一枚上手な彷徨のセリフ

未夢の気持ちなんてとっくに知ってる

作:あゆみ

←(b)



「絶対、西遠寺君は、未夢にぞっこんだよ!」

皆はそう言うけれど・・・
本当はどうなのかな?








彷徨は一歩離れて観察してみると多忙な人。
私との関係が「いとこ」から「恋人」に変化して、
改めて隣にいる彷徨のことを考えてみるとすごい人だと思い知らされた。

クラス委員長
生徒会長
運動部の助っ人

彷徨一人の体では到底間に合いそうにないと思うくらいの仕事が
彷徨にはあって、それを彷徨は周りの期待通りにこなしていた。
いったいどういう思考回路をしているの?

私は目の前の宿題を終わらせるだけで精一杯なのに
彷徨は、質、量ともにそれ以上のことをやり遂げていた。

でももっと大変なのは学校で任される仕事だけじゃなかった。



彷徨はモテル・・・
非常にモテル・・・


これは、恋人になる前から分かっていたことだけど、
改めて彷徨は女子に人気があるのだなぁとまじまじと感じていた。


下駄箱にはラブレター
調理実習のクッキーやケーキ
放課後の呼び出し


数えだしたらキリがないほど彷徨は他の女子生徒から
熱烈なアピールを受けていた。


本当なら、『彼女』という立場の私は

拗ねたり
怒ったり

すべきなのかもしれない。
だけど、私にはそんな感情がまったくといっていいほどなかった。

『恋人』となってから間もないからなのかもしれないけど
未だに、『何で彷徨が私と?』という疑問のほうが大きかったからかもしれない。



そう、今だって彷徨は教室の後ろの扉で
生徒会の副会長の福沢さんと親しげに話している。
彼女は、「西遠寺君、生徒会の・・・」と仕事の話をしに来たように彷徨を呼び出した。


女の直感というのだろか。

きっと、彼女は彷徨に仕事仲間以上の感情を持っている。
彷徨を見る目が、顔が・・・

「あなたが好きです」と語っていた。




彷徨と一緒に帰る約束していた私は・・・その様子を机の上で肩肘立てて見ていた。



「おっ!福沢さんじゃん!」

不意打ちに背後に彷徨の幼馴染で親友の黒須君が立っていた。

「黒須君。」
「なんだよ、光月さん、やきもち?」

へへへ。と黒須君は私を気遣ってか冗談交じりにそんなことを言ってきた。

私は、そんなにひどい顔をしていたのだろうか?
やきもちを焼いていると思われるほどに・・・



「ん・・・。どうかな。分からないな。」



ワンテンポ置いてからポツリと返した言葉はそれだけだった。
だって、未だに私は彷徨と付き合っているという自信がない。
あんなに他人から信頼されて、愛されている人。

あの人・・・彷徨が「恋人」だなんて思えなかった。


エヘッ。と私は小さく笑うと黒須君は少し困った表情をした。
私の表情を察してか、黒須君は小さくため息をついて
後ろドアの様子を一目すると私のほうへと振り返っていった。


「もてる彼氏を持つと大変だね。」(うらやましい・・・)と黒須君らしい発言も付いていた。
私は思わずプッ・・・と小さく笑って少し落ち着くと
「彼氏かぁ・・・。」とつぶやいた。


「えっ?何?光月さん悩み事?」
「ん。悩みというか・・・」


私は黒須君に今、私が感じていることを話した。
綾ちゃんにもななみちゃんにも言っていないこと。
なぜ、相談する相手が黒須君なのかは分からないけど
少しずつ、言葉足らずに私の不安を言葉にした。


彷徨を好きだけど
彷徨はモテル
皆から愛されている
皆から必要とされている

彷徨は私を好きだといってくれたけど
それは一時の迷いで
本当はもっとふさわしい人がいるのではないか?

例えば、今話している福沢さんとか・・・


愛されている自身が無いと言う訳じゃない
彷徨はきっと私を大切に思ってくれている。

だけど、それは「家族愛」のようなもので
「好き」という気持ちはきっと、
計れないものだけど。


私のほうが大きい・・・



そして、そんな風に悩んでいる自分が馬鹿みたいで辛い・・・



彷徨にも、誰にも相談できなかった。
でも、目の前の黒須君に話したらなんだか目頭が熱くなってきた。


「光月さん・・・」

その言葉から、黒須君がオロオロと困っているのが分かった。
だけど私は一言「ごめんね」と、涙をこらえるだけで精一杯だった。


教室の一空間だけおかしな雰囲気になった。
帰りのホームルーム後でざわついていた音が一瞬止んだように感じた。



「光月さん・・・泣かないで。」
「ん・・・黒須くんごめんね。」


目頭にたまった涙を拭ったときだった。



「あっ・・・」


黒須君がおびえたような声が聞こえた瞬間
私は肩を、大きくて暖かいものに包まれた。


見上げると彷徨の顔があった。
なんだかとっても怒っているようだ。


「か、彷徨・・・」黒須君がアワワ・・・と慌てている。

「何?三太。何かあったのか?」


ポスンと急に彷徨に抱きかかえられるような形になってしまったから
彷徨の表情は分からなかったけど
とても低いトーンで彷徨は話していた。


「別に・・俺、なにもしてないよ・・・。」

黒須君が消えてしまいそうな声で言う。


「じゃぁ、未夢は何で泣きそうなんだ?」


「そ、そんな俺の性じゃないよぉ〜、どっちかっていうと彷徨が・・・」


「おれ?」


「か、彷徨!!黒須君は悪くないから!!」


あまりにも、彷徨の声が真剣だったから
黒須君に襲い掛かってしまいそうな雰囲気だったから
私は慌てて彷徨に言った。


「じゃぁ、何で未夢は泣きそうな顔してるんだ?」


すると、彷徨はここが教室の中だというのにも関わらず
私の目頭をゆっくりと指でなぞった。



「わ、私がいけないの!!」



私は彷徨のその行為と、人目も憚らずに泣きそうになっていた自分が
恥ずかしくて、制服のすそを握りながら叫んだ。





帰り道。
彷徨は今日、教室でなぜ私が泣きそうな顔をしていたのか
理由をしゃべるまで許してくれなかった。
あまりにも心配そうに私の顔を見るものだから、

仕方ないな。

そう思って、私は彷徨に黒須君に話したように
自分が思っていることを素直に話した。




話をしている間、彷徨は何も言わなかった。
ただ、私の手をぎゅっと握っていた。



すべて話し終えると彷徨は言った。


「それでおしまいか?」

「う、うん。」


彷徨は歩いていた足を止めると聞いてきた。


「未夢の気持ちなんてとっくに知ってるよ。」

「えっ?」


私は彷徨の発言に驚いた。
知っている?って・・・何を?



「でも、誤算だったかな・・・」

「なにが?」

「俺の気持ちを未夢は知らないんだもの・・・」

「えっ?」


すると、彷徨は握っていた手をさらに力を込めて握りなおした。


「俺に、未夢以外の・・・もっと相応しい人がいるって?」

「う、うん。」

真剣な目。
そらしたいのに、その視線をそらすことは出来なかった。

「そう思われていただけで、ちょっと傷ついた・・・」
「えっ?!」


「いこう。」
「え? どこに?」


「家に。」
「西遠寺?」


「そう。分からせてやるよ。」
「何を?」


「俺が、どれだけ未夢にまいっているのかを・・・」
「えっ?   ・・・えっ??」


再び彷徨の手に導かれて
引きづられるように西遠寺に帰った。

私は、どれだけ想われているか
たっぷり夕飯の時間まで割いて
彷徨から教えてもらうこととなった。

言葉と・・・
態度と・・・





(なぁ?まだ不安か?) (・・・もぅ、いい。) (ならいいや。)




彷徨がニッコリと笑うと
空の月は満月だった。





おしまい



2007/12/30  三太カワイソ・・・(笑)

配布元 「確かに恋だった」 作:ノラ様 URL:http://have-a.chew.jp/






←(b)


[戻る(r)]