青琥珀 〜the languege of stones〜

1, 想い気づく

作:あゆみ


注)この作品は悲しみ多めのストーリーです。苦手な方は戻られることを望みます。





青琥珀 〜ブルー・アンバー〜

  静かに燃える恋心





いつからか・・・
俺は未夢の笑顔が好きだった。
気づくと未夢の笑顔に励まされていた。

それは俺に抱く未夢への恋心だった。
でも、気づいたときには未夢の隣には俺じゃなくて別の奴がいた。


相手は俺も良く知っている人物。
表面上・・・いや、心から祝福しようとした。

―― 未夢の笑顔が守られるなら・・・


決して、それが俺の傍でなくても・・・


―――未夢が幸せなら、この胸の痛みも耐えられる。


そう思っていた。











―― 俺は未夢の笑顔が好きだった。
―― いや・・・今でも好きだ。


それは3年という時を経ても変らなかった。


ルウ達がオット星に帰ってから急に色々なことが動き出した。
未夢はNASAから帰ってきた両親の元へ帰ることになり、
これまで続いていた俺達の不思議な「家族関係」は解消された。


そして未夢は、中学3年のバレンタインに出会った頃から憧れていた
近所に住む漫画家のみかんさんの弟瑞樹さんとの想いを成就させた。


その報告を受けたとき


―― その時俺のなかではなんともいえない感情が渦巻いていた。


恋人とも違う
家族とも違う


だけど傍にいた
辛いときも、悲しいときも、嬉しいときも
ずっと傍にいた未夢が思い人瑞樹さんとの恋を成就させた。


目に涙を浮かべながら喜ぶ未夢の肩にそっと手を置いて


「よかったな。未夢・・・。」


うんうん。と頷く未夢に対して俺はそんな事しか得なかった。


「未夢みたいなドジでも貰い手があってよかったじゃないか。」

「なんですとぉ!!」


いつもの冗談交じりの皮肉。
いつもの返答。

いつもと変らない俺達のやり取りなのに何かが違う・・・。
違和感を感じる俺の顔は今思うと複雑な表情をしていたかもしれない。


「ありがとう。彷徨。」


一通りいつものじゃれあいに似た奮闘を終えると
目頭に溜まった涙を指で拭いながら未夢は言った。


ドクン・・・
俺の胸の奥でなる鼓動。
鈍い痛みを伴うその鼓動は、小さく・・・確かに刻まれ始めた。


何故だろう・・・
俺の・・・未夢に触れていないほうの手に力がこもる・・・。


そうか、もうこの涙を拭う役目は俺じゃないのだと・・・
慰めるために触れる手も俺じゃないのだと・・・


幸せそうに笑う未夢。
今まで見せたことない大人っぽい雰囲気をまとった未夢の様子を見て
俺は気づいた・・・。



なんて間抜けな話。



やっと気づいた心。

―― コクコクと刻む胸の痛みの意味。

やっと気づいた思い。

―― 俺は未夢が好きだ。



だけど、それは・・・
告げられない想い
いまさら気づいても遅い。

そんな感情だった。


未夢の涙を拭う役目も
一緒に笑う役目も

俺ではないのだ。
未夢には瑞樹さんがいる。


そう思うことで胸の痛みが加速する。
思わず俺は苦笑いをする。


未夢に鈍い鈍いといってきたけど、俺のほうが相当鈍いじゃないか。



でもきっと瑞樹さんなら・・・
俺にとっても兄さんみたいに落ち着いている瑞樹さんなら未夢を幸せにしてくれる。


俺は精一杯の笑顔を作って未夢の頭をポンポンと叩いた。


「おめでとう。」


未夢を笑顔にする・・・
決してその役目が俺じゃなくても・・・・・・



―― 未夢が笑ってくれるなら。
―― 未夢が幸せでいてくれるなら。


俺は彼女の幸せを願う男でいよう。
胸に刻まれた痛みは耐えることに・・・
一生かけてこの痛みを消していけばいい




未夢の幸せを願って俺は心に鍵を・・・
疼きにも似た胸の痛みに耐えることにしよう・・・




◇◇◇





それから数日後。


俺は実家へと帰る未夢の小さな背中を見送った。


「いつでも帰ってきていいんだからな。」


腕を組みながら俺は精一杯『普段どおり』の笑顔で
未夢の旅立ちに背を押せるように声を掛けた。
『俺達は家族みたいなものなんだから。』
きっとそういう風に未夢はその言葉を受け止めただろう。


「ありがとう!」


何度も西遠寺を振り返る未夢は
初めて西遠寺に来たときにふと見せた「寂しさ」のかけらなど
感じささせることなく笑って手を振っていた。


それは、
落ち葉舞い散る中学3年の冬のことだった・・・。












[戻る(r)]