作:あゆみ
「きやぁ!!」
何かがものすごい音を立てているのと正面からから落ちていく感じに、未夢はひめいをあげた。
「大丈夫か?」
気遣うような声がすぐそばに聞こえた。西遠寺彷徨の声だった。
目を開けると驚くほど近くに、西遠寺彷徨の顔があった。未夢の上に覆いかぶさるようにしていたのである。
「さ。西遠寺君…?」
未夢は真っ赤になりながらも、頭の隅で、ちらりと思った。
どうして西遠寺君がここにいるのかしら?
「けがは?」
西遠寺彷徨が体を起こしながら、もう一度たずねた。
「うん・・・平気・・・。」
すこしお知りがひりひりするが怪我というほどのものではない。
「たってみろ」
未夢は西遠寺彷徨が差し出した右手にすがって立ち上がった。
「腰とかぶつけなかった?」
「大丈夫だって・・・ば・・・」
未夢は答えながらも体の各部をさすってみる。
痛みはない、
「思いっきり突き飛ばしたからな・・・。」
西遠寺彷徨は微笑を浮かべた。
未夢はあわてて周りを見回した。
階段でもなければ未夢のいた場所ではなかった、視聴覚室をでて…階段で・・・。
どういうこと?
「それにしても…」
西遠寺彷徨はやや離れた廊下の先み種瀬tんを落として舌打ちした。
その視線を追った未夢はそこに無数の破片に散らばっているガラスとボールを見つけた。
西遠寺彷徨が割れていない窓ガラスをあけ外に向かって怒鳴った。
「おい!気をつけろ!」
その西遠寺彷徨の声に驚いたように、外にいた生徒は
「僕たちじゃありませんよ?」
ひとりの男子生徒が無罪を主張した。
「本当か?」
「だって」
自分たちが投げて遊んでいるボールは持ってますから・・・というようにボールを見せた。
「僕たちよりもっと後ろからじゃないかなぁ…」
だけどその置くにはまだ何人かの生徒たちがグランドで遊んでいた。
だがそんな西遠寺彷徨と男子生徒のやり取りを未夢はほとんど聞いていなかった。
自分は会談から落ちたのではないか?
そればなぜ廊下にいるのだ?
「ねぇ・・・西遠寺君・・・・」
声が震えていた。
いや声だけではない。未夢の体は細かく震え始めていた。
「どうした?光月」
西遠寺彷徨は未夢に目を戻し、そして小さく笑った。
「無事と分かってから震えるなよ。」
「違う…そうじゃない!そうじゃないのよ・・・・・・」
未夢はプルプルと首を振った。
「?・・・じゃなんだ?」
「今日は・・・今日は、何曜日なの?」
西遠寺彷徨は軽く眉を寄せた。
「・・・水曜だが?」
「・・・水曜日の・・・昼休みなのね・・・?」
西遠寺彷徨は、わかりきったことを。と言いたげにうなずいた。
時間が戻った?????
未夢は木曜日の掃除の時間から、水曜日の昼休みへ時をさかのぼってしまったのだ。
「光月?どうした?顔がまっさおだぞ?」
「こ・・・わいの。・・・私・・・・怖い」
震えがとまらない。未夢は両腕で自分の体を抱きしめるようにしたが、それでも震えは止まってくれなかった。
「どうしたの?いったい」
保健室に入ると養護教諭の先生が尋ねてきた。
「廊下を歩いていたら外からボールが飛んできて窓ガラスが割れてもう少しで当るところだったんです。」
西遠寺彷徨が説明した。
「危ないわねぇ・・・」
先生は眉を寄せた。
「で。怪我はなかったのね?」
「えぇ、運良く。ただよっぽど怖かったらしくて、この有様です。」
西遠寺彷徨は苦笑を浮かべつつ傍らの未夢に目を向けた。
未夢はさっきからずっと西遠寺彷徨の左腕にしがみついていたのである。
「しばらく休ませてやってもらえますか?」
「そうね。薬あげるわ。落ち着くはずだから」
未夢は言われるままに薬を飲み込んだが、体の震えは一向に収まらなかった。
タイムトラベル
映画や小説などでよく目にする言葉である。
だがそれが現実に未夢の身に起きた今、面白がる余裕はなかった。
これから自分がどうなってしまうのか『いつ』へいってしまうのか。
よそも着かない事への恐怖である。
今回はたかだか30時間足らずだがこれが30年だったら、あるいは300年だったら?
予鈴がなった。
午後の授業が始まるまで、あと五分である。
西遠寺彷徨は未夢から先生に視線を移した。
「それじゃぁ。後は頼みます。」
「ダメ!!」
教室に戻ろうとする西遠寺彷徨の学生服に未夢はしがみついた。
「私をひとりにしないで!おねがい!」
「光月・・・?」
一瞬困惑を見せた西遠寺彷徨だったが、すぐに幼い子供をなだめるような口調になっていった。
「大丈夫だ。もう怖いことはないんだから。落ち着けよ。な?」
「違う・・・違うの・・・」
未夢は激しく首を振った。
「お願いだから。ここにいて!」
「無理言うなよ。すぐ授業が始まるんだぜ」
西遠寺彷徨が学生服の裾から未夢の手を離そうとすると
「こら!」
と先生が西遠寺彷徨の頭を軽く小突いた。
「男のクセにそんな薄情なこと言いなさんな」
「先生・・・?」
「確かに学業は学生の本分だけどね、自分を頼りにしている女の子を振り捨てるなんて、男のすることじゃないよ」
「そうはおっしゃいますけどね・・・」
西遠寺彷徨は反論しようとしたらしいが、先生ににらまれてため息をついた。
「・・・わかりました。しばらくそばについててやりますよ」
「よろしい」
先生は満足そうにうなずいた。
「ところで、ええっと・・・あなたたちは光月さんと・・・・・・」
「西遠寺です。西遠寺彷徨」
「クラスは?」
「2−Aです」
「二人とも?」
「はい」
「じゃ、私これからいってサボりじゃないってこと言ってくるわね」
「いえ、そんな事わざわざして貰わなくても・・・」
「いいから」
先生はにっこり笑って付け加えた。
「気を利かせてやってるのよ。うまくやりなさいな」
「困った先生だな…」
養護教諭の先生が出て行くと、西遠寺彷徨は小さく舌打ちした。
妙な誤解をされてしまったのがおもしろくないのだろう。
それから西遠寺彷徨は学生服の裾をつかんだままの未夢を振り返った。
「聞いたとおりだ。もう逃げないから手を離してくれ。」
未夢はぷるぷると首を振った。
この手を離した途端にまた『跳んで』しまったらと、怖かったからである。
そんな未夢を西遠寺彷徨は見下ろし、もう一度言った。
「離してくれ」
未夢はまた首を振った。
すると西遠寺彷徨は未夢の予想外の行動に出た。
あろうことか、未夢の手をにぎり力ずくで未夢の手を引き剥がしたのである。
西遠寺彷徨がフェミニストでない事は知っていたがそれにしてもひどい仕打ちである。
「これで、落ち着いてはなせる」
西遠寺彷徨はそれからもう一つの ベットに未夢と向かい合うように腰をおろした。
「で・・・何をそんなに怖がっている。」
西遠寺彷徨の行動に唖然としてしまった未夢だったがこのなぞめいたこの事態を解決する糸口になりそうな存在はこの男だけである。
意を決して口を開いた。
「相談に・・・乗ってくれる?」
西遠寺彷徨は僅かに口元を緩めた。
「相談事の内容が分かればな。」
「やっと分かったの。『私』が、何を貴方に相談しろって言ったのか、やっと・・・分かったの・・・」
「相変わらず、訊いているこっちの頭が混乱するような事を言うな。」
「お願いだからまじめに聞いて!」
「分かったよ。だからそんなに興奮するな。」
西遠寺彷徨は未夢を押しとどめるように両手を開く。
「これから私が言う事・・・多分、信じられないと思うけど、信じてくれる?」
「言っている事がめちゃくちゃだ。」
西遠寺彷徨は苦笑した
「信じられるような事なら、信じましょう。」
西遠寺彷徨のその態度は、誠意に満ちたものとはとてもいえないものだが、これ以上は期待できそうもなかった。
しかし、話を聞く気になってくれただけでもよしとするべきであろう。
「・・・・事の起こりは、一昨日・・・・昨日・・・?・・・・とにかく、火曜日なの。」
「火曜日なら昨日だ。」
西遠寺彷徨が短く口を挟む
「・・・昨日、起きたとき、私、今日は月曜日だと思ったの。だって、私にとっての『昨日の前の日』は日曜だったんだもの。」
「分かりにくいな。」
西遠寺彷徨は顔をしかめる。
「用語を統一してくれ、昨日だ今日だの前の日だのではなく曜日で言ってくれ。」
「だから、火曜日に、私は『今日は月曜日だ』と思って起きたのよ。だって、前の日の・・・月曜日の記憶がなかったから。火曜日の私にとっての昨日は、日曜日だったの。・・・・・分かりにくい?」
「思いっきりな。だが、まあ何とか分かる。つまり、火曜日の朝.君は月曜日の記憶がすっぽりなくなっていることに気づいたんだな。」
「正確には朝すぐに気づいたわけじゃなくて、授業が始まってから、時間割で火曜日って分かったんだけど。それで、おかしいとは思ったんだけど、とにかく、火曜日の日課は無事に終えて、家に帰ったの。で、家に着いたとき、ふと思いついた事があったのね。日記を見てみようって」
「そしたら、俺に相談しろと書いてあったんだろう?さっきも聞いたよ。」
「さっき・・・?」
西遠寺彷徨は苦笑いしながら言い直した。
「水曜日の昼休みに、君は、おれに、日記に書いてあったからとか言って相談を持ちかけてきただろう?何の相談だと訊いたら、それがわかれば苦労しないとか何とか言ってたじゃないか。」
「そっか・・・あれは、今日のことになるのね?」
「それも、ほんの20分ほど前だ。・・・それで?」
西遠寺彷徨は先を促した。
「水曜日の昼休み。・・・西遠寺君からみれば『さっき』ね」
そう言い直す未夢を、西遠寺彷徨は興味深そうな目で見つめたが、口に出しては何も言わなかった。
「『さっき』教室に戻ろうとして、廊下を歩いていたら、西遠寺君に呼び止められて」
西遠寺彷徨は肩をすくめた。
「あそこで声をかけなけりゃ、いたって安全だったかもしれないな。」
「とにかく、その時、何かが横から来ることに気づいたの。それで、あっ!っと思ったら。。。」
「思ったら?」
「・・・目がさめたの。」
「・・・どういう意味だ?」
「目がさめたのよ。ベットの中で。私の家の、私の部屋の、ベットの中に私はいたのよ。」
「・・・・・」
「また、記憶が飛んだ。と思った。それでそれを確かめるために、新聞を。新聞の日付を見たの・・・・木曜だった。」
西遠寺彷徨は片眉を上げた。
「なんだって?」
「木曜日だったの。『今』から見れば明日だったのよ。」
西遠寺彷徨は、未夢を眺めそれから小さく息を吐きながら、首を振った。
「・・・それはそれは。」
「気分が悪くて…休もうかと思ったけど、結局登校する事にしたわ。もし二重人格者になったんだとしたら、私の記憶が途切れたとき、貴方はすぐ側にいたんだから、貴方に聞けば私がどうなったか分かると思ったの。」
「論理的だね。だけど、別に変わった事はなかったぜ。」
「でも・・・明日の西遠寺君は何かを知っているみたいだった。知っている事があるなら教えてって頼んだら、放課後になればわかるって」
「俺が、そんな事を言うのか?」
「『言った』のよ」
「・・・で、放課後になったら分かったのか?」
「分からなかった」
「なんだ。俺は嘘をつくのか・・・いや、ついたのか?」
未夢は首を振った。
「そうじゃなくて、放課後にならなかったの。放課後になるまで、私は『明日』にいなかったのよ。」
「・・・というと?」
「階段から滑って、あっと思ったら、廊下に・・・今日に・・・・・・戻っていたの。」
「ちょっと待てよ、光月。階段から落ちたのは一昨日だろ?」
西遠寺彷徨は口を挟んだ。
「え?」
未夢は少し考えて首を振った。
「違うよ。昨日というか明日というか・・・要するに木曜日のことだもの。」
「ふむ?まぁ、いいか。で・・・木曜日の何時ごろに階段から落ちたって?」
「掃除のとき。視聴覚室からゴミ箱を持って階段を下りようとしてたら・・・」
「すると南校舎の東の階段か?」
「うん」
「何階から?」
「一番下よ。一回に下りようとして、踊り場から足を滑らせたの。」
「ふむ・・・」
「西遠寺君。私・・・怖いの・・・自分が、なんでこんな風になっちゃったのか・・・こんど『いつ』に飛ばされるのか。」
「なるほどね・・・突然タイムトラベラーになってしまったというわけか。・・・・・・・・で。結末はどうなるの?」
未夢にはその言葉の意味がわからなかった。
そして分かると同時に失望と怒りが湧いてきた。
「・・・信じてくれてないのね?」
「悪いけど。」
「じゃぁ私が、作り話をしてるっていうの?」
「ミステリー作家を目指しているなら、結構その話はおもしろいと思うよ。結末が気になるね」
「だって、私はあんなに長い時間『明日』にいたのよ?」
「・・・大体、時間旅行があるなら話として聞く分にはおもしろいが、本当にあったら矛盾の嵐が吹き荒れると思うね。」
「じゃぁ私が言っている事は間違いだっているの?思い違いだって。」
「たぶんね。」
「だから、どうでもいいって言うのね?私の妄想だから!!!」
「・・・」
「ほうっておいても良いって言うのね?私が勝手に騒いでいるだけだから!!!!!」
「・・・」
「私がどうなったって、西遠寺君の知った事じゃないって言うのね!!!」
未夢は自分がヒステリックになっている事に気づいていたが、跳ね上がる声の調子を抑えることができなかった。
「なにが『頼りになる人』よ!大うそつき!!」
「ちょっと待て。」
次第に激しくなっていく未夢を黙って見ていた西遠寺彷徨だったが、そこで口を挟んだ。
「誰がそんな事いったんだ?俺が頼りになるなんてさ。」
「『私』よ!」
「・・・じゃぁ君がタイムトラベラーだってことにしてもいい。それで・・・俺に何をしろっていうんだ?」
「私を元に戻してほしいの!」
日記には西遠寺彷徨に相談しろとあったのだ。未来の未夢が書いたと思われる日記に。
「はっきり言って、君が言っている事が本当に起こり得ることだとは思えない。君の助けにはなれないよ。」
「私の言う事、信じてくれないのね・・・」
「『信じる』って言うだけでいいなら幾らでも言ってやるよ。うそでも良いならな。だけど信じるって事は大変な事なんだ。自分の意志だけで決定できる事じゃない。ましては強制されるものではないと思う。」
「・・・」
未夢は膝あたりに視線を落としてスカートの裾を握り占める。
「もうすこし気楽に考えろよ。時間旅行ができるなんてめったにできない事じゃないか。」
タイムトラベルは信じない。君が信じるのは勝手だ。とでも言っているようなふうだった。
「・・・じゃぁ西遠寺君。もし、私が明日の出来事を予言したら、私の言う事を信じてくれる?」
「へぇ」
西遠寺彷徨はちょっと驚きの表情を見せ、それから、ニヤリと笑った。
「なかなかおもしろい事をいうな。」
「どうなの?信じてくれる?」
「そうだな・・・もし君の予言があたってたら・・・『信じたつもり』になるよ」
「『信じたつもり』?」
「あぁ。」
「俺は光月、君が言っている事を100%信じる事はできないし、ありえないと思っている。だからまぐれにせよ君の予言があたったら、それに敬意を表して、相談に乗ろう。そういう現象があることを前提にして対応策を考えようじゃないか。真剣に。本気でね。」
「・・・ほんとに?」
「嘘はいわない。最も、それも光月の話のなかにどうしようもない矛盾点が出てくるまでだ。矛盾が出てきたら俺は即手を引かせてもらう。・・・それでいいか?」
「それは・・・嘘だって分かったらって事?」
「いや。俺の手に負えないことがはっきりしたらってことだ。」
無条件で協力してくれるわけではないのが不満だったが、西遠寺彷徨にしては精一杯の譲歩をしてくれているのだろう。
「・・・いいわ」
「それじゃ、その予言とやらを聞かせてもらおうか。」
予言になりえるような事柄が何かあっただろうか、未夢は考えた。
天気、新聞記事、おそらく、西遠寺彷徨の求める基準は厳しいものだろう。
しかし、これをクリアしなければ手を貸してくれない。
せっかく明日の西遠寺彷徨は『君に付き合う』といってくれたのに。
とそこで未夢は手を叩いた。
考えるまでもなかったのだ。明日の西遠寺彷徨の言動を思い出せば『予言』の内容は明白だったのである。
「明日、数学のテストは帰ってくるわ!」
「テスト?」
「数学のテストが明日帰ってくるの、西遠寺君は97点。」
「ふぅん・・・」
「ふぅん、ってうれしくないの?」
「別に、俺は95点以下はとったことないし、これからも取る事はないだろうな。」
未夢はあきれた。何て自信過剰なのだろう。そこまで来ると立派なものである。
「それでね。私は100点を取るのよ。」
「君が100点満点を取ったって言うのかい?数学で?それはすごい。光月の数学的才能を考慮すると、天文的な確率じゃないか。」
・・・これは喜んでいいのだろうか。未夢は複雑な思いである。
「・・・とにかく、明日帰ってくるテストが私の言ったとおりの点数だったら・・・」
「いいだろう。十分だよ。しかし、条件がある。」
「条件?」
「採点した先生が点数を誰にも漏らしていないという条件だ。」
未夢はため気をついた。
「ほんとに疑り深いのね。」
「俺の本気をかけているんだからね。」
5時間目が終わるころ養護教諭の先生が帰ってきたので、未夢はお礼を言って西遠寺彷徨と職員室に向かう事にした。
数学の先生に確認するためだった。
未夢は不安だったもし、ここで先生が、点数を教えてくれるようなものならこの『予言』が成立しなくなってしまうからだ。
『明日にならなければ分からない事柄』でなければならないのだ。
廊下に未夢を待たせ、西遠寺彷徨は一人で職員室に入っていった。
戻ってくるとこういった。
「今夜採点するそうだ。」
「と、言う事は・・・」
ほっとする未夢に西遠寺彷徨は頷いた。
「賭けは成立だ。まだ採点していない点数を光月が知るわけないからな。あした数学の答案が帰ってきてなおかつ、点数が君言うとおりだったら、君の『冒険』に付き合おうじゃないか。」
相変わらず、えらそうだったが未夢は気にならなかった。明日になれば西遠寺彷徨は見方になってくれる。それはわかっていることだったからだ。
「ところで・・・これは参考まで聞いておきたいんだが光月」
「なぁに?」
「君は、今水曜日にいるな?」
「そうよ」
「このまま時間がたったとする。夕方になり夜になり、やがて朝が来る。木曜日の朝が。」
「ええ・・・」
未夢は首をかしげた。西遠寺彷徨が何を言おうとしているのか分からなかったからだ。
「今の君が木曜日に行くわけだ。しかし、光月の話によると、君はすでに木曜日をやっている。木曜日に君が2人存在するのか?」
「あ・・・」
これまで気づかなかったが、そういわれてみればそうである。
「『明日』俺が会う君はどっちの君なんだろうな?」
「・・・分からないわ」
西遠寺彷徨の指摘は最もだった。本当にどうなるだろう。
「時間旅行に矛盾点はつき物だ。以外に早く手を引かせてもらえるかもしれないな。」
西遠寺彷徨は笑いながら続けた。
「とりあえず、これからは君にあったらまず最初に、どこから、・・・いや『いつ』からかな、いつから来たかたずねる事にするよ。」
「あ」
それでか・・・。
未夢はパズルの一片がはまった気がした。
今のやり取りがあったからこそ、明日の西遠寺彷徨は、遅刻してきた未夢に向かっていったのだ
『いつから来た?』と。
いずれにせよ木曜日になれば西遠寺彷徨は協力してくれる。
それば分かっていたから、その夜の未夢は安心して眠りにつく事ができた。
もう未夢は一人で悩まなくてもいいのだ。
〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎