作:あゆみ
……た
………なた
…………かなた
あ…………しの……こ
………………………ないで
………もし………………………………………………………………
のどが渇く
のどを潤す………を飲みたい。
潤す、うるおす、ウスオス………………………
夏の終わりを告げるかのように
蝉が最後の力を振り絞り声を張り上げ鳴く
私は生きている
私はここよ
誰か!私がここにいることをわかって
誰か!いまだ見ぬ人に私の事を伝えて…
ダレカ ワタシハ ココヨ
西遠寺
ここに一人の男子あり
男子の名は「彷徨」
「彷徨」はある定めを持ってこの世に姓を受け
「彷徨」はある運命を迎えるために存在する
そのことを
まだ、
当人が知るはずもなく
そして、彼を取り囲むすべての生命も知ることもなく
刻々とその瞬間までの時を
時の指針が刻んでゆく。
「暑いな…」
彷徨はまだジワリと肌からにじみ出す汗を感じ呟いた。
でも、その声に答えるものは今はない。
母は幼いころ事故にあっていない。
父は家を空けていることが多い。
この広い屋敷「西遠寺」でひとり
彷徨は幼いころから一人で生活することが多かった。
誰も使っていない大小さまざまな部屋
炊いた覚えのない香
屋敷に帰っても声をかける相手いない生活
彷徨はこの歳まで一人で生きてきた。
幼いころは「寂しい」という感情もあった。
なぜ自分には母がいないのだろう。
父はこの世にいるはずなのに彷徨の前から姿をけす。
しかし、その感情はいくら思っても
どうすることも
消し去ることができないものだった。
そして今では、さして必要とは感じない
4つの感情は捨て去り
過ごしてきた。
今後もそんな感情は必要ないと思うし
それがあったほうがいいと思ったこともない
だって一人で生きてきた。
これからもひとり
ずっと
ずっと
西遠寺玄関
ここに一人の女子がいる
名は「未夢」
「未夢」はある運命を持って存在し
「未夢」はなぜここにいるのかわからないでいる
なぜ、未夢はここにいるのか
周知のはずもなく、そして当人が知るはずもなく………
記憶喪失。
それが未夢の現状を表す
もっとも簡潔でもっとも通じる状態だった。
これから二人は
この西遠寺で出会い
行動を共にしていく。
続く・・・