。
瑞樹さんと幸せそうな姿を見るのも辛いとは思ったけれど、
こんな悲しい顔をしていたら、俺はどうしたらいいか分からなくなる。
出来ることなら、この手を引いてどこかへ連れ去ってしまいたい……。
ある日の日曜日。
俺はいつものように本を探しに本屋へ出向くことにした。
最近、はまっているコンピューターのシステムに関する書籍を探しに行くためだった。
昼過ぎに出かけて風立市一大きな本屋まで向かった。
3年になってとったバイクの免許。
俺は愛車にまたがり市内へと向かった。
本屋では時間が過ぎるのも忘れ夢中でそれに関する書籍を
読み漁っていた。
気に入った本をレジで購入したときには
すでに外は薄暗い空で覆われていた。
ところどころ街灯が柔らかな光を灯り始めていた。
西遠寺に帰ろうと足を向けると
その先にたっている一人の女性に視線が行った。
街灯の傍でぽつんとたたずむその女性は
赤いロングコート、茶色のブーツを身にまとい。
長い金色の髪を風になびかせてたたずんでいた。
その様子に道行く人々はなぜか目を奪われているようだ。
その女性の傍を通るとき皆、彼女を見ていた。
俺も一瞬懐かしさに似た感情に包まれた。
何故だろう・・・?
視線の先の女性がこちらのほうを振り向き
あっ!という表情をすると。
俺の疑問と同時に回答が出た。
それは、以前よりもすっかり大人びた未夢だったからだ。
◇◇◇
偶然にも似た再会。
俺達は互いに「あっ!」と指を挿すと
自然と笑みが漏れ、互いに駆け寄った。
自然と惹かれあうように駆け寄ると、まるで3年のブランクなんて感じさせないように
お互いに近況を話した。
高校では何をしている?
家のほうはどうか?
ルウたちは今何をしているのだろう?
話題は尽きることなく
とっぷりと日が沈んだことが気づかないまま俺達は立ち話をした。
クシュン・・
未夢のくしゃみで俺ははっと気づいた。
いつの間にか日が沈んだこと
気温も日中に比べてぐんと下がっていること。
「そこの喫茶店でも入るか?それとも帰る?」
まだ、分かれたくない・・・。
すがるような思いを隠しながら俺は未夢に尋ねた。
「そだね!お茶していこうか!」
寒さで鼻の頭を赤くしている未夢の笑顔を見て俺はほっとした。
それと同時に、まだ俺はあの気持ちを忘れていないのだと驚きもした。
でも、たまにはいいよな・・・。
俺は驚きと喜びを胸に秘めて傍にあった「ブルー・アンバー」という喫茶店に入った。
◇◇◇
なんで幸せじゃないんだろう。
瑞樹さんと幸せそうな姿を見るのも辛いとは思ったけれど、
こんな悲しい顔をしていたら、俺はどうしたらいいか分からなくなる。
喫茶店に入って直ぐに未夢の恋人
瑞樹さんの話になった。
中学を卒業してから直ぐに付き合い始めた二人。
初めはお互いに時間をとってはあって楽しいひと時を過ごしたものの
年の差と遠距離という状況が未夢の心に再び悲しみを・・・
笑顔を奪っていた。
―― なんで笑っていないんだよ。
あの時感じた鈍い痛みが暖かい店内で再び疼きだした。
先ほど注文した俺のコーヒーも、未夢の紅茶も二人とも口につけていない状況だった。
―― 出来ることなら、この手を引いてどこかへ連れ去ってしまいたい……。
瑞樹さん。俺にこんなこと思わせないでくれよ。
「彷徨はどうなの?彼女とか。さっきから私ばっか喋ってるじゃん」
「ん?いいんだ。俺、話聞くほうが好きだから。
3年前も俺がしゃべるより未夢のくだらない話ばかり
聞いているほうが面白かったしな」
俺はそう言って誤魔化した。
「なにを!?もう!・・・相変わらず、変わってるね、彷徨。
でも彼女くらいはいるんでしょ?」
もうその話題はやめて欲しいんだけどな。
俺はそう思いながらふぅとひとつため息をついた。
「うーん、いたけど、今はいない。なんか違うなって思って」
俺がまた誤魔化しながらそう言うと、未夢は「そっか」 と一言だけ呟いた。
俺も高校に入ってから、彼女という存在がいた。
勿論、彼女を大切にしたし
好きだったと思う。
だけど、未夢を失ったことを埋めるまでには行かなかった。
彼女もそれを感じたのだろう。
俺達は1年前・・・高校2年のときに分かれたのだ。
それ以来、俺は一人最近バイトで溜めた金で一括購入した
パソコンにはまることになった。
俺は目の前にいる未夢にそこまでの説明はしなかったけど
少し冷えたコーヒーに口をつけて沈黙が生じた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
なんとなく気まずい沈黙を破るように未夢はそう口にした。
そっか……、帰らなきゃいけないんだ。
未夢がそう口にしたとき、俺の心の中に……、
また冷たく乾いた風が吹き抜けていった。
「――未夢、また会おうな」
帰り支度をして伝票を取って会計を済ませると俺はそう口にしていた。
店内と外は10度くらいは温度差があるんじゃないだろうか?
どっぷりと暗くなった夜空に佇み俺を待っていた未夢は
俺が咄嗟にそう言うと、少し顔を赤らめてちょっと嬉しそうだった…
俺の錯覚じゃなければ…だけど・・・。
「彼氏持ちを誘うなんて。でも……、いいよ、あたしもまた会いたい。
彷徨と話しているとあの時みたいに・・・ルウ君がいたときみたな気持ちになれる・・・よ。」
そう言って笑った。
それから、店を出て、俺がバイクのメットを差し出しながら送ろうかって言うと、
「彷徨の運転怖いからやだよ」
そう笑いながら、「じゃあ、またね」と言って俺の元を去った。
運転怖いからって……、一体何年前の話だよ。
中学のとき二人乗りしたとき後ろに乗っていた未夢を振り落としてしまった
時のことを言っているようだ。
俺は心の中で思わず突っ込んだ。
またね……、か。
また、と言っても、きっとまた何年か先の話なんだろうな。
だったら、もう少し傍にいたかった。
俺はそう思ってしまった。
思わず引き止めて、抱きしめそうになった自分の腕が憎い。
どうしてここまで好きになっちゃったんだろうな……。
どうして忘れられないのだろう・・・。
未夢と会って楽しかった久しぶりの時間が俺に潤いを与えてくれた。
心にあたたかい風が吹いた。
そう思ったら、今度はからからの風が吹き抜けていく。
俺の心の中にはやっぱり未夢がいつになっても占領していて、
いつになっても揺り動かされるということに気づかされる。
あのときのように駅に向かう未夢の背中を見ながら
俺は久しぶりの鈍い胸の痛みに耐えることに専念した。