作:あゆみ
俺の気持ちは決まっているんだけどね。
とっくの前から・・・
12月31日、大晦日。
外はあいにくの雨で、せっかく大掃除した西遠寺もじっとりとしていている。
明日から新しい年が始まるということで煤払いも終わって
今日はほとんどやることがない。
親父が忙しくなるのも年が明けてからだし、
年明けの飾りや、準備なんかはだいぶ前からやっていたから
大体終わっていて、今は親父も家を開けて住職仲間の手伝いに言っている。
ガチャン
台所から皿の割れる音。
「あちゃーまたやっちゃった・・・。」
居間のコタツにもぐって読書をしていた俺は
台所から聞こえる未夢の声に反応した。
どうやら、また何か食器を駄目にしたらしい。
「未夢、危ないから気をつけて片付けろよ!」
「まかせて〜」
台所の奥から返事が返ってきた。
はぁ・・・と俺は小さくため息をつくと読みかけの本に戻った。
カチャ、カチャと破片を拾う音がする。
今日は朝から未夢が台所で何かやっているのは知っていた。
お正月も直ぐそこだから、おせちでも作っているのかな?
と思っていたら、なんだか甘い香りがしていた。
大晦日にお菓子を作っているのか?
甘い物月の未夢なら分からないこともないけど、
誰の誕生日でも、イベントがあるわけでもないこんな日に
甘いものを作っているのが少し不思議だった。
カチャ・・・カチャ・・・
「いたっ!」
そらやった・・・。
だから気をつけろといったのに・・・。
ドジな未夢のことだ。
破片で自身を傷つけてしまったに違いない。
俺は、本を閉じて 小さくため息をつくと
きっと、「えへへ」と苦笑いを浮かべながら治療に来る未夢のために
救急箱を棚から取りに行った。
めったに使わなかった救急箱も
未夢が居候し始めてからだいぶ活躍している。
昔はよく家で仕事をしていた親父が傷を作って
「あらまぁ・・・」と微笑みながら親父の傷を手当している姿を
二人の傍で見ていたのを思い出す。
今となっては暖かい思い出になってしまったけれど
小さかった俺も傍でそんな二人をみて一緒に笑っていたんだよな・・・
救急箱をとってコタツに戻ると丁度
未夢が台所からひょっこり顔を出して
「えへへ・・・また、やってしまいました・・・。」
洗ったばかりの傷口を手で押さえてやってきた。
「ドジ。」
「うっ・・・何も言い返せない。」
トホホ・・・としょんぼり頭を下げると
未夢は俺の前に正座して座った。
「見せてみろよ。」
「はい。」
あらかじめ用意しておいた消毒液と綿棒を持って
差し出された未夢の手をとって問題の傷の様子を確認する。
切り傷が痛々しい赤いスジとなって
未夢の白くて長い指に跡を残していた。
でもまぁ、このくらいなら数日で直るかな?
という程度の軽症だったので俺はほっとして
傷に良く染みる消毒液をつけた。
「いたた・・・」
「痛くない、痛くない。」
「いたいですよー彷徨さんや〜」
「自業自得。」
言うと未夢は「うっ、それを言われると・・・」ごにょごにょと
最後は聞き取れない声で言い訳をしているようだった。
「はい。おしまい。」
傷口に絆創膏をつけるとぽんと叩いて俺は手を離した。
「ありがと・・・」
未夢は治療し終えた指を片方の手で胸の前で握ると
ジトリと俺を見た。
「なんだよ。」
「なんでもない。」
何か言いたいようだが、口じゃ俺に負けることを知っている未夢は
それ以上何も言わなかった。
「ところで、未夢なに作ってる?」
「えっ?」
ギクリと未夢は肩を震わせた。
なにやら後ろめたいことがあるらしい。
「おせち料理かな?と思ったけど、甘い香りがするし・・・
お菓子かなぁ?と思うんだけど違う?」
「ううん。惜しいけど違うよ。」
未夢は首を振って否定。かわりに俺が首をかしげる番だった。
「じゃぁ何?」
「えっとね・・・」
そういうと未夢は台所へ戻って
しばらくすると小皿に湯気を立てた茶色の何かを持ってきた。
ふんわりと甘い香りがする
それは、何かの甘露煮だった・・
この香りと色は・・・
「これ、カボチャ?」
「う、うん。」
「煮つけとは違うよな?」
「うん。そう。おせち料理を作ろうと思ったんだけどね
あんなに立派なものは作れないし、でも何か作りたいなぁと思ったの。
それで、栗きんとん。私好きだから、挑戦しようと思ったんだけど
サツマイモじゃなくてカボチャでもいいかなぁ・・・と思ってね・・・」
と未夢は最後まで言わず上目使いで俺を見た。
「香りはいいとしても、見た目が凄いな・・」
それは、鍋のそこを焦がしたのだろう。
黒い粒が混じった茶色のペーストだった。
「なんか・・怖いものが出来ちゃった。」
えへへ・・・と未夢は苦笑いする。
俺は「どれ?」と未夢が持ってきた小皿にのったそのカボチャのペーストを
指ですくって味見した。
「あっ。うまい。」
「ほ、ほんと?!」
見た目と違ってそれは甘さの丁度いいカボチャの甘露煮だった。
煮つけとは違った甘みがおいしかった。
「なんだよ。味見もしてないのかよ。」
「そ、そんなことないよ〜。」
図星だったのだろう。未夢はそっぽを向いた。
そんあ様子に俺は思わず自然に笑みが漏れた。
「毒見させんなよな。」
「ひ、ひどーい!!」
ニヤリと笑うと未夢が顔を真っ赤にして怒ってきた。
良く見てみると未夢頬に、小皿に乗っているものと同じ色をした物が着いていた。
俺はそれを見て思わず噴出した。
未夢はなぜ笑われているのか分からないらしくきょとんと首をかしげている。
「未夢。」
「なぁに?」
「味見位しろよ。」
「うっ・・・ごめん。」
「そんなんじゃ、西遠寺の嫁にはこれないぞ。」
ベッと俺は舌を出して小皿の残りを平らげる。
未夢は「えっ?」と思考回路が停止しているのかきょとんとしている。
しばらくの沈黙が空いて、未夢はぽんと真っ赤になった。
「おっ。ゆでだこ。」
「嫁って、嫁ってーー!!」
「なんだよ、可能性はゼロじゃないだろ?」
「ゼ・・ゼロじゃないって・・・」
「生きていれば何があるのか分からないじゃないか。」
「そりゃ・・・ そうだけど・・ でも嫁って・・・」
意外と俺の予想とは違った未夢の反応に今日のところは俺も大満足。
俺の気持ちは決まっているんだけどね。
とっくの前から・・・
まだ・・・まだ少しだけ、本気を出さないでいてやろうか。
目の前のゆでだこ未夢を見れただけでも今年の成果としよう。
俺は笑った。
「未夢を嫁にもらうとなると大変だ。」
「かなた・・・からかってるわね〜!」
「毎日、毒見じゃ俺の体持つかな。」
「か、 か、 かなたー!!」
「あはは!」
俺は笑った。
今はまだこの調子のままで。
「ぜ、絶対、絶対に いい男見つけてやるんだから!!」
未夢の宣戦布告。
「へぇ〜。」
俺はいたずらっぽく笑った。
そんなこといっていいのか?
俺は腰を浮かせると未夢の肩を引き寄せた。
未夢の顔が至近距離。
「えっ?」と未夢は小さくつぶやいた。
俺はペロリと、未夢の頬についたカボチャをなめ取った。
そして、元の位置に座りなおす。
「まぁ、西遠寺に嫁ぐまで練習だな。」
俺はペロリと舌なめずりした。
「ぜ・・・絶対! 彷徨のお嫁さんになんてならないんだから!!」
顔を真っ赤にして未夢は言う。
「へぇ・・・顔真っ赤にして否定されても説得力ないんですけど。」
「かなたのばかぁ!!」
未夢の声が、除夜の鐘の前にこだました。
(でも、きっと遠い未来じゃないぜ?)
(ま。まだ言うかなぁ彷徨さんは///)
おしまい
2007/12/30 恋人未満の設定って好きかも・・・と思うこのごろです(笑)
お題配布元 「確かに恋だった」 作:ノラ様 URL:http://have-a.chew.jp/