明日は昨日

水曜日から木曜日 2

作:あゆみ

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「きゃあ!」

未夢は飛び起きた。
前進に冷や汗を掻いていた。心臓がドキドキしている。未夢は胸元をおさえそして目を疑った。
ライトブラウンの絨毯、オレンジ色のベット。そして…。

自分の体を見下ろす。パジャマだ。
未夢はパジャマ姿でベットに横たわっていたのである。

まさか…また、夢?

「嘘…。」

未夢はつぶやいた。声がかすれているのが自分でもわかった。
机の上の時計を見る。七時半。それも朝の七時半だった。

夢とはとても思えなかった。すると意識を失っていたのだろうか?
あの横から飛んできたものとぶつかって、それで…。
未夢はベットを下りて頭から肩から背中から、体のあらゆる部分をさすってみたが、別に怪我をした様子はない。

「…やっぱり夢…?」

未夢は頷くが、すぐに首を振る。
別に怪我をしなかったからといって気絶しなかったことにはならないと思ったからだ。

「確かめよう…。」

未夢はパジャマ姿のまま階段を下りた。



「おはよう未夢」

「あら。今日は早いのね。」

優は台所の流しの前、未来はテーブルで新聞。
相変わらず普通の家庭からは逆転しているような夫婦である。
いつもの光景である。

「おはよう、パパ、ママ。…ちょっといい?」

未夢は未来の後ろに回りこんで背中から新聞をみた。
『高速道路で玉突き事故』『未確認物体発見』。。。そんな見出しが目に付いたが記事などどうでも良い。
未夢が知りたかったのは日付である。



木曜日だった。




「…。」

やはり夢ではなさそうである。
とすればやはり気絶だろうか?気絶して家まで運ばれたのだろうか?
しかし、それにしては…。

「どうしたの未夢?なにか気になる記事でもあった?ママはねぇ…。」

それにしては未来も優も変わりなさ過ぎる。
一人娘が意識もなく運ばれてきたなら、たとえ無事に目を覚ましたとはいえ、『体大丈夫か?』とか
訊くのではないだろうか。

「未夢?」

返事しない未夢が気になったのだろう、未来は身をねじるようにして未夢を見上げる。

「う、ううん。…ねぇママ。」

「なあに?」

「昨日、私…いつ帰ってきたっけ?」

「何行ってるの?」

未来は笑いながら言っている。

「お願い…教えて…。」

「いつもと同じよ。五時半くらいだったかしら?」

「それで…。」
未夢は深呼吸した。
「私一人でちゃんと帰ってきた?」

「「未夢?」」

未来と優は妙な顔つきで未夢を見た。

「答えて!」

「…そうよ。ちゃんと一人でちゃんと帰ってきたわよ。それがどうしたっていうの?」

「やっぱり……そうなのね………。」

未夢は両手で額を抑えた。





二度目だ……。





二度目が起こってしまったのだ。また、別の『未夢』が現れてこの体を勝手に動かしたのだ。

「未夢?どうしたんだい?顔色がわるいよ。」


これは、これからもおこるのだろうか。
繰り返し起こる現象なのだろうか。
そして繰り返すうちにもう一人の『未夢』が、この体を乗っ取ってしまうのだろうか。

「おい。未夢?未夢!!」

優が駆け寄る。

未夢は自分の体を抱きしめるようにしてぶるぶる震えていた。






未夢はベットの中で伏せっていた。

階下から両親の声が漏れてくる。
両親とも不安になっているようだ。

漏れ聞こえてくる心配は見当はずれのものだったが、今の未夢には両親の心配が嬉しくもあり誇らしくもあった。

心配かけてごめんなさい…。

未夢はそう思った。
それにしてもなぜ、こんな風になってしまったのだろうか?
なぜこんな目に遭わなければならないのだろうか。
自分が何をしたというのだろうか。

二重人格。自分が自分でなくなってしまう。それは恐ろしい事だった。
とても一人では抱えられない。

未来や優に打ち明けるべきだろうか?いや、一人娘が精神異常者だなどと知ったら、どんなに悲しがるか、そう思うととても言い出せはしない。


『あなたが相談していいのは、西遠寺君だけよ。』


不意にその言葉が思い出された。
なぜもう一人の『未夢』はあんな事を書き残したのだろうか。
文章を読んだ限りではもう一人の『未夢』は未夢に敵意を持っていないように思える。
むしろ親切に助言してくれているような…。

ひょっとするともう一人の『未夢』も未夢が元に戻る事を願っているのかもしれない。
しかし、なぜ西遠寺彷徨なのだろうか。
西遠寺君に何があるというのだろうか。
何を知っているというのだろうか。
この現象に、西遠寺君は一役かっているのだろうか。

しかしそれにしては図書館での西遠寺君の態度が解せない。
知っているとか知っていないとかの以前に、あっけに取られていたではないか。
あれが芝居だとは思えなかった。

それに相談しろなどといっても、あの冷血漢は未夢を追い払ったのである。
まぁ、すぐにあとを追ってきてはくれたけれども。

「あ!」

未夢はがばっと起き上がった。
昨日の西遠寺君は何も知らなかったかもしれない。
だけど今日の西遠寺君なら…。

二度目の『記憶喪失』が起こったのは昨日の昼休みのあの瞬間である。
そしてその場に西遠寺君は立ち会っていたのだ。

夢だのという曖昧な根拠ではなく、今度は確実に西遠寺君は何かを知っているといえる。
あの瞬間に何が起こったのか。未夢にどんな現象が起きたのか、西遠寺君に聞けば分かるはずなのだ。

もう一度、西遠寺君に会わなければならない。
会って、それを聞き出さねばならない。

未夢はパジャマを脱ぎ捨てて、制服に着替えた。






『今日は休みなさい』
『ただの貧血だから平気!心配しないで!』
引き止める両親を振り切って未夢は登校した。

教室に入ると、理科の授業の途中だった。
時間割で言えば木曜日の2時間目である。

「すみません。体調が優れなかったもので…。」
未夢が頭を下げると、理科教師は頷き、気遣わしげに行った。

「余り無理するなよ。」
傍目から見ても未夢の顔色は良くなかったらしい。
席に着いた未夢は筆記用具と教科書を取り出し、それから西遠寺彷徨を伺った。
目が合った。西遠寺彷徨の方でも未夢を見つめていたのである。

やっぱり何か見たんだわ……。

未夢は確信した。

「よ〜し、次に進むぞ〜!!」
未夢が席に着くのを待っていた教師が教科書を持ち直し、それで西遠寺彷徨も黒板に向き直った。

二時間目は終わった。三時間目は体育である。
移動と着替えが必要になるため、5分間の休み時間はいつもより慌しい。

「今日も見学するの?」
ななみがたずねてくるのに、

「うん…。」
上の空で答えつつ。未夢は立ち上がった。
昨日のように機会を選ぶような余裕は時間的にも精神的にも今の未夢にはない。
西遠寺彷徨が教室を出る前に昨日の事を訊きだすつもりだった。



だが、その西遠寺彷徨のほうから先に未夢の前にやってきたのである。

「やぁ、光月。いつから来た?」

「…二時間目の途中よ。見てたくせに。」

西遠寺彷徨は片方の眉を上げそれから苦笑した。

「なるほど…そういう答え方になるわけか。」

「そんな事より、西遠寺君。どうしても聞きたい事があるの。」

「まだダメだよ、光月。」

西遠寺彷徨は首を振った。




「それは五時間目が終わってからだ。」


「五時間目?」

未夢は首をひねった。
時間がないから後で、と言う意味にしては妙だった。
なぜ昼休みとか、放課後とかではなく、五時間目が終わったあとで、なのだろうか。

「五時間目に何があるの?」

「数学の授業がある。」

「だからそれがなんなのよ?」

すると西遠寺彷徨、なんともいえない笑い方をした。




「まったく…感心するよ、光月。演技だとしたらまさにアカデミー賞もんだ。」





「?   ?    ?」


「とにかく、話はそれからだ。」


そういって西遠寺彷徨は未夢の側を離れた。









〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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